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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第二章 死竜の砦
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第五話「高くそびえる死竜の砦」

 ウルズ剣術学院の敷地内にそびえ立つ高い建造物がある。

 全体の形状は、いびつな砦のように見える。

 それを拠点にしているのが死竜クラス。

 学院外から建築士や職人を呼んで建造したその建物には、一年生から六年生まで百人あまりの生徒が出入りしているそうだ。

 問題は学院側に一切の許可を取っていないということと、教師さえうかつに手が出せないという事実。

 この建物は、誰が言ったか死竜の砦と呼ばれていた。

 

 仕切っているのはウルズ剣術学院一の問題児、六年死竜クラスのジェラルド・セダム。

 六年生を三度も繰り返しているという札付きのワルだ。

 全学年の死竜クラスの生徒をまとめ上げ、一大勢力を築いている。

 ただでさえ一癖も二癖もある死竜クラスをまとめたのは、ジェラルドの圧倒的な暴力。

 剣術の腕前は上級以上と噂されるが、初級試験すら受けていないので、真偽のほどは定かではない。


「はあ、面倒なことになったな……」


 俺はため息をついた。

 ジェラルドとは面識があった。

 俺が一年死竜クラスの時に、仲間にならないかと勧誘されたことがある。

 もちろん断ったし、それ以降ジェラルドと関わることはなかった。


 学院長としてはこの無法を許すわけにはいかないが、総勢百人もいる死竜クラス相手にうかつに手が出せないでいる。

 何せ教師ですら恐れている者がいるらしい。

 冒険者や軍に頼んで実力行使に出るのは学院の面子に関わるし、何より大事にしたくない学院長と教師たちの保身もあるのだろう。

 そこで今回、ツテを使い極秘で剣聖に依頼したようだが、彼は学院内の問題は学院内で解決すべきだと断った。

 そりゃ、そうだろう。


 そこで、剣聖が指名したのが俺だ。

 剣聖が言うのならと、学院長は死竜の砦の解体および徒党を組んでいる死竜クラスを解散させるようにと、なんと俺に命じた。

 サイーダ森林での野外授業の件は、ブランドン先生とダリア先生を通して学院長に伝わっていたようで、森の主を倒した俺ならば解決できると信じているなどと言われた時には苦笑いするしかなかった。

 勘弁してくれ。

 俺の平穏がどんどん遠ざかっていく。


 サイーダ森林で思い出したが、禁止区域の警備がさらに厳重になったとブランドン先生から聞かされた。

 警備に配置されていた兵士たちが亡くなったことが表向きの理由となっている。

 何も知らない者は、森の奥には近づいてはいけないと再認識しただろう。

 そして、森の主と呼ばれたゴーレムがどうしてあの場所にいたのかは、いまだに不明だ。

 真相を知っているのは警備を担当している軍か、あるいは冒険者ギルドか。

 どっちみち、俺には関係ないことだ。


 俺はいま広大な学院の敷地を、死竜の塔に向かって歩いている。

 ここまで来ると、辺りの景色はまるで町の外のようにも見える。

 草原地帯を思わせる草地の中にいくつかの道が通っていた。

 違うのは魔物がいないことだけだ。

 俺は道すがら、剣聖との会話を思い出していた。




 ◆ ◆ ◆




 面倒な話を押しつけられて、学院長室を出た俺の足取りは重かった。

 すると背後から二つの足音が追いかけてきた。

 誰だか予想はついていたが振り返ってみると、そこにいたのは剣聖と従者だった。


「アルバート、ちょっと話そうか」

「はあ……」


 剣聖は……というか従者のほうが、俺の魔眼について教えてくれた。

 十七年前、俺に埋め込まれた魔眼の話だ。

 親父から、いつか俺と会うようなことがあれば話してやって欲しいと言われたそうだ。

 もっともウルズ剣術学院で会えるとは思ってなかったらしいが。

 魔眼の話はだいたい親父や爺さんから聞かされていたが、あまり気分のいい話じゃなかった。


 俺が赤ん坊の頃、ある組織に誘拐された時の話だ。

〈神器〉の一つ〈風竜の魔眼〉。

 剣聖の話どおりなら十二の神竜の一角。その風竜の目玉だという。

 なお、見つからなかったもう一つの〈風竜の魔眼〉は、いまだに発見されていないらしい。


「というわけで、結局俺が受けたその仕事は達成できずに終わってしまった。依頼した国も取り戻すことをもう諦めてしまったようだしな。もちろん、アルバートの右目がその一つだという話は俺の仲間と、きみの家族しか知らない。公には〈風竜の魔眼〉は二つとも行方不明とされている」


 俺の右目が〈風竜の魔眼〉だというのを隠している理由は、俺自身が狙われるかもしれないからだそうだ。

 なんせ、どこぞの国の国宝が俺の体の一部になっているんだからな。

 俺の右目が〈神器〉だとは、間違っても人に言える話ではない。

 もし人に知れることになれば、攫って目玉を抉り出そうなんて考える輩もいるだろう。

 考えるだけで恐ろしい。


「何か質問はあるかい? 俺が知っている範囲なら答えよう」

「……いや、特にないです。親父から聞いた話とほとんど同じだったんで、別に驚くようなこともないですし」

「そうか。それはすまないことをしたな」

「あ、でも……親父がこの目は風竜のものだって話してくれたのを、話半分で聞いていたんですが、あなたがそう言うのなら信じられそうです」

「俺も本物の風竜は見たことはないが、ドラゴンとの戦いは何度も経験している。いままで出会ったどのドラゴンよりも、力強い何かをその目から感じたからな。たとえ風竜でなくても、ドラゴンの上位種で間違いないと思う」


 ちなみに、従者だと思っていた銀髪の女性は、剣聖と同じパーティーの仲間らしい。

 魔法の知識に詳しく、魔力を節約した魔眼の使い方など彼女が教えてくれた。

 それにしても、未発動状態だった俺の魔眼を見抜くあたりでその凄さがうかがえるというものだ。

 そして彼女は、俺には魔術の才能がないので切り札として使えと言っていた。


「質問はないですが、一つお願いがあります」

「なんだい?」

「あの……俺と試合をしてくれませんか?」

 

 見た目は俺と同じような体格。

 引き締まった体をしているが、そこまで実力差があるとは正直思わない。

 もちろん、見た目だけで強さを測ることなんてできはしない。

 魔術の才能がないと断言されたので、剣術ならどこまでやれるのか試してみたいという気持ちもあった。


「いや、やめておこう」

「……理由を訊いてもいいですか?」

「いま戦ったら俺が勝つだろう」


 断言するか。

 しかし、ただの自信過剰からくる言葉ではないようだ。

 年齢的にいまの剣聖はとっくに全盛期を過ぎているだろう。

 それを差し引いても、俺じゃ相手にならないと言うことか。

 親父じゃ手も足も出ないと言っていたからな。

 俺でさえ親父には苦戦する。

 どうやら親父が誇張して言ったわけではないようだ。


「だけどもし、きみが力をつけていまより強くなったなら俺に会いにくるといい。俺の故郷は海の向こう、はるか遠い大陸にある」


 剣聖は夕日に染まる東の空に目をやった。

 それから、視線を俺に戻す。


「じゃあ、約束ってことでいいですか? ――剣聖への挑戦を」

「ああ、その時は受けて立とう。楽しみにしておくよ」


 そして俺と剣聖は握手をして別れた。




 ◆ ◆ ◆




 銀髪の女性の話だと、剣聖に腕試しを挑む冒険者や騎士がたまにいるらしい。

 そして、いずれ戦うことを約束したのは俺が初めてだと教えてくれた。


 剣聖との会話を思い返しながら、俺は随分と長い距離を歩いていた。

 見えてきたのは死竜の砦だ。

 近づくと、数人の生徒が砦の入口にたむろしていた。

 剣を打ち合っているので剣術の稽古でもしているのだろう。

 俺に気付くと三人の生徒がやってきた。

 顔も名前も知らないが、ここにいるということは恐らく死竜クラスの生徒で間違いないだろう。


「なんだお前は? ここは死竜クラスしか入れない場所だぞ」


 口を開いたのは三人の真ん中にいた生徒だ。

 俺より少し背が高く、痩せぎすの男だった。


「そんな規則はないと思うんだけどな。ちょっと散歩していただけなんだけど、それでも駄目なのか?」

「何が散歩だ。ふざけやがって! 学年とクラス、それから名前を言え!」

「五年風竜クラスのアルバート・サビア」

「五年……ちっ、先輩様かよ」


 俺に名乗らせておいて、自分は名乗らないらしい。

 しかもいまの言葉から、五年より下の学年だとわかった。


「知らないのなら教えてやる。ここは死竜クラスの縄張りだ。他のクラスのやつが足を踏み入れていい場所じゃないんだ。わかったら、さっさと向こうへ行け!」

「わかった、稽古の邪魔をして悪かったな」


 今日のうちにどうこうしようと来たわけじゃない。

 俺が踵を返して帰ろうとした、――その時。


「よお、後輩。久し振りだな」


 背後から呼びかけられた。

 振り返った先には見知った生徒がいた。

 浅黒い肌に鋭い目つき、長い赤髪を後ろで結んでいる。

 制服は着ているが、胸をはだけている。

 その胸には剣で斬られたような大きな傷痕があった。

 腰のベルトには年季の入った剣をさしている。

 ウルズ剣術学院一の問題児、六年死竜クラスのジェラルドだ。


「しばらく見なかったが、元気か?」

「ええ。先輩も、元気そうで何よりです」

「後輩よ。以前は見どころがあったが、随分と変わったな。風竜クラスまで上がっていい子ちゃんになったのか? 教師に尻尾を振るのがそんなに楽しいか?」

「そんなつもりはないですよ」

「はん、まあいい。散歩に来たのなら歓迎してやる。まあ見ていけよ。オレの城――死竜の砦をな」


 ジェラルドは誇らしげに言った。

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