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選ばれざる者  作者: ボールペン
[第一部:孤独な姫]第一話 お姫様を救い出せ
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2.中年剣士と少年剣士

 キャスティラ王宮から三〇〇キロほど西北西に進んだところに、目的地であるピュライ山脈は位置している。広場を後にした猛者たちは、自分の馬で行ったり、行商の馬車に載せてもらったりと様々な方法で、その目的地へと向かっていった。

 そんな中、一足出遅れて、中年剣士ゾヴュラは王国城下町を発った。他の猛者たちよりも一週間も遅れた出発であった。


「いくら馬で行くとはいえ、そんなにのんびりでいいの・・・?!

 お姫様、いつ殺されてしまうかも分からないのに?!」


 彼と共に旅をする少年カインは、あくびをしながら手綱を握るゾヴュラに不安そうに何度も尋ねた。


「いいんだよ、焦んなくて。

 どうせ急いで行ったって、他の奴らと争うだけだ。なら、のんびり行こうぜ」


 か弱い一国の王女がたった一人でモンスターに攫われているというのに、何故この男はこんなにも一刻を争う状況に無頓着なのか。


「大体な、何度も軍を送って返り討ちに遭って、その上俺らみたいな流浪の旅人にまで助けを求めてんだぜ?

 てことは、モンスターはもちろん姫さんも無事なんだろ」


 イグナティウスは、『姫の奪還』が何よりも優先すべきと言っていた。つまり、彼らに募集をかけた時点では、とりあえず姫の無事自体は確認できていたのだろう。


「だからって、悠長にする理由にはならないだろう?!

 どれだけ精神を摩耗していることか・・・」


「なんだ、カイン。お前さん、随分お姫様に肩入れするじゃねえか。

 まだ会ったことも、顔を見たことすらもないくせによ」


 憔悴するカインを、ゾヴュラは笑いながら茶化した。


「笑い事じゃないよ!

 珍しく人助けに乗り気になったかと思えば・・・!」


 焦燥に駆られる彼を、ゾヴュラはまあまあと諫めた。


「まあ、今回はちょいと気になることがあったもんでな。

 正直言って姫さんが無事だろうがキャスティラの国がどうなろうが俺ぁ知ったこっちゃねえからな」


 ゾヴュラの軽口に、カインは深く溜め息をついた。






「夢を見てな」


 夜。まだまだ山脈までは遠く、その道中で二人は野宿をしていた。元々ピュライ山脈を越えて東からこのキャスティラ王国へと来たものだから、二人はいわば旅路における復路を進んでいるようなものだった。


「夢?」


 ゾヴュラのふとした言葉に、カインは思わず振り返った。


「ああ、夢だ。なんとも言えん、奇妙な・・・、な」


 ゾヴュラは焚火の前で焼いたシカ肉を頬張りながら、カインとは目を合わせないまま続けた。


「青い髪の女が、俺の目の前に立っていたんだ。俺は指一本動かせなくて、ただその女を地面に仰向けに寝転んだまま見上げることしかできなかった」


 こういう話をするとき、大体ゾヴュラは、半分以上は話を盛ったり冗談を混ぜたりするため、いつもはカインも話半分に聴いていたのだが、今こうして話している彼の表情は真剣そのものだった。


「動けない俺の目の前に、その青髪の女はしゃがみ込んでな、そっと俺の頬を撫でたんだよ。そんで、静かに微笑んでな、何かを呟いたんだ。

 何かは聞き取れなくてわかんなかったんだけどよ、やけにその光景が鮮明に頭に残ってんだ」


「・・・何かの暗示なのかな」


 肉の部分を食い尽くし、骨をしゃぶりながら彼はふと頭上に広がる美しい星々の輝く夜空を見上げた。


「・・・さあな。

 なんかその前後もあった気がするんだが、忘れちまった。あまりにその青髪の女が、いい女だったもんでよ」


「・・・はぁ。

 真面目に聴いて損した」


 結局この流れである。ゾヴュラはいつも、くだらない冗談か女性関係の下世話な話しかしない。だからこそ神妙な顔で夢について話し始めたのが珍しく、真剣に聴いていたというのに。

 すっかりゾヴュラの話に呆れてしまったカインは、その後も滔々とくだらない冗談を語る彼をよそに、さっさと床に就いてしまった。


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