第14話 女神、呪う
期せずして舎弟を三名手に入れてからも私は引き続き帝都ヴォルカノフに滞在し続けた。目的はサーロインステーキもあるけれども、ここ最近では牡蠣を使った創作料理の店を巡ることも多くなったからだ。
やはり帝都はいい。グルメな私を飽きさせない。今日はサーモンを使った創作料理の店でも探しに行ってみようか…。それかスイーツパラダイスでも行こうか…。
宿の客室でベッドの上に座りそう考えながらよだれを出していたら扉をノックする音が聞こえた。慌てて口を拭い、服の中に尻尾を隠し、パーカーワンピースのフードを目深に被ってから扉を開けた。扉の外にいたのは今利用している宿の支配人だった。
「はい、どうしました?」
「おくつろぎのところ失礼いたします。お客様に面会をお求めの方がおりますのでご対応いただきたく思います。」
「わかりました。面会しにきた方々をこちらに通していただけますか?」
「かしこまりました。」
私に会いに来るような人なんていただろうか…?と訝しみつつも支配人に連れてきてもらうと、何とバルカンとイシスとマーシャの三人が私の部屋へと入ってきた。何だ彼らか、と安心した私はフードを脱ぎ、服の尻の小さな切れ目から尻尾を引っ張り出して楽な格好にした。三人を簡易テーブルへと案内してから私も隣に座った。
「こんにちはディアナ様。お食事の時以来ですね。」
「まさかあなた方が来るとは思いませんでしたよ。よくここがわかりましたね。」
「それだけ我々の情報網は優れているだけです。」
「そこまでして足を運ばなくても呼んでくれれば私の方から出向きましたよ?」
「女神様にそんな失礼な真似をさせられませんよ。今回も我々の頼みごとを聞いていただき、ご協力をお願いする立場でしたし。」
「なるほど、用件はそれだったんですね?」
「ええ、早速本題に入らせていただいてもよろしいですか?」
「はい。」
「以前ディアナ様がお話ししておりました、我が国の亜人の奴隷を解放するというお約束ですが、履行する準備が整ったのはいいのですけれども、これを実行してしまいますと、どうしても避けられない問題が発生します。」
「今までこのあり方に甘んじて甘い汁を吸っていた人間族が反抗するとかですね?」
「流石ですね…。みなまで言わなくてもその事態を想定しておられるとは…。」
「教会が権力を握っているのでしたら大体そうなるだろうなあということは想像できますから。教会に背く行為をすれば今まで教会の権威を笠に着て甘い汁を吸っていた人間やあるいはその教義を熱烈に信仰していた人々ないしは教会の関係者が難色を示し、あなた方に反旗を翻すであろうことも。」
「我々が懸念しているのはまさにそこです。もちろん、人間族の中にも我々と同じ理念を抱いている人々もいますが、わが国でもそういう人間はごく少数で、奴隷の解放をすると公言した暁には、国内のあらゆる市町村で反乱や暴動が起きるのは避けられません。それらを鎮圧するために動こうとすると、我々だけでは到底手が足りません。ですので、女神様にも力をお貸しいただきたく思い、この度馳せ参じました。」
頭を深々と下げる三人。この三人だけでも帝国の主戦力になるだろうに、私に頭を下げて協力を仰ぐということは、それだけ切羽詰まっているということだろう。まあ彼らから頼まれなくてもこちらから動くことは考えていたからそんなこと気にする必要はなかったのだが…。
「頭をお上げください。あなた方に頼まれなくても私の方でも裏で動くつもりでいたんですから。」
「何と、そうお考えとは思いませんでした…。ありがとうございます、ディアナ様が協力してくれるとなるとどれだけ心強いか…。」
「ただし、条件があります。」
「ディアナ様の正体があぶり出されないように我々に情報操作をしてほしいということですね?」
「わかっているじゃないですか。この先も他国で裏工作をしたりするのでしたら、私の正体は知られていないまま、帝国内で怪奇現象が起きたとか天災が起きたとかで処理してもらう方が都合がいいんです。そうした情報操作は皆様の得意分野でしょう?」
「ええ、裏工作がうまくなければこの若さでここまで地位を築き上げることなんてできませんから。」
「でしたら、今回も私が介入する代わりに、『帝国が追いかけている正体不明の忌子がまたもや騒ぎを起こした』というシナリオでも国内に伝播していただけるとこちらとしても助かります。」
「かしこまりました。そのように取りはからわせていただきます。」
「ありがとうございます。そうしていただけるのでしたらこちらとしても思う存分動けますので。あ、それと、実行前に全ての市町村をイシスさんに案内していただきたいのですけれども。」
「私に、ですか?」
「ええ、私はこの帝国内で行ったことのある市町村はこの帝都とタルバの町だけです。ですので、他の市町村で反乱が起きたとしても鎮圧に行くのに時間がかかってしまいます。あらかじめそれらの町へ連れていってもらえればなおさら効率よく鎮圧ができますので。」
「かしこまりました。仰せのままにご案内いたします。」
深々とお辞儀をし、早速私を案内しようとするイシス。私もまた耳と尻尾を隠し直し、イシスに国内の全ての市町村を案内してもらうことにした。本当はこの宿から一歩も動かずに裏工作ができればいいんだけれども、アンカーの設置とかの下準備をしようと思ったらどうしてもこの手順は必須になるのが面倒だ。
ここが神界ティリンスだったり、あるいは私が元の体だったりしたらそんなことしなくてもこの部屋から一歩も動かずに全ての標的にアンカーを仕掛けることもできただろうけれども…。なんとも歯がゆい。
「それでは、ちょっと行ってきますのでお二方はどうぞゆっくりしていってください。じゃあイシスさん、よろしくお願いします。」
「かしこまりました、ディメンジョンゲート。」
イシスの詠唱により私はイシスごと宿の部屋から転移し、帝国内のあらゆる市町村に瞬時に運んでもらい、それら全ての市町村の座標を記憶していった。これで帝国内の市町村なら私一人でもどこでもいけそうだ。一通り回り終わったら、再びイシスは私の宿泊している部屋へと転移し、戻ってきた。くつろいでいてくれればいいのに、バルカンもマーシャも戻ってきたときもテーブルに着席したまま微動だにしなかった。
「おかえりなさいませ、ディアナ様。早かったですね。」
「ええ、イシスさんのおかげですよ。ディメンジョンゲートを使える魔法使いがいるかいないかで効率には差がどうしても出ますから。」
「それで、それ以外に我々に協力が必要なことはございますか?」
「いえ、もうこれだけで大丈夫です。奴隷の解放を公言する日程を教えていただければそれまでの間に下準備はしておきますね。」
「左様ですか…。でしたら、前もって実行に移す日程をお話しさせていただきます。我々が奴隷の解放を公言する予定は明後日です。この帝都ヴォルカノフ中央の広場の演台にてその旨を宣言し、さらに、各市町村にもお触れを通達する予定です。ですので、ほぼ確実に大半の人間族が暴徒と化すでしょう。帝都でしたら我々でなんとか食い止めますが、ディアナ様にはそれ以外の市町村をできる範囲で鎮圧に動いていただければと思います。」
「それでもいいですけれども、帝都の方も私の方で全部対処してしまいましょうか?」
「そんな、ディアナ様にそこまでご負担をおかけするわけには…!!」
「暴徒を鎮圧する市町村が一つや二つ増えたところで同じです。まあ当日楽しみにしていてください。」
「何されるのかしら…。考えるのも怖いわ…。」
「さあな…。女神様のことだから少なくとも町を壊すとかそんな過激なことではないと思うが…。」
顔を青ざめ小声で話し始めたバルカンたち。失礼な。私は創造神であって破壊神ではない。確かに自分で作った世界だから壊すことも自由自在ではあるけど…。
私に丁重に頭を下げながら退出していったバルカンたちを見送った後私もまた下準備に動くことにした。手始めに、帝都の中でも最も高い建物の屋根の上によじ登り、帝都中を見渡しながら呪文をつぶやいた。
「セットアンカー・ターゲット・オールピープル。」
呪文を唱えた途端年齢性別種族を問わず、帝都内の住民たちに無差別にアンカーが設置されていった。その後、タルバにも移動し、全く同じ呪文を唱えてアンカーを全ての人に設置し、それが終わると次の町、次の町と全ての市町村でアンカーを設置する作業をしていった。
アンカーの設置にかかる時間とかを考えて下準備に早めに取り掛かったわけだが、結局一日で全ての作業が終わってしまったため、翌日は帝都のグルメを堪能しに行くことにした。見た目が三歳児であるにも関わらず、大人顔負けの食べっぷりをするからこそ、私が訪れる店の店員たちは唖然としながら私が料理を平らげていくのを見ていた。当の私からすればこの程度でも全く足りないが…。
そうしてグルメを堪能した日のさらに翌日。いよいよバルカンが亜人の奴隷の解放を宣言し、教会に背くことを宣言する日が来た。重要な告知がされると聞き、帝都の中央広場に集まる住民たち、そして、彼らを見下ろしつつも、住民たちに最大限の警戒をしている演壇の上のバルカンたち。
そろそろ私も最後の仕込みの時かなあと考え、二日前と同様帝都の一番高い建物の屋根の上に移動した。そして、一言一言、楔を打つがごとく呪文を唱えていった。
「カース・オールターゲットピープル・シング・ア・ソング・アンドスキップ・イフクレイムド・ティル・ダイ。」
呪文を唱え終わっても、特に目に見える変化はない。今唱えた魔法は条件付きでの魔法であり、特定の条件を満たさない限りは永久に発動しないものだからだ。これで私の裏工作は終了した。あとは、すぐ近くでバルカンたちを観察しようと考えた私もまた広場へと移動していき、広場がよく見える店舗の屋根の上から成り行きを見守った。
広場に集まる大勢の人々。彼らを見下ろしながらもバルカンは演説を始めた。
「諸君、よくぞ集まってくれた!!これより、諸君らに重要な告知を行う!!」
しん…と静まり返る広場。誰もがバルカンの演説に耳を傾け始めた。
「諸君も知ってのことだと思うが、このマリーシャス帝国は100年ほど前に成立したばかりの比較的新しい国だ!!その当初の設立目的は種族の壁をなくし、互いが互いに切磋琢磨し、他のどんな国にも負けない強固な国を作ることにあった!!しかし、成立当初から我々はすでに教会に目をつけられ、彼らの思想を強要され、今日までその理念を全うすることなく教会の飼い殺しとなってきた!!そうとも知らず、権利を奪われ、虐げられてきた全ての亜人の者たちに今ここで謝罪をしよう!!長年待たせてしまって本当に申し訳なかった!!そして、教会の権威を笠にきて罪もない者たちを虐げてきた卑怯者たちには今ここで引導を渡してくれよう!!貴様らがこの国で大きな顔をできるのも今日までだ!!私、バルカン・ランドルフ・フォン・マリーシャスは帝国元帥の肩書きの下に、国内の全ての亜人の解放と教会の追放、そして、教会への反抗をここに宣言する!!」
バルカンの演説が終わり、再びしん…と静まり返った帝都中央広場。しかし、次第に怒り心頭の人々によるブーイングが起こり始め、とりわけ強い難色を示したものが演壇の前に進み出た。
「貴様あああ!!我ら教会に背を向けるのか!?女神ディアナ様に背くのか!?女神を裏切りしうつけ者があ!!」
演説台に許可なく上がり、バルカンに向かって唾を飛ばしながら怒鳴っているのは神官風の服を着た人間族の年老いた男。教会の権威を傘に着て散々甘い汁を吸ってきたのか、丸々と太っている。あのまま焼き豚にしたら美味しそうだ。そんな創神教の手先のものだろう彼に対しバルカンは顔色ひとつ変えずに淡々と告げた。
「私の意思は今演説した通りだ。それとも、君はそれを聞いていなかったのかね?覚えていなかったのかね?君の頭は大丈夫かね?」
「ぐううう!!教会を愚弄しおってからに!!このことは総本山と連合に伝えさせてもらうからな!?貴様らは破門だああ!!!」
「なんとでも言えばいいさ。ディザイアが攻めてこようと、連合国が攻めてこようと、我々はもうへりくだったりはしない。国民が全員倒されるまで抵抗してやるさ。」
「ほざいたな!?ディアナ様に背きし大罪人が!!神の怒りを知るが……が……がが……g……。」
「ん?」
怒り任せに怒鳴っていた神官風の男が急に言葉を途切れさせて口をパクパクしだしたため、異変を感じ取ったバルカンが首を傾げつつも抜剣して構えた。その間にも、男は目を虚ろにさせ、言葉にならない言葉を発していた。挙動もおかしくなり、その場で棒立ちしたまま時折ビクンッビクンッ!!と体を震わせたり体を捻りながらセクシーな決めポーズを取り始めた。
「)&<>?<?><html lang='ja'><head><title></title></head><body><style>@charset "UTF-8";body{margin:0;padding:0;background-color:transparent;}</style><header><nav></nav></header><contents class="skip"><div id="song"><h1></h1><p></p><a href=""></a></div></contents><footer></footer><script>'use strict';</script></body></html>&……!!」
「……。」
無言で剣を構えたままのバルカン。そうこうしている間にもセクシーポーズをしつつ言葉にならない言葉を発し続けていた神官の男は急に言葉を途切らせ、にちゃあ…と気持ちの悪い笑顔を浮かべながらバルカンの周りをスキップしながら歌い始めた。讃美歌を歌う機会もあったりするからか、神官の男は音程正確率といいビブラートなどの加点テクといい文句なしだった。
「な・つ〜は股間がかーゆくな・る〜♪かーゆくなーったらデー◯ケアエムズ♪ランララランランラン〜♪」
男の行動が豹変したことに対し警戒を崩さないバルカン。しかし、そうしている間にも、唖然とした人々に見守られながら男は「か・か・ず・に・な・お・そ・う、デーリ◯アエ・ム・ズ〜♪」とビブラート増し増しのテノールで某かゆみ止めのCMソングを歌いながらスキップで壇上を降り、最初のフレーズに戻って歌いながら帝都の外へとスキップしながら行ってしまった。
仕込んでおいた呪いがうまく発動したようだった。これは、バルカンの演説に対して不平不満を言ったり、あるいは、暴動を起こした場合にのみトリガーとして発動するタイプの呪いで、一度発動すると死ぬまでスキップしながら某かゆみ止めのCMソングを歌い続けるというすごいのかすごくないのかよくわからない呪いだ。
教会の手先の男がそんな異常行動を起こした後も、やはり民衆、特にこれまで甘い汁を吸ってきた人間族達にとってバルカンの演説内容は到底受け入れがたいものであり、神官に続けと言わんばかりに民衆が石をバルカン達に向かって投げつけたり、壇上に上がってバルカン達を倒そうと押し寄せようとしていた。やめとけばいいのに…。
そして、案の定暴徒と化した民衆は私の仕掛けた呪いにかかってしまった。
『な・つ〜は股間がかーゆくな・る〜♪かーゆくなーったらデー◯ケアエムズ♪ランララランランラン〜♪』
揃いも揃って某CMソングを歌いながらスキップで帝都の外へと出ていき、暴徒となっていた民衆達はそのまま体力が尽きるまで帝都の周りをスキップで歌いながらぐるぐる回りだした。広場に残っているのは元々いた民衆の10%以下。つまり、本当の意味でバルカン同様国の理念を心に留めていた人間族はその程度しかいなかったことになる。
それでも、不穏分子を私の呪いで一掃したことにより、亜人の解放も、その後の国力の増加も、はるかに行いやすくなったと言えた。
一応他の町も確認してみようと考え、私はタルバにも戻ってみた。すると、すでに呪いが効いていたのか、町の中にはほとんど人は存在せず、代わりに町の外では大半の民衆が『な・つ〜は股間がかーゆくな・る〜♪かーゆくなーったらデー◯ケアエムズ♪ランララランランラン〜♪』と歌いながら町の外壁に沿ってスキップしていた。
よくよく見てみると、その中にはレジーナとかボリス、あるいはポールをはじめとする私を街道でサンドバッグにしてくれた兵士などが混じっていた。てっきり呪いにかかってないものだと思っていたが、彼女達はきっちりとかかっていた。敬虔な創神教信者だったり、あるいは亜人を虐げて甘い汁を吸っていた人たちなんだろうなあと理解できた。ついでに、レジーナのステータスが気になっていたので、この機会に見てみることにした。
「ステータス・ルック・イン。」
ーーSTATUSーーーーーーーーーーーーーーー
Name:レジーナ・フリージア・フォン・タルバ
Gender:女性
LV:178
HP:12645367/12645398
MP:12245673/12245673
EXP:8998998/14556765
ATK:9987
MATK:9989
DEF:7677
MDEF:8789
STR:10293
DEX:5576
INT:10092
LUC:7743
Job:タルバ領主、マリーシャス帝国少将
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Skill:剣術LV.10 槍術LV.7 弓術LV.8
徒手空拳LV.9 騎馬術LV.5
火魔法LV.6 水魔法LV.10 土魔法LV.7
風魔法LV.6 氷魔法LV.10 雷魔法LV.8
空間魔法LV.7 無属性魔法LV.6
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Blessing:インクリーズド・エクスペリエンス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Equipment:鋼のレイピア、純白の軍服(将軍用)、
イチイの木の弓、青のマント、オパールのイヤリング、
牛革のブーツ、サファイアの指輪
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なるほど、帝国で10番目に強いという噂通りではあるのかもしれない。そんな彼女の右拳も私の本来のステータスの前には屈したわけだが…。それでも、それなりに強いなあと改めてステータスを見て思った。彼女でも本気でかかってきたらそれなりのダメージを受けたかもしれない。まああんな屋敷の室内で会ったわけだから彼女の本来の力で戦うと屋敷が跡形もなく消し飛ぶのだろうけれども…。
まるで盆踊り状態の人々を眺めつつも、このまま放置しておくのもなあと思った私は歌いながらスキップしている人々に近寄り、彼らの懐からお金とお金になりそうな宝飾品だけ抜いていった。身体強化をかけた上ですれ違いざまにお金と宝飾品だけを素早く抜き取る早業。ステータスには表記されないが私のスリのレベルは無駄に高い。歌いながらスキップする民衆がどれだけいようと彼ら全員からお金と宝飾品をわずかな時間で抜き取ることなど造作もなかった。
これをタルバ以外の市町村でも繰り返し、奪ったお金とか宝飾品は全て異空間にしまっておいた。こんな簡単な作業で19億Rくらいは懐にお金が入ってきたからちょろいものだ。お金と一緒に奪った宝飾品とかを売り払えばさらに多額のお金が見込める。どこで換金するかはまたおいおい考えていくことにしよう。
お金と宝飾品の強奪を各市町村でしてきた後私は再び帝都に戻ってきた。そして、帝都で今もなお帝都の周りを歌いながらスキップし続けている民衆からもお金や宝飾品を抜いていったわけだが、その途中で最初にバルカンに喧嘩を売ったあの教会の手先の男を見かけた。相変わらず呪い発動時と同様ニタァと気色悪い笑顔を顔面に貼り付け、スキップしながら歌い続けている。自分でかけといて言うのもなんだけれども、気持ち悪い。
呪いにかかった対象はかつてない高揚感や幸福感で全ての神経系を支配され、あたかも覚せい剤を投与したかのような状態ないしはシンナーを吸わせたような状態になるため、その関係であんな風に気色悪い笑顔になるからだ。けれども、表情は気持ち悪くても肉体的な素材としては良いものを持っていそうだった。これは是非ともコーディネートしないと!!もう悪趣味なんて言わせない!!
ニタニタと笑いながら歌ってスキップする気色悪いおっさんの神官服をまず脱がせて下着やらなんやらかんやらを剥ぎ取って全裸にした。ついでにおっさんからもお金と宝飾品はきっちり抜いた。金貨が十数枚に一枚10億R相当の価値がある白金貨が十数枚。このおっさんのポケットマネーだけで百数十億Rはある。おっさんめっちゃおいしい。国外に行くことがあったら教会関係者を最優先で襲えばボロ儲けできそうだ。いつかディザイアに潜入するときには真っ先に教会関係者と権力者をカツアゲしよう!!亜人たちを解放すること以上に金品を略奪しに行くのが今からもう楽しみだった。
気色悪い笑顔で全裸でスキップのおっさん。これだけでも十分変質者かもしれない。女性の下着を着せることが悪趣味ならとしばし全裸でスキップし続ける男を眺めながら考えていた私だが、イメージがついたので、加護を発動させた。
「オブジェクトクリエイション。」
呪いを唱えて召喚したのは青色の海パン。えっぐいくらいほっそいブーメランパンツです。キレッキレです。次に、白鳥の浮き輪。もちろん大人サイズです。子供サイズじゃありません。それから水泳帽子代わりのランジェリー(白)とゴーグル、あとは、『スワン部隊一番隊長』と文字がプリントされた真っ白なタンクトップ。これで必要なパーツは揃った。私はそれを全裸で歌いながらスキップし続けている神官だった男に着せていった。
常時移動をし続ける男を追いかけつつ衣装を着せるのにちょっと苦労したけれども、完成すると、なかなかの出来栄えだった。スワン部隊一番隊長(元神官)。良い…!!
せっかくのコーディネートだから私は帝都に戻ってバルカン達にも私の手がけたコーディネートを見せることにした。バルカン達はまだ広場に残っていた人間族の住民達や解放したばかりの亜人達を交えて今後の国の方針を演説していたわけだが、私が元神官風の男を担いで広場に戻ってくると、私の方を見た。そして、民衆に向けて「すまない、少し席をはずす。」と言うと、イシス達と一緒に広場を離れて私のところに来た。
「ディアナ様、探しましたよ!!あれはディアナ様の仕業ですか!?」
「ええ、他の市町村でも問題なく呪いは機能しています。まあ私がここに来た本題はそのことじゃないんですけどね。」
「と言いますと?」
「どうも兵士たちに女性下着を着せるのが悪趣味と評されていたみたいでしたので今回は趣向を変えて新たなコーディネートを試してみたんです。ほら、これ見てください。バルカンさんに真っ先に怒鳴りかかっていたあの神官のおっさんです。再度私の価値観に基づいてこの男に似合う服を見繕ってみたんですよ。」
「「「……。」」」
そう話しながら私は頭の上に担いでいたにちゃあ…と笑いながら歌ってスキップする年老いた男をぽいと地面に捨てた。『スワン部隊一番隊長』にされた神官だった男を見た三人は無言でスワン部隊一番隊長を見ていた。そうしている間にもスワン部隊一番隊長はニタニタした顔で歌いながらスキップでまた帝都の外へと行ってしまった。
「どうです?今回のは良かったでしょう?」
「……くっ………。」
「………プッ……。」
「……………っ…。」
「あれ?みなさん、どうしたんですか?」
揃いも揃って大慌てで裏路地へと逃げていった三人。その途端、路地から「あははははははははははは!!!」「ぎゃーっははははははははは!!!」「あはははは!!!ひいいいいいいいいーーーーっ!!!」ととにかく笑い続ける声が聞こえてきた。しばらくして笑い声が止み、私のところへと戻ってきた三人。ようやく感想を述べてくれるのか、と私は彼らの評価に期待した。
「い、いいんじゃないですか?ディアナ様らしくて……。」
「え、ええ、センスって人それぞれですから……。」
「わ、私は女神様を尊重します……。」
三人とも揃いも揃って自分でお尻をつねりながら私に対してスワン部隊一番隊長の感想を述べてきた。彼らがスワン部隊一番隊長を見てどんな感想を持ったかは理解できたが、なぜ彼らが顔を赤らめ、必死になって自分でお尻をつねっているのかは私には理解が全く及ばなかった。