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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第三章 武闘祭と後継者
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第三十話「蘇る双剣」

 ヨハンネスは左右の剣を弾かれて大きく体勢を崩す。

 俺が無意識に放った〈ドラゴンオーガスト〉は申し分ない出来だった。

 いや、意識していてもこれほどの完成度で放てるのかと思うほどの完璧さだ。

 だがヨハンネスは体勢を崩しながらも防ぎきった。

 こいつは強い!

 倒しきるにはもう一押し必要だ!


「くっ、こんな剣技を隠していたのかっ!」


 一昨日、旧冒険者で戦ったときは〈ドラゴンオーガスト〉を出し切る前にブランドン先生が割って入った。

 もしあのとき俺が〈ドラゴンオーガスト〉を見せていれば、二度目は通じなかったかもしれない。

 何しろヨハンネスは所見でこれを防いだのだから。


 そのヨハンネスは素早く構え直して反撃に移ろうとしていた。

 双剣を振るい俺に襲いかかる。


「偽物とはいえ、さすがに同門! だがな俺のほうが強い! 七百年無敗、その重みを思い知れッ!!」


 ヨハンネスは左足で踏み込んで一気に間合いを詰めてきた。

 負傷していたはずの左足でだ。

 おそらく今ので完全に左足は逝った。

 それでも表情に見せないし、逆に速度は増したように感じた。

 体の一部を犠牲にしてでも必ず勝つ。

 その気迫に圧倒される。


 ヨハンネスが放った渾身の攻撃は突き技〈エルモ〉から始まる連続技だ。

 剣技の繋ぎかたは多岐に渡る。

 予想してから躱していては間に合わない。

 そう判断した俺はわざと体を斬らせた。


 とは言っても皮一枚のかすり傷程度だ。

 それでも、わずかだが次の攻撃を遅らせる効果はある。

 俺の体が傷だらけになっていく。


(だけど肝心の隙が見当たらない……!)


 ヨハンネスは止まらない。

 何かに覚醒したかのような爆発的な瞬発力で連続攻撃を繰り返す。

 もう俺が倒れるまで止まる気はないのだろう。


 こうなれば、俺も覚悟を決めるしかないのだろう。

 腕の一本でもくれてやれば、隙を作れる。

 最後の賭に出るか……!



『アルーーーーーー!!』



 その時、またもやセシリアの声が聞こえてきた。

 同時に足元から腹、そして胸、腕へと力が漲ってくる。


 そうだ、まだやり残したことがある!

 セシリアを攫い、ハロルドを傷つけたヨハンネスにまだ借りを返していないっ!!


 さらに爺さんの言葉も頭に浮かぶ。


『おまえの未完成な〈ドラゴンオーガスト〉じゃドラゴンは斬れんよ。そうさな……おまえ戦いの最中に複数の流派を切り替えて使っておったろう。あれをアレクサンドリート流を組み合わせてみるのも面白そうだな』


 そうだ、俺は何のためにここまで他の流派を切り替えながら試行錯誤してきたんだ。

 強くなるためだろう。

 その成果を出すのはここしかないッ!!


「死に損ないがあぁぁ! 調子に乗るなよ!」


 何かを察したヨハンネスが声を張り上げる。

 爺さんの言ったとおり俺の〈ドラゴンオーガスト〉ではドラゴンはおろか、ヨハンネスにさえ通じなかった。

 だったら、これだ!!


 俺は両脚に力を込めてから右方向へ跳んで、ヨハンネスの攻撃をかいくぐった。

 このままもう一歩右に移動すればヨハンネスの間合いから一旦離脱できる。

 だが、俺は別の選択肢を選んだ。

 着地すると同時に今度は斜め左へ跳んだ。

 あえてヨハンネスの攻撃範囲に戻る動きだ。

 ヨハンネスは一瞬戸惑った表情を見せるが、すぐに剣技を繋げる。


 そして俺は飛翔の呪文を完成させていた。

 俺の背中から翡翠色の翼が現れ、俺の速度をさらに加速させる。

 すり抜けるようにヨハンネスの間合いから抜け出した。


 さらに右へ左へ前へ後ろへ。

 縦横無尽に不規則にヨハンネスの周囲を移動する。

 しかも移動する度に、グラナート流、ザフィーア流、ザルドーニュクス流、アレクサンドリート流と次々に流派を切り替えていく。

 これに戸惑った審判の声も聞こえてくる。


「なっ……これは!? 分身!? 魔法か!?」

「こんな魔法は知らない! だが、魔法以外にこんなことが可能なのか!?」


 主審や副審の目には俺が何人にも増えたように見えているのだろう。

 俺が全力で行う高速ステップの残像がそう見させているのだ。

 上級の剣士にも通じているこの動きを、はたしてヨハンネスはどう捉えているのか。


(答えはすぐに解る! ――ヨハンネス、決着をつける!!)


 俺はヨハンネスの背後に回って剣を振り上げた。

 即座に反応したヨハンネスがこちらに振り向いて剣で斬り上げようとする。

 だが、その剣は空を切った。


(俺はここだ!!)


 その時点でヨハンネスの左側面に移動していた俺は双剣を真横に薙いでヨハンネスの脇腹に叩きつけた。

 鈍い音がする。

 骨が何本か折れたはずだ。


「ぐっ……かはっ!!」


 ヨハンネスは右側によろけて右膝を地面につける。

 その時には俺はヨハンネスの背後に回っていて、後ろから襟首を掴んで手前に引いた。


「ふっざけるなああああぁぁっ!!」


 ヨハンネスは苦痛に顔を歪めながらも右手の剣を逆手に持ち替えて、俺に向かって突き出した。

 その剣を右手で防いで、俺の左手はヨハンネスの顎に打撃技〈テレサ〉を掠らせた。

 途端、かくんとヨハンネスの肩が落ちて、そのまま地面にうつ伏せに倒れ込んだ。


 俺は高速ステップを解除してヨハンネスの正面で双剣を構えた姿勢で静止した。

 主審と副審は目と口を大きく開いて固まっている。

 いつの間にか観客席も静まりかえっていた。

 

 ヨハンネスは地面に伏したまま動かない。

 俺が双剣を鞘に収めると、我に返ったように主審と副審が慌ててヨハンネスに近づいた。


「気絶しているだけです。怪我の具合は骨折ぐらいだと思います」


 俺が言うと、主審も副審も遅れてやって来た回復術士も唖然としていた。

 それから回復術士がヨハンネスの治療を始めた。


「あの……俺の勝ちでいいですよね?」


 遠慮がちに訊ねると、主審はハッとしたような表情になり咳払いをしてから俺に駆け寄った。

 そして、俺の右手を掴んで上に持ち上げた。


「しょ、勝者! ウルズ剣術学院所属、アルバート・サビア!!」


 その瞬間、おおおおおっ!! という歓声が観客席から巻き起こる。

 主審が俺の顔を見ながら、首を横に振った。


「……なんて試合だ。私は結構な数の審判を務めてきたが、こんな試合は初めてだ。一般の部の決勝でもこんなハイレベルな試合はお目にかかれないだろう……。きみたちは本当に学生か……? 私はいまでも信じられない」

「褒められてるんですかね……。まあ、爺さんには自慢できるか……な」

「あ、おい! 回復術士! こ、こっちも頼む! 彼のほうが傷が酷いぞっ!」


 視界がぼやけてくる。

 ちょうど魔力が尽きて、また胸の傷口から血が流れ始めた。

 俺は自力で立っていられなくなり主審の肩にもたれかかった。

 すぐに副審が俺の右側からやってきて支えてくれる。

 遅れて回復術士も一人駆けつけた。


「早く寝かせてください! 〈ヒール〉を施します!」

「あー……いてぇ」

「心配するな! 命に関わる怪我じゃない! いま傷を塞ぐから痛みもなくなる!」


 回復術士が耳元で言う。


(試合の途中で聞こえたセシリアの声……あれは何だったんだ……?)


 セシリアの声はもう頭の中から消えていた。

 あの声が聞こえていた間は、何だか力が湧いてくるような感覚があった。

 それも今はなくなっていた。

 代わりに観客席の大歓声がうるさいぐらいに響いている。

 俺は目を瞑った。




 ◇ ◇ ◇




 決勝戦が終わって俺の治療も終わり、俺はセシリアたちと合流を果たしていた。

 セシリアはずっと泣きっぱなしだ。

 人目も憚らず泣きじゃくっている。


「アル……アルが無事で……良かった……」

「あなたが血をドバドバ流すからセシリアったらずっとこうだったわよ」


 セシリアの肩を抱きながらブレンダが言う。

 隣のミリアムも泣きはらした目をして下唇を噛みしめていた。


「まあ、俺もさすがに心配したぜ。まさか血が飛び交う試合だなんて思わねぇじゃんか……」

「……あれがアルの真の実力ですか。はっきり言って、何が起こっているのか理解に苦しみましたよ。最後のは何だったんです? アルが何人にも見えましたよ」

「お、おう、それな! アルが五人ぐらいに増えるんだもんな! あれ、何て魔法だよ?」


 ロイドとハロルドが詰め寄ってくる。


「いやぁ、あれは魔法じゃなくてだな……うおっ!」


 俺が頭をかきながらどう答えたらいいか思案していると、セシリアが急に俺の胸に飛び込んできた。

 そして、ブレンダが背後からロイドとハロルドの襟首を掴んで引きずっていく。


「おわっ! ブレンダ、何しやがる!」

「い、痛いですよ」

「あなたたちが下らない話をするからよ。アルは疲れてるんだから試合内容については日を空けてから学院でしなさいね」


 ブレンダは何やら俺に目配せをしてからミリアムに声をかけ、ロイドとハロルイドを連れてどこかへ行った。

 この場に残されたのは俺とセシリアだけだ。


「セシリア、あの……勝ったよ」

「…………うん」


 試合中に聞こえたセシリアの声は何だったのか訊ける雰囲気じゃなかった。

 まあ、明日にでも訊けばいいか。

 しばらく俺たちは無言で立ち尽くしていた。 

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