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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 深淵の魔導師
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第二十話「読み合いで俺に勝てると思ったか」

 魔術師や魔導師同士の戦いは魔法の読み合いによって勝敗が決する。簡単に言えば、相手より早く強力な攻撃魔法を当てたほうが勝つのだ。しかし、強力な魔法ほど呪文の詠唱は難解で文言の節も長くなる。例えば、ジェラードの使う古代魔法クリムゾンフレアは非常に強力かつ広範囲の攻撃魔法だが、呪文は六十六節と長い。もし相手が先に四十節や五十節程度の魔法を放つことができれば、ジェラードは魔法を発動させる前に死んでしまうだろう。


「魔王軍が来たぞ! その場で、迎え撃て!」

「やるにゃ! はぁぁっ! 餓狼獣王拳ッ!」


 そして、呪文の詠唱には詠唱自体を省略する無詠唱や、大幅に節を省略する高速詠唱も存在するが、古代魔法にはどちらも使えない。上級までの魔法なら高速詠唱で唱えることができるジェラードに有利は発生するが、相対している魔導兵の数は三十だ。それぞれが別の動きを取ってくるだろう。そのすべてとの読み合いに勝たなければ、ジェラードの敗北だ。


「地の果てまで落ちろ!

アース――クエェェェイクッ!!」


 果たして、ジェラードの初撃は高速詠唱で放ったアースクエイクだった。魔導兵はまだそれを上回る魔法を完成させていない。魔法を発動した者もいたが、アースクエイクには数段劣る中級までの魔法だった。その魔法もろとも、アースクエイクが飲み込んでいく。


「読み合いで俺に勝てると思ったか! 百年早ぇ!」


 ――ゴゴゴゴゴ!


 地響きを立て、大地が大きな亀裂を幾重にも走らせた。精鋭部隊の悲鳴がそこかしこから上がる。精鋭部隊の数が減ったことで、ジェラードの視界が一気に広がる。見据えるのは魔導兵だ。相手の仕草と口の動きを読み、魔法を予測する。仮に同じ魔法の呪文をジェラードが後出して詠唱しても、早く完成させる自信はあった。加えて兜の水晶からはディアドラの魔力が流れてくる。この戦闘においては、魔力切れを心配することはなかった。


 いまのところ、ジェラードがすべての読み合いに勝っていた。次期幹部候補と言われるギデオンの弟子をもってしても、魔法ではジェラードには勝てなかったのだ。魔導兵に焦りが見えたのを確認したジェラードは、集中を切らさずに次の呪文を詠唱し始めた。


「――!? おまえっ! どこから――!」

「ふにゃ!?」


 ジェラードの背後で獣王とララの声が聞こえた。ジェラードは振り向いて目を見開く。そこには突如現れた敵に対して混乱する獣人たちがいた。たった一人の魔族が混乱に乗じて、中に紛れ込んでいたのだ。


「獣王ッ! その命、もらったぁッ!」

「ぐほぁぁぁっ!」


 獣王の体が、背後から剣で貫かれた。獣王は口と胸から血を吹き出した。獣王の護衛たちが怒り狂ったように魔族に攻撃を仕掛ける。しかし魔族は剣を抜き、素早くそれに対応した。魔族はジェラードと一瞬だけ視線を合わせた。宣戦布告だ。


(ウォルターだとっ!?)


 その魔族は四天王の一人、暗殺者ウォルターだった。


 ジェラードは魔王軍に指揮官が見えなかったわけがわかった。ウォルターがそうなのだ。そして、身を隠しこの機会を狙っていたのだと、ジェラードはいまになって気付く。このまま呪文を継続するか刹那に迷うが、そこでララが獣王に駆け寄った。


「エクスヒール!! ううっ……! あてぃしの魔法じゃ足りないにゃ……! どうしよ、どうしようっ!」

「落ち着け……ララ。俺に構わず敵を……倒せ。おまえは獣王の娘……なの……だぞ。ぐはっ!」


 ララのエクスヒールでは回復が追いつかない。放っておけば獣王の命はない。だが、獣王は自らの命より、獣王国を守ることを優先した。ジェラードは呪文を継続することを選択した。苦渋の決断だ。そして、この魔法で決着をつけると心に誓ったのだ。


「ジェラード! 魔法を放つ前に、俺が殺してやるぞッ!」


 護衛を斬り伏せたウォルターが無防備なジェラードに向かってくる。


「遅かったなぁぁぁっ、ウォルタァァァァッ!

閃光となれッ! ――ヘブンズレェェェイッ!!」


 ウォルターが肉薄した瞬間、ジェラードは七十二節の呪文を詠唱し終え、古代魔法ヘブンズレイを放った。直線上に光の波動が迸る光系統の最強魔法。本来の使い方なら、その直線上いた者は跡形もなく消し飛ぶだろう。しかし、それでは獣人に多くの犠牲者が出る。そこでジェラードが取った方法は、発動起点である右手をウォルターの顎に当てたのだ。真上に向かって。


「おらあああああああああっ!」


 ジェラードの叫びが木霊する。突き上げた右手の先には、はるか上空に伸びていく一筋の光。残ったのはウォルターの首から下だけだった。その遺体も、灰のように崩れ去った。振り返って魔導兵を見るが、後退しているのが確認できた。


「獣王! 俺が助けてやる!」




 ◇ ◇ ◇




 ジェラードのアルティメットヒールにより、獣王は一命を取り留めた。胸の傷は完全に塞がり、あとは体力が戻るまで静養するしかない。獣王ほどの体力があれば、二三日で完全に回復するだろう。獣王の護衛たちもジェラードの治癒魔法で癒やされ、死者は出なかった。魔王軍を追い返し獣王の命を救ったジェラードの活躍は、瞬く間に獣王国に広まった。いまでは町を歩くだけで、感謝の言葉が飛んでくる。


「ジェラード様、また有名になってしまいましたね」


 ジェラードの隣にいるソニアが嬉しそうに言った。


「ああ、うっかり実は魔族だなんて言えないな。ちっ、どこに行っても子どもに囲まれて身動きしずれぇったらねぇぜ」


 そう言うジェラードは満更でもなかった。レイラも喜んでジェラードの腕に手を回す。さすがのメレディスも今回ばかりは気前よく、ジェラードに酒を奢った。昨晩のことだ。そう、ウォルターを倒してから二日が経っていた。


 王城に出向いたジェラードたちは獣王と面会した。今回は玉座の間ではなく、獣王の寝室だった。獣王はベッドの上で上半身を起こしていた。部屋には獣王の他にララを含め五人の護衛がいた。


「――というわけで同盟を結ぼう。ジェラードには感謝の言葉しかない」

「いや、俺のほうこそ思わぬ目的を果たせたから気にするな」


 この地で四天王の二人呪術師カールと暗殺者ウォルターを倒すことができた。残るは暗黒騎士ライナス、闇神官ヘイデン、そして宰相のギデオンだ。ジェラードは眉間にしわを寄せた。


「ジェラード様……?」

「ああ、いや何でもない。ちょっと考え事をしていただけだ。じゃあな、獣王。俺たちは一度王都へ戻る」

「そうか。もう少しおまえと話したかったが、魔王軍の動向もあるしそうはいかんようだな」

「へっ、獣王がとんでもない美女だったら考えたかもしれねぇな」


 そう言ってジェラードと獣王が笑い合う。すると、ララが獣王の前に進み出た。


「お父様、あてぃしジェラードとついていくにゃ!」

「……そうか、その男に惚れたか。獣人の女は強い男が好きだ。なら、おまえの好きにすれば良い」


 ララが跳び上がって喜んだ。


「やったにゃ! あてぃし、ジェラードと結婚するにゃ!」

「そんなっ!? ジェラード様の意思に関係なくそれは認められません!」

「そ、そうですわ! ソニアお姉様やわたくしを差し置いてそれは――」

「えっ、レイラ!? わたしはその……ジェラード様の意思が尊重されるべきだと……」


 唐突にララが宣言し、ソニアが狼狽した。


「はっはっは、ララよ、俺はおまえが惚れた男なら誰だろうと反対はせん。だが、ライバルが多いようだな」

「ったく……自分の嫁ぐらい、自分で決めるぜ」


 ジェラードは帰りの旅路も賑やかになりそうだなと思った。

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