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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 一年死竜クラス
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第一話「死竜クラスの問題児たち」

本日外伝三話投稿を挟んで、明日から第二章に入ります。

一話目。

 俺はアルバート・サビア十二歳。

 今日からこのウルズ剣術学院に通うことになった。

 冒険者をしている父さんや母さん、そして爺さんの言いつけでだ。

 長らく一緒に暮らしていた爺さんの元から離れ、今日からは学院寮で生活する。


「剣術学院がどれほどのものかわからないけど、飛び級で卒業してやろう。ふふ、爺さんの驚く顔が目に浮かぶ」


 俺の両腰には家から持ってきた剣がぶら下がっている。

 左右一対の双剣で、爺さんが昔使っていたお下がりだ。

 そう、俺の流派はアレクサンドリート流剣術。

 七百年もの間、一度も負けたことのない不敗の流派だ。

 もちろん、先祖代々そうしてきたように、俺も負ける気はない。


 爺さんとの過酷な稽古から解放されて、俺は自分の剣術を早く試したくて仕方がなかった。

 楽しみだ。

 学院内の掲示板を見ると、俺は死竜クラスに配属されたようだ。


「死竜クラスか……ちょっと待てよ。死竜クラスって一番下のクラスじゃないか。どうして俺がそんなクラスに……」


 入学試験ではかなり手応えを感じていたのだが、他に優秀な生徒が多いのだろうか。

 一年死竜クラスの教室に入って、始業の鐘が鳴った。


「入学おめでとう。今日からきみたちはウルズ剣術学院の生徒になった。俺はこの一年死竜クラスの担任でブランドン・ダフニーだ。気軽にブランドン先生と呼んでくれると嬉しいね」


 ブランドンと名乗ったこの笑顔の男が、俺たち一年死竜クラスの担任らしい。

 しかし、ブランドン先生の歓迎とは裏腹に、迎えられた生徒たちの反応は芳しくない。

 笑みを見せるどころか、舌打ちや露骨に悪態をつく生徒までいた。

 ブランドン先生は半ば強引に二十名の生徒に順番に自己紹介をさせる。

 そうして、俺の順番がやってきた。


「え~、アルバート・サビア。剣には結構自信がある。みんな、よろしくな」


 俺以外の生徒が挨拶した時もそうだったが、当然俺の時にも舌打ちやへらへらした笑い声が聞こえた。

 何なんだよこいつら。

 俺は表情には出さず、不満を押し殺して着席する。


「よろしくね」


 左隣の席に座っていた俺と同じ茶髪の女の子が笑顔で言った。

 確か、さっき自己紹介した子だ。

 名前はセシリア・シンフォニーだったかな。

 シンフォニー……貴族か。

 俺みたいな平民に気安く話しかけてくるなんて、どうせたいした貴族でもないのだろう。

 大貴族なんてのはもっと威張っている印象がある。


「わたしは、セシリアっていうの。アルバートくんって呼んでもいいかな?」

「別にいいけど」

「ありがとう。わたしのことはセシリアって気軽に呼んでね」


 微笑みかけてくるセシリアからはいい匂いがした。

 ほとんどの生徒は幼年学校を卒業し、このウルズ剣術学院へと進学してくる。

 しかし俺の場合は住んでいたところが田舎だったため、近くに幼年学校がなく、爺さんから読み書きや計算、そして歴史や一般教養などを教えられた。

 そのため、同年代の女の子と接する機会が少なかった俺は、セシリアに話しかけられたことが素直に嬉しかった。

 自然と笑みが零れる。

 そんな空気をぶち壊すかのように、俺の机が蹴られたと同時に反対側から声がした。


「馬鹿じゃないの? 何、鼻の下を伸ばしてんだか」


 すると、右隣に座っていた女の子が俺をあざ笑うように言った。


「……なんで蹴るんだよ。おまえは?」

「は? おまえ? さっき自己紹介しただろ、聞いてなかったの?」

「スカーレットだった、か」

「何だ、ちゃんと聞いてたんだ。ふん、何が剣に自信があるだ。私も剣じゃ負けないからな」


 スカーレットは男の子のような口調で話す。

 しかし、容姿は女の子らしく銀色の髪を長く伸ばしていた。

 そして自慢げに高価そうな剣を見せてくる。

 俺はその剣に一瞥くれてから、スカーレットによろしくなと言おうとした。

 その時、教室の後ろのほうで机同士がぶつかる音が聞こえた。


「おい、おまえどけよ」

「おまえがどけ」


 二人の生徒が言い争っているようだ。

 後ろの席で喧嘩していたのはロイドとかいう背の高いやつだ。

 喧嘩相手は同じサイマスとか言ったな。

 兄弟?

 いや、顔が似ていない。

 まあ、平民じゃ一般的な家名だしな。


 それを横目で見ていると、近くにいた胸の大きな女と目が合った。

 この女、本当に俺と同じ十二歳?

 対照的なのは一緒にいる小柄な女の子だ。

 こっちも逆に同じ歳なのか疑いたくなるほどだ。

 確かミリアムだったな……家がパン屋だと言ってたな。


「ブレンダちゃん、楽しみだね~」


 そうそう、ミリアムと話している胸の大きな子はブレンダとさっき名乗っていた。

 こいつも貴族だったな。


「知り合いなのか……」


 俺が漏らした声が聞こえたのか、ミリアムは俺に振り返った。


「えっ、私たちのこと? 私とブレンダちゃんはお友達だよ。って言っても、ついさっきお友達になったばかりだけどねっ」

「そうなのか?」

「うん。学院に向かう途中で財布を盗まれて、その犯人をブレンダちゃんが投げ飛ばしてくれたの。すっごいんだよ、ブレンダちゃん。だって相手は大人の男の人だったのに」

「何だ、ゴリラか」


 直後、ブレンダの平手打ちが飛んできて乾いた音が鳴った。

 俺の左頬がじんじんと痛む。

 しまった……つい思ったことを口にしてしまった。


「って~……」

「初対面でそれは失礼じゃないかしら?」

「そ、そうだよ~。アルバートくん、ブレンダちゃんに謝って」

「ごめん、顔のことじゃないから……」

「あたりまえでしょう。もしそういうつもりで言ってるのなら、投げ飛ばしていたわよ」

「ブレンダ、もうそのへんで許してあげて、ね?」


 セシリアが割って入る。

 俺は左頬を押さえながらセシリアを見た。


「セシリアの知り合いなのか?」

「わたしとブレンダは友達よ」

「そうだったんだ……」


 貴族同士で親交があるようだ。

 それにしても、セシリアとミリアム以外は好戦的なやつが多いな。

 これが死竜クラスか。

 逆に優等生が集まる樹竜クラスも見てみたいところだ。

 そう考えていると、ブランドン先生がパンと手を叩いた。


「こらこら、まだ自己紹介の途中だよ。邪魔するのなら、罰として剣の素振り百回させるよ」




 ◇ ◇ ◇




 何事もなく十日が過ぎた。

 相変わらず教室内は騒がしかったが、死竜クラスでは普通のことだろう。

 俺ももう慣れた。


 担任のブランドン先生は、こんな生徒たちを相手にいつもニコニコ授業をしていた。

 それが不思議だった。

 強そうにも見えないのに、注意するべきところはする。

 しかも、爽やかにだ。

 反論されても笑顔で返す。

 これは不思議を通り越して不気味にさえ思えた。


 そんな中、クラスメイトのイアンが問題を起こした。

 六年生四人と喧嘩になり半殺しにしたらしい。

 幸い診療所の回復術士に治療してもらい命を取り留めたらしいが、ひどい怪我だったという。

 六年生といえば、俺たちより五つも年上だ。

 剣術の強さに年齢は関係ないといっても、体の大きさや腕力には明確な差が出るはずだ。

 イアンの底知れない強さに、俺は警戒することにした。


 結局、相手が平民だったため、子爵家のイアン側が治療費を出すことで穏便に済ませたようだ。

 もしイアンが平民なら、退学は免れなかっただろうと誰かが言っていた。

 この一件以降、イアンは死竜クラスで一目置かれることになった。

 イアンには手を出すな、と。

 それでも、問題は起こる。


「ちょっと、謝りなさい!」


 教室内に透きとおるような声が響いた。

 何があったのかと、俺は振り返った。

 イアンの前にミリアムを背にしたブレンダが立ちはだかっている。


「あなたがよそ見していてミリアムにぶつかったのを見ていたわ」

「小さすぎて見えなかった。邪魔だ、どけ」


 倒れているミリアムを蹴飛ばそうとしたイアンだったが、寸前でブレンダがその足を手で払った。


「やめなさい!」

「ほう、私の蹴りを払うとは、武術の心得でもあるのか?」

「多少は、ね!」


 ブレンダがイアンの手を取って仕掛けた。

 だが、イアンはびくともしない。

 恐らくブレンダは投げ飛ばすつもりだったに違いない。

 しかし、いかんせん体格差がありすぎる。


「私に――触るなッ!」


 逆にイアンはブレンダの頭を掴んで壁に叩きつけた。


「きゃああああっ! ブレンダちゃん!」


 教室内にミリアムの悲鳴がこだまする。

 そこへセシリアも駆けつけた。

 他の生徒もただ事ではないと、続々と集まってくる。

 倒れたブレンダの髪を掴み、起き上がらせようとするイアンに、セシリアが止めに入った。


「それ以上は駄目よっ! 騒ぎになれば先生たちだって来るわ!」

「どけ、おまえも同じ目に遭いたいのか?」

「やめて! ブレンダは怪我しているわ!」

「関係ない。私に逆らえばどうなるのか、思い知らせてやる」


 イアンの手がセシリアに伸びる――

 その手を俺が抜いた剣の柄で受け止めた。


 一瞬、教室内がしんと静まりかえる。


「イアン、女の子相手に何してんだ」

「おまえも邪魔するのか? 剣を抜いたな。ならば私もそうするが構わんな?」

「ああ、いいぞ」

「ほう、私に歯向かうのか? いい度胸だ」

「表へ出ろ。相手をしてやる」


 こうして、俺とイアンは戦うことになった。

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