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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第三章 武闘祭と後継者
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第十九話「意外な観客と新たな事件」

 交流戦を勝利で飾った俺たちは観客たちに称えられたあと、試合場をあとにした。

 とはいっても、このあとも闘技場は夕方まで解放されている。

 ウルズ剣術学院の六年樹流クラスと氷竜クラス合同による剣術の演舞があるのだ。

 先ほど交流戦に出場したローラ先輩も演舞に参加するそうだ。

 交流戦に向けた稽古の合間に二クラス合同の演舞の練習もこなしていたとは、上位のクラスに在籍するのも大変だな。


 ウルズ剣術学院は貴族の生徒も多数いることから、上位二クラスに在籍する貴族の生徒の親たちは演舞を楽しみにしていることだろう。

 試合場から引き上げる際、俺は観客席に見知った顔を見つけた。

 予定では試合にセシリアたちと合流してミリアムの親父さんがやっているマーキアパンの屋台に行く約束だった。

 ハロルドに先に行くように言って、俺は出入り口とは別の通路を小走りで進み観客席へ出る。


(確かこの辺に……)


 目当ての人物はちょうど席を立って帰り支度をしているようだった。

 ゆっくり近づいていくと、俺の視線に気付いて顔を向けてきた。


「おまえの試合が見れるかと思ったんだが、出番はなかったみてぇだな」


 ニヤニヤしながら言ったのは、ウルズの町で最も大きい闇ギルド――ミリカ団のトラヴィス・ミリカだった。

 ミリカ団団長の息子にして幹部、そして六年死竜クラスのジェラルドの母親違いの兄でもある。


「どうしてここにいる?」

「あれぇ? 今日は部外者も入れる日だぜぇ。たとえおれみたいな裏の人間でも、ボディチェックで問題なけりゃ堂々と入れるのさ。第一、おれはここの卒業生なんだから後輩の晴れ舞台を見にくるのは普通のことだろ?」


 トラヴィスは悪びれる様子もなく答える。


「この間は学院の敷地内にある死竜の砦で好き勝手しといてよく言えるな」

「今日は観客として来たんだよ。だから武器も持ってねぇさ」


 トラヴィスは上着を捲り上げて腹を見せる。

 腰回りが露わになるが武器らしきものは見えなかった。

 いくら正門のところでボディチェックをしているといっても、こいつならいくらでも武器を隠して持ち込みそうだから安心はできない。


「ただ観戦しにきただけとは思えないな。ろくでもないことを企んでるなら早く諦めたほうがいいぞ」


 俺は威嚇のつもりで腰の剣に手をかけた。


「待て待て待て。物騒だな、おい。あ、そうだ。おまえに訊きたいことがあったんだった。ちょうどいい、おまえリスラム団の屋敷で派手に暴れたようだな。ありゃ何の真似だ?」

「…………何?」

「とぼけんなよ。冒険者区の近くにある闇ギルドだよ。うちとは比べるまでもねぇ弱小だけど一応同業者だからよ」


 冒険者区の脇にある闇ギルドのリスラム団のことか。

 トラヴィスのやつ何を言ってるんだ。

 俺がそんな場所に近づくことはほとんどないし、ましてや屋敷に足を踏み入れたことなど今まで一度としてない。

 俺が考えていると、トラヴィスは肩をすくめた。


「へん、話す気はねぇってか。あいつら最初は隠してたみてぇだが、リチャードのおっさんに締め上げられたら簡単に吐いたみたいだぜ。双剣使いのガキにやられたってな」

「――!?」

「おまえもリチャードのおっさんに勝ったからって調子に乗ってると、長生きできねぇぜ。おれらが本気になりゃ、どんな手を使ってでも勝ちにいくからな」

「そうかよ。でも死竜の砦ではリチャードもろともぶっ倒れてただろ」

「くっくっ……はははははっ! やっぱおまえは面白いわ。また会おうぜ、じゃあな」


 そう言ってトラヴィスは去っていった。

 俺はその場に立ち尽くしたまま考える。

 双剣使いが闇ギルドで大立ち回りを演じた?

 俺じゃない。

 だったら、一体誰が……。

 思いついたのは一つしかない。


(まさか……闇夜の死竜の偽物か? いったい何のために……?)


 考えてもいまは答えを出せそうになかった。

 俺はモヤモヤした気持ちを抱えながら、セシリアたちの元へ向かうことにした。


「ちゃんと前を向いて歩かないと危ないよ」


 するとすぐ目の前で声がした。

 見上げるとブランドン先生が立っている。


「ブランドン先生……」

「さっきのは闇ギルドのトラヴィス・ミリカだね。何か話していたようだけど何かあったのかい?」

「見てたのか」

「試合場を出る際、きみの視線の先に気が付いたからね。黙って後をつけてきたんだよ。さすがに会話の内容までは聞き取れなかったけどね」


 見ていたのなら話は早い。

 俺はトラヴィスが言っていた闇ギルドのリスラム団のことを話した。

 ブランドン先生は黙って最後まで聞いたあと、少し間を置いてから口を開いた。


「そうか、リスラム団の件はそういうことか」

「何だ知っていたのか?」

「いや、リスラム団で何か起こったのは知っていた。急速に町をうろつく団員の数が減っていたからね。てっきり水面下で他の闇ギルドと抗争でもあったんじゃないかって思っていたけど……ふうん、そういうことか」


 つまり、ブランドン先生はリスラム団の活動が少なくなったという情報を耳にしていたが、闇ギルド同士の間に起こった諍いだと思っていたようだ。

 そして実際にはそれは双剣使い――俺の偽物?――の手によるものだったわけだが……。


「ちなみにいつの話なんだよ?」

「俺が知ったのは十日ほど前だけど、警察が調べた内容ではリスラム団が急におとなしくなったのは十四から十六日前の期間だね。その三日間のどこかできみの偽物がリスラム団で暴れていたわけか」

「おい、それって……!」

「うん、俺たちが偽物と遭遇した夜の前後になるね」


 俺たちと遭遇する前にリスラム団に乗り込んでいたか、それともその後なのか。

 どちらにせよ、偽物の目的は何なんだ?

 闇夜の死竜と同じようにウルズの町の悪党を捕まえていた。

 サイーダ森林にある稲妻の谷でワイバーンと戦っていた。

 闇ギルドであるリスラム団に乗り込んで暴れた。

 そして、俺の名前を知っていた。

 さらに驚くべきことは偽物がアレクサンドリート流剣術を使うってことだ。


(これはダメ元で爺さんや親父に手紙を出しておくべきだろうな……少しでも情報が欲しい)


「それで、やっぱりあの夜以降の目撃情報はないんだよな?」

「ないね。軍、警察、冒険者ギルドの誰にも目撃はされていない。……関係あるか解らないんだけど、三日前ゲルート帝国で大きな事件があったんだ」

「ゲルート帝国で? 大きいって何があったんだよ?」

「一晩で町が一つ壊滅した」

「――!?」


 いま周りにはほとんど人はいないが、ブランドン先生は声を小さく絞りながら囁くように俺に耳打ちした。

 ブランドン先生によると、ゲルート帝国の北部にあるセレネの町でそれは起こったそうだ。

 ウルズの町ほどの大きくはないがゲルート帝国でも主要な町の一つだ。

 そのセレネの町を一晩の内に悲劇が襲った。

 建物は見るも無惨な廃墟と化し、生き残った者は誰もいなかったという。


「近隣の街や村で深夜に断続的に爆発音が微かに聞こえたらしい。不審に思った冒険者ギルドが冒険者を派遣すると、件の状況だったそうだ」

「近隣って、地理的には一番近くの町までも馬を半日走らせなきゃ行けない距離だぞ。そこまで聞こえる爆発って何なんだよ。たとえ上級魔法でもそうはいかないんじゃないか?」

「ああ、俺もそう思う。だが、セレネの町の状態からして大きな魔法が使われたとしか説明がつかない。町一つを壊滅させたとなると複数の魔術師が上級魔法を何度も行使したので間違いないだろう。それに殺された町の人の中には剣で斬られた傷もあったそうだ」

「……何だって?」

「しかも傷痕から見て双剣でやられたと推測されているらしい」

「はあ!?」

「だから、偽物のことが頭に浮かんだんだよ」


 話の内容が衝撃的すぎて俺は混乱する。

 複数犯による凶行か?

 その中に双剣使い――俺の偽物――がいた?


「ちょっと待て、まさかゲルート帝国はアステリア王国が仕掛けたと思っているんじゃないだろうな?」

「そういう見方をする者も出てくるだろうね」

「くそ、何てことだよ……!」

「しばらくは今以上に両国の動向を注視する必要があるね」

「何を呑気に……というか何で早く教えてくれないんだ」

「と言われてもねぇ」


 ブランドン先生が首を横に振った。

 この事件を知ったのは今朝のことだったらしい。


「この件に関してはいまは軍や冒険者ギルドの上層部しか把握していないだろうが、一般人に話が広まるのは時間の問題だろう。俺たちにできることは現状何もないよ。きみはこの話を聞いて偽物が関与していると思うかい?」

「いや……偽物は関係ない気がする。今までのと規模が違い過ぎるし、距離と日数的にも微妙だからな」

「まあ、そうかもね。引き続き俺は情報収集に当たるよ。何かあったら連絡する」

「……ああ」


 正体不明の偽物に続き、隣国ゲルート帝国で起こった凄惨な事件。

 何だか騒がしくなってきたな。


 ブランドン先生と別れたあと、俺はようやくセシリアたちと合流することができた。

 昼食のパンはミリアムの親父さんが交流戦に勝ったお祝いだとサービスしてたようだ。

 みんなはもらったパンに口をつけずに俺を待っていてくれていたので悪いことをした。

 それから昼食後は六年生による演舞を見て過ごしたのだった。

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