第十二話「裏の顔は闇ギルド」
ローラ先輩が入手した情報で、ジェラルドが怪しい男と密会しているというのがあった。
例の剣術学院卒業生の冒険者がもたらした情報だ。
情報では男が住んでいる家だけは判明している。
まずは、ジェラルドと密会していたという男の素性を調べようと思い、ロイドとハロルドにはこの場所で張り込みを頼んでいた。
この辺りは民家が建ち並んでいて人通りはそこそこあるので、俺たちがこうしてじっと張りついていても目立つことはなかった。
昨日はミリアムとブレンダ、一昨日はセシリアと行動していたから、この二日間はロイドとハロルドに任せっきりだ。
建物の影に身を隠しながら、俺は男の家に目をやった。
どこにでもある普通の民家だ。
「男に不審な点はないか?」
「ああ、昨日は姿を見かけてないし、一昨日は商業区へ買い物に出かけたが食い物を買っただけだぜ。つーか、いい年したおっさんが仕事もしてないのかよ」
「そうとも言い切れませんよ。僕たちが見張っているのは、午後の授業が終わってから日が暮れるまでの短い間ですから、もしかすると午前中は仕事をしているのかもしれません」
「そうか。取りあえず、その男がジェラルドと本当に会ったのかと、もしそうなら何の目的かハッキリさせたいな。ところで、その男はどんなやつなんだ?」
俺はロイドに男の人相を尋ねた。
「見るからに悪人面だぜ。ありゃ、ぜってー悪事に手を染めてやがるな」
「ロイド、それは偏見ですよ」
ロイドとハロルドによると、二十代前半ぐらいの若い男で茶髪を短く刈り上げているそうだ。
左目の下に刃物で斬られたような傷があるらしい。
右頬には殴られたような痣があったという。
「何だそれは? 喧嘩でもしてきたのか?」
「おう、そんな感じだったぜ。目の下の傷は古傷って感じだったな」
「僕は止めたんですが、ロイドはわざわざすれ違ってまで、顔を見にいってましたから」
「相手は何者かわからないんだ。あんまり、危ない真似はするなよ」
「大丈夫だって。別に怪しまれちゃいねぇよ」
しかし、その男はいったい何者なんだろう。
ローラ先輩が雇った冒険者には他のことを優先してもらうので、男のほうは俺がと言ったものの、素性くらいは調べてもらったほうが良かったかもしれない。
「ただ待ってるだけってのも、しんどいもんだな」
「だろ? 俺とハロルドは今日で三日目だぜ」
「こんなことなら、家で剣を振っていたほうが良かったですね」
「悪いな。こんなことおまえたちにしか頼めないからな」
ハロルドの言うとおり、ここで時間を潰すのは効率が悪いと思えた。
俺がそう考えていると、例の男が姿を見せた。
確かにお世辞にも善い人そうには見えない。
右頬は少し晴れ上がっているようにも見える。
左目の下にあるという傷は、ここからでは確認できなかった。
「また、食べ物を買いに行くんでしょうか?」
「尾行すればわかるだろ。行こうぜ、アル、ハロルド」
「ああ」
「ええ、わかりました」
男は商業区へは向かわずに、大通りを直進していく。
これだけ人の往来が多ければ、尾行に気付かれることはないだろう。
俺たちは、つかず離れず男の後を歩いていった。
いくつかの通りを通り越し角を曲がった先は、意外な場所だった。
俺の視線の先には、周辺の町並みに不相応な大きな屋敷がある。
民家にしては大きすぎるその外観は、さながら大貴族の屋敷を思わせる。
そして、異様な雰囲気を醸し出していた。
屋敷の周りには庭があり、四方を囲んでいるのは高い塀だ。
屋敷の正面の真ん中には鉄格子の門と、すぐ傍にはミリカ団と書かれた看板が掲げられている。
「おいおい、闇ギルドじゃねーか!? あの男、闇ギルドの一員だったのかよ……」
ロイドが呻くように言った。
ハロルドも言葉が出ないようだ。
俺も正直、闇ギルドに行き着くとは思ってもいなかった。
闇ギルドとは、表向きは街道を使う商人や旅人の荷馬車の護衛を生業とし、裏では恐喝、詐欺、賭博、殺人など、いわゆる犯罪行為に手を染めている組織だ。
このウルズの町には同様の闇ギルドがいくつか存在し、他の町にもある。
敵対する闇ギルド同士の抗争も後を絶たない。
そして、表の仕事は冒険者ギルドの仕事と被るので、よく揉め事になっている。
こうした闇ギルドを潰そうと警察は躍起になっているが、なかなか尻尾を掴ませないのが現状だ。
俺は夜の仕事柄、ロイドやハロルドたちよりその手の知識はある。
例えば、このミリカ団には百人弱のならず者が所属していて、ウルズの町では最も規模の大きい闇ギルドだということ。
ミリカ団の団長はジム・ミリカという六十代の爺さんで、若い頃からウルズの町で暴れ回り何度も警察に捕まったことのある人物だ。
二十代の時に不良仲間とミリカ団を立ち上げ、抗争を繰り返して数々の闇ギルドを潰したり吸収したりしてここまで大きくした。
確か、高齢のジムに代わりミリカ団を仕切っているのが、彼の右腕と言われる幹部リチャード・フィークスという男だ。
この男に関しては名前と顔くらいしか知らない。
「しっかし、闇ギルドとはなぁ。ジェラルドの野郎、何考えてやがんだ」
「言ってみれば、犯罪者の集団ですからね。報復が怖くて、警察や軍も迂闊に手が出せないみたいですし」
何年か前、別の町で闇ギルドと冒険者ギルドが仕事の取り合いで揉めて大きな事件になったことがある。
闇ギルドが冒険者ギルドを襲撃して潰してしまったのだ。
結果、警察と軍が動いて今度は闇ギルドが潰された。
一番被害を被ったのは近隣住民で、多くの死傷者が出た。
そういった経緯を、俺は改めて思い出した。
「残念だが、俺たちにできることはここまでだ」
「え、ここまで来て帰るのかよ?」
「僕もアルの意見に賛成です。僕たち剣術学院の生徒と違って、相手は組織犯罪のプロですよ。相手が悪すぎます」
「ビビってんのかよ、ハロルド」
「そういう問題ではないです。下手に藪をつつくなと言ってるんです」
「……藪? 何だそりゃ?」
ロイドが間の抜けた顔になる。
理解できていないようなので、俺が補足する。
「余計なことをして、返って悪い結果を招くこともあるってことだ」
「……んなこと言って、俺とハロルドを帰した後に、おまえだけ闇ギルドに侵入するんじゃねぇだろうな?」
「さすがに、それはないよ」
俺はそう言って踵を返す。
ハロルドが後に続き、ロイドも渋々ながら追いかけてくる。
とは言ったものの、ジェラルドと接触したあの男は気になる。
いったい何を話したんだ。
しかし、相手がミリカ団の一員だと判明した以上、迂闊に手は出せない。
ロイドが勝手な行動をしないように釘を刺しておく必要があるな。
「やはり場所が場所だけに、巡回している警官も多いですね」
ハロルドが周囲を見回して言う。
警察も警戒しているということだろう。
これだけ大きな闇ギルドならなおさらだ。
幸か不幸か、今夜は闇夜の死竜としての仕事がある。
ブランドン先生なら、ミリカ団について詳しい事情を知っているかもしれない。
聞いてみるか。
俺たちは今日の情報収集を打ち切った。




