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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第二章 死竜の砦
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第一話「冒険者の結婚」

第二章は全三十一話です。

第二話までは別視点ですが、第三話からアルバート視点に戻ります。

「おぎゃぁ、おぎゃぁ、あぁぅ……」


 いま俺の手の上で、目をぎゅっと瞑り大きく口を開け、ありったけの感情を吐き出しているのはもちろん俺の子だ。

 俺の手が震えている。得物の大斧をぶんぶん振り回したって平気な俺がだぜ?

 緊張しているんだろうな。

 少しでも力の加減を間違えたら、握りつぶしてしまいそうなほどにわが子の体は柔らかかった。

 何せ、冒険者の手ってものは武器を握るためにあると、ずっと思っていたからだ。

 その俺が子を授かるとは……何だか感慨深いものがある。




 ◇ ◇ ◇




 俺はミディール。これでもちょっとは名の知られた冒険者で、短く刈った赤髪と左頬に刻まれた大きな傷が特徴だ。

 故郷からはるばる海を渡ってこの大陸に来て早三年。

 新たにパーティーを組んだ仲間たちにも恵まれ、冒険者として順風満帆だった。

 しかし俺ももう三十五だ。後輩であり友でもある男の勧めもあり、そろそろ所帯を持ってみるかと思っていた矢先、同じパーティーの女剣士にこう言われた。


「ミディール、わたし赤ちゃんができたみたい」

「ええっ!? ………………ほ、本当か? おまえ、また俺をからかってるんじゃないだろうな!?」


 女剣士の名はリネット。俺がこの大陸で初めて出会った仲間だ。

 俺が力任せにガンガン攻めるスタイルなのに対して、リネットは二本の剣を器用に操る巧みな剣技で華麗に魔物を屠る。

 五人パーティーで前衛は俺とリネットの二人だ。

 リネットは俺より十歳も若かったが、何度も背中を預け合って戦ううちに自然と仲は深まっていった。 

 そして今日だ。


 本当に子どもができたのだと知って、俺は結婚を決意した。

 そして、すぐにリネットの父親に会いに行くことにした。

 リネットの父親も冒険者だ。齢は五十だと言った。

 しかもまだ現役だというから恐れ入る。

 名をオーガスト・サビアといい、リネットと同じく二本の剣を使いこなす達人だった。


「親父殿、リネット……いや、娘さんを――」

「お前か、娘を孕ませたのは。――なあ若造ッ」

「――えっ!?」


 瞬間、俺の顔面に拳がめり込んだ。

 油断していたとはいえ、二十年も冒険者として飯を食ってきた俺が、まったく反応できずにぶっ飛んだ。

 話の行き掛かり上、結婚を認めて欲しかったら親父殿との勝負に勝たなければならないことになった。

 一対一の立ち会いだ。


「ミディール~、頑張ってぇ!」


 リネットは無邪気な笑顔で手を振って応援してくれるが、それが親父殿をさらに苛つかせる。

 親父殿からは殺気が漲っていた。

 おまえを殺すと、聞こえてきそうだ。


「若造、かかって来い」


 親父殿がそう言うので、俺から攻めることにした。

 よし、アピールする絶好の機会だ。

 俺は背中に担いだ大斧に手をかける。

 次の瞬間、俺は得意の連続技を繰り出した。

 しかし親父殿にすべて躱されて、焦り始めた俺に隙ができた。


「ふんっ!」


 親父殿の反撃が迫る。

 俺は後方に宙返りして跳んだ。

 片足で着地を決めてから、親父殿の動きを確認する。

 ――なに、消えたっ!? 


「何だ、若造。おまえは曲芸師か何かか?」


 俺の耳元で声した。

 親父殿の蹴りをまともに喰らう。

 その後は一方的にやられた。

 多くの冒険者から尊敬と憧れの眼差しを受ける俺が、まるで師匠にバチボコにしごかれる弟子のように無様な醜態を晒していた。


「おい、これが五十のオッサンの動きかよっ!」

「誰がオッサンだ。口の利き方から教えてやろうか、若造」

「いやっ、それは違うんです親父殿!」

「だれが親父だ!」


 俺の鼻先には親父殿の剣が突きつけられている。


「な、何ですかいまの技は……?」

「アレクサンドリート流剣術、刺突技〈エルモ〉」


 アレク……サンドル? 聞いたこともない剣術だ。

 リネットと動きが似ているが、彼女は流派は秘密だと言って教えてくれなかった。

 もしかして、リネットの流派も……。


「リネット、話にならんぞ。本当にこの男はお前より強いのか?」

「えっとねぇ~、十回に七回くらいは……」

「ほう、俺の娘から十回に七本取るか。俺の目も衰えたか」

「違うわ、お父さん。十回に七回勝つのはわたしなの」

「…………何だと?」


 親父殿がもの凄い形相で振り向いて、俺を睨みつける。

 殺気が溢れ出てます……よ?

 リネットはそこらの冒険者とは比べものにならないくらい強い。

 俺はこんなに強い女を見たのは初めてだった。

 …………いや、二人目か。

 一人は友の嫁さんだが、二人目は間違いなくリネットだ。

 男としては何だか納得できないものはあるが、十回のうち三回勝てただけでも俺の実力の証明になると思っていた。


「ミディールは本当に強いのよ。でも、お父さんに勝てる人なんていないでしょ? それに、ミディールにアレクサンドリート流の名を教えた時点で認めてくれたってことじゃない。違う?」

「ふん……若造、家に入れ。続きは酒でも飲みながら話すぞ。リネット、酒を用意しろ」


 親父殿は大きな声でリネットに告げた。

 家に向かうリネットと親父殿の背中をぼけーっと眺めていると、


「何をしてるんだ、早く来いミディール」


 親父殿は肩越しに振り返って言った。

 初めて名を呼ばれて、込み上げてくるものがあった。

 俺は慌てて立ち上がる。


「は、はいっ! いま行きますっ!」


 後になって聞かされたのは、アレクサンドリート流剣術が一子相伝の流派であること。

 それも直系の男子にしか継承されない秘伝らしい。

 親父殿は当代だが、娘のリネットには継承権はなかった。

 もちろん俺にもない。

 そして驚くべきはアレクサンドリート流剣術が生まれてからの七百年近い歴史で、両手に剣を握った戦いではただの一度も敗北はないということだ。


 継承権のないリネットも親父殿から剣技は教えてもらっていないそうだ。

 親父殿のを盗み見て身につけたらしい。なので、微妙に違った。

 俺たちと親父殿は別のパーティーだったが、何ヶ月に一度は顔を合わせていた。

 結婚してから親父殿は少しだけ優しくなったように感じる。


 そうしてたまに会うと、アレクサンドリート流剣術の話を聞かせてくれるようになったのだ。

 この大陸の剣技には発案者の名が付けられることが多いが、直系男子のみに受け継がれたはずのアレクサンドリート流剣術にも他の流派同様に女性らしき名の剣技も存在する。

 聞くと、リネットのように継承権のない女が編み出した剣技を発展させて、取り入れた継承者もいたようだ。


 親父殿は稽古をつけてくれなかったが、俺の目の前でいつも剣を振っていた。

 まるで技を盗むなら勝手にしろと言わんばかりだ。

 と言っても俺の武器は大斧で、勝手が違う。

 もうすぐ生まれてくる俺とリネットの子どもが男の子だった場合、二本の剣を使って戦うアレクサンドリート流剣術を受け継ぐのだろうか。


 はたして――数ヶ月後、風竜の月七日に元気な赤ん坊が生まれた。

 親父殿待望の男の子だった。

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