第2話 女神、ステータスを改竄する
あやされて笑い、眠ったふりをした途端、アレンたちはすぐさま本来の仕事に戻っていった。物音がしなくなったのを確認して私は目を開いた。
口をパクパク動かし、言葉が出てくるかどうかの確認から始めた。
「我は運命の導き手、迷えるものに標を与えし者なり、新たなる命の門出を祝福せし者なり。」
転生魔法の呪文の最初の一節を実際に口に出して唱えてみた。唱えたところで何か変わるわけでもない。成長が促進されるわけでもない。全くもって無意味なことだ。けれども、赤子でありながらも問題なく言葉を発することができることは判明した。今はそれだけで十分だ。
今度は真に意図している言葉を唱えてみた。
「ステータスオープン。」
そう唱えた途端、私の目の前に板のようなものが表示された。地球のRPGを参考にして作っておいた自らの潜在能力とか保有スキル、加護とかを確認できるようにする仕様だが、まさか自分で作った世界で自分自身が使うことになるとは思わなかった。
ステータス画面には最初は何も表示されていなかったが、徐々に情報が表示されていった。
ーーSTATUSーーーーーーーーーーーーーーー
Name:ディアナ・アニマ
Gender:女性
LV:9999
HP:9999999999/9999999999
MP:9999999999/9999999999
EXP:999999999999999/999999999999999
ATK:999999
MATK:999999
DEF:999999
MDEF:999999
STR:999999
DEX:999999
INT:999999
LUC:999999
Job:創世神
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Skill:剣術LV.10 弓術LV.10 槍術LV.10
棒術LV.10 双剣術LV.10 徒手空拳LV.10
斧術LV.10 槌術LV.10 騎馬術LV.10
火魔法LV.EX 水魔法LV.EX 土魔法LV.EX
風魔法LV.EX 氷魔法LV.EX 雷魔法LV.EX
光魔法LV.EX 闇魔法LV.EX 空間魔法LV.EX
無属性魔法LV.EX 回復魔法LV.EX
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Blessing:オブジェクトクリエイション
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Equipment:ボロ布
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色々とおかしい。女神が転生してしまう場合でも例外なく転生の際元々のステータスも継承することになるわけだが、実際にそうなってしまうとこうなってしまうわけか…。ステータスカンストでゲームスタートしても誰もプレイしたがらないだろう。
最初は爽快感を感じても例えラスボスとかで魔王とかがいたとしてもワンパンで倒せてしまうだろうし…。クソゲー呼ばわりされて部屋の隅に積まれてしまってもおかしくない仕様だ。
それ以前にこんなステータス誰かに見られるわけにはいかない。厄介なことに、このステータスは自分以外の第三者に見せたりすることもできるし、その気になれば相手が覗くこともできる。こんなステータス見られたら卒倒されるだろう。
たまたまアレンたちは覗き見ることをしなかったが、仕事から戻ってきたらステータスを覗き見する可能性も十分にある。それまでにありきたりなものにステータスを改ざんしなければ…。
そう考えた私はすぐさま作業に取り掛かった。
「タンぺリング・ステータス・レベル1。」
ステータス表示のLVが1に変わった。唱えた言葉はステータス改ざんの呪文だ。無属性魔法LV.EX:タンぺリングを駆使して個人情報を改ざんするわけだけれども、改ざんするたびに鍵となる魔法名と変えたい情報と、変更後の情報を唱える必要があるため面倒臭さがあるし、時間もかかる。それでも、必要なことのため私は人の気配に警戒しつつ矢継ぎ早に呪文を唱え、ステータスを改ざんしていった。
「タンぺリング・ステータス・ヒットポイント100。」
HPが100に変わった。
「タンぺリング・ステータス・マナポイント100。」
MPが100に変わった。
「タンぺリング・ステータス・エクスペリエンス0。」
EXPが0に変わった。
「タンぺリング・ステータス・ジョブ奴隷。」
この調子で改ざんを続けること小一時間。無事に人にバレないまま私は最後の呪文を唱えた。
「タンぺリング・ステータス・ブレッシング無し。」
加護が無しへと表示が切り替わり、これで他人からステータスを盗み見られたとしても問題なくなった。改竄後のステータスはこうだ。
ーーSTATUSーーーーーーーーーーーーーーー
Name:ディアナ・アニマ
Gender:女性
LV:1
HP:100/100
MP:100/100
EXP:0/100
ATK:10
MATK:10
DEF:10
MDEF:10
STR:10
DEX:10
INT:10
LUC:10
Job:奴隷
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Skill:無し
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Blessing:無し
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Equipment:ボロ布
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これで相手に見せたり盗み見られることになったとしても問題ないだろう。本当のステータス自体は絶対にバレないようにしよう、私は改めてそう決心するのだった。
ステータスを変更してからしばらく経つと、アレンとエレナが今日の仕事を終えて帰ってきたようだった。仕事のためとはいえ生まれたての赤ん坊を放置する行為自体は子育てという側面から見てどうなんだろうとそこは疑問に思えたけれども、彼女も仕事に出ていてくれたおかげでステータスの改ざんを思う存分できたのは僥倖だった。いつ二人にステータスを覗き見られてしまうかわからないため早めに取り掛かっておきたかったからだ。
「ただいまディアナ、いい子にしてたかしら?」
「聞くまでもないだろうエレナ。まだぐっすりと寝てるぞ?」
「本当ね、なんて可愛いのかしら。」
「まったくだ。赤子の時点でこんなにおとなしいとなると将来が楽しみだな!」
「ステータス・ルック・イン…。…うーん…ステータスを見る限りは普通の女の子と変わりはないのにね…。」
「もしかしたらすごい伸び代があるかもしれないだろ?」
ありません、本当は全パラメーターカンストしてます、なんて言えない。そもそも生まれたての赤子がそんなこと言い始めたら天地がひっくり返るだろう。私はやはり赤子の真似をするしかなかった。
「あーうー(棒読み)。」
「あらあら、お歌を歌っちゃって、可愛いわね。」
「将来はディアナは奴隷じゃなくて歌姫かな?人を癒す歌姫とか楽しみだな!」
アレンとエレナを楽しませるふりをしつつも私は今後の方針を頭の中で練り続けるのだった。