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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第三章 武闘祭と後継者
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第十八話「有言実行とは」

「ローラ先輩、お疲れ様でした」


 俺はローラ先輩が呼吸を整えたのを見計らって声をかけた。

 ローラ先輩は額に浮かんだ汗をハンカチで拭ってから顔を上げる。


「エドガーの期待に応えることができて良かったわ。さすが魔術中級の使い手ね。一対一の試合形式だから何とかなったけれど、条件なしの戦いでは勝てなかったでしょうね」

「というと?」

「魔術師が一人でいるなんてことは普通あり得ないもの。たいていは仲間の剣士がいるでしょう? 剣士がいれば魔術師の詠唱の邪魔をするのは困難だし、今回のように避けるのも苦労したでしょうね」


 ローラ先輩の言うとおり魔術師が単独で行動することはほとんどない。

 仲間に剣士がいればこうはいかなかっただろう。

 魔術師が複数いた時も同様だ。

 俺も闇夜の死竜として魔術師と戦った経験はあるから、それがいかに厄介か解る。


「そんなことより、エドガーの試合を見てあげてくれるかしら。あなたには直接言うことは決してないけれど、本当は一番あなたに見て欲しいはずよ」

「えっ、俺に……ですか?」


 ローラ先輩に促されて俺は試合場に目を向けた。

 もう試合は始まっている。

 ウルズ魔術学院の次鋒はさっきの先鋒に次ぐ魔術中級の使い手で女子生徒だった。

 出場者名簿によると、確か六年生だったはずだ。

 ローブを基調とした魔術学院の制服を纏っている。


 先鋒、次鋒に最大戦力を持ってきたということは、ウルズ魔術学院はこの二人でこちらの七人を倒すつもりだったに違いない。

 もしかしたらさっきの先鋒で七人抜きをしたかったのかもしれない。

 この次鋒はあくまで万が一の保険という想像もできる。

 実際、向こうの監督の表情は少し険しくなっている。

 思うように事が運んでいないと判断していいだろう。


 だからこれに勝利すれば実質ウルズ剣術学院の勝ちみたいなものだ。

 ここはエドガーの戦いを見守ろう。

 最悪エドガーが負けてもハロルドなら機転を利かして上手く立ち回るだろうし、もし俺に回ってきても必ず勝てる。


「水の魔法を使ってエドガーを近づかせないようにしていますね」

「今のところはそうだな」


 俺は試合を見ながらハロルドと言葉を交す。

 次鋒の女子生徒は両手を重ねるように胸の前に突き出して、そこから猛烈な勢いの水を発射していた。

 水弾とでも言えばいいのか。あの魔法の名称は知らない。

 その水弾をエドガーに向けて連続で放っているのだ。


 エドガーは水弾を斬ろうとしては失敗し、その度にびしょ濡れになっていた。

 元が水だから大したダメージはない。

 しかし水が鼻や口に入ったのか、時折煩わしそうに咳をしていた。

 よく見ると顔も赤くなっているように感じた。


「まったく無害というわけでもなさそうですね。アル、見てください。水魔法が何度も当たった箇所が赤く腫れているように見えませんか?」


 ハロルドも気付いていたようだ。


「ああ、そうだな。それに鼻や口に水が入ってくるんだろう。地味に嫌な魔法だ。ブランドン先生、あれは攻撃魔法なのか?」

「もちろん。〈アクアスプラッシュ〉という中級魔法だね。威力は最小限に抑えているようだけど。その制御は難しい。魔力最大で放つよりも抑えて放つほうが困難だからね。このことから彼女が相当な使い手だと推測できるよ」


 あの地味な嫌がらせにしか見えない魔法が中級魔法……?

 本来の出力ならどういった攻撃になるんだ。


「ほら、徐々に出力を上げてきたみたいだよ。あれが〈アクアスプラッシュ〉の本来の使い方だ。ただの水と侮ってはいけない。相手を窒息させたり、刃のような切れ味もあるからね」


 ブランドン先生の説明どおり、女子生徒の放った〈アクアスプラッシュ〉は水弾から継続的な水流の放出に変化していた。

 エドガーは剣を構えて押し返そうとしているようだが、その背中がだんだんとこちらのほうまで迫ってきた。

 踏ん張っている人間一人を押すほどの水流の力。

 さっきまでの嫌がらせ攻撃が霞むほどの威力だと目の当たりにする。


「エドガー正面に拘るな! 回り込んで避けろ!」


 俺はたまらず助言をぶつけた。

 あの水流に正面から挑むのはどう考えても得策ではない。

 エドガーだってそのぐらい気づけそうなものだが、俺の声が聞こえているはずのエドガーは正面から〈アクアスプラッシュ〉を受け止めている。


「みんな、ちょっと移動しようか」


 不意にブランドン先生が立ち上がって椅子を持ち上げた。

 こんな時に何を……。

 確かにこのままでは〈アクアスプラッシュ〉を受け止めているエドガーが待機している俺たちと接触する。

 すると、ローラ先輩も立ち上がって椅子に手をかけた。


「あなたたちもブランドン先生の指示に従ってちょうだい! 今すぐ急いでっ!」


 戸惑った表情で六年生の三人が立ち上がり椅子を持ち上げた。

 ローラ先輩は何かに気付いたのだ。

 ここでやっと俺もハッとなる。

 隣を見るとハロルドも頷いた。

 俺とハロルド、ブランドン先生は椅子を持って右側へ、ローラ先輩と三人の六年生は左側へと移動した。

 直後、ローラ先輩が声を張り上げた。


「エドガー! 退避は完了しましたわ! もう後ろを気にする必要はありませんのよ!」


 エドガーの肩が上下に揺れる。

 そして、エドガーは右へ跳んだ。

 せき止められていた〈アクアスプラッシュ〉の水流が俺たちが座っていたスペースにあった柵を粉砕した。

 木製の柵が粉々だ。

 エドガーは上手く躱したので傷を負っていない。


「なんて威力です……! エドガーはあれをずっと正面から受け止めていたんですか!?」 

「らしいな。カッコつけすぎだぜ」


 避けようと思えば避けれた。

 だがエドガーは真っ正面から受け止めた。

 最初はエドガーのプライドから正面で迎え撃つことを選択したのだと思ったが、そうではなかった。

 後ろにローラ先輩が、そして俺たちがいたから避けれなかったのだ。


 相手の女子生徒もそれを読んでの行動だろう。

 避ければ仲間が傷つく。

 一対一の試合でもこういう戦いがあるのか。


 しかし、エドガーの劣勢は続く。

 〈アクアスプラッシュ〉からようやく逃れたエドガーだったが、立ち上がって体勢を整える前にその体が空中に浮いた。


「エドガー!!」


 叫んだのはローラ先輩だ。

 エドガーの周囲に竜巻のようなものが発生し、その体を空へと舞い上げた。


「うおおおおおおっ!」


 ごうごうと唸る風の音ににエドガーの声が重なる。

 これが風魔法か!

 エドガーは思うように身動きが取れないようだ。

 竜巻の中でもがいているが、何とか剣を離さないでいるのがやっと。

 このまま地面に叩きつけられたら骨折は免れない。

 打ち所が悪ければ大怪我は必至だ。


 くそっ!

 俺なら剣技を使って無理やりにでも竜巻から脱出し上手く着地する。

 エドガーにそれを要求するのは厳しい。

 どうやったらエドガーがあの竜巻から逃れられる。

 答えを求めるようにブランドン先生の様子を窺った。


「きみは戦いの最中に流派を切り替えたりして柔軟な考え方ができるかと思えば、今みたいに偏った思考に陥るときがあるね」

「は? 何だよ急に」

「魔法の風から逃れる術がないのなら、静かに時を待つのもまた一つの方法だよ。エドガーもすでに理解している。彼は無理に脱出するのを止めて落下に備えるようだ」


 その言葉どおり、竜巻の持続時間はさほど長くはなく風がぴたと止んだ。

 竜巻に舞い上げられたエドガーは校舎の三階ほどの高さから地面に向かって落ちる。

 エドガーは地面に激突する寸前に左手を突き出して支えた。


(駄目だ!)


 鈍い音がここまで聞こえた気がした。

 エドガーはそのまま体を丸めて転がってから立ち上がる。

 体の向きはこちら側だった。

 地面に鼻を打ちつけたのか、鼻血を出している。


「くっ、鼻が高いのが徒になったようだな」


 エドガーが服の袖で鼻血を拭おうとして左手を上げたその時、エドガーが苦悶の表情を浮かべた。


(やっぱり着地したときに左手が折れてたか……!)


 エドガーは左手を下ろし、剣を握っている右手の甲で鼻血を拭う。

 左腕はもう使えないようだ。

 今の時点で気付いているのは俺とブランドン先生ぐらいか。


「エドガー、おまえっ!」

「何も言うな、アルバート! こんなことで勝負に水を差されては敵わんからな」

「おい、まだ続ける気かよ!?」

「試合は始まったばかりだ。言っただろうオレが六人抜きすると。おまえは大将らしくどんと構えて座っておけ」


 すぐにエドガーは相手のほうに振り返る。

 そして剣を素早く構えて、


「さすが魔術学院の代表だ。しかし、オレの剣が勝ることを今こそ証明してやろう!」


 大きな声で宣言する。

 だが、左腕はだらんと不自然に下がったままだ。

 これで相手の女子生徒や審判にも知られたことだろう。

 エドガーももう隠す気はないようだ。

 審判も止める様子はない。

 エドガーがまだ戦意を漲らせているからだ。

 しかし、それもわずかな猶予にすぎない。

 次にエドガーが攻撃を受けるようなことがあれば、審判は安全面を考慮して間違いなく即座に試合を止めるはずだ。


 女子生徒が〈アクアスプラッシュ〉を放った。

 エドガーは左右のステップでそれを避けながら猛然と走っている。

 

(まだ随分距離がある。エドガーの間合いに入る前にもう一発竜巻が来るぞ!)


 俺の見立てどおりあと数歩というところで、竜巻がエドガーの正面に立ち塞がった。

 そこで俺の予想しなかった事が起きる。

 なんとエドガーはその竜巻に自ら飛び込んだのだ。


(正気か!? いや、あいつ何かを狙っているのか!)


 エドガーの体が竜巻の中でグルグルと回りながら上昇していく。

 そしてエドガーの体はそのまま竜巻の真上に突き抜けた。


「愚か者めが! オレに同じ魔法は二度通用せんぞ!」


 竜巻の中の風の流れを読んだのか!

 なんて無謀な賭けをするんだ。

 だが、成功した。

 エドガーは右手一本で剣を振り上げながら落下する。


「頭上ががら空きだぞ! はあああああっ!」


 エドガーの落下攻撃を剣士でもない女子生徒が対処できるはずもなかった。

 頭に一撃を加えるのは危険だと考えたのか、エドガーは相手の左肩に落下攻撃を命中させた。

 そこで試合続行は無理だと判断した審判が止めに入る。


「勝者、ウルズ剣術学院エドガー・アラベスク!」


 闘技場のあちこちから拍手喝采の嵐が巻き起こった。

 劇的な逆転劇に観客もさぞ興奮したことだろう。

 見ているこっちは終始ヒヤヒヤしたけどな。


 試合を終えたエドガーも回復術士に手当てしてもらっている。

 骨折などここに呼ばれた回復術士の腕ならすぐに治るだろう。




 その後、エドガーはウルズ魔術学院の五将、中堅、三将、副将、大将に勝利し、宣言どおり六人抜きを果たした。

 やはり先鋒と次鋒だけが突出していて、五将以降は明らかに格下感が否めなかった。

 試合後にエドガーが俺に向けて言った言葉はこうだ。


「はっはっは! アルバート、有言実行とはこういうことだ!」


 こうしてウルズ魔術学院との交流戦は、ウルズ剣術学院の勝利で幕を閉じたのだった。

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