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第3話 女神、情報を集め始める

 エデンに間違って生まれ落ちてから3年近くの歳月が経過した。これまでの間も普通の女の子に見えるように私は正体が女神であることをひた隠しにして演技を続けた。


 生まれたての時点で既にきちんと言葉は話せることを知っていながら時間をかけて言葉を学ぶふりをし、ハイハイやヨチヨチ歩きをわざとやって見せ、アレンとエレナの二人におかしなところを何一つ見せないように気をつけながら過ごした。


「おかーたん、まんま…。」


 意識がはっきりしているだけあってこんなこと言うの恥ずかしい。けれど、怪しまれないためだ、そう自分自身に言い聞かせながら幼児の言葉遣いを再現した。


「あらあら、もうお腹すいちゃったのね。待っててね、すぐに用意するわね。」


 いそいそと食事の準備をするエレナ。それを見届けながらもヨチヨチ歩きをするふりをして情報を仕入れる作業をしていった。


「インターセプション。」


 部屋の隅で足を止め小声で呟き、外で仕事をしているであろうアレンをターゲットにして私は盗み聞きを始めた。瞑目してアレンと他の獣人との会話に集中した。

 今唱えた魔法は盗聴に使うための魔法で、あらかじめアンカーを仕掛けておけばターゲットにした相手の見聞きした情報を盗み取ることができるものだ。アレンが見聞きしている情報がすぐに頭の中に入ってきた。相手は傭兵風の衣装を着た熊の獣人。顔をしかめて深刻そうに話をしていた。


「ランドル、帝国の手先はどうだ?」

「いいや、まだ俺たちのこの集落を奴らは嗅ぎつけていないみたいだ。だけど、連中は逃げた俺たちを血眼になって追いかけ回していると噂には聞く。アレン、お前も家族を連れてそろそろこの集落からずらかる用意をしたほうがいい。」

「まだ無理だ。ディアナは小さいから長距離の移動はできない。身ごもったエレナをここまで連れて逃げてくるのだって苦労したのに。」

「だが、それで判断を鈍らせてしまって兵士たちに捕まったら元も子もないぞ?お前は愛する妻と子供が捕まってしまって奴隷にされてもいいのか?」

「馬鹿を言うな!!亜人と蔑まれていいように使い捨てにされて殺されるとわかっていて誰がそんなこと許容できるか!!」

「だったら悪いことは言わない。そろそろ別の拠点を作るためにも移動すべきだ。もう他の仲間達はそのつもりでいる。」

「そうは言ってもディアナがまだ小さいのにそんな危険な目にはあわせられない!!」

「お前がそこまで意地をはるなら俺は止めはしないさ。けれど、俺には責任は取れんぞ?ここももう安全じゃない。俺は逃げろと警告はしたからな?」

「ああ、忠告ありがとう。どうするかはまた俺の方でも考えさせてもらうさ。」


 どうも帝国の兵士たちがこの集落を探し回って獣人を再び奴隷にしなおそうとしているらしいことは今ので伺えた。ただ、それ以外に特に旨味のある情報は皆無だった。


 どうしても人の目がある以上情報集めはアレンやエレナの目を盗んで行うか、エレナの仕事を増やしてその間にアレンや他の獣人達の話を盗み聞きしたり、夜間に行う必要があり、なかなか情報は集まらない。それでも、ヨチヨチ歩きの演技を始めてからの三ヶ月である程度の情報は集めることができた。


 今私が住んでいる場所はこの楽園エデンに六つある大陸のうちの一つ、南半球にあるアルモネア大陸。六つある大陸の中でも一番小さな大陸だ。その北側を統治している軍事国家マリーシャス帝国の最北端にあるジャングルにもともと奴隷だったけれども隙を見て逃げ出した獣人の集団が集落を作り、人目につかないようにひっそりと暮らしているらしい。


 けれども、人間族の兵士たちに見つかってしまった場合、また捕らえられて男は兵士や奴隷として、女は娼婦や兵士、奴隷として一生隷属する生活を送るらしい。つまり、エレナは私を身ごもったままこのジャングルまで逃げてきたわけだろう。


 その程度は調べられたが、ここまで極端な種族差別が広まった原因についてはまだ掴めなかった。やはり隷属することになるのを前提に人間族が統治している都市とかに潜り込む必要はあるのかもしれない。


 となれば、もう少し肉体が成長してから魔法で身代わりを用意しておいてアレンとエレナの元に置いておき本物の私はわざと兵士に捕まって奴隷になってみるか?やはりそのくらいはしないとこれ以上は情報を集めることはできないだろう。


 そう考えていたらエレナが今日のご飯を用意し終えてしまったようだ。もう少し時間稼ぎになるかと思ったが…。もう少し一人で思索に耽る時間が欲しい、そう考えた私はわざとその場でおしっこを漏らした。床に流れ落ちる尿、下半身に感じる不快な感覚、ホカホカと立ち上る湯気。これをエレナに片付けさせればもう少し時間稼ぎはできるだろう。けれども、女神でありながらこんな風に失禁するなんて恥ずかしくてしょうがなかった。


「ディアナちゃん、待たせちゃったわね。ご飯できたわよ!」

「おかーたん、おちっこ…(棒読み)。」

「あらあら、まだまだやんちゃね…。お水飲ませすぎちゃったのかしら…?」


 呆れながらもボロ屋の床を掃除し始めたエレナ。また部屋の反対側の隅っこにヨチヨチ歩きで移動しつつ、思索に耽った。

 自分で作った楽園のはずなのに、配下の神々に見繕わせた選りすぐりの人間しか転生させていないはずなのに、なぜここまで人間族による多種族の排斥が当たり前になったのか。そのあたりの経緯を記した書籍なりを都市に盗みに行くか、適当に人間を何人か拉致して締め上げて聞き取るか、そのどちらかをする必要はありそうだった。窃盗にしても誘拐にしても拷問にしても女神らしからぬ行動だが…。

 そのためにも、一度奴隷としてわざと捕まってそのまま情報集めも必要かもしれない。エレナとアレンにアンカーを仕掛けておけばいつでも空間魔法で帰還することはできるし、本物そっくりの幻影を残していけばごまかしは効くだろう。


 そうと決まれば、早速今夜決行するとしよう。私はエレナが用意してくれた食事をとり、エレナに連れられて寝室に行き、粗末なベッドに寝かしつけられた後、エレナが下に下りていくのを確認してから小声で呟いた。


「オブジェクトクリエイション。」


 自分で設定した加護をこんなタイミングで使うことになるとは思わなかった。ベッドの上に転がるのは私そっくりの肉体。


「リンカーネイト。」


 作り出した肉体に意識を繋いでおき、ダミーの肉体に入ってくる五感の情報を得られるように仕込んでおいた。


「マリオネット。」


 入ってきた情報に対して応答を返したり、実際にアクションを取れるようにした。


「フルダイブ。」


 最後に、私自身の意識を直接ダミーの肉体に送り込めるかどうかテストした。万が一アレンやエレナに何かあったらいざとなったらダミーの肉体に意識を憑依させて本来の戦闘能力を発揮して戦うつもりでいたからだ。


 実験は成功で、私の本体の肉体は目の前で倒れこんでおり、私の意識はダミーの肉体に憑依していた。これならダミーをここに放置しておいて私自身は別行動をしていたとしてもなんら問題はないだろう。最後に、フルダイブを解く呪文を唱えて元の肉体に戻ることにした。


「リリース。」


 魔法を唱えた途端、私は元の肉体に戻ってきた。これで準備は整った。あとは…。


「ステルス。」


 その言葉を唱えた途端、私の体は透明になった。リンカーネイトの魔法でダミーの肉体とパスをつないだまま私は自分の楽園がなぜここまで荒れてしまっているかを知るための旅にこうして出ていくのだった。

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