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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 深淵の魔導師
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第二十一話「できることを精一杯すればいい」

 ジェラードたちは、しばらく振りに王都へ戻ってきた。早速、勇者と情報交換を済ませる。魔王軍の襲撃によって、勇者パーティーの魔法戦士が命を落とし、勇者はひどく落ち込んでいた。しかし、戦士や高位神官に諭されて、つい三日前に完全に立ち直ったそうだ。メレディスはエルフと獣人と同盟を結ぶ約束をしたことを伝えた。


 国王や大臣たちに感謝されたジェラードたちは、束の間の休息を取ることにした。屋敷の庭でレイラが剣術の稽古をし、ソニアが座ってそれを眺めている。その隣ではジェラードが、眠っているララを膝に乗せてモフモフを楽しんでいた。


「ふふっ、ジェラード様はすっかりララちゃんがお気に入りのようですね」

「このモフモフは癖になるな。寝る時は枕にしたいぐらいだぜ」

「だ、駄目ですっ」

「ん……なんだ急に大きな声を出して」

「その……ララちゃんは女の子なのですから、寝室はちゃんと別にしてくださいっ」


 ソニアはジェラードからララを取り上げると、自分の膝の上に乗せた。ララは気持ちよさそうに寝ている。ソニアはその髪を優しく撫でる。


「ジェラード様~! 見ててくださいませ~!」


 レイラが大きく手を振ってから、連続技を披露する。


「ほう、いいんじゃねぇか? 俺は剣術はあんまり詳しくないけど、以前より良くなった気がするぜ」

「まあ、本当ですか!?」

「こんなとこで世辞を言ってどうする。ディアドラ、おまえもそう思うだろ?」


 ジェラードに褒められて喜ぶレイラ。ジェラードは兜の水晶の向こうにいるであろうエルフの女王に話しかけた。


『ふむ、確かにそうだな。レイラは攻撃魔法も使えたな。だったら、魔法を織り交ぜた魔法戦士のように戦ってはどうかな』

「魔法戦士ですか?」

『うむ。エルフに優秀な者がいるから修行をするのも悪くないだろう。そうだな、三年もあればいっぱしの魔法戦士になれるぞ』

「……ありがたいお言葉ですが、それは丁重にお断りさせていただきますわ。だって、ジェラード様と三年も離れて暮らすなんて考えられませんもの」


 しばらくすると、ララが目を覚ました。


「ふにゃあ~っ。良く寝たにゃ」

「ごめんなさい、ララちゃん起こしてしまったかしら?」

「大丈夫にゃ。ソニアお姉ちゃんのせいじゃないにゃ。……あ、レイラお姉ちゃん、あてぃしもやる~!」


 レイラの稽古を見たララが飛び起きて、駆け出した。そして、剣を振るうレイラに格闘術を見せつける。圧倒的にララのほうが実力は上だ。レイラを傷つけないように、寸止めで攻撃を繰り出していく。自分が強いことを自慢する気はなく、ララは純粋に汗をかくことを楽しんでいた。当然、ララが相手ではレイラはすぐにへばってしまった。


「ララさん、強すぎますわ。わたくしは少し休憩します」

「よし、じゃあ俺がララの相手をしてやろう」

「「「ジェラード様!?」」」


 ソニア、レイラ、ララの三人が同時に驚きの声を上げた。ジェラードは立ち上がるとララのところまで歩いて行った。ジェラードは暗殺者ウォルターと戦った時のことを思い出していた。迫ってきた魔王軍の精鋭部隊相手に、獅子奮迅の活躍を見せたララの姿が脳裏に浮かぶ。


「ララの打撃がどれほどのものか、ちょっと試してみたくなった。俺からは攻撃しないから、思いっきり打ち込んできていいぞ」

「にゃ!?」


 そう言ってジェラードは防御魔法を展開した。ジェラードの前面に魔法の防御壁が顕現する。上級魔法のバリアだ。魔法以外の物理攻撃を軽減することができる。その効果は術者の魔力に依存するので、ジェラードほど魔力があれば攻撃をほぼ完全に無効化することも可能だ。


「気にせず打ってこい」

「わかったにゃ! はああああっ!」


 ――ドンッ!


 という重い衝撃音が響く。ララのパンチだ。しかし、その拳はジェラードには届いていない。バリアによって完全に阻まれていた。


「んにゃ! んんんっ……にゃ!」

「どうした、どうした。もっと打ち込んでみろ」


 ララは無理やり拳を押し込んだり、助走をつけて攻撃するが、結果は同じだった。ソニアとレイラは驚きを隠せない。獣王の話では、ララは父である彼より強いらしい。獣王は全盛期を過ぎているとはいえ、他の兄たちでは超えられなかった壁を一番年下のララが凌駕していたのだ。そのララの攻撃さえ、ジェラードには通じない。


「俺のバリアは硬ぇぞ。だが、この魔法の欠点は、防御壁の展開中に他の魔法が使えないことだ。そして、俺自身もあまり動けなくなる。おまえたちに勇者ぐらいの実力があったなら、俺が守りを担当する場面もあったかもしれないが、いまは俺の攻撃魔法が頼りという状況だ。だから、バリアを使う場面は限られるだろう」


 自分たちに魔王軍を打開する攻撃力が足りないことを理解していたソニアとレイラはしょんぼりした表情になる。


「いや、おまえらが弱いから責めてるんじゃねぇぞ。おまえらは俺が必ず守ってやるから心配するな。自分たちにできることを精一杯すればいい」

「ジェラード様、もう一回やるにゃ! 次はあてぃしの最大の攻撃で打ち込むにゃ!」


 ララは相当悔しかったようだ。闘士を漲らせて、笑みを浮かべている。ジェラードは頷いた。


「よし、来いララ!」

「わかったにゃ!」


 ララが力を溜めるように、腰を落とした。その気迫がジェラードに伝わってくる。次の瞬間、ララが地面を蹴って右拳を振りかぶった。


(来るッ! ――なっ!?)


 ララの右拳が八つの残像を創りだした。魔法ではない。早すぎて拳が八つに見えたのだ。


「いくにゃ! ――餓狼獣王拳ッ!!」


 ――ダダダダダダダダンッ!


 さっきまでとは比較にならない衝撃音が八つ響いた。超高速の八連撃だ。


「やったにゃ! はあああああっ!」


 ララの八撃目がバリアを粉々に砕いた。バリアを打ち破ったララの餓狼獣王拳は、ジェラードの胸元へ届きそうだ。ララは手応えを感じたのか笑みを浮かべる。だが、ピンチのはずのジェラードも同じような顔をした。


「これは驚いたぜ。だが、俺の勝ちだ」

「にゃにゃにゃっ!?」


 ララの伸ばした右拳は、あとわずかのところで阻まれた。ジェラードが創った二枚目のバリアにだ。


「咄嗟に危ないと感じて、二枚目を張ったんだ。次は最後まで気を弛めないことだな」

「負けたにゃ~! ……でも、さすがジェラード様にゃ!」


 ソニアとレイラは感心して拍手した。そこへ王城へ出かけていたメレディスがやってきた。


「聖女様、同盟を正式に締結する日程が決まりました。それと、魔王軍に対する今後の方針を決めるため、会議をするそうですじゃ」


 ジェラードたちは人間、エルフ、獣人の同盟に立ち会うことになった。それぞれの国の代表者が集まるのだ。とは言ってもディアドラや獣王が王都に来ることはない。双方からは代理の者が出席していた。エルフの里からは先日会った文官が、そして獣王国からは獣王の長男が代理人だった。どちらも複数の護衛と共に王都へやってきたのだ。こうして無事に同盟は締結された。いま、魔王軍に対して人間、エルフ、獣人が一つになったのだ。その立役者がジェラードだということは誰もが認めていた。


「これで三カ国の同盟が結ばれましたね。いよいよですよ、ジェラードさん」


 勇者が決意を新たにジェラードに向けて言った。


「そうだな。魔王軍との全面対決も近いな」


 そうは言ったものの、獣王国でギデオンの切り札魔導兵に逃げられたこともあり、ジェラードはいろいろ考えていた。そして、あることを思いつく。


「俺からいいか?」


 ジェラードの発言に、国王を始めとして全員が注目する。


「いよいよ、こっちから魔王軍に反撃するって話だが、俺も少し決め手を欠いているようだ」

「どういうことですか? ジェラードさんの魔法は、魔王軍の脅威になっているはずです。これ以上、何を……?」


 勇者が困惑した表情で尋ねる。ジェラードは、勇者を一瞥してからこの場にいる全員に向けて告げた。


「俺は魔族に秘匿されている禁呪を取りに行く。あれがありゃ、魔王すら倒せるだろうぜ」

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