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第5話 女神、操る

 汗臭い……。鎧のせいで固くて乗り心地悪い……。


 隊長の男の背中におぶさりながら先程洗脳した男を操っているわけだが、どうにも集中できなかった。


 現状リーダーの男を媒介して入ってくる情報の内容からして先程私を助けてくれようとした亜人の兵士たちが劣勢になっているのは明らかなようだった。


 部隊の比率は人間族が圧倒的に少ないのに彼らが劣勢になる理由は何か。男を媒介して理解できたのは人間族の兵士たちは少数だけど高位魔法も防御魔法も使いこなせること、対して獣人を始めとする亜人の兵士たちは魔法が使えない又は使えても初歩の魔法のみ。


 これでは数の利が効かないのも当たり前だった。どれだけ数を揃えていても亜人は人間族に勝てない。その様子から見て、少なくともこの国では魔法の知識もほぼ全て人間族が独占しているようだった。


 だからこそそれなりに人数が揃っていても人間族には反旗を翻すことができなかったのだろう。


 このまま手出ししなかったら彼らがやられると判断した私は制御下にあるリーダーの男を操り始めた。


「俺は王だ!!おしっこ漏らした王だ!!うんこも漏らした王だ!!貴様らに失禁の楽しさを教える王だ!!」


 頭の中で適当に考えた言葉を喚かせながら手当たり次第に近くの人間族の兵士たちを襲わせた。


「わあっ!?ローランさん、何するんですか!?ぎゃっ!!」

「どうしてしまったんですかローランさん!!ぐあっ!!」

「まずい、ローランさんの行動がおかしい!!これは何者かに操られ…ぐはっ!!」

「ふはーーーーっははははは!!殺されたくなければおしっこを漏らせ!!うんこを漏らせ!!今日は宴だヒャッハーーーー!!」


 セリフは適当に思いつくがままに言わせているが私って普段考えてることこんなにも下品だったっけ…?何か下ネタが多い気がする。まあいいか…。


「何言ってるんですか!!いつもの頼りになるリーダーはどこに行ったんですか!!」

「ふははははは!!これが俺だ!!とくと刮目して見よ!!これが男らしい失禁の手本だああああっ!!」


 慌てふためく兵士の前で豪快に失禁と脱糞をするように仕向けた。黄色と茶色に染まる男のズボン。


 一応嗅覚もリンクさせているせいか、自分でそう仕向けておいて余計不快に感じた。ファブ◯ーズが欲しい…。


「どうだ!!恐れ入ったか!!殺されたくなかったらお前も漏らすがいい!!」

「無理です!!そんなことできません!!」

「ならば死あるのみ!!」

「ぎゃああああっ!!」


 ふざけたことを言わせつつ四人目の兵士を斬り殺させた。


 ただ、四人もの兵士たちを無差別に殺害させた分、残った人間族の兵士たちは亜人の殲滅と私の制御下にあるローランの抹殺とで二手に分かれて動き始めた。


「だめだ!!誰が操っているかわからんがローラン副官が正気を取り戻す可能性は低い!!残った俺たちで仕留めるぞ!!」

「ああ!!」

「お許しをリーダー…。」

「ふはははは!!失禁王を抹殺するのか!?愚かな!!その場で失禁してコサックダンスをすれば命は助かっただろうに!!」

「コサック…?」

「隙ありいいいいい!!」

「がああああっ!!」

「ばかやろう!!正気じゃないリーダーを前にして何ぼーっとしてんだ!!がっ!!」

「ばかやろう!!怒鳴る暇があるなら失禁しろおおおおっ!!」

「くそっ、あの一瞬で二人も…。本来のローランさんでもこんなことできないぞ…?一体あの人を操っているのは誰なんだ…?」

「知るかそんなこと!!残った俺たち十人がかりでもローランさんを倒せるかどうかわからないぞ!?絶対に誰もやられるな……っ。」


 セリフを最後まで言えずに新たに倒れる兵士。私の相手は残り九人。


「やばいぞ!!不利だ!!俺が気を引くから絶対にリーダーを倒してくれ!!」


 そう言いながら私の前に進み出た大柄な兵士。


「この糞尿王を前にしてその度胸、認めよう!!この俺を前にすること自体が自殺と変わらんがなあ!!なーーーーっはははははははは!!!かかってこい!!肉ダルマが!!」


 ローランに腕組みをさせてふんぞりかえらせて大笑いさせた。当然そんな態度取られればいくら部下でもキレる。


「こんにゃろうが……!!俺をコケにしやがって……!!」


 ドスドスと足音荒く間合いを詰めてくる兵士。その威圧感だけで常人なら逃げ出すだろう。いくら相手が上官であっても容赦なく殺しそうな勢いだった。


 武器のリーチが届くギリギリの間合いまで来た瞬間相手の男は一気に動き出した。


「フィジカルブースト!!フィジカルガード!!フレイムエンチャント!!テレポート!!」


 矢継ぎ早に呪文を詠唱しながら襲いかかってきた男。

 対物理結界で守りつつ、身体強化で移動速度や攻撃力を増大させ、武器に属性を付与して攻撃力の上乗せ、さらにテレポートで死角に移動した上での攻撃。

 男の戦法は近接戦闘が前提ならば理にかなっていると言えるだろう。私自身が相手ならまともに食らっても全く効果がないだろうけれども……。


(チェンジアンカー、マジックインヘリタンス。)


 私もまた頭の中で呪文を詠唱した。呪文が意図するところは、アンカーをローランから相手の男へと変更し、ローランにかけていた魔法をそのまま全て相手の男に継承させるといういやらしいことだ。


 効果はすぐに現れた。私の目の前にはついさっきまで操っていたローランが呆けた顔で立っていて、今の状況に全く気付いていないようだった。


「あれ?俺は一体何を……?」

「フレイムセイバー!!!」

「ぎゃあああああっ!!!」


 ドゴォォォォォン!!と響き渡る音、天へと昇る火柱。直撃を受けたローランはひとたまりもなかった。肉体が焼け焦げ、跡形も残らなかった。


「みんな、やったぞ!!これであとは亜人どもを殲滅……はぐっ……する前にお前らも失禁しろおおおおおおおっ!!」

「嘘だろ……今度はグワルさんが操られてやがる……!!」

「あの一瞬でリーダーからグワルさんへと操る対象を変更しやがったのか!?」

「そんなばかな……!!大賢者クラスでもそんなことできないはずだぞ!?」

「一体相手は何なんだ……!?」

「知るか!!あんな相手俺たちには無理だ!!逃げるぞ!!」


 戦況の不利を悟って逃げようとする兵士たち。私はグワルを操って彼らの行く手を遮った。


「お前らどこへ行く気だ?まだお漏らし祭りは終わってねえだろ?さあ俺に続け!!」


 恐れおののく兵士たちの目の前で今度はグワルにも失禁と脱糞をさせた。立ち登る湯気、漂う悪臭。やはりファブ◯ーズが欲しい。ニカッと清々しい笑顔をグワルにさせつつこう言わせた。


「ほら、気持ちいいだろ?亜人なんかほっといてお前らも青空の下でやろうぜ?」


 一斉に青ざめる兵士たち。失禁なんて恥ずかしい行為をそそのかされ、従わなければ得体のしれない相手に操られたグワルに処刑される。社会的に死ぬか物理的に死ぬかという究極の選択を突きつけられ、さっきまで私と戦っていた人間族の兵士も亜人の鎮圧に動いていた人間族の兵士たちも戦意を喪失して泣きながら座り込んだ。


 少々やりすぎただろうかと思った。しかし、ほったらかしといたら罪も無い亜人の兵士たちが無惨に殺されるだけだ。やはり亜人たちの安全を確認するまでは足止めしなければ……。


 そう考えた私は容赦しなかった。とにかく足止めをし、兵士が失禁するまでトイレを我慢させ、失禁しない相手を容赦無く殺害させ、心を折るまで足止めと軟禁をし続けた。


 やがて、生き残った人間族の兵士たちは全員が全員失禁し、戦意喪失した呆けた顔で空を見上げていた。


 その様子を見ていた亜人の兵士たちもまた状況が飲み込めず呆然としていた。


「何だったんだ今のは……?あいつらに何が起こったんだ……?」

「わからない。リーダーの行動がおかしくなったと思ったら今度はあの大男がおかしくなって……まるで誰かに操られているかのような……。」

「それよりも、指揮官に捕まってるあの狐の獣人の嬢ちゃんが心配だ!!急いで追いかけるぞ!!」

「そうだな!!急ごう!!」


 ジャングルを南西に駆け出そうとした亜人の兵士たち。追いかける必要はないのに……。仕方ない。


(チェンジアンカー、マジックインヘリタンス。)


 亜人の兵士たちの一人を制御下に置き、行く手を塞いで説得することにした。


「大丈夫です、彼女を追いかける必要はありません。」

「おいマルス、いきなり何を言い出すんだ!!」

「今の私はマルスではありません。私はディアナ、さっき指揮官に連れ去られていった狐の獣人です。今はこの体をお借りしていますが、さっきまで人間族のローランとかグワルを制御して異常な行動を取らせていたのは私です。」

「嘘だろ!?あんな小さい女の子が!?そんな話信じられるか!!」

「信じる信じないは自由です。元々私がここをうろついていた目的は町へ行くことでしたのでわざと指揮官について行ったんです。皆様の厚意はありがたかったのですが私にとっては無用な心配でした。」

「それが本当だとして、何でお嬢ちゃんは奴隷になると分かっていてそんなとこ行きたがるんだ?」

「なぜ獣人と言うだけで差別されて奴隷にされるのか、なぜ迫害されるのかが知りたかったからです。皆さんがご存知ならお話いただければ指揮官の男を殺してまた戻ってくるのも構いませんが…。」

「差別や迫害の理由か……。すまねえ……。昔からのしきたりとかそんな理由しか聞かされてねえから種族差別がここまで横行している理由は俺たちにもわからねえ。俺らも生まれた時から亜人は奴隷にされる、従わなければ死というルールを押し付けられて隷属させられているだけなんだ。力になれなくて申し訳ない。」

「謝る必要はありません。」

「にしても、そんな小さい子が一人で大丈夫なのか?両親と暮らしていたんだろう?」

「ばれないように身代わりの肉体を用意して操っていますのでまず怪しまれないでしょう。」

「まだ小さいのによくそこまで頭が回るな……。本当に嬢ちゃんだとしたらあんたは何者なんだ?」

「申し訳ありませんがそれについてはお答え致しかねます。そのことはさておき、人間族の兵士たちは見ての通り戦闘不能であなたたちを縛るものはありません。自由に生きたいと思うのでしたらこの機会に逃げ出すことをおすすめします。」

「気持ちはうれしいけど俺たちには町に人質に取られている家族がいる。今嬢ちゃんが向かっているだろうタルバという町だ。」

「でしたら、行きついでにご家族の方々を逃しておきましょうか?」

「無茶だ。嬢ちゃんに何ができる?」

「その気になれば指一本でこの世界を消してしまえますよ?」

「そんなばかな…。」

「信じる信じないはあなた次第です。まあ騙されたと思って一週間くらいジャングルで時間稼ぎをしていてください。そこの人間族の兵士たちを監視しておいてもらえるとなお助かります。」

「わかった、嬢ちゃんを信じてみよう。あまりあてにはしないが…。」

「はい、待っててくださいね。リリース・エクゼプトアンカー。」


 マルスの口で解除用の呪文を唱えアンカー以外の魔法を解除した私は今もなおぶつぶつ小声で文句を言いながら歩く指揮官の男におぶさったまま時折アレンとエレナの元に置いてきた人形の操縦をしつつタルバへと向かうのだった。

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