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選ばれざる者  作者: ボールペン
[第一部:孤独な姫]第一話 お姫様を救い出せ
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6.心変わり

 非常に入り組んだ岩山の、遭難したくらいに奥深くまで入り込んだその先。二人は、ようやくひとつの洞窟の入り口を見つけた。

 巨大な一枚岩が重なり合ったその真ん中にできた洞窟は、まるでピュライ山脈の口のようで、中の方は光が届かないくらい奥まで続いているようだった。


「あれだな。間違いねえ」


 ゾヴュラが指さしたその先。足場となる岩場には、巨大な傷痕がいくつも残されており、またそこには色んな道具の残骸が散乱していた。


「これは・・・・」


「キャスティラの国章だ。ここで争ったんだろ」


 鉄板の破片や、布切れが散らかっている一方、白骨の欠片も散見された。恐らくは、キャスティラ王国騎士団のものだろう。王女救出に向かい全滅したという話であったが、周囲の岩場に刻まれた巨大な傷痕からも、ここで交戦したのは間違いなさそうであった。


「ってことは、この奥に・・・」


「だろうな」


 洞窟の中からは、物音ひとつ聴こえなかった。風を感じないあたり、吹き抜けではなく行き止まりになっているようだ。


「モンスターの気配も感じない・・・。

 今がまさに留守なのかな・・・?」


 モンスターの正体がドラゴンでなかったとしても、あれだけの力を持っているのだ。その体躯は巨大なものに違いない。とすれば、その息遣いなり足音なり聴こえてきそうなものだが、全くといっていいほど感じられなかった。

 しかし、カインがそうして洞窟の中の様子を窺っている最中だった。突如、ゾヴュラは信じられない発言をしてきた。




「・・・カイン、ここから先はお前独りで行け」




「――――え?」


 突き放すような言葉に、カインは思わずゾヴュラの方を振り向いた。


「どういう・・・?」


「今が留守なら、ここを逃す手はねえ。入り口は俺が見といてやるからよ。

 お前が姫さんを助けに行け」


 ゾヴュラの表情は、真剣そのものだった。いつもの冗談交じりのへらへらした顔ではなく、何か、重大なものを抱えているかのような。

 そんな彼の様子に、カインは漠然とした不安を感じた。


「どうして・・・?

 一緒に行けばいいでしょ・・・?」


「ダメだ」


 わずかに震えながらも、絞り出した声で反論する。しかし、ゾヴュラは二つ返事で断ってしまった。


「お前が決めたことだ。お前が果たせ。

 いいか、ここが正念場だぜ」


 明らかに、ゾヴュラの様子がおかしい。真面目なときは冗談一つ通じなくなることもあったが、それにしてもタイミングも、何もかもがおかしかった。普段とは違う、言葉では言い表せられない、得も言われぬ違和感があった。


「・・・ゾヴュラ。一緒に行こう。

 一緒に、王女様を助けよう」


 再度、協力を求めた。しかし、ゾヴュラは何も言わずに首を横に振った。


「カイン、俺ぁ夢を見たんだ。

 青髪の女が出て来る夢を」


「・・・どうして、今それを?」


 ここに来て、ゾヴュラは突然話題を変えた。狼狽えるカインをよそに、彼は数日前に語っていた夢の話を躊躇なく続けた。


「青髪の女の夢は前々から何度も見ていてな。だが、肝心の女の言葉だけが思い出せなかったんだ。

 ――――それを、今思い出したんだよ」


「何を言っているんだ・・・?」


 ゾヴュラは、背中に差した剣をそっと抜いた。


「ほら、さっさと行け。

 奥に行って、姫さんを連れ出してくるだけだ。簡単だろうが。

 行かねえんならその腕、斬り落としちまうぞ」


 そう言って、ゾヴュラは軽く剣を振り始めた。そして一歩ずつカインに近づき、カインは思わずじりじりと後ろへ下がった。下がるしかなかった。背後の、巨大な洞窟に入るように。


「ゾヴュラ・・・」


「・・・ったく、さっさと行ってこい!

 無駄な時間喰ってんじゃねえ!

 お前が戻ってきたらさっさと下山するぞこんな山!」


 洞窟に半身を踏み入れて尚躊躇するカインを、いい加減にイラついたのか、ゾヴュラは思い切り蹴飛ばした。何も構えていなかったせいで、ノーバウンドで二、三メートルほど吹っ飛んだカインは痛みに顔を歪ませたが、それでもすぐに立ち上がった。


「ゾヴュラ!」


 尚も、カインはその名を叫んだ。しかしゾヴュラは、もう二度と振り返ることは無かった。あまりに理解のできない彼の心情変化に納得がいかないながらも、彼の言う通り今がチャンスなことに間違いはない。

 カインは深いため息をひとつ、仕方なく意を決して、洞窟の奥へと歩を進めることにした。





 漠然とした不安を、胸に宿したまま。


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