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風が通り抜ける街  作者: よしやる夫
7/16

今すぐ会いに来て


気がつくと外は明るくて、キッチンでトントントンと気持ちいい音が聞こえて来た。

橘がご飯を作ってくれていたのだ。


ムクッと立ち上がって顔を洗いに洗面所に向かった。

その道中で橘が太陽のような笑顔で

「いっくん、おはよう!」

と言ってきたので、両手を合わせて拝みながらおはようと返した。


「昨日は先に寝ちゃってごめんね」

ちょっと顔を赤くしながら言ってるの可愛い。


「俺の方こそ遅くまで付き合わせて悪かったな」


「うぅん、楽しかったから!あ、あとね、約束の味噌汁作ってるから早く顔洗ってきて!」


「おう、ありがとう」


ふふーんっと上機嫌な橘、可愛いなあ…

なんて事を思いながら洗面所に向かい歯磨きをして顔を洗った。


「あ、南野先輩おはようございます」


ふわあ〜と由実が入ってきた。


「おはよ、よく眠れたか?」


「はい、おかげさまで」


「良かった、橘が朝食作ってくれてるから顔洗ったら来いよ」


「えっ、本当ですか!?すぐ行きます!」


バシャバシャと顔を洗い始めた。



キッチンに向かい、橘に話しかけた。


「そういえば秋は来たか?」


「うぅん、来てない。今日は部活だって言ってたよ」


「そうか、じゃあ来ないな」


「朝は3人で食べようね」


「そうだな。そういえば、今日の買い物どうする?」


「午後からショッピングモールに行こ!」


「わかった」


「先輩たち、デートですか?」


「いや、買い物をしに行くだけだが」


「由実ちゃんも一緒に行く?」


「私は午後から予定があるので2人で楽しんできてください…」


「おう、わかった」



ただ買い物行くだけだし、特に楽しむようなものでも無い。


橘の素晴らしく美味しいご飯を食べ片付けをして、出掛ける準備を始めた。


由実は夜にまた来ますと言って一度帰って行った。



今日は女の子と2人で出掛けるのだから、隣を歩くにはそれなりの格好をしないとエチケット的によろしく無いだろうと思い久しぶりのコンタクトにヘアーアイロンで髪を伸ばしてワックスを付けてセットした。

普段ダサメガネのもじゃもじゃだが、俺だって身なりをきちんとすればそれなりだ。秋には勝てないけど。


服装もいつものアニTではなく、極普通の格好で(ホストみたいと馬鹿にされがちだが)洒落込む事にした。


12時になるかならないかの時間になったのでリビングに行くと、橘が鼻歌を歌いながら軽く掃除をしている。

だがそこには天使が居た。目玉と心臓が飛び出しそうになったのである。


そう、いつも頭についてる尻尾は1つの筈が、2つになっていたのである…しかもくるくるで可愛い。

あれ、天使がうちに迷い込んだ?何この可愛さ半端ねえよ?

息も〜できないくらい

君に夢中だよ〜

って流れてくるよ。


「え、誰?」

その天使、いや橘は俺に向かって問いかけた。


「お、俺だ…」


「あ、いっくんか…メガネしてないの初めてみた…かも…」


「メガネが俺の本体かよ?それよか昼は外で食べよう」


「そういう訳じゃ…うん、そうだね!行こっか!」



こんな可愛い子とお出掛け出来るのかと、喜びと緊張でおかしくなりそうだった。


玄関で靴を履こうとしたが、スマホを忘れた事に気付き…最後にスマホ触ったのって…そういえば寝落ちしたよな。


ソファに確認しに行くとバッテリー切れの俺のスマホ。

仕方ないから充電して、家に置いていく事に。


「お待たせ」


「うぅん、全然待ってないよ」


「新婚ってこんな感じなんかな」

と言うと、橘は

「じゃあ今日は新婚ごっこしてみる?」

と言うので、あまりの可愛さに思わずうんと言った。


「橘、そういえば今日何買いにいくんだ?」


「さっき言った事もう忘れたの?」

と、両頬をプクーってしながら言うので


「おっふ」


と返した。ダメだ何しても可愛い。


「詩音、でしょ?」


「そうだったな、し、詩音…」


あぁ可愛いなんの間違いでこの子は俺と歩いているんだ?うっかり惚れちゃうよ本当に。


「合格です!今日の買い物なんだけど、誕生日プレゼントを…ね?」


「誰の誕生日だ?」


「秋君がもうすぐ誕生日でしょ?だから、一緒に選んでもらおうと思って」


やっぱり秋ね、うん、秋だよね。


「そっか。まあなんだ、一緒にいいやつ選ぼうな」


俺は特別誕生日に興味がない。男だからというのもあるが、両親や秋以外に特に祝われた記憶がないのでそこまで特別かと言われると疑問である。


「そうだね、うん」


秋も罪作りな男だなあ〜なんて考えて居ると、

「折角新婚ごっこしてるんだし、今日は手を繋いで周ろっか!」

と、妖艶な顔で誘ってくるので


「いやいや、腕組んで歩くべきでしょ」


と冗談のつもりで言ったのだが


「そう、なら腕組みしよ!」

と言って、俺の右腕に抱き付いた。


女というのはわからない、(恐らく)秋に好意を持ちながら他の男にベタベタして…それでいいの?


でもこの可愛い天使を少しの時間でも独り占めできるなら、それはそれでいいのかもしれないと思った。


*****************


ショッピングモールについて、先にフードコーナーに行った。昼時は丁度ピークを過ぎた頃。

人が減りつつある中で、うどん屋に入りうどんを食べた。


そして、雑貨屋が集う場所に移動して、物色開始。

「大凡何にするか決めてるのか?」


「何も決めてないよ、いっくんと決めようと思ったから」


「そうか、俺プレゼントのセンス凄いから任せろ」


「うん、頼もしいね!」


「泥舟に乗ったつもりでいてくれ」


「わーい!」


そこはツッコムところだぞ。


「いっくんだったらさ、何が欲しい?」


「俺は…」

特に物欲もないし、必要なものは自分で買ってしまう。

俺がずっと欲しかった物…


「忘れられないくらい嬉しい思い出かな」


「なにそれ、だっさい」


「ばっかロマンチストと言え」


「ふぅーん、そうなんだ〜」

人差し指を唇に当て、上に視線を送る姿が可愛い。


「因みに秋は青いもじゃもじゃのキャラが好きだぞ」


「それならあれとかどう?」


ビッグサイズの青モジャのモンスターのぬいぐるみを指差した。


「そうそう、あれあれ」


じゃあこれにしましょうと手に取ろうとしていたが、俺はたまたま値段が目に入った。


¥35,000


高くね?てか、その金額持ってんの?

と思い、その事を伝えた。


「詩音、これ凄え高いぞ」


「あ、本当だ!これ凄くいいと思ったんだけど…」


シュンとなる天使を、へへっ可愛いと眺めつつ言った。


「半分俺が出すよ」


「え?でも…」


「秋に誕プレ考えんの面倒だし、これが2人からのプレゼントって事にすりゃいいだろ」


「い、いいの?」


「あぁ、男に二言はない」


「ありがとう、いっくん」


「それに今日は新婚だしな」


と、顔を近づけて茶化してみた。


詩音は顔を真っ赤にしてプルプル震えて顔を逸らした。


そんなに嫌だった?口臭かった?ごめんね?さっきのネギか?こっちまで恥ずかしくなってきた…


会計を済ませて流石に持って帰るわけにもいかない大きさだったので、配達してもらう事にした。


住所やらなんやらを書いてるうちに、詩音がトイレに行くと言って行ってしまった。


「これでよし」


「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」


会釈して近くのベンチに座った。

スマホが無いのでこういう時暇だ。


5分待っても10分待ってもなかなか戻って来ないので、心配になってきた。

迷子か?と思い辺りを散策する事に。


「やめてください!」


と、大きな声が聞こえてきた。


大学生くらいの男集団に女の子2人が囲まれていた。


「ねえ、少しくらいいいよね〜」


「俺たちとカラオケ行こうよ〜ブチ上がるからマジで〜」


何がブチ上がるんだ、もうこういうの勘弁して…

今年入ってから治安悪いよ。

てか、詩音じゃないあれ。そうだよ、詩音だよ。


あいつら許すまじ、ぶちのめしたるばい!


俺は死角から大きい声で叫んだ。

「警備員さん!こっちでーす!!」


大学生の集団は、舌打ちをして冷めただのなんだの言って散った。


「怖かったぁ〜」

と、詩音がへたり込む。


「よく頑張ったな、立てるか?」


手を差し伸べた俺に気付いて、詩音の目から涙が溢れた。


「いっぐん、だずげでぐれでありがどおお」


と、抱き付いてきた。

当たってます、色々当たってます。


頭をポンポンと撫でて

「もう大丈夫だ」

くらいの事しか言えなかった。


少しして詩音は落ち着きを取り戻した。



「何があったんだ?」


「それがね、この子があの人達に無理矢理連れて行かれそうになってて…嫌がってるからやめてくださいって、私が割り込んだの…」


「それであの始末か…」


「凄く怖かったよ」


「そうだよな。でもよく頑張った。流石詩音だ、偉いぞ」


えへへと照れる詩音が可愛い。



「ところで君…立てる?」


座り込む黒髪の少女に話しかけた。


「は、はい…もう大丈夫…です」


どこかで聞いた事ある声だなあ…

なんて思って居ると、少女は


「北川さん!?」


「いつきくん!?」


「え?え?」


詩音は何?何?という感じだが、俺も何?何で?という状況だった。


「また男の人に襲われそうになってるところ、助けてもらっちゃったね…」


襲われ過ぎじゃない?これから先大丈夫?


「今回は詩音が…だけどね」


「いっくんどういう関係なの?詳しく説明して」


なんか怖いよ詩音…


「一昨日くらいに、北川さんが道端で襲われそうになってる所に偶然遭遇したんだ」


「それで、助けてもらったの」


簡潔に言えばそれだけの関係だ。

それ以上でもそれ以下でもないと思う。


「本当にそれだけ?いっくん!」


え、なんか怖いよどうしたの?


「いや、まあ、たまにメッセージとかやり取りするくらいかな…」


「あっそ!」


詩音は何をそんなに…


北川さんに詩音は近寄り、怪我の確認などして居るが特に何も無い様だった。


ベンチに2人を座らせ、目の前のはいからなスタバで横文字の難しい注文をした。

大きさ選ぶ時大中小じゃダメなん?

トールとスモールとジャスティスだっけ?


2人になんちゃらショコラなんちゃらを渡した。


「また助けてもらっちゃったね…」


「今回は詩音に感謝だな」


「私は何も…巻き込まれて終わっただけだし…」


「詩音さん、ありがとうございます」


深々と頭を下げる北川さんに


「全然気にしないで北川さん」


手をパタパタさせている。

ついでに頭の二本の尻尾もパタパタしている。

きっと嬉しいのだろう。


「北川さんは今日1人できたのか?」


「うん、ちょっと買い物をしに…」


「俺らは丁度終わったところだし、用事が済んでたら家まで送ってくぞ」


「その、まだ終わって無くて…1人で帰れるから大丈夫」


「北川さん、またあの人達に絡まれたらめんどくさいよ?」


「そうだぞ、また誰かが助けるとも限らない」


「私たち買い物くらい付き合うから一緒に帰りましょう」


「ありがとう…2人とも優しいね」


「そ、それほどでも〜」


「ま、私たち新婚なんで」


「ちょっ、そ、あ、その」


「新婚…?付き合ってる…の?」


ただのごっこ遊びです勘違いしないで下さいと言おうとした時、詩音が俺の腕に抱き付き言った。


「うぅん、新婚さん!とにかく新婚さんなの!」


「そ、そうなんだ…お似合いだね」


上手い言葉が見つからなくて、何も言えなかった。

詩音は冗談で言ってるつもりだろうけど側から見たら、どう考えても付き合ってると勘違いしてもおかしくないシチュエーションだ。


「暗くなる前に済ませて帰ろう」


と、この状況を抜け出そうとした。


「その…南野君は…ここで待ってて欲しいな」


あれ?南野君?え、呼び方変わった?


「ど、どうして…かな…」


「し、下着を…か、買いに来た…から」


「いっくん変態!」


「いや知らなかったんだごめん!」


2人は仲良く行ってしまった。

詩音の同性とすぐ仲良くなってしまうスキルに感動を覚えた。


*****************


買い物が終わって、戻ってきたようだ。


「お待たせ〜」


「おう、行くか」


「あの、家までじゃなくても…」


「いいよ、気にしなくて」


「う、うん、ありがとう」


俯いて顔はよく見えないが、可愛いなあ北川さん。


3人は、バス停に行った。

北川さんを送るのはちょっとだけ遠回りすれば問題ない。


しかし、こんな可愛い子と付き合っても何したらいいかわからんよなあ。でも今日会えてラッキーだったな。

俺今、リア充なのかもしれないな。

そういえば北川さんに彼氏っているのか?

可愛いからいる確率の方が高いだろう。

聞いてみるか?え、どうしよう、きょどりそう。

まあ死ぬわけじゃないし聞いてみるか。


「き、北川さんってさ…その、か、か、彼氏とかってい、いるの?」


彼氏とかって何だよ。彼氏以外になにがあるんだよ。


「わ、わ、わ、私彼氏とかは全然居ないです!」

両手をブンブン振って否定する。


「そ、そうなんだあ…あはは…」


居るとか言われたら死ぬところだったー…

心臓がドクンドクン脈打ってるのがわかる。


「いっくん、私という人が居ながらナンパするの?」


そういう関係だっけ?


「今日は新婚でしょ?」


「いやこれはそのあれであれなんだよ」


「なぁに?」


「なんでもございません…」


北川さんが、クスクス笑いながら言った。

「2人とも仲良いね。ほら、バスきたよ!」


北川さん助けてくれてありがとう。

バスにも感謝しつつ、最寄りのバス停まで揺られた。


なんで俺が真ん中に座ってんだろ。

詩音はなんか不機嫌だし、北川さんと会話とか緊張するしどうしよう。


うーん、気不味いなあ〜なんて思ってたら、詩音の頭が俺の肩に乗った。あー良い匂い。

男は9割匂いで堕ちると言っても過言じゃない。


「詩音寝ちゃったな」


「怖い思いさせちゃったし…疲れても仕方ないよね」


「北川さんだって、怖い思いしたんだし無理しないでね」


「いつきくんと会うあの日から、不幸の連続なんだよ」


「それ俺のせい?」


「そうだよ?責任取ってね」


責任って…結婚する?


「出来る限りのことはするよ」


「じゃあさ、私もお家に泊めて欲しいな」


「詩音から聞いたのか?」


「うん、楽しそうだなって…ダメだよね、よく知りもしない人泊めるなんて」


「北川さんならいつでも歓迎だぞ」


「無理しないで?冗談だから、あ、あはは…」


「今更1人や2人増えた所で変わらないって」


「本当に?」


「あぁ、本当だ」


昨日から急展開過ぎるけど、時の流れに身を任せよう。

来るもの拒まず、去る者追わず。一期一会だから!下心とか別にないもんね!


「今日から来るか?」


「うん!行く!!」


可愛いなあ、お人形さんかよ。

頬っぺた触りたい、お鼻が可愛い、唇綺麗、この角度よく見える。


「家に着いたらすぐ準備するね!」


「わかった、一応親には連絡しといたら?」


「それは必要ないかな…家にほとんど帰ってこないし、生活費とかは振り込んで貰ってるんだ」


「そっか、まあ、そこは任せるよ」


人様の家庭の事情に口出しする必要もあるまい。


「楽しみだなあ〜」


「俺もだよ」


夕陽に照らされて赤くなってるのか、照れて赤くなってるのかわからないが、心臓が止まりそうな程綺麗に笑う彼女に心も時間も何もかも奪われてしまった。


今日から少しの間、毎日彼女と会える嬉しさが余計に高まった。


ずっと側に居られたらいいのに。



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