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第4話 女神、わざと連れてかれる

 ダミーの肉体にさっきまで着ていた下着と寝間着を着せておき、早速行動を開始した。


「テレポート。」


 (まじな)いを唱えて瞬時に小屋の屋根に転移。とりあえず素っ裸で歩き回るのはステルスをかけている時とか今いるジャングルならまだしも、今から町とか都市へ出ていくことを考えたら何も着ていないのはまずいかもしれない。


「オブジェクトクリエイション。」


 立て続けに呪いを唱えてその場で服を生成した。生成したのは子供用の下着と白いワンピース。奴隷の服装にそぐわないからこそ確実に町に出たら逃げ出した商品用奴隷として捕まるであろうことを想定していた。

 そして、兵士たちから身元を調べられようとしたら全員倒して縛り上げて人気のないところでそいつらを尋問する。そのついでに兵士の装備も奪って売り払って食費でも稼ぐか…。将軍クラスとかいれば装備奪ったらその売却益だけで一年は普通に暮らせるかもしれない。とりあえずそこから始めることにしようか…。そう不埒なことを考えながら私はジャングルを適当に歩き出した。町の方角なんて見当がつかないが、とりあえず歩いていれば見つかるだろう。


 歩きつつも忘れなかったのはアレンとエレナの元に置いてきたダミーを定期的に確認し、ダミーに幼児の演技をさせ続けることだ。いくらパスをつないで常時ダミーに入ってくる情報を取得するように仕向けてあっても、実際に操縦しなかったらすぐに怪しまれる。不安定な地面を歩きながらも同時にダミーを制御するのは少々骨の折れる作業だった。エレナは私を孕ませた身重の体でよくこんなところを逃げて来られたものだ。それくらいこのジャングルは広く厳しい環境だった。


 幼児の足ではどうしても進める距離が限られてしまう。歩き始めてから半日、日が高くなっている頃には幼女の足で歩き続けることに私はじれったさを感じてしまった。


「やむを得ませんね…。フィジカルブースト。」


 身体強化の魔法を発動し、それまでとは比較にならない速さで私はジャングルを南西へ南西へと駆け抜けていった。それだけの速度で移動すれば、移動距離は普通に歩いていた時の数倍に跳ね上がり、そのまま夕方まで走り続けていたら行く手に人の気配を感じた。


 ステルスをかけてやり過ごしたとしても何も問題はない。しかし、今はエデンの情報を集めるためにわざと捕まることを計画しているのだから、やり過ごすなど論外だ。このままこの先にいる正体不明の相手の前に姿を見せることとしよう。


「オミッション・チャンティング。」


 詠唱省略の呪いを唱え、無詠唱でも魔法が使えるようにしてから私はさらに歩みを進めた。


 少し先に進んでみると、鎧姿の何人もの兵士たちがいた。ジャングルの中をこちらに向かって歩いてくる兵士たち。

 大半は獣人やエルフ、ドワーフなどなど、亜人として蔑まれている種族で、彼らを叱り飛ばし、鞭で叩いて無理やり従わせているのは人間族だった。


 私の姿を見た時の兵士たちの反応は真っ二つに分かれた。


 指揮官を始めとする人間族の兵士たちはこうだ。


『見つけたぞ!!逃げ出した獣どものガキだ!!捕まえろ!!』


 一方、亜人の兵士たちが叫んだ言葉はこうだ。


『お嬢ちゃん、逃げろ!!』


 亜人の兵士たちの警告はありがたい。だが、私はわざと捕まるために町に向かっていたところだ。ここでわざと捕まる以外の選択肢はなかった。


 足を止め、指揮官らしき人間族の男を指をしゃぶりながら見上げ、三歳児らしい言葉遣いで質問した。


「おじちゃん、だれ?」

「おじちゃんはな、君の本当のパパだよ?」


 嘘つくにしてももっとましな嘘はなかったのだろうか…。私でなくても他の三歳児でも見抜けるでしょそんな嘘…。


 だが、この男がそう言い張るのならあえて乗ってみるか…。


「ぱぱ?そういえばおとーたんいってた。いつかほんとうのおとーたんがあらわれたときには、そのしょーめいとしてうんこをしたあとひだりてのてのひらでおしりをふくんだって。おじちゃんはうんこをしたあとひだりてのてのひらでおしりをふくの?」


 その途端、指揮官の顔が青ざめた。「こいつの親どんな教育してんだよ…。」とか小声で不平を垂れている。けれど、すぐに作り笑いを浮かべ、さらに誤魔化し始めた。


「ごめんよからかって。おじちゃんはな、君に楽しいことをさせようとしてる人だよ?おじちゃんと一緒に町に行かないかい?町にはおいしいものがいっぱいあるよ?」

「おいちいものって?」

「お菓子ってものだ。君はこんなの食べたことないだろう?」


 そう言いながら懐からビスケットを取り出し、指揮官の男は私にそれを渡した。私はそれを三歳児らしく食べかすをこぼしながら食べた。


「おいちい。」

「おいしいだろう?町に来たらこんなおいしいのがいっぱいあるんだぞ?おじちゃんについてきたらいっぱい食わせてやれるぞ?」


 甘いものにはそこまで興味はない。けれども、相手がお菓子で私を釣って町へと連れていき、そこで私を奴隷にするであろうことは予測できたため、私の答えは決まっていた。


「うん、いくー(棒読み)。」

「ようし、いい子だ。」

「だから、うんこをしたあとひだりてのてのひらでおしりをふいてみせて?」

「パパじゃないと言っただろ…。話聞いてないのかこのクソガキ…(ボソボソ)。」

「ひだりてのてのひらでおしりふかないの?」

「ああもう、町に行ったら見せてやるから黙ってついてこい!!」


 腹黒い笑みを浮かべながらヤケクソな口調で私を連れて行こうとする男。もちろん、そんなこと許せない亜人の兵士たちは騒ぎ始めた。


「お嬢ちゃん、騙されるな!!そいつについて行ったら奴隷にされるぞ!!そいつと人間族の兵士は俺たちが食い止めるから逃げろ!!」


 そう叫び、私を解放するために人間族の兵士相手に戦い始めた。そんな光景を見ても指揮官の男は眉一つ動かさず、人間族の部下たちに命令した。


「劣等種どもを食い止めておけ。全員殺して構わん。鎮圧できたらお前たちはこのガキが来た北東方向を探れ。獣どもの住処がそっちにあるかもしれんからな。」

「承知いたしました、隊長!!」


 私の手を引きながら部下に命令をした男。対するリーダーらしき男も敬礼し、すぐさま鎮圧に向かって行こうとしていた。


 私はそのリーダーらしき男にアンカーを仕掛けておき、口には出さずに頭の中で呪文を唱えた。


(リンカーネイト、ブレインジャック、マリオネット。)


 リーダーの男との感覚をリンクさせ、脳を私の制御下に置き、マリオネットで私の思うがままの動きを男がするように仕向けた。


 下準備が整ったのはいいが、歩きながらハイジャックした男の制御は少々骨が折れる。


 そこで、私は指揮官の男をも利用することにした。


「おじちゃん、おんぶー(棒読み)。」

「ちっ、何で俺がこんなクソガキのおんぶなんか…。」


 ぶつぶつと文句を垂れる男。そこで私は純粋な子供のフリして聞いた。


「おじちゃん、わたしのこと、きらい?」


 目を潤ませ、鼻をすすりながら泣く真似をしてみた。男は根負けしたのか自棄になりながら言った。


「ええいくそ!!だからガキのお守りは嫌いなんだよ俺は!!もうわかった!!おんぶしてやるから泣くんじゃねえ!!俺の背中でおしっこ漏らすとかしやがったら許さねえからな!!俺の背中で漏らしやがったら町に連れて行く前に二度と人様に顔向けできない顔にしてやるからな!!」


 そう言いながら私を背負い、町に向かって歩き出した隊長の男。計画通り、と男の背中で悪い笑みを浮かべつつも私は今しがた制御下に置いたばかりの人間族の兵士の制御に専念するのだった。

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