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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 一年死竜クラス
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第三話「闇夜の死竜誕生」

本日外伝三話投稿を挟んで、明日から第二章に入ります。

三話目。

「はあっ、はあっ……」

「アルバート、俺の勝ちでいいね?」


 もう何度やられただろうか。

 俺は稽古場で渡された木剣を床に立てて、かろうじて立ち上がった。

 ここまで実力に開きがあるとは思わなかった。

 剣術学院の教師を舐めていた。


「はあっ、まだですっ! ……俺はまだやれるッ!」

「きみも一年生にしては腕が立つほうだから、いまのでわかったんじゃないのかい? 圧倒的な実力差ってやつをね」


 図星だった。

 俺の体は木剣で打ちつけられた痣ができている。

 恐らく、いや間違いなく手加減されている。

 それでもこのザマだ。


 何より魔眼を使って追い切れない動き。

 ブランドン先生の剣術は俺の想像をはるかに凌駕していた。


「その流派……何て言うんですか? 初めて……見ましたよ」

「そこまで見抜くかい。なるほど、いい目をしている。まあ、俺もここでは出し惜しみする気はない。次の技で終わりにしよう」


 剣術学院における剣術の授業は担任が行う。

 生徒は生まれや育ちも様々なので、使う流派も同じではない。

 その生徒に教えるのだから、複数の流派をある程度使いこなせていないと教師は務まらない。

 とはいっても良くて中級ぐらいまでの範囲だ。

 ウルズ剣術学院の卒業までの目標が初級を取得することにあるから、それ以上はあるに越したことはないが必須ではなかった。


 ブランドン先生の実力もその程度だろうと思っていたのだ。

 ここで戦うまでは。


 しかし、蓋を開けてみれば見たこともない剣術を使うし、俺はその動きに翻弄され続けた。

 なかなかやるじゃないか、と言われてもちっとも嬉しくない。

 俺は剣が一本しかなくても勝つつもりだったのだから。


「では、――いくよ!」

「くっ……!」


 ブランドン先生の動きがさらに速くなった。

 俺は全神経を集中して躱すのがやっとだ。

 だが、避けても避けてもブランドン先生の攻撃が続く。

 しかも、この連続攻撃が終わらない。

 体力が先に尽きたのは俺のほうだった。


「勝負あり、だね」

「はあっ、はあっ……! くそっ!」


 完敗。

 俺は疲れてもう立てない。

 双剣を使えない俺はせいぜい中級に届くかどうかの腕だ。

 ブランドン先生は、驚くことに上級以上の剣捌きだった。

 双剣が使えたなら、あるいは……とも思ったが、約束は約束だ。

 父さんからは約束を守れない男はクズだと言われていたので、ブランドン先生の要求を素直に飲むことにする。

 どうせ飛び級して卒業するまでの辛抱だ。




 そう軽く考えていた俺だったが、思いのほかその手伝いとやらはしんどかった。

 まず気に入らないのが、変な仮面を着けさせられたことだ。

 ドラゴンを模した仮面。

 ブランドン先生曰く、死竜らしい。


「きみは闇夜の死竜って聞いたことがあるかい?」

「知りません。何ですか、それ?」


 ブランドン先生の話では、このウルズの町を悪党から守っている正義の味方らしい。

 ウルズの町では有名な存在のようだが、引っ越してきて一ヶ月の俺はまったく知らなかった。

 手に持った死竜の仮面に顔を近づけると、


「臭い……」


 臭かった。

 染みついた汗の臭い……それと血か?


「それは由緒正しい仮面だよ。くれぐれも失わないようにね」

「随分古いけど、誰かが使ってたんですか?」

「ああ、俺だよ」

「ブランドン先生が?」

「今日からきみがそれを受け継ぐんだ。二代目、闇夜の死竜を頼んだよ」

「俺が……?」


 こうして、俺は二代目闇夜の死竜となった。

 時々、ブランドン先生に呼び出されては、夜中に学院寮を抜け出して町へと繰り出す。

 ウルズの町はアステリア王国の首都だけあって、かなり広い。

 当然、良からぬ輩も多いわけで……。

 いくら軍や警察が取り締まっても、抜け道は存在するのだ。


 俺はブランドン先生の相棒として、そんな悪党を懲らしめるのが仕事だ。

 これを卒業まで続けないといけないと思うと、ちょっと憂鬱になる。




 ◆ ◆ ◆




 サイーダ森林の禁止区域でイアンと戦ったからかもしれないが、ふと一年の時のことを思い出していた。

 学院寮で簡単な夕食を済ませると、俺は部屋に戻ろうとした。

 その途中で、隣の部屋の後輩と合流する。

 二つ下の三年生だ。


「あー、腹減ったなぁ……」

「どうした? いま一緒に夕食食べたところだろ?」

「あ、アル兄ちゃん。うん、そうなんだけどさ。昼食休憩の時間、クラスの子たちと遊ぶのに夢中になっちゃって食べ損ねたんだよ。だから夕食だけじゃ足りなくて……」

「なるほどな。わかった、ちょっと俺の部屋に来いよ」


 首を傾げる後輩の肩を叩き、俺は自分の部屋へ向かった。

 戸惑う後輩を部屋に招き入れると、俺は机の上に置いていた包みを広げた。


「ほら、これ食べな」

「わっ、パンだ! これ、どうしたの!?」


 俺はパンを差し出した。

 爺さんから送られてきた土産の魔鉱石をミリアムにあげたら、帰りにお礼をすると言われてミリアムの家に寄ったのだ。

 そこで焼きたてのパンを三つもらっていた。


「寮母のおばさんには内緒だぞ。あとで叱られるからな」

「ありがと、でもホントに食べていいの?」

「二つ食べてもいいぞ。俺は一つでいいから」


 夜の仕事前に夜食として食べようと思っていたパンだが、お腹を空かした後輩を目の前にして無視はできない。


「おいしい! 食堂のパンよりおいしいよ!」

「ああ、それは食堂のパンじゃないからな」

「えっ、じゃあ……このパンどうしたの?」

「俺のクラスに家がパン屋の子がいるんだ。ミリアム・マーキアっていうんだけど知ってるか?」

「知らない……でも、マーキアってあのマーキアパンのかな?」

「そうだ。マーキアパンのパンだ」


 マーキアパンは値段の割においしいと評判で、町の人から人気があった。

 隠れて買いに行く貴族もいるとブレンダが言っていた。

 セシリアやブレンダは堂々と買うが、庶民の店で買い物をすることに普通の貴族は抵抗があるらしい。

 俺は後輩の喜びように、自分のことみたいに嬉しくなった。

 あした、ミリアムにも伝えてやろう。

 きっと喜ぶはずだ。


「うん、うまい」

「アル兄ちゃんを尊敬する!」

「この野郎、こういう時だけ調子のいいこと言いやがって」


 俺は後輩と一緒にパンを食べた。

 それから、パンを食べ終えた後輩が出ていくと、俺はベッドに横になった。

 仕事までにはまだ時間がある。

 少しでも仮眠を取るためだ。

 目を瞑ろうとした時、帰宅後に寮母のおばさんから受け取った手紙を思い出した。


「あ、そういや親父から手紙が来ていたな。どうせ、大した話じゃないと思うけど目を通しておくか」


 親父からの手紙は、今日の昼間に学院寮に届いたそうだ。

 俺は手紙の封を破って、中から便箋を取り出した。

 便箋は一枚だけで、字は少し読みにくい。

 親父は海の向こうの大陸出身なので、この国の字は苦手なのだ。

 だったら母さんに書いてもらえばいいのにと思うが、きっと俺が書くと固持したに違いない。

 その光景が目に浮かぶ。


 手紙の内容は簡潔だった。

 近々、親父と母さん、そして爺さんまでもがウルズの町にやってくるらしい。

 久し振りに俺に会いたいそうだ。


「ったく、何年も放っておいて勝手だよな」


 そう漏らしつつも、心のどこかでは少し嬉しかったりするものだ。

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