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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第二章 死竜の砦
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第十一話「商業区で食べ歩き」

 その翌日はミリアムとブレンダと一緒に、町の東側にある商業区を訪れていた。

 セシリアはローラ先輩と一緒に、ロイドはハロルドと一緒に別の場所で情報収集をしている。

 ウルズの町の商業区はとても賑やかだ。

 夕方に近いこの時間は、仕事帰りの人や夕食の買い物客で混雑していた。


「あ、ブレンダちゃん! あのブドウおいしそう!」

「あら、本当ね。おじさん、一房いただけるかしら?」」


 ブレンダが代金と引き換えにブドウを受け取った。

 そして、ミリアムと一緒に一つずつ口に運ぶ。

 完全に遊びにきたみたいな雰囲気になっていた。

 俺はそれを眺めながら大きなため息を吐いた。


「はあ~…………んんっ!」

「アルくん、ね? おいしいでしょ?」


 油断していたところに、ミリアムが俺の口にブドウを突っ込んだのだ。

 咀嚼して嚥下する。

 普通の味だ。というかブレンダは昼食も食堂で果実の盛り合わせを食っていなかったか?


「食べ歩きもいいが、俺たちは情報を集めに来たんだぞ」

「は~い」


 いまから向かうのはパン屋だ。

 ローラ先輩からの情報で、死竜の砦にパンを卸している店が判明したのだ。

 そのパン屋はミリアムが知っている店だという。

 ミリアムの家もパン屋だし、もしかしたら知り合いかもしれない。

 入り組んだ路地を抜けて、わかりにくい場所にパン屋はあった。

 人通りはまばらだ。


「ここだよっ」

「何か大通りから外れているな。こんな場所じゃ客も来ないだろうな」

「死竜の砦にパンを卸しているんだから、その儲けでやり繰りしているんじゃないかしら」

「なるほどな。よし、中に入って話を聞いてみよう」


 店内に入ると、客は誰もいなかった。

 小さな店で、店内には焼き上がったパンが所狭しと並べられていた。

 俺が死竜の砦で食べたチーズを乗せたパンもあるので、この店で間違いないだろう。

 ミリアムは目をキラキラさせながら、食い入るように物色している。

 ここでも食べるのか……?


 すると、奥から痩せぎすの中年が姿を見せた。

 頬がこけた男で、「いらっしゃい」と小さな声で言う。

 俺は挨拶を返して、名乗り出た。俺に続いてミリアムとブレンダも名乗る。


「あの、すみません。パンを買いに来たんじゃなくて、俺たち聞きたいことがあって来ました」

「……何かな? お客さんじゃないのなら、俺はパンを焼かないといけないから……」


 男は忙しそうだった。

 客もいないのに、この時間からまだ追加でパンを焼くのか。

 どう見ても、ここにあるパンをすべて売り切るのは難しそうだ。


「時間は取らせませんわ。ここのパンを剣術学院の死竜の砦に卸しているのは本当かしら?」

「そうだけど……あんたら、死竜クラスの生徒じゃなかったのか。よくこの場所がわかったね」


 俺たちの制服からウルズ剣術学院の生徒だとわかったようだが、死竜クラスの生徒だと思っていたらしい。


「死竜クラスの生徒がパンを買いに来るんですか?」

「ああ。うちのパンは結構人気みたいでね。向こうで売り切れたら、ここまでわざわざ買いにくるんだよ。おかげで何とか店もやっていけてる」

「どういった流れで死竜の砦にパンを卸すことになったか、教えてもらえませんか?」


 俺の質問に面倒くさそうにしながらも、男は答えてくれた。


「俺は剣術学院の卒業生だよ。俺も死竜クラスだったから、その縁でさ」

「……先輩だったんですか!? すみません、俺気付かなくて」

「いや、もう卒業してから十年以上経つし。別に先輩扱いしなくて大丈夫だよ」

「はあ……。十年以上前だと、まだ死竜の砦はなかった頃ですよね。パンを卸す時に死竜の砦の中に入ったことはありますか?」

「ないよ。配達は嫁さんに任しているからね」


 いま奥さんもいると言うので、話を聞かせてもらった。

 出入りしているパン屋から、死竜の砦二階より上の構造を聞きたかったが、奥さんも一階までしか入ったことはないようだ。

 代わりに男からは、死竜の砦に出入りしている他の店を紹介してくれた。

 パン屋を出る時、ミリアムはパンを三つ購入していた。

 俺とブレンダに一つずつ渡すと、ミリアムはパンにかぶりついた。


 それからパン屋の情報を頼りに、いくつかの店を回って話を聞いた。

 しかし、どの店も二階には上がったことはないという。

 そして、いずれの店の店主もウルズ剣術学院の卒業生であり、死竜クラス出身だった。

 ちなみに、店を巡る度にミリアムとブレンダは何かしら買い食いするので、最後の店を出る頃には俺はすっかり満腹になっていた。


「ああ……もう食えねぇ」


 そう漏らした俺の腹をミリアムがつつく。


「ブレンダちゃん、アルくんのお腹パンパンだよ」

「あら、ホントだわ。この間ロイドと来た時には、この倍は食べてたわよ」

「あいつと一緒にするなよ。ロイドはその分体もデカいだろ」」


 と言ってから気付く。

 俺も食は細いほうではないが、小柄なミリアムやスタイルのいいブレンダの腹の中はどうなっているんだろうと思った。

 不思議だ。


「でも、今日回った店がすべて剣術学院の卒業生で、しかも死竜クラスの卒業生というのは、気になる情報ね」

「確かにそうだな。これもジェラルドの考えなのか……?」

「それぞれの店と交渉しているのは、複数の生徒だと言っていたわ」

「そうだな。どっちにしろ、出入りしている店からは内部の構造についての情報は得られなかったな。仕方がない、もう日が暮れそうだし今日は帰ろうか」


 商業区でできることはもうなさそうだ。

 腹がキツくてあまり歩きたくないしな。

 ――と、その時。


「泥棒だーっ! 誰かそいつを捕まえてくれ!」


 突然、後ろのほうから野太い声が聞こえてきた。

 振り返ると、中肉中背の若い男が人混みを掻き分けてこちらに走ってくるのが見えた。

 右手にはナイフ、左手には金を握りしめている。


「わわっ! こっちに来るよ!」

「ミリアム、危ないから下がってろ! ってブレンダ……えっ!?」


 ミリアムを背にブレンダを見る。

 ブレンダは走ってくる泥棒の逃走経路を防ぐように、道の真ん中に突っ立ったままだ。

 泥棒は右手に持ったナイフを振り回して威嚇しながら、もの凄い勢いで走ってくる。

 俺たちはいま丸腰だ。

 泥棒を放ってはおけないが、為す術がない。


「ブレンダ、おまえも早くこっちに来い!」

「ブレンダちゃん!」

「どけどけッ! 邪魔するヤツは刺すぞッ!」


(魔眼、――開眼ッ!)


 俺は魔眼を発動して、地面を蹴る。

 ブレンダは泥棒のほうを向いている。つまり俺には背中を向けたまま動いていない。

 間に合わないっ!

 俺はブレンダに右手を伸ばすが、このままでは泥棒が彼女に接触するほうが早い。


「ブレンダ!」


 ブレンダは体を動かして半身になり、泥棒を躱した。

 瞬間、泥棒がその場でくるっと一回転し地面に叩きつけられた。

 泥棒が呻いた。

 すると、集まってきた野次馬から歓声が上がる。


「おおおおおおおおおおおおおっ!」


 ナイフは地面に落ちている。

 泥棒の右手首の関節を決めているブレンダが、振り返って薄く笑った。


「ブレンダちゃん、カッコいい! すごいよ、すごいよ!」

「投げた…………のか?」


 近くにいた男たちに取り押さえられた泥棒は、そこで観念したようだ。

 ブレンダが歩いてくる。


「おまえ、何だよあれは……!?」

「何って、ただ転がしただけよ」


 ブレンダは何事もなかったように言った。

 ミリアムは飛び跳ねて興奮していた。

 そういえば、ブレンダは格闘術も得意だと聞いたことがあったな。

 何でもお兄さんの知り合いに冒険者がいるらしく、手ほどきを受けたことがあるそうだ。

 俺が感心していると、被害者らしき店のおじさんがやってきた。


「あの、ありがとうございます! これはほんのお礼なんですが、どうぞ受け取ってください!」


 おじさんは満面の笑みで、肉の串焼きが山盛りの皿を差し出した。

 いや、勘弁してくれ。

 今日はもう何も食べたくない。

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