第二十六話「魔法仕掛けのゴーレム」
急がせたため、ロイドは傷の痛みで辛そうだし、体力のないミリアムは疲れ切っていた。
しかしそのおかげで、そう時間をかけずにブランドン先生を見つけることができた。
場所は俺が落ちた場所から少し移動していた。
辺りにはへし折られた大木がいくつか横たわっている。
ブランドン先生とダリア先生は無事だ。
そして、二人に対峙している魔物はその姿を変えていた。
「ブランドン先生! 俺も加勢するぞ!」
「アルバート……!?」
ブランドン先生は少し驚いた顔をした。
俺がこんなに早く戻ってきたことにか、ロイドたちも一緒にいることなのか、あるいはその両方だろう。
「どうして、戻ってきた! 私の……樹竜クラスの生徒たちはどうしたっ!」
「彼らは先に森の出口に向かっています」
「アルバート、きみが加勢するだって……?」
「ああ、そう言った」
「でも……きみは……」
ここではアレクサンドリート流剣術を使えないって言いたいんだろう。
でも、使う。
どっちみち、セシリアたちにはバレてるしな。
唯一事情を知らないダリア先生を驚かしてしまうことになるが、もう隠してる場合じゃない。
何より、目の前のこいつは本気でやらないと勝てる気がしなかった。
「俺がやる」
そう一言だけ言うと、ブランドン先生は苦い顔をした。
ブランドン先生自身もダリア先生の手前、力を隠しながら戦っていたはずだ。
「ブランドンっ! その生徒を早く下がらせろ! 生徒が敵う相手じゃない!」
「いや、アルバートに任せる」
「何っ!? 正気かブランドン!」
ダリア先生が信じられないというような目で、ブランドン先生を睨む。
「ダリア先生はうちの生徒を守ってもらえるかい? ロイドは……怪我をしたのか?」
「ああ、俺が仕留め損ねたワイバーンと戦闘になった。でも、大丈夫だ。戦闘はできないが、帰すより安全だと思って連れてきた」
「ワイバーンだと!? おまえ、何をっ……!」
「ダリア先生、俺たちも下がったほうがいい。アルバートが稲妻の谷から生還した事実。それをいまから見ることになるだろうからね」
そう言ってブランドンは俺の肩に手を置いて、口元を近づける。
「勝てるか?」
「さあな、やってみなくちゃわからないな。それよりあの見てくれは何だ? さっき見たのと違うんだけど……というか本当に魔物なのか?」
「あれはゴーレムだね。そして、恐らく森の主だ。体を覆っていた木々は俺が斬ったけど、あの本体は堅すぎて手を焼いているよ」
森の主は右腕を振り上げて走ってきた。
俺とブランドン先生は同じ方向に跳躍して躱す。
「ゴーレムが森の主か。ゴーレムなら親父の土産話で聞いたことがあるな。確かコアとかいうのを潰せばいいんだろ? あとは腕や足の関節の隙間なら、比較的装甲は薄いはずだ。親父の受け売りだけどな」
「きみの親父さんがそう言ったのなら、参考にできるな」
「あれ? ブランドン先生、親父のこと知ってったっけ?」
「会ったことはないけど、名前くらいはね。冒険者界隈では割と有名な人だよ。異大陸から海を渡ってやってきて、剣聖とも知り合いだとか」
「まあな。剣聖と知り合いっていうのは嘘かもしれないけど」
俺の親父もブランドン先生に名前が知られるくらいには有名なようだ。
俺が生まれる前にはるばる海を渡ってこの大陸に来たというのは事実。
剣聖と知り合いだと自慢げに話していたこともあるが、その真偽は怪しいので真に受けていない。
その親父から過去にゴーレムと戦ったという武勇伝を聞かされたことを思い出す。
正面からだと堅い体に傷を付けられないから、関節を狙うと言っていた。
コアがわかればそれを斬れとも。
「じゃあ、俺は下がるよ? 実はヘトヘトなんだ」
「嘘をつけ。へばるようなタマかよ」
ジト目で言う俺に端正な表情を弛めながら、ブランドン先生は後方に下がった。
横目で見ると、下がる途中で戸惑っているダリア先生に声をかけていた。
二人が距離を取ったことを確認しながら、俺は森の主の攻撃を避け続ける。
「森の主が森を壊していいのかよ。さて、ここは親父の助言どおりに攻めるか」
いや、その前に森の主に言っておくことがある。
人間の言葉が通じるかわからないが、これだけは言っておきたい。
「いきなりぶん殴られたり稲妻の谷に落とされたり、おまえには言いたいことが山ほどあるけど……一番許せないのは俺の大事な仲間を傷つけたことだ。だから――俺の全力でおまえを倒すッ!」
そう宣言した俺は、右目に魔力を込める。
(魔眼、――開眼ッ!)
森の主は左右の腕を肩の高さまで上げて伸ばすと、体全体を回転させて前進した。
その腕に触れた大木が、また一つ薙ぎ倒される。
「何だよあの破壊力は……! 一発でもまともにもらったら、死ぬんじゃないか?」
だが、木々にぶつかりながら向かってくる森の主の速度は、俺からしたらそんなに早くはない。
俺は近づいて攻撃するべく、地面を蹴った。
「まず、足を止めるッ!」
放ったのはアレクサンドリート流剣術の斜め斬り〈トルスティ〉だ。
狙いどおり、俺の攻撃は森の主の膝関節を斬った。
森の主ががくんと地面に左膝をつける。
「その目玉が怪しいな。それがコアかっ!」
この高さなら十分届く。
俺は森の主の頭部にある青白く光る珠に剣を突き出した。
「ボボボボボボボボボボボ……!」
森の主は両腕を交差して頭部をがっちりガードする。
俺の剣は弾かれた。
「頭を守ったってことは、それがコアで間違いないのか?」
こいつが守りを固めた以上、無闇に斬りつけても意味はない。
俺の剣が弾かれたことから、この防御は守りに長けたディアマント流剣術を彷彿とさせた。
それなら腕を斬るまでだ。
狙うは肩の関節だ。
「はあっ!」
「ボボボボボボボボボボボ……!」
俺の剣が森の主の右肩を斬り落とした。
次は左と思った、――その瞬間。
森の主は左腕をこちらに伸ばした。
そして俺の眼前に突如、左拳が飛んできた。
「うわっ!」
咄嗟に両手の剣で上方に弾き返す。
頭上から地面に落ちてきたのは肘から下の左腕だった。
「腕を飛ばした……!?」
続けて、森の主の二の腕が飛んでくる。
俺は即座に反応し、首を左にずらして避けた。
いま森の主は、右膝を立てて左膝を地面につけている。
右腕は肩からないし、左もいまので同じになった。
もう攻撃の手段を失ったように見える。
「もう終わりか……?」
俺は沈黙する森の主を凝視して警戒を弛めない。
すると、青白かった頭部の珠が徐々に赤みを帯び始めた。
森の主の体全体も、内側から光で照らされたように発光しだす。
なん……だ?
「ボボボ……ボボボボ……」
「何だ? 何て言ってる?」
「自爆だッ! アルバート、いますぐ離れろッ!」
後方からブランドン先生の声が届いた。
同時に俺もこれはヤバいと思ったが、森の主のあらゆる関節の隙間から、眩しい光が差し始める。
自爆だって!?
もしそれが本当なら、どれほどの範囲に被害が及ぶかわからない。
セシリアたちの様子を見ると、ブランドン先生とダリア先生が後ろへ下がるように叫んでいる。
「自爆はさせない。――ここでコアをぶっ壊す!」
言うがいなや、俺は一気に間合いを詰める。
狙うはコアの一点。
アレクサンドリート流剣術の刺突技〈エルモ〉しかないッ!
「貫けえぇぇぇぇッ!」
閃光が走り、伸ばした剣の切っ先がコアに命中した。
パキッ、と乾いた音がする。
そして、コアに亀裂が入り砕け散る。
いまやその輝きはなく、ただの石のようになっていた。
森の主は完全に止まった。
「……自爆は止まった、か」
俺は両手の剣を鞘に収めて振り返る。
セシリア、ミリアム、ブレンダが抱き合って安堵の表情を浮かる。
ロイドは跳び上がって喜んだ後、左肩を押さえて苦笑いした。
ハロルドは穏やかに笑う。
ダリア先生は目を見開いて立ち尽くし、ブランドン先生は大きく頷いた。




