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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第二章 死竜の砦
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第六話「砦内の商店」

 ジェラルドの後を追い、死竜の砦の入口に向かって歩く。

 目つきの悪い生徒がこちらを睨んでくるが、ジェラルドの手前なので手や口は出してこない。

 大きな扉の前まで行くと、ジェラルドがこちらを振り向いて待っていた。


「ようこそ、死竜の砦へ」


 ジェラルドが両手で扉を押し開いて、俺を砦内部へと案内した。

 一歩中へ足を踏み入れた瞬間、俺はあまりに予想外の光景に驚いた。

 一階に部屋は一つだけ。

 その部屋と呼ぶには広すぎる空間には、いくつかの店が並んでいた。

 まるで、商業区の市場みたいで、活気も溢れていた。


「何だ……ここは!?」

「見てわからないのか? 商店だ。さしずめ死竜の砦支店ってところか。武器にメシ、日用品、ウルズの町で手に入るものならだいたい買える」


 俺は驚きを隠せない。

 目の前に広がる景色は、ジェラルドの言うとおり市場の縮小版だ。

 生徒が店を切り盛りし、また客のほうも当然生徒。

 俺が店を端から順に目で追っていると、ジェラルドがパンを並べている店に近づいた。


「パンを二つくれるか。そう、チーズの乗ったやつだ」


 ジェラルドは金を払ってパンを受け取ると、そのうち一つを俺に放り投げた。

 そして、パンにかぶりついて、俺にも食えと促した。

 香ばしいチーズの香りがした。

 その匂いに食欲がそそられて、俺は一口食べてみた。

 パンは出来たてではないようで少し固かったが、味は良かった。


「……うまい」

「だろ? 最近はこればっかり食ってる。なかなか飽きがこないもんだな」


 そう言ってジェラルドは薄く笑う。


「俺がここに来た本当の理由を訊かないんですか?」

「教師どもに言われたからだろ?」

「ええ、そうです。単刀直入に言うと、この死竜の砦を解体して集まっている死竜クラスを解散させるように、学院長から頼まれています」


 ジェラルドはパンを食べながら、考えるように目を瞑った。

 最後の一口を飲み込んだジェラルドは俺に視線を向ける。


「その要求は飲めないな。おまえらが言う規則にも違反はしていない。もちろん、許可も取っちゃいないがな」

「規則では定められていませんが、明らかに常識の範囲を超えているように思いますけどね」

「ふん、もし死竜の砦を壊したければオレを倒せ。おまえらの説得には応じるつもりはないからな」

「実力行使しろと?」

「いままでも何人もの教師がここへやって来た。だが、オレたちはことごとく返り討ちにした」

「先生たちに手を出したんですか?」

「ちょっと撫でてやっただけだ。教師どもも生徒に負けたなんて恥さらしな内容を公にできやしない」


 ジェラルドは思い出したように笑った。


「しかし、教師どもも自分じゃ手に負えないからといって、生徒を寄越すとは目も当てられないな。だがどうして、おまえが来た?」

「さあ、何ででしょうね」

「六年にも結構やるのがいるだろう。おまえ以外で同じ五年だと樹竜クラスにいる侯爵家のボンボンあたりか」

「エドガーですか?」

「ああ、イアンの影に隠れていたがそこそこやるだろう。確か腕前は中級だったか。ただし肝っ玉が小さいのが難点だがな。そうそう、イアンのやつが死んだのは災難だったな。サイーダ森林で森の主と遭遇したんだって?」


 他のクラスやその他の情報に興味はないと思っていたが、それなりに調べているようだ。


「いいか、覚えとけ。森の主をやるにはここを潰すんだ。ここのコアをな」


 そう言ってジェラルドは自らの眉間を指先で叩いた。

 まるで戦ったことがあるような口ぶり。


「やけに詳しいですね。戦ったことでもあるんですか?」

「まあ、何だ。イアンがいない、ボンボンが不抜けちまったということは、あとは子爵家のガキくらいか」


 はぐらかされた。

 森の主との戦闘経験については教えてくれないようだ。

 エドガーはあの件以降、意気消沈している。

 ハロルドのことまで知っているとなると、学院内の情報はあらかた持っていると考えたほうが良さそうだ。

 さすがに森の主が三体とも全部倒されたとは知らないとは思うけど。

 それと禁止区域で発見された〈樹竜の鱗〉のこともだ。


「そこで、おまえが来たというわけか。後輩。まあ、納得できなくもない」

「あの、先輩の中で俺の評価って高いんですかね?」

「五年の中では……いや、六年を含めても一番だろうな。ただし、二本の剣を手にした時に限るがな」

「――!?」


 どこまで知っている?

 サイーダ森林での戦いは見られていない。

 そうか……一年の時、イアンと戦った時のことを覚えていたのか。

 あの時、二階の窓から顔を出していたのはジェラルドだった。

 確かにあの時、俺は双剣で戦っていたからな。

 実際、ジェラルドから仲間にならないかと誘われたのもその直後だった。


「オレも人のことは言えないが、おまえは変わった剣術を使う。両手に剣を握った時、グラナート流でもザフィーア流でもない剣術。あれは何だ?」

「いや、ただの我流ですよ」

「ほう、我流か。そりゃ奇遇だな。オレと同じだ。ただし、オレのはオレ流と呼んでるがな」


 ジェラルドの剣は我流なのか。

 どうりで初級試験すら受けていないはずだ。

 昇級試験は流派の型も採点基準に入るからだ。

 

「オレは強いヤツが好きだ。喧嘩したいならいつでも受けてたつぜ?」

「喧嘩……ですか? いや、今日は散歩しにきただけですから止めておきます」

「そうか。そりゃあ残念だ」


 ジェラルドの表情からは、その感情はほとんど読めない。

 腹の探り合いをしても無駄か。


「一つだけ聞いていいですか?」

「いいぜ」

「先輩はどうして死竜の砦を建てたんですか? そして、何をしようとしているんです?」


 ジェラルドの目的。

 素直に話すとは思えないが、その内容は俺がもっとも気になるところだ。

 学院長は学院に反抗しているだけだと言っていたが、果たしてそんな単純な話なのだろうか。


「オレはオレのやりたいようにやるだけだ。そして暴れたいときに暴れる。逆に聞くぜ。おまえは、どんな時に戦う?」

「俺ですか? 俺は平穏な学院生活を送りたいだけです。だから、俺の平穏が脅かされそうな時は、戦うかも知れません。あとは、俺の仲間が傷つけられた時ですかね」


 俺はジェラルドの目を見据えて言う。


「なるほどな。オレは用があるからもう行くが、ゆっくりしていってくれよ。ここの一階ならどこでも見ていいぞ。ただし、二階は駄目だ」

「わかりました。外から見るとかなり大きく見えたんですけど、ここって何階まであるんですか?」

「質問が多いな。六階まである。まぁ、五階と六階はオレ専用だけどな」


 笑いながらジェラルドは言うと、奥にあった階段のほうへと歩いていった。

 俺はしばらくその背中を見つめてから、一階の様子に目をやる。

 学院長からは特に期限を決められていない。

 ジェラルドの真の目的もわからない以上、うかつに手を出すのは止めておこう。

 いろいろと面倒なことになりそうだ。

 だけど、準備だけはしておこうと考えた。


 一通り一階の店を見終わった後、俺は死竜の砦を出た。

 正門に向かってしばらく歩き、俺は振り返った。

 本当に高い建物だ。この距離からでも見える。

 俺たちの五年風竜クラスがある校舎からも死竜の砦は見えるのだが、間近で見ると一段と大きく見えた。

 六階まであるのか。校舎が三階建てだから、その倍はあるのか。

 死竜の砦の六階部分と思われるところは、ところどころに大きな布が被せられていたり、木材の足場が組まれたりしていた。


「まだ増築するつもりなのか。取りあえず、死竜の砦内部の構造を知るために建築時の設計図なんかが必要だな」


 俺は学院内外で情報を集めることにした。

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