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第18話 女神、腹ごしらえをする

 姿を隠したまま私は憲兵たちに縛られて引きずられていったカイヤとキボロの二人に追いつき、殴られて気絶している彼らが積まれた馬車に一緒に入り込んで最寄りの町ビエラへと運ばれていった。馬車に揺られながらマルクスに仕掛けておいた魔法を使ってマルクスやセイルたちの無事を確認してみたが、彼らは全員魔法ないしは帰還書のいずれかを使って帝都ヴォルカノフ中央広場へと戻っていた。そして、カイヤとキボロが大声で唱えていた内容について腹を抱えて笑っていた。


「あはははははははははは!!!笑いすぎて死ぬかと思ったぞ!!?ディメンジョンゲートの座標を間違えかけたぞ!!!」

「悪臭の呼吸って何!?ツボにはまったんですけど!!あははははは!!」

「悪臭の呼吸四の型ってもろあいつらのことじゃねえか!!わはははははは!!」

「わーっはっはっはっはっは!!長生きはしてみるもんじゃな!!腹の底から笑ったのはいつぶりじゃろうな!!」

「あはははは!!あんな光景見られるならあたし今後のバルカン元帥の任務にも参加したーい!!」

「いや、あんなのは今回が特例だろう!!帝国内でも問題を起こしていた曲者の処理をすることにでもならないとあんなのはないぞ!?」

「流石にそんなのもういないはずよね!?それに該当する人は全員町の周りを歌いながら死ぬまでスキップしてたし!!」

「あの歌も俺は良かったと思うけどな!!けど今回の元帥の考えた言葉の方がツボに刺さったぜ!!」

「やはり儂としては悪臭の呼吸四の型からのあの歌なんか組み合わせとして最高じゃと思うぞ!?」

「悪臭の呼吸四の型!!一ヶ月入浴しない人の股間!!な・つ〜は股間がかーゆくな・る〜♪」

「あはははは!!やめてライラ!!本当にやらないで〜!!お腹よじれそう〜!!」

「表情とかスワン部隊一番隊長にされたあの神官のジジイそっくりじゃねえか!!」

「ものまねの才能あるだろ!!」

「成長が楽しみじゃのう!!」


 そんな調子で散々笑い続けていたが、ようやく落ち着いたのか、バルカンたちに報告するために国務機関となっている大きな建物の中へと彼らは入っていった。ここまで確認できたらもう問題ないだろうと考えた私はマルクスに付けておいたアンカーとリンカーネイトは解除した。


 その後も馬車に揺られること一日。荷馬車の中に紛れ込みながら私はサルサ王国北部の町ビエラへと入っていった。この町は一見すると、石造りの建物が比較的多かった。マリーシャス帝国と違って金銭的にある程度余裕があるからこそ建築用の資材の調達にはそこまで困っていないのかもしれない。それかすぐ近くに建築用の資材として適した石とか岩が採掘できる山とかがあるか…。


 町の中に入っていった後、馬車は郊外にあるとある奴隷商の店の前で動きを止め、憲兵たちがそこで無造作にカイヤとキボロを地面に投げ飛ばして下ろした。悪態をつきながら。


「ったく、このデブどもが!!重いし臭えんだよ!!痩せろ!!あと体洗いやがれ!!」


 馬車から投げ飛ばしてさらにドカッ!!と音を立てながら尻を蹴飛ばして奴隷商の前に蹴り飛ばし唾を吐きかけていった。その光景を横目に見つつも私は馬車からこっそりと降りてすぐ近くの路地裏の空の木箱の中に隠れつつも認識阻害を解除し、異空間から下着と白いパーカーワンピースを引っ張り出し、着用し直した。


 バルカンたちからは好きに動いてくれて構わないとは言われている。しかし、最も効率よく国を内部崩壊させるとなれば、どんな手段が最適だろうか…。


 木箱の中に隠れてしばし考えていたが、考えている間にもお腹すいた。そういえば奴隷を演じるためにも支給されていた食料自体は少量だし、最低限腹を満たせばいいくらいの量しか渡されていなかったっけ…。本来奴隷なんてそういう生活を送って痩せ細るのが当たり前だし…。

 そう考えると、あれだけ肥え太ってくっさい体臭を周囲に撒き散らしていたカイヤとキボロはいかに奴隷というカテゴリーに当てはまらない異質な存在かが浮き彫りになるかのようだった。ステータスに豚と表示されていたのはあながち間違いではないのかもしれない。最も、殺して調理したところで食べられたものじゃなさそうだけれど…。


 あの二人のことはどうでもいいとして、とりあえずお腹すいたからどこかでご飯食べたいなあ…。そう考えた私はフードを目深に被りつつ木箱から出て表通りを歩いていき、繁華街へと向かった。


 このビエラという町はマリーシャス帝国帝都ヴォルカノフほど人口が密集した場所ではない。だからこそ、帝都ほど店の種類は豊富なわけではないが、この地ならではの料理も味わえるようだった。どの店で提供している料理も美味しそうで目移りしてしまうが、私の目に留まったのは一軒の暖簾が下げられた店だった。

 見るからに和食を提供していそうな店構えであり、帝都にはない珍しさというものを感じた。よし、ここでご飯を食べよう。そう考えた私は迷わず入店した。


「いらっしゃいませ。」


 入店早々笑顔の店員に頭を下げられ歓迎された。着ている服もまた素朴な着物であり、店の雰囲気に合っていた。


「こんにちは、子供一名で案内お願いします。」


 私が店員にそう返すと、店員は怪訝な顔をした。


「お客様…ご両親と一緒ではないんですか…?」


 確かに子供が一人で入店するのは不自然だろう…。食い逃げ狙いの孤児かもしれないと疑いをかけたくなる店員の気持ちもわからないわけではない。だったら…。


「お父さんとお母さんは別の店で食事をとっているんですが、私はどうしてもこの店の料理が食べたかったので別行動をしているんです。お金は持っていますので安心してください。」


 そう話しながらパーカーワンピースの腹部のポケットに手を突っ込み、100万R(リギオン)相当の金貨を数枚見せると店員は目を白黒させて仰天した。


「嘘…こんな小さい子が数百万Rを…!?何なのこの子…!?」


 敬語忘れてますよ?もてなしの心はどこ行きました?


「両親に身分のことは話すなと言われていますので詳細の説明は差し控えますが、この店の料理を食べるのでしたらこれだけあれば十分でしょう?」

「は…はい…。」


 この店で数年働き続けてようやくたどり着くであろう金額を見せられ、うなだれた店員だが、すぐに私を案内してくれた。お金を見せただけで上客と認識されてしまったのか、店内でも一番いい席へと案内された。

 その場所は店の奥の個室。しかも、障子張りの窓を開けると丁寧に手入れされた庭園が一望できる特等席だ。水がサラサラと流れる心地よい音、時折鹿威しがカコーン…と音を立てるのがまた風情がある。何となくで入ってみた店だったが、案外穴場だったかもしれない。


 お茶とお絞りとメニューの書かれた紙を提供した後ウェイターが一度退室していったため、私はお茶をすすりつつメニューを眺めていった。水音と鹿威しの音だけが響き渡る風情のある雰囲気を堪能しつつ静かにメニューを眺め続ける私。そんなゆったりとした時間を過ごしていたところ、さっきの店員が注文を受けに来た。


「お待たせいたしましたお客様、ご注文をお伺いいたします。」

「では、本日の特上御膳セットというのでお願いします。」


 そう言って私はメニューの後ろの方にあるやたらと高そうな料理セットを頼んでみた。当然店員には驚かれた。


「お客様!?それ成人男性ですら食べきれないほどのメニューですよ!?大丈夫ですか!?」

「私の胃袋を舐めてはいけません。このくらい食べきってしまいますから。」

「しょ…承知いたしました…。ご用意させていただきます。」


 深々とお辞儀をした後で再び退室していった店員。それを見送りつつも私は料理が来るまで再び穏やかなひと時を過ごしていた。やはり日本庭園は良い、心を落ち着かせてくれる。神界に戻った時にはそれを作るのも良いかもしれない。後何十年かはエデンでこの身体で過ごさざるを得ないだろうけれども。そう考えながらお茶をすすっていたら襖が開き、最初の料理が運ばれてきた。


「お待たせいたしました、季節の鮮魚のお刺身の舟盛りになります。」

「ありがとうございます。」


 立派な舟を形どった器に盛られた色とりどりのお刺身だけですでにボリューム満点だった。見た目から判断するに、使われているであろうものは、マグロ、鯛、鰤、サーモン、甘エビ、帆立、カニ、アワビといったものだろう。この町は内陸で海に面していないはずなのにどこから調達してきたのだろうと疑問に思えるものだった。その辺りのことは気になるが、今は食事を楽しもうと考え、私はすぐに箸を動かした。


 甘い、そして口の中で刺身がとろける。山葵もまた新鮮なものを注文が入る度に擦っているのか、ピリッとした辛味が頭を突き抜ける。大金をはたいた者にしか味わえない至高の味だった。夢中になって刺身をついばみ、次の料理が運ばれてくる頃には机の真ん中を占領していた舟盛りは綺麗になくなってしまっていた。


「お待たせいたしました、天ぷらの盛り合わせになります。」

「ありがとうございます。」


 舟盛りを平らげた後に運ばれてきたのは天ぷら盛り合わせだった。海老天、イカ天、キス天が中央に鎮座し、その周りにレンコンやカボチャ、オクラ、獅子唐、ナスといった野菜の天ぷらと、シイタケやエリンギの天ぷら、ワラビやゼンマイといった山菜の天ぷらが用意されていた。見た目だけでもうお腹が膨れそうなものだったけれどもこれもまた箸を動かしているうちにすぐになくなってしまった。


 昆布だしとカツオだしの効いた天汁に大根おろしを浸し、そこに天ぷらをくぐらせて食べると、サクッという心地の良い食感とあっさりとした出汁の味、そして素材そのものの味が口の中に広がり、さっきの刺身とは違う味わいが口の中いっぱいに広がった。これもまた注文が入ってから素材を調理して天ぷらを作っているからか、病みつきになる食感と味だった。やはり料理は出来立てに限る。


「お待たせいたしました、ハマグリの酒蒸しと牡蠣の素焼きになります。」

「ありがとうございます。」


 天ぷらを食べている最中に次の料理ももう運ばれてきた。さっきの舟盛りと今食べている天ぷらのボリュームが凄すぎたからか、中皿に盛られているそれらを見て量が少ないとちょっとがっかりした気分になった。けれども味は満足のいくものだった。


 素材の味を生かすために酒蒸しや素焼きといった素材の味が最も生きる調理法で作っているからか、さっきまでの料理とはまた違う素朴な味を楽しめた。


「お待たせいたしました、もずくの酢の物になります。」

「ありがとうございます。」


 口ではそう言ったものの内心ではがっかりした。さらに量が少なくなった…。嫌がらせだろうか…?高いお金はちゃんと払うのに…。


 そう考えつつも料理を平らげ、次の料理を待っていると、ようやく次の一品が運ばれてきた。


「お待たせいたしました、当店自慢の山菜うどんでございます。」

「ありがとうございます。」


 店員が運んできたのは大きなどんぶりに盛り付けられた具に山菜がふんだんに使われたうどんだった。職人が丹精を込めて打った手打ちうどんはコシがあり、あっさりとした出汁とほどよく絡んでいてそれだけでもいくらでも食べられそうだった。けれども、それ以上に上に盛られている山菜が気に入った。しっかりと下処理をした上で薄口醤油や濃口醤油とみりんとで煮込まれた山菜が紡ぎ出す味も良いが、シャキシャキとした食感もまた私を夢中にさせてくれた。風味を楽しむためにも出汁までしっかりと飲んだ。


「お待たせいたしました。松茸の茶碗蒸しと土瓶蒸しになります。」

「ありがとうございます。」


 高いだけあってまだまだ運ばれてくる料理に終わりはなさそうだった。とはいえ、私のお腹はすでに七分目くらいまでは満たされている。そろそろ食べきるのは厳しくなってきた。しかし、事前にメニューを確認した限りでは、あと運ばれてくるのはデザートだけだったはず。だったら、デザートが運ばれてくるまでに残りの料理も堪能しよう。


 そう考えた私は運ばれてきた茶碗蒸しと土瓶蒸しも早速食べ始めた。蓋を開けただけで食べる前からすでに昇天しそうなくらいいい香りだった。個室いっぱいに広がる松茸の香り、それだけでお腹いっぱいになりそうだった。

 そんな料理を口に運ぶと、口の中にまでその香りが広がってきた。ふわふわの食感と口の中に満たされる松茸の香り。ああ…幸せ……。案外間違って転生したのはこれはこれで良かったかもしれない。神界ティリンスに戻った後も時折転生の儀式を他の神々任せにして私もエデンに転生してしまおうかとも思うくらいだった。


「お待たせいたしました、本日のデザート、抹茶のくず流しでございます。」

「ありがとうございます。」


 茶碗蒸しと土瓶蒸しを堪能している間にも最後の料理が運ばれてきた。涼しげなガラス製の器の中でプルプルと踊る深緑色のデザート。見た目はまるでプリンのようだ。それをスプーンですくって口へと運ぶと、プリンとはまた違った深みのある味と素朴な甘み、そして後から抹茶のほろ苦さが口の中に広がった。


 くず流しといえばとにかく手間暇がかかる料理のため、作るのに苦労するだろうに、それを惜しげも無く提供する店側のプロ意識には感服した。それだけ上客をもてなそうという気概があるのだろう。でなければ、こんな高いコースメニューを用意しておくわけがないだろうし…。


 一通りのメニューを食べ終えた頃に私を案内してくれた店員が再び入室し、お茶のおかわりを持ってきてくれた。そして、机の上の空になった器の数々を見て息を飲んだ。「嘘…本当に全部食べちゃった…。」と小声でブツブツ言っていた。成人男性でも食べきれない量の料理を四歳児にしか見えない私が全部食べてしまったのだからそれだけ驚いたのだろう。


「ほ…本当に全て食べてしまわれるとは思いませんでした…。お客様…すごいですね…。」

「ありがとうございます、とても美味しかったです。ところで、山菜うどんと松茸の茶碗蒸しと土瓶蒸し、後デザートのおかわりが欲しいんですけれども追加で頼んでもいいですか?」

「嘘!?まだ食べるんですか!?」


 お盆を抱えたまま仰天して腰を抜かした店員。あからさまに四歳児が食べる量ではないせいか、度肝を抜かれたようだった。


「はい、まだ食べたいとこですけど追加できますか?」


 私はもう一度店員に問いかけた。


「しょ…少々お待ちください…。店長に確認してきます…。」


 そう言って慌てて退室していった店員。しばらくして店長を引き連れて戻ってきたが、二人して土下座して謝罪し始めた。


「「お客様、申し訳ありません。当店ではコースメニューの追加注文は扱っておりません…。」」

「単品での追加もだめですか?」

「申し訳ありませんが特上御膳セットの料理は単品ではお取り扱いしていないんです…。」

「そうですか?先程そちらの店員さんが当店自慢とおっしゃっていた山菜うどんなんかはこのお店の目玉商品ですし扱っていそうですが…。」

「確かにうどんだけでしたらご提供できますが…本当に全部食べられますか…?」

「食べられなかったらそもそも注文しませんよ?」

「かしこまりました…。うどんだけ追加で提供させていただきます…。」


 そう言って再度頭を下げると店長と店員は退出していった。しばらくしてようやく追加注文したうどんが提供された。


「お待たせいたしました、追加の山菜うどんになります…。」

「ありがとうございます。」

「当店のうどんをお気に召していただけて何よりです…。」

「ええ、上に乗っている山菜が特に気に入りました。どこでこんな質のいい山菜を手に入れているんですか?」

「実は、これらの山菜はこの町の南東と南西に広がっているラーナ山脈とタニア山脈にて肉体労働に従事している亜人の奴隷たちを使って集めているものになります。」

「亜人を?彼らは魔法を使えないはずですよね?」

「ええ、使えません。ですので、山菜を取れなければ給料0、取れたら取れただけ給料に反映されるという形を取っているとは聞いています。」

「戦闘能力がない亜人にそんなことさせたとして山に住む野獣や魔物と遭遇した時が危険ではないですか?」

「それで襲われて死ぬ亜人がいたらその程度だったとして現地では処理されています。」

「そんなことでは働き手が減って困りませんか?」

「それ以上の早さで亜人が増えるのだからどうでもいいと解釈されてしまっていますね…。我々としてはそのあたりの労働形態がどうであれ山菜を納品していただければただの良い取引相手としか認識していないわけですが…。」

「となりますと、お刺身とかに使われている素材もそうなんですね?」

「はい、取ってくるのは亜人であり、それをここまで空間魔法で運搬してくるのとか現地で彼らを指揮管理するのが人間族の仕事とされているようです。」

「なるほど、勉強になりました。ありがとうございます。」

「いえいえ、またご贔屓にしていただければ何よりです。」


 そう話すと店員は他にも仕事があるからか一礼してすぐに退室していった。追加の山菜うどんをすすりつつ私は思索に耽ることにした。とりあえずこの町の亜人の所在は理解できた。大半がそうして肉体労働に従事しているのは奴隷解放前のマリーシャス帝国と何ら変わりはない。


 しかし、彼らを無条件で解放してしまったらこの店はもちろんのこと、山菜や海産物を購入している飲食店に素材が入ってこなくなる可能性もあるため、無条件に亜人を解放すればいい話でもなさそうだった。少なくとも亜人を差別していたりしているのは間違いないが、飲食店側はきちんと素材に対しての対価を支払っているからだ。となると、奴隷たちを管理している人間族、あるいは、本来亜人に入ってくるはずの利益を搾取している人間族を駆逐することが必要か…?


 後ぐされのないやり方というものを考えるのに際してやはりすぐには結論は出なさそうだった。そうしている間にもうどんを食べ終えてしまったため、私は席を立ち、領収書を手に店員の元へと行った。


「ごちそうさまでした、美味しかったです。また来ますね。」

「ありがとうございます…。もしかしてあの追加のうどんも全て食べてしまわれたんですか?」

「当然です。」

「驚きました…成人男性の方でもあの量を食べきる方ってなかなかいないのにましてや食べきった挙句うどんをお代わりする方なんてお客様が初めてですし…。」

「上客が来たと喜んではいかがですか?それで、料金はいくらですか?」

「はい、特上御膳セットが2万R、追加注文の山菜うどんが1500R、合計して21500Rのお支払いになります。」

「金貨と銀貨しか持っていませんのでこれでお願いします。」


 そう話しながら私は銀貨を3枚店員に渡した。帝国と貨幣価値が変わらないならば銀貨3枚で3万Rになるはずだからだ。そう期待してお金を渡したところ問題なく処理されたため安心した。


「ありがとうございます。それでは、お釣りですけれども、8500Rになります。」

「ありがとうございます。カラビヤウエクスパンド。」


 そう言いながら店員は銅貨を85枚渡してきた。服のポケットに入りそうにないため、異空間を展開してそっちに全ての銅貨を入れた。幼女が当たり前のように魔法を使っているのを見て店員は唖然とした。あれ?人間族のこの年代の子供なら魔法を習うんじゃないんだろうか…?まあ気にしないでおくか…。


「ごちそうさまでした。」

「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております…。」


 驚きすぎたのか、疲れ切った様子の店員を背にし、私は再び町の中を歩き出した。帝国と違って、この国では少なくとも亜人が経済基盤を支えているところも少なからずありそうだ。はてさて、バルカンから委託された内部工作をどのように進めていくか…。そう考えつつも私はとりあえずさらなる情報集めのために市場へと歩き出すのだった。

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