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風が通り抜ける街  作者: よしやる夫
9/16

知らない世界

翌朝、自分のベットで目が覚めた。


時計を見ると10時を過ぎていた。

まあ休みだし、遅く起きてもいいよね。


今日は北川さんと出掛ける約束をしていたが、話をちゃんと出来て居なかった。

その事に気付き、リビングに行ったが朝食だけが置いてあり誰も居なかった。


部屋に居るのかなと思い、北川さんに使ってもらってる部屋のドアをノックした。


「北川さん居る?」


「い、居るけど開けないで!」


「わかった、話があるから終わったらリビングに来てね」


「うん、待っててね」


何してるんだろう、気になるよ。

リビングに戻ると秋が入ってきた。

うちの親が何かの時にって秋に合鍵を渡している。


「いーつきくーん!」


「はーあーい」


「元気だったか?」


「あぁ、それなりにな。詩音のご飯めっちゃ美味しいし最高。」


「橘と距離が縮まってるな」


「いや、そんなんじゃねえけど」


「まあ、いつきにはいい事だ。精進しろよ!」


茶化すな、俺には好きな人が居る。


「そんな事より部活は今日休みかよ」


「あぁ、顧問が体調崩してどうとかって」


「そうか、それで急に休みになったりしてたのか」

うちの学校は顧問がいない場合、部活は休みになる。

厳しくもあるが、責任問題の事はわからん。


「そういえば2人はどうした?」


「わからない、今起きたばっかりだから」


と、話していると


「いつきくんお待たせ〜」


ノースリーブのロングスカートがお似合いの北川さんが現れたのである。あまりの可愛さにうべろべろとなってしまったが…あれ、お化粧もしてるじゃないの。めんげえ事この上ねえな。


「い、いや、全然。今日どうするか話ししたくて…」


「うん、折角だからみんなで行こうって事になってね?2人は今準備中…って、あ、こちらは?」


秋に気付いて視線を送った。


「あ、こいつは俺の幼馴染みで隣の家の東雲秋だ」


秋が完全に止まってる。


「お〜い、秋〜」


「きたがわ…はるな…」


「なんで秋が知ってんだよ!」

ついツッコミを入れてしまった。

この辺では有名な方なんですか?可愛いもんね。


「いつだ…いつ知り合ったんだ!?いつき!お前俺が出掛けるなって言った日出かけたのか!?」


凄い剣幕で俺に詰め寄ってきた。


「待てよ落ち着け!どうしたんだよ!」


「って事は出掛けたんだろ!!なんで出かけたんだよ!おい!!お前は!どうしていつもいつも…」


頭を掻き毟り俯く秋の様子から、ただならぬ事情があったのだろうと推測される。


「北川さんごめん、ちょっと部屋で待っててくれる?」


怯えてる様子の北川さんを、一旦避難させようとしたが秋が

「その必要はない。悪かった、俺は帰る」

と言って出て行ってしまった。


どうしたものか…

態度が急変する秋に、思考が追い付かずどうすることもできなかった。


「私…やっぱり…」


「北川さんは何も悪くないよ、秋とちゃんと話すから気にしないで」


「本当にごめんね…」


彼女が何に対して謝ってるのか、俺にはわからなかった。



その後、詩音と由実が降りてきたのでそのまま出掛けた。


映画を観て買い物で色々周った。俺は秋が何に対して怒っているのか、最近様子がおかしかった事と北川さんが何か関係があるのか、そればかりを考えてしまってずっとぼけ〜っとしてた。


「いつき先輩!」


気がつくと、由実と2人きりになって居た。


「あれ、2人は?」


「お手洗いですよ」


「あぁ、そっか」


「そっかじゃないですよ!やっぱり昨日頭打っておかしくなっちゃいましたか?」


「違うんだ、ちょっと考え事をしてた」


「やらしいことでも考えてましたか?」


「そりゃあ男の子だからな」


「うわあ…」


やめろ、哀れみの目で俺を見るな。


「そういえば最近、秋と何かあったか?」


「無いですけど…そういえば昨日も今日も来てないですね」


「今日来たぞ」


「いつのまに!?って事は…秋さんは北川さんに会っちゃいましたかね」


「あぁ…実はな…」

事の経緯を簡単に話した。


俺1人で考えるより、2人で考えた方が何か見えるかもしれないと思った。それに、由実なら少し何かわかるかもしれないと、そう感じたのだ。


「あらま〜、最近様子が変でしたし、私にもさっぱりですね」


「まあそうだよな、相談に乗ってもらってありがとう」


「いいえ、いつき先輩の後輩ですから。これくらいは容易いモノですよ」


「今日秋とちゃんと話してみるよ。今まであそこまで取り乱してる秋を見たことがないからな…」


「見たことがない…ですか…」


真剣な顔をして返事をする由実の顔が、どこか思い詰めてるようなそんな気がした。


「何か知ってるのか?」


「いいえ、私は何も知りませんよ。何も…」


「何かあったらまた相談に乗ってくれるか?」


「勿論ですよ!」


「悪い、俺先帰ってる」


「お2人には伝えておきますです!」


「ありがとう。んじゃ、またな」


「はい!お気を付けて〜」


俺は急いで家に帰った。

早く秋と話さなければならない。そんな気がして、嫌な予感がする。それ以前に、兄弟として育ってきた親友が居なくなってしまうのではないかと不安になって居た。


何も気付けない、鈍感な俺に嫌気が刺したのかもしれない。だから、少しでも早く解決しなければならないと、とにかく急いだ。



五軌が帰ったと同時刻の事。


五軌を見送った由実が、電話を掛けた。

その相手は、東雲秋。


「あ、もしもし、由実です。」


「どうした、電話なんて珍しいな」


「いや〜五軌先輩が、秋先輩とちゃんと話さなきゃって急いで帰って行ったので、教えてあげようと思いまして…」


「そうか…わかった。ありがとう。」


「いえいえ…」


由実が胸の辺りの服を掴み何かを堪えるように言う。


「秋先輩…無理しないでください…」


「俺は大丈夫だよ。心配かけて悪かったな」




電話を切って、元の場所に戻ると2人が待っていた。


「あ!由実ちゃん!どこ行ってたの?いっくんは?」


「ごめんなさい、いつき先輩、急用が出来たって先に帰っちゃいました」


「先に帰るなんて酷い!」


「いつきくんも、いろいろあるから許してあげよ?」


「そうですね、いつも助けてくれるいつき先輩に感謝です」


「甘やかしたらダメ!由実ちゃんの次ははるなちゃんにも変な事するかもしれないんだから!」


いや、由実に関しては常に由実が悪い。



由実は春奈を見つめた。


それに気付いた春奈は、由実に微笑んだ。


なんの微笑みか、解らず、背筋が凍る感覚を覚えた由実だった。



*****************


五軌がバスを降りると、秋からメッセージが届いた。



「「アンカフェにて待つ」」



丁度近くの場所だった。


秋の元へ急いで向かった。



カフェに着き、1番奥の席に秋がいた。


「待たせたな」


「待ち兼ねたぞ、少年」


いつもとなんら変わらない。

少し安心して座った。


すると、秋が突然口を開いた。


「俺は、はるなちゃんが好きだ」


「は?」


「お前が連れてきた、きたがわはるなが好きだ」


違う、そうじゃない。

言ってる意味がわからなかったんだよ。


「だから、俺と彼女が付き合える様に協力してくれないか?」


「なんだそういうことだったのか!最近おかしかったのは思春期の恋の悩みってヤツだな!それなら全然っ…」


いや待て…え、なに?協力?

北川さんと付き合う事に協力しろって?


畳み掛ける様に秋が言う。


「良かった!お前ならわかってくれると信じてた!」


秋と北川さんが、付き合うのを手伝うのか…?

俺が?どうして…

だが、もう断れる様な空気でもなかった。


「その…なんだ…具体的にどうしろって?」


「俺も今日からお前の家で寝泊まりする。そこで上手く2人きりになれる時間を作ってくれ!」


なんだその初歩的な発想は…

ちゃんと考えてんのか?

俺でももっとマシな…思い付かないね。


「ま、まあ、わかった。努力する」


「腫れ物が取れたみたいでスッキリしたよ」


「お前、なんで今まで黙ってたんだ?」


「言っても仕方ないかなって思ったんだよ。だってほら、知らないかなって思って」


「それもそうか、俺ら恋バナとかしねえもんな」


良かった、俺が北川さんを諦めれば友情も崩壊しない。

そう、俺が我慢すればいいだけだ。忘れよう。


「お前コソコソ変な事するなよ?」


「するわけねえだろ、北川さんに興味ねえよ」


五軌がそう言った瞬間、バンっと何かが落ちる音がしたので振り向いた。


「なんで…ここに?」


そこには詩音、由実、そして春奈が居た。


春奈の目から涙が零れ落ちた。


「いや、その今のはちがっ」


「大丈夫、気にしてないよ…大丈夫、聞こえてないから」


春奈は必死に涙を止めようと我慢しようとするが、涙が止まらないと察して外に飛び出してしまった。


「いっくん最低!」

「いつき先輩、今のは流石に…」

と、2人は春奈の後を追いかけて行った。


ここで動揺して秋に悟られるのも良くないと思い咄嗟に秋に言った。

「今がチャンスなんじゃねえの、慰めに行ってこいよ」


秋は暗い顔で「あぁ、わかった」と行ってしまった。


「はあ、これで完全に終わったな…」

と、1人呟いた。


「そうだね、これで仲直りでもして付き合ったらそれはもう運命だね」


聞き覚えのない声が聞こえた。


「ん?」


「相席いいかな、いいよね」


と、スーツを着た金髪青い瞳の美青年が目の前に座ってきた。


「あの…どちら様で?」

その前に勝手に座ってくんなとか独り言に反応するなとか言いたい事が沢山あった。


「ん〜、君は覚えてないのか。僕の名前は大門だいもん たけるだよ。もう忘れないでね」


「あの、俺ら初対面ですよね」


「いいや、会ってるよ。君にとっては…うーん。会ってないって事になるのかな。あ、店員さーん!アイスココアひとつお願いします!」


「すみません、言ってる意味が…」


「ま、そんな細かいこと気にしないでよ」


気にするだろ、そこまで大雑把な人間じゃないぞ。


「君の父親、南野龍二みなみの りゅうじさんは今元気かい?」


「父さんの知り合いっすか?」


「まあ一方的な知り合いかな」


「だからそれどういう…」


「そんな事よりさ、君はあの春奈ちゃんの事もう好きじゃないの?」


こいつ、何をどこまで知ってるんだ。

未知なる人と名付けようかな。


「別に…そんなんじゃないっすよ」


「素直じゃないな〜青春だね〜」


ニコニコしながら煽ってくるな、この時期のメンタルは脆いんだぞ。


「で、大門さん。あなた何者なんですか?」


「ん〜、今の五軌君を沢山見てきた人かな」


「え、ストーカー?」


「ま、いずれ知るときが来るよ。その時まで沢山考えるといい。それじゃ、僕はもう行くよ。ここは僕が」

と1万円を置いて出て行った。


ここは僕がもなにも、注文したのお前だけだよ。


「お待たせしました、アイスココアです」


そういえば注文だけして帰りやがった。

勿体ねえから飲むけども!


しかし、何故こんなにも次から次へと…

父さんの知り合いかも知れないなら、聞いてみるか。


父親に電話をかけた。


「もしもし?父さん」


「なんだ、生活費足りないか?」

いや、心配するところそこかよ。


「いや、聞きたい事があってさ」


「社会行政か?」

まともに話聞けよ。


「…だいもんたけるって人、知ってる?」


「そいつに会ったのか?」


「あぁ、さっき突然絡まれて…」


「そいつに二度と関わるな、いいな?」


「って事は、知り合い?」


「まあ、昔の悪友みたいなもんだ。気にするな」


「わかった、ありがとう」


久しぶりの父との電話であったが、募る話も特にないので電話を切った。


俺は父の事を良く知らない。ほとんど家に帰って来ないし、家で一緒に過ごした記憶もあまり無い。

仕事が忙しいのだろうと思っていたが、実際なんの仕事をしてるのかも知らない。


俺の生きる世界は知らない事で満ちている。

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