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第13話 種族差別の歴史

 バルカンたちとの出会いで私が獣人であることがバレて以来、私は件の高級食堂の使用を控えた。店員の記憶を改竄すればまだ忍び込めるだろうけれども、そこまでしてサーロインステーキを食べるよりかは、帝都での新たなグルメを探し求めることとか、はたまた帝都で新たに買った衣装で変装してタルバのフィレステーキを堪能する方がいいと考えたからだ。


 最近では帝都で購入した白とピンクのフリフリドレスと白色の子供用の鍔付き帽子とでカモフラージュし、タルバのフィレステーキを堪能するのがマイブームとなっていた。当然大衆食堂にくる利用客の中には、以前街道で私をサンドバッグにしてくれた大勢の兵士たちがくることもあり、私にやられた話で被害者同士で盛り上がり、何とも楽しそうだった。


「くそう…あの狐のクソガキめ…!!あんな恥ずかしい格好させやがって…!!次会ったらぜってえ殺してやる…!!」

「なんだポール、お前もあのチビにやられてたのか?」

「そう言うってことは、ラスター、お前もか?」

「ああ。街道を一人で馬に騎乗して走る三歳児なんてどう見ても怪しさ満点だろ?だから職質したわけだが、あいつが獣人であることがわかって馬から引き摺り下ろして輸送部隊の仲間たちと暴行したんだが、俺らの体力が尽きるまで散々痛めつけたのにケロっとしてやがるんだ…。」

「俺らが暴行した時もそうだったんだ。どれだけ叩きのめしても傷一つつかねえし、指一本で俺らを倒した挙句、装備も輸送品も、馬も根こそぎ奪い取って俺とダラスとウォルターに女性用の下着を着せて放置していきやがったんだ。ああくそっ!!思い出したらまた腹たってきた!!」

「その手口は俺らもやられたさ…俺なんて花柄のランジェリーとブラジャーだぞ!?仲間たちとタルバに入った途端くすくすと周囲の人間たちに笑われて顔から火が出る思いだったぞ…!!」


 ああ、この人帝都まで馬を走らせる最中に五日目に出会った兵士か。初日以降私をサンドバッグにしてくる輸送兵たちのステータス見てなかったから分からなかった。


「ああ…本当恥ずかしくてしょうがなかったぜ…しかも、有り金も全部奪われてたから結局少将に土下座して屋敷に一時的に匿ってもらって代わりの服支給してもらってどうにかなったしさ…。レジーナ少将にまで顔を背けて笑われちまったんだぞ!?俺あの人に憧れて軍隊に入ったのに…!!」

「若くして将軍の座についてあの強さであの美貌だからな…俺ら兵士たちの憧れだもんな…だからこそ俺としては信じられねえけどな…。あの少将もおそらくそのクソガキにやられたんじゃないかと噂はされてるみたいだぜ?」


 やはり一ヶ月以上も経つとそのくらいは嗅ぎ付けられるか…既に帝都でもバルカンたちにその存在は知られてしまったわけだし。


「手口が全く一緒だもんな…。少将は覚えてないみたいだが、倒して根こそぎ略奪する手口に逃亡時に被害者を恥ずかしい格好に変えていくいやらしさ…俺は少将もぜってえそのクソガキにやられたとしか思えねえよ…。」

「仮にそうだとしたら、そのクソガキ少将すらあっさりと倒しちまえる実力だってことになるんだろうけどな…。」

「帝国で十番目に強い少将をあんな風にできる時点で異常だろ…。それが本当だったら俺らの敵う相手じゃないぞ…。」

「帝都に増援を呼んだ方がいいんじゃないか?」

「いや、むしろ帝都にそのクソガキが向かったことを考えたらもうそのクソガキも終わりだろ。帝国一の魔剣士バルカン元帥と大賢者イシス夫人、魔法を一切使わずに武術系スキルと加護だけでSSランクモンスターをソロ討伐してしまうマーシャ大将のお膝元だぞ?そんなところで悪さしたらすぐにバレて捕まるだろ…。」


 既に悪さしました。通り一帯の住民を失禁させて金を巻き上げました。夫人には私が犯人であることはいまだにバレていません。どころか彼らとは既に取引を行う間柄です。


「でもさ、少将をそんなに容易く倒しちまうとなれば、たとえ元帥閣下たちが本気で戦ったとしてもそのクソガキ倒せないんじゃねえか?少将ってああ見えても既にレベルって100以上なんだろ?」

「ああ。特にステータスは攻撃力にかなり振ってるからあの少将の攻撃を食らって無事で済む奴なんて普通いねえよ。」


 そんなにレジーナは強かったのか…。私には一切ダメージが入らなかったから弱いと思ってた。ステータス見ておけばよかったかもなあ…。


「仮にクソガキの実力がそうだったとしたら俺らって運が良かったのかもしれんけどな…。殺されずに済んだわけだし。」

「だとしても、そのクソガキ三歳児でどんなステータスしてんだよ…。」

「噂では、この町の奴隷を逃す事件をそいつがやらかした際直前に兵士たちがステータス確認したんだが、普通の子供と大差なくて、目立ったことはそいつの名前が創世の女神の名前だったことだけだ。」

「つまり、そのクソガキは忌子ってわけか。」

「ああ。しかも教会にすら認知はされてない奴みたいだ。まあ認知されていたとしてもあのクソガキに教会すら勝てるかどうか分からんが…。」

「俺らですら虫けら扱いだもんな…。ぜってえなんかのイカサマを使って実力を隠してるだろ…でねえと俺らや少将があっさりとやられたことの説明がつかねえし。」

「ごちそうさまでした。」


 そろそろ被害者の会の会話も聞き飽きたため、私は今日もフィレステーキを堪能した後で会計を済ませ、帝都へと戻っていった。


 ここ最近利用している宿へと向かうと、支配人から呼び止められた。


「お客様、バルカン元帥よりお手紙を預かっております。ご確認をお願いいたします。」

「わかりました、ありがとうございます。それにしても、よく私の居場所を元帥は突き止めましたね。」

「帝都ヴォルカノフ南部の全ての宿を人海戦術で探させて、一人で宿泊している三歳児くらいの見た目の女の子に渡すようにと兵士の方々に指示をされていきましたのでこうして該当する当宿にこの文書が預けられたわけです。」

「バルカンさんもなかなか頭が切れますね。」

「そうでもなければ三十代前半でこの国の最高権力者に上り詰めることなんてできませんから。元帥の仕事は強いだけでは務まりませんからね。」


 やはりあの元帥強いのか。剣を抜いた時の雰囲気だけでそれなりに強いとは認識していたが…。多分あの男だったら私の体にいくらか傷はつけられるだろう。殺すことはできないにしても。まあそのくらいの実力があったとしてもあの男を倒してランジェリーを着けるくらい私からすれば造作もないことだろうけれども…。

 にしてもそろそろ倒した相手にランジェリーを着せるのもワンパターンになってきたかもなあ…。次は倒した相手にどんな慈悲を施そうか…。まあそれについてはまたサンドバッグにされてしまった時に考えるとしよう。


「ありがとうございます。また部屋で確認させていただきます。」


 支配人に礼を言うと私は借りている部屋へと向かい、封書を開けた。中には几帳面な文体でこう書かれていた。


『明日の正午に『バンビーノ』に入店せよ。店員には『帝国万歳!』と合言葉を話せば案内してくれる。それ以外の合言葉を言うと門前払いされるから注意するように。』


 『バンビーノ』と言うと、私がバルカンたちと出会ったあの店だ。数週間ぶりにあそこのサーロインステーキが食べられると思うと期待が膨らんだ。私を呼ぶと言うことは、約束の一部、または全てを履行するだけの準備ができたと言うことだろう。ステーキに想いを馳せながら私はその日は眠った。


 翌日正午、私はいつものパーカーワンピースに着替えて耳や尻尾を服やフードの中に隠しすぐさま店へと向かった。店員たちは険しい目つきで私以外の人が入店しようとするたびに「合言葉は?」と聞き、言わない、または合言葉を間違える、または事情を聞こうとする人々を門前払いしていた。店を丸々一つ貸し切れるだけあって、それだけ帝国元帥の権力は絶大なのだなあと思わされた。


「合言葉は?」


 当然のことながら私にもその質問が来た。


「帝国万歳!」

「元帥閣下のお客様ですね?お待ちしておりました。ご案内いたします。こちらへどうぞ。」


 店員に案内されるがままに奥へ奥へと歩いて行くと、四人がけのテーブルに既にバルカン、イシス、マーシャの三人が座って待っていた。値踏みするような目つきの三人に見られながらも私は空いている席に座った。特にイシスの凝視するような目つきからして大方無詠唱で私のステータスを盗み見ようとしている魂胆は透けて見えた。


「来たか。手紙は読んでくれたようだな。」

「ええ。まさか私の滞在している宿を当てるとは思っていませんでしたが…。」

「それだけ君の所在は私としても追い続けて監視する必要があると思っているわけだ。」

「別にそこまで時間と労力を無駄遣いしなくても私の所在の情報が欲しければお渡ししますよ?」

「随分と余裕だな?これまで人に見つからないようにコソコソと逃げ回っていたんじゃないのか?」

「ここに呼びつけたということは私の旅の目的だった種族差別が横行する理由とか悪魔の子とか忌子という言葉の意味を説明してくれるのでしょう?でしたら、それ以上逃げ隠れする必要性を感じないと思いましたので。」

「そうだな、それもある。それ以外にも、再度君の意思を確認するという目的もあるが…。」

「あなた!!悪魔の子と本当に手を組むつもりなの!?」

「閣下、もう一度考え直してはいただけませんか?」


 私の意思を聞こうとした途端イシスとマーシャから再度バルカンに待ったが入った。


「野放しにしておくよりも我々の戦力として加わってくれた方がお互いにとって有益、そう判断したまでだ。それとも、お前たちはこのまま教会をのさばらせてあいつらに好き勝手に帝国を牛耳らせる方がいいとでも言うつもりか?」

「「それは…。」」


 口ごもる二人。しかし、イシスはなおも反対した。


「でも、そんなことをして創神教に睨まれたら世界を敵に回すようなものよ!?こんな三歳児のしかも忌子と手を組むためだけにそんなことするメリットはあるの!?私は承諾できないわ!!」

「この忌子の実力はお前も身を以て知っているだろう?しかも、それすら実力の片鱗でしかない。違うか?」

「……確かに、私は彼女に得意の魔法ですら及ばなかったけど…。」

「驚きました。あの時出会っただけでもうそこまで私のことを看破していたんですね?ステータスを盗み見る仕草すらなかったのに。」

「君の強さはステータスを見なくてもわかる。どころか、何の手品を使ったか知らないが、そのステータス自体が偽物だろう?そんなステータスでイシスに勝負を挑むこと自体が自殺行為だからな。」

「確かに、イシスさんのステータスを見る限りそう言わざるを得ませんね。」


 話しながらも無詠唱でイシスのステータスを盗み見たが、確かに普通三歳児がこんな女性を相手にしたら、無事では済まない。


ーーSTATUSーーーーーーーーーーーーーーー

Name:イシス・アルマデル・フォン・マリーシャス

Gender:女性

LV:321

HP:5674325/5674325

MP:30809644/30809689

EXP:5368932/23668932

ATK:3456

MATK:10930

DEF:2133

MDEF:4367

STR:657

DEX:789

INT:30987

LUC:23453

Job:大賢者

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Skill:棒術LV.9 徒手空拳LV.3

 火魔法LV.10 水魔法LV.10 土魔法LV.10

 風魔法LV.10 氷魔法LV.10 雷魔法LV.10

 光魔法LV.10 闇魔法LV.10 空間魔法LV.9

 無属性魔法LV.10 回復魔法LV.9

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Blessing:ハイスピード・チャンティング

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Equipment:大賢者のローブ、大賢者の帽子、

 叡智の指輪、精霊樹のワンド、殲滅の魔道書、

 竜の血のネックレス、飛翔の靴

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 魔法攻撃力がえぐい上、高速詠唱の加護持ち。つまり、大人数を殲滅できるような極大魔法を一秒間に何発も連射できる超高性能マシンガンみたいなものだ。本気の彼女を相手にしようものならそれこそレジーナ少将が私に向けて放ったアイスジャベリンが一秒間の間に20発は飛んでくるだろう。この帝都すら容易く消し去れるだろう。そんな彼女を魔法戦で封殺する三歳児のしかも獣人自体が存在がおかしいと言うバルカンの考え方にも共感できなくはなかった。


「ちょっと、見てるんじゃないわよ!!」

「あなたも私のステータスを見たんですからおあいこでしょう?」

「お黙り!!あんな嘘くさいステータス信じられるものですか!!」

「信じる信じないは自由です。」

「本当のステータスを見せなさいよ!!」

「はて?何のことでしょう?」

「ムカつく!!このクソガキ!!」


 私の服の胸ぐらを掴んで上下に揺さぶり始めたイシス。服の胸元を鷲掴みにされ上下に揺さぶられる度に視界が上下にぐわんぐわんと揺れ、フードがはだけて金色の狐耳が露わになった。カクテルのシェイカーになったかのような気分だ。そんなこと考えてたらカクテル飲みたくなってきた……。バルカンはそれを黙って見ていたがやがてため息をつきつつイシスを制止した。


「イシス、もうよさないか。こいつにいくら揺さぶりをかけたところで真実を吐く気はなさそうだ。私も元帥の座についてから結構な年月を過ごしたが、こいつはおそらく私の遥か上をいくぞ?策謀にしても、戦闘能力にしてもな…。」

「でも、ステータス自体は普通の三歳児と変わらないじゃない!!こんなクソガキの何を信じるって言うの!?」

「信じられないと言うんだったら場所を変えてこの子供と本気でやり合うのもいいんじゃないか?その程度は君も許容してくれるだろう?」

「それは取引に応じていただけるかどうかの返答次第です。」

「そう言うだろうと思っていたさ…。じゃあその取引の話について、進めていこうか。元からそのつもりだったしな。」

「それで、そちらが私に求めることは何ですか?」

「有事の際我々の部隊とともに敵国と戦う戦力となってほしい。そうでない時には敵国に侵入して敵国を内部から崩壊させる足がかりもな。君の提示する条件を飲むことは、教会に背を向けることと同義。そして、そんなことをすれば教会の息がかかっている全ての国を敵に回すことになる。小さな大陸の軍事国家が到底太刀打ちできるものでもないんだ。」

「やはり、教会はこの帝国にとって目の上のコブなようですね?」

「ああ、それについては後々話すつもりだけどな。まずは、食事でも始めるとしようか。」

「いいでしょう。」


 バルカンが合図をすると早速料理が運ばれてきた。ここの料理を堪能すること自体が数週間ぶりだったため、どれもこれも新鮮に思えた。料理に舌鼓を打ちながら満足そうに頬張る私を三人は食事をとりつつも凝視していた。


 そして、頃合いを見計らってバルカンは話し始めた。


「そろそろ本題の一部については話させてもらおう。君は、このエデンで種族差別が横行している理由について探し求めている、そうだったな?」

「ええ、そのために放浪の旅をし、この帝都まで来ました。教会にわざと捕まって宗教裁判を受けることすらも検討した上で。」

「で、処刑される際にしれっと逃げるつもりだったんだろ?」

「そうですね、その程度のこと造作もないですし。」

「そこまで教会を手玉に取れる自信があるとは末恐ろしいな…まだ三歳児にしか見えないのに。」

「亜人がここまで虐げられる光景を見ていなかったらまた違った行動をとったかもしれないですけどね。」

「まあこの国も教会の監視下にある以上表向き人間族以外を排斥するのはしているし、それを抜きにしても亜人を虐げてうまい汁を吸いたがる性根が腐ったのとかあるいは熱烈な信者とかいたりもするからな…。そのせいで私の計画の一部はいまだに実行に移せずにいたくらいだしな。」

「以前にも話していた人間と亜人との垣根を破壊して等しく戦闘能力を磨き、国力を増加させて帝国を発展させる目標ですね?」

「その通りだ。創世神ディアナに祈っていれば強くなれるのか?大切なものを守ることができるのか?人間族だけを神聖視することでディアナが恩恵を与えてくれるのか?祈ることで強くなれるなら、あるいは、亜人を排斥することで全ての物事が解決するなら我々とて甘んじていただろう。

 けれども、現実問題としてそんなのは夢物語でしかない。そんな時間の無駄になるようなことをするくらいならば個々人が戦う力や大切なものを守る力をもっとつけるべきだ。そういう理念を持った人々がこの国を建国したのが軍事国家マリーシャス帝国の始まりだ。教会の根拠のない戒律に縛られるのはまっぴらだと考えた人々が種族を問わずここに逃げてきたからこそこの国はできた。

 しかし、所詮は束の間の抵抗でしかなかった。建国されたマリーシャス帝国にも創神教の手先のものは介入し、我が国にも布教し、教会を建てさせ、戒律を守らせ、亜人差別を当たり前のようにした。種族の区別なく世界と戦える国はその目標を果たす前に牛耳られてしまったのだ。」

「この国にはそういう経緯があったんですね…。ですが、教会の権威ってそんなにも強いんですか?」

「資金面というのでも強いけれども、その宗教に心酔している国家が同盟を結んでいるからこそ戒律に背く国家が出た時には聖戦という名の粛清が行われることもざらにある。過去にもこの国と同じ経緯で教会に背く国が作られたこともあったけれども、そのことごとくがそれらの連合国軍によって蹂躙された。

 バックについているのはロドワール大陸最大の宗教国家ディザイア。各国の教会に集められた寄付という名の血税をしこたま溜め込んでそれらの同盟国に武器や戦争資金、はたまた兵士や捨て駒としての奴隷を提供している。だからこそ、誰も抵抗できるものはいなかったんだ。創神教とそれを心酔する連合国家にはな…。」


 desire(欲望)とはまた皮肉な名前の国だ。国のあり方そのものがまさに人の欲望をそのまま具現化しているかのようではないか。


「その宗教ってどんなものなんですか?」

「名前の通り創世の女神ディアナを信仰する宗教だ。このエデンに転生してきたなら君もどういう風に転生してきたのかは知っているだろう?女神ディアナの前で転生の呪文を唱えてもらい、加護を授けてもらって、望んだ性別や肉体でこの世に生を受ける。そのディアナの行い、あるいは慈悲に対して感謝し、彼女を信仰し、供物を捧げて祈るというのが元々の教義だった。

 しかし、時代の流れとともに、この宗教が変質していった。ディアナの姿と似通っている人間族こそが最も優れた種族であり、それ以外の種族は下等種、ないし劣等種と呼ばれ、亜人なんていう呼び名をつけられて差別されるのが当たり前のようになった。

 もちろん、当初からそれに対しての反対とか非難とかもあった。けれども、その教義を都合のいいように解釈した一部の人間族の者たちが今の総本山ディザイア教国に宗教国家を設立し、その歪んだ教義を各国に浸透させていった。人間族にとって都合のいい在り方だからこそ、人間族を中心に凄まじいスピードで信者が増えていき、何の罪もない亜人たちを虐げ、知識を奪い取り、資金を独占していくことを繰り返していくうちに、今のエデンが出来上がってしまったわけだ。こうした経緯もあって、今でも種族差別が横行している。

 で、君も聞いたこともある悪魔の子とか忌子という言葉だけれども、これもまた彼らの教義の一つだ。崇拝する女神ディアナの名前を賜ってもいいのは人間族の女性のみ。それ以外の亜人の劣等種に名前が与えられようものなら、それは女神ディアナを信仰していない不届きものであり、速やかに名付け親共々粛清するのがディアナ様への贖罪だと教え伝えられているわけだ。そういう事情も相まって、君と出会った時にも、捕らえて教会に突き出すこと自体が我々の義務だとして捕まえようとしたわけだ。

 だが、君はこれまで出会ってきた忌子とは違うようだ。イシスをやすやすと屈服させてしまったし、おそらくレジーナの家を襲撃したのも君なのだろう?」

「お見通しのようですね…ええ、ジャングルの中を歩いていたら部隊長のボリスにそこまで連れて行かれ、レジーナ少将のところに連れて行かれました。最も、彼女たちは私が倒したのではなく、自滅しただけですけどね…。」

「どういうことだ?」

「バルカンさんの推測は正しいです。私の本来のステータスはこんなものではありません。本来の能力値が適用された結果、彼女たちの攻撃力を私の防御力が上回ってしまったため、攻撃した彼女自身に全部返ってきてしまっただけです。かといって、目的が達成されるまでは正体がバレるわけにも行かなかったため彼女たちが倒れた後記憶を消して改竄して逃走しました。」

「冗談だと思っていたが、本当に君の仕業だったとはね…。しかも記憶まで改竄するとは…イシスでもそんなことできんぞ?ステータスの改竄といい、何の魔法を使ったらそうなるんだ?」

「それについてはお答え致しかねます。それに、そのことは今行おうとしている取引の内容とは関係しないでしょう?」

「それもそうだな。まあとにかく、君が旅に出てまで知りたかった疑問の答えはこれで話したと思うが、質問事項はあるか?」

「そうですね、まだこのエデンの地理とかについてはよくわからないのですけれども、ディザイア教国は北半球のロドワール大陸のどこにあるんですか?」

「ロドワール大陸はこのマリーシャス帝国のあるアルモネア大陸の正反対にある。その大陸の南部を中心に大半を統治しているのがその国だ。各国の教会から巻き上げた上納金とその大陸にある資源そのものとで潤い、最も財力がある国家とも言われているし、隷属させられている亜人の数もこの国の比ではない。経済力でも、武力でも、どんな国家も太刀打ちできないとまで言われているこの世界の最強の国家だ。それに、イシスと同じ大賢者があの国には十人もいるし、私のような魔剣士も粒ぞろいだ。それこそ、五十人は揃っているだろう。そんな国と真っ向から戦争したいなんて思う国はよほど酔狂な国か、権力者が自棄になったかとしか言いようがないくらいだ。」

「つまり、その国を焼き滅ぼしてしまえば万事解決ですね?」

「君にそんなことができるのか?」

「その気になればエデンごと消滅させられますよ?」

「嘘…でしょ…!?大賢者でもそんなことできないのに…!!」

「それが君の本気か…。悪い夢でも見てるようだな…。たとえ君にそれができたとしてもして欲しくないけどな…。」

「どうしてですか?元凶を潰せばその程度の支配構造なんて瓦解させられますよ?」

「大勢の罪もない亜人が道連れになってもか?」

「なるほど、冷酷な方だと思っていましたけれども結構人情深かったんですね…。それができたとしてもしないのは彼らを殺さずに解放するため。でしょう?」

「ああ。生まれた時から奴隷となっている彼らもまた救い出し、そして私の庇護下で人間らしい生き方をしてほしいと思っている。それこそ、私が転生する前にディアナ様が願っていたようにな…。」


 バルカンは転生前の記憶がある程度残っているようだ。だからこそ、エデンが実際にこうなってしまっていることに憤りを感じ、水面下で動いたり、世界を変えるために若くして元帥の地位を手に入れたりしていたのかもしれない。となれば、彼は教会が脅威ではないと判断できた時には、私との残りの約束も、迷わず履行してくれるだろう。だったら彼を信じて真実を見せてあげるのも悪くないかもしれない。


「バルカンさんの心意気はよくわかりました。そうした理念のもとに世界を変えたいを考えているのでしたら、私としても協力は惜しみません。それと、あなたは信頼できる相手だと判断しました。ですので、もし口外しないと約束できるのでしたら、私の正体をお見せします。」

「やはり、君は正体を隠していたのだな…?」

「ええ。本来のステータスを見られてしまったら騒ぎになりますから。トゥルー・ステータス・オープン。」


 そう話すと、私は改竄する前の本来のステータスを見せた。


ーーSTATUSーーーーーーーーーーーーーーー

Name:ディアナ・アニマ

Gender:女性

LV:9999

HP:9999999999/9999999999

MP:9999999999/9999999999

EXP:999999999999999/999999999999999

ATK:999999

MATK:999999

DEF:999999

MDEF:999999

STR:999999

DEX:999999

INT:999999

LUC:999999

Job:創世神

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Skill:剣術LV.10 弓術LV.10 槍術LV.10

 棒術LV.10 双剣術LV.10 徒手空拳LV.10

 斧術LV.10 槌術LV.10 騎馬術LV.10

 火魔法LV.EX 水魔法LV.EX 土魔法LV.EX

 風魔法LV.EX 氷魔法LV.EX 雷魔法LV.EX

 光魔法LV.EX 闇魔法LV.EX 空間魔法LV.EX

 無属性魔法LV.EX 回復魔法LV.EX

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Blessing:オブジェクトクリエイション

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Equipment:パーカーワンピース(白)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私の本来のステータスを見た瞬間、三人は息を呑んだ。彼らの目の前に表示されたのは全ての項目がカンストしてしまった能力値、そして何より、Job欄に表示された創世神の文字。恐る恐るバルカンが声をかけた。


「…つまり…あなたは…ディアナ様本人…だったのですか…?」

「嘘…ですよね…?私…女神様に何度も失礼な真似を…!?」

「そんな…ディアナ様が獣人に転生して…!?」

「本当は私もそんな予定ではなかったんですよ。ですけれども、儀式の最中に事故が起きまして、術者の私が間違って転生してしまったんです。私がディアナ本人であることは間違いありません。最も、それを知るのはこの場にいるあなた方だけにとどめておいていただきたいところですが…。それと、こういう場でしたらいいですけども、人の目がある時には私のことは普通の子供と同等に扱っていただければと思います。でないと怪しまれますので。」

「承知いたしました…。まさか、ディアナ様がエデンにいるなんて…。」

「お会いできて光栄です女神様…。先ほどは何度も失礼な真似をしてしまい申し訳ありませんでした…。」

「我々一同、女神様に忠誠を誓わせていただきます…。」

「気にする必要はありませんよ?皆様にバレていなければ私はまた気ままに旅をするだけでしたし。」


 すると、おもむろに三人揃って席を立ち、私の前で片膝をついて深々とお辞儀をした。


「敬愛する女神様にお会いできて光栄です。我々一同、エデンが女神様の描く楽園に戻るよう誠心誠意力を尽くさせていただきます。ディアナ様が望まれた奴隷の開放から早急に応対させていただきます。どうか、我々と共にこの楽園の浄化にご協力ください。」

「「お願いいたします!!」」

「頭をお上げください。元よりその予定でした。皆様が協力してくださるのでしたら私としてもこれほどありがたいことはありません。是非とも、エデンをあるべき形にいたしましょう。」

「「「仰せのままに!!」」」


 帝国のトップ3が私の舎弟になるとは思わなかった。思わぬ助っ人を手に入れた私は今後もしばらくマリーシャス帝国に滞在し、この国の亜人差別が撤廃された段階で国外にも行ってみようかなあと考えつつもエデンをあるべき形に戻す計画を頭の中で考えるのだった。

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