恋を知る
本当に何が起きてるのかわからなかった。
性格も良し、見た目も良しの完璧超人の自慢の親友の秋がここまで様子がおかしいのには訳があるのだろうと思った。
家が隣同士で、兄弟みたいに育ってきたヤツだからその異変には気付いた。
「わかった、秋がそこまでいうなら今日は素直に帰ろう」
安堵した顔で「本当にごめんな」
とだけ言いながら歩き始める秋。
由実も少し悩んでいる様だったが、
「まあ急ぎじゃないから」
と、平然と歩き始める。
「しかし秋、今日何かあったのか?心配だぞ?」
気にしない訳にもいかない。
「…お……がいっ……だろ…」
何か秋がボソッと行ったがよく聞き取れなかった。
「悪い、なんて?」
聞き返すと
「なんでもないんだ、空気悪くしてごめんな」
笑って見せる秋。
偶然にも、由実の家も俺たちの家から結構近い。
高校生になってから一緒に帰る様になった。
中学時代とかほとんど接点が無かったが
ある事がきっかけに一緒に帰る様になってから仲良くなった。
微妙な空気の中、由実を送り、家に着いた。
秋は
「今日は出かけるなよ」
とだけ言って、家に入って行った。
「あぁ…」
理解できず、違和感を感じながら家に帰った。
玄関を開けると、母が居た。
「母さん、今日早いね」
「あらおかえり!ふふふ、今日はお父さんとお母さんにとって大切な日よ♫」
何やら浮かれてる。
両親共々、仕事のしすぎで頭やられたか?
「結婚記念日だっけ?」
「よくわかったわね!」
そりゃあ、何となくですけど。
「父さんは?」
「仕事終わったら、現地にそのまま行くって」
現地?お出かけするのか、楽しそうで何より。
「そっか、気を付けてね、母さん」
「ありがとう。そう言えば今日ご飯ないからこれで食べて頂戴」
と言いながら、千円札を渡してくる。
「わかったよ、ありがとう」
「ごめんね、あとよろしく!」
まるで恋する乙女の様な顔で、ウキウキと出掛けて行った。
はあ…俺も恋してぇなあ…
そういえば秋、様子おかしかったよなあ…
なんて考えて居たら
ピロリーン♫
スマホがなった。
由実からのメッセージだ。
「さっきの事、ごめんなさい」
いや、謝るのは俺のほうだ。
秋の対応に困惑して、約束を果たせなかったのだから。
「由実の謝る事じゃない。俺の方こそ悪かったな」
と返信すると、すぐに
可愛らしいキャラクターが土下座しているスタンプが送られてきた。
「どうしたものか…」
と、独り言を呟きソファに寝そべり天井を仰ぐ。
視界が暗くなる…
「…ず、ぁ…いに…て…」
黒髪ロングの可愛い女の子が俺に囁いている…
よく聞き取れない、顔もよく見えない。
「君は誰?」
と聞こうとすると、ソファで寝そべりながら右手を上げているだけだった。
なんだ、夢か。
恋したい欲が強すぎて、こんな状態になるとは…
17歳になろうとしてるのに、なんて事だ。
眠い目を擦って、水でも飲もうとしたら
目を擦った手が濡れていることに気付いた。
あれ?目の周りも濡れてる。
泣いてたのか?恋出来なくて泣いてたのか?
それちょっと悲しくない?
まあ、あくびした時にでも涙が出たのだろうと気にも留めなかった。
時計を見ると20時を回っていた。
腹減ったなあ、と冷蔵庫を見るも何もない。
いつもは作り置きがあるのだが、今日は無いって言ってたっけ。外も暗いし、コンビニ行くか。
特にする事もないので、今日は遠いけど大好きなロースンにいって唐揚げ弁当を食べようと思い外に出た。
愛車の自転車に乗って、ゴーグルの様なサングラスを掛けたいが、暗いし明るくても周りの目が痛いので普通にペダルを漕いだ。
いや、別に某ゲーム7の金髪イケメン主人公に憧れてる訳じゃないよ。いや、憧れてるわ。
沢山の剣を収納したバイクに乗りたいな。
などと、しょうもない事を考えながらコンビニに着いた。
「は、半額だと!?」
唐揚げ弁当が半額だったのである、即買い。
麦茶も買って、後は帰るだけ…
と、店を出て自転車に乗ろうとした時。
「ねえ、お嬢ちゃん可愛いねぇ」
気持ち悪いおじさんの声。
ナンパか?この辺りは明るいし治安も悪い訳じゃないが…
高校生くらいの女の子が、中高年ほどの男に絡まれていた。
「お嬢ちゃん、これからおじさんと遊ぼうよ」
いや、何して遊ぶんだよ。
「お金だって沢山あげちゃうよ〜」
いやいやいやいや、それで女の子が堕ちるなら誰も苦労しねえんだわ。
「この辺誰も居ないし、君が大きい声出しても無駄だからね〜」
待て、俺が居るぞ。
てかなに、誘拐でもするの?
と、絡まれてる女の子が口を開けた。
「や、やめてください…」
声を聞いた時、何処かで聞いたような…
何かを思い出しそうになった時、変態おやじがハンカチを取り出して彼女の口に押し付けようとした。
「冗談じゃねえだろ」
と、口から溢れフェンリル…自転車に乗って物凄い勢いで近づいた。
「やべ、とまら…っ」
ガチャーンっ!!!
変な角度で変態おやじに突撃してしまった。
「うぅぅう…ぅうあぁぁあ!!」
変態おやじが唸ってる。
俺も痛えよちくしょー…
だが、我に帰った俺が
「あ!事故ですか!事故ですよね!?警察と救急車呼びますね!!!」
わざとらしく問いかける。
「何してくれたんだクソガキぃぃい!!」
と、怒鳴りつけてきたので
「ごめんなさい、この辺で女の子を誘拐しようとしてる声が聞こえたので!!」
と、返してやった。
女の子は、あまりの恐怖に座り込んでしまっている。
「取り敢えず警察と救急車ですよね!」
早く呼ばなければ、俺は加害者になっちまうからな。
ん、いや、俺も有罪?この年で?まじ?
「や、や、やめろ!警察も救急車も要らない!」
変な声で喚きながら変態おやじは、車に乗って消えてしまった。
「大丈夫?一応警察呼ぶ?」
彼女に声をかけながら手を差し伸べた。
「立てる?」
と聞くと、俺の手をグッと引き彼女に覆いかぶさるように倒れた。
女の子ってこんないい匂いするの?
なんて、ちょっと心臓をバクバクさせながら考えていると
「…った…」
小声で何か言ってる。
「どうした?」
「怖かったの!!!!」
突然の事で、状況がよくわかってなかったが彼女は震えて泣いていた。
起き上がり震えてる彼女をそっと抱きしめた。
震えて泣いてんだもん慰めてあげないとな。
頭ポンポンしてあげてもいいよね、こういう時だし。
彼女が少し落ち着きを取り戻し、取り敢えず明るいところに行こうと言ってコンビニの前のベンチに座らせた。
先程買った麦茶を渡して
「怪我はない?特に何もされてないよね?」
と、問いかけると俯きながら縦に首を振った。
「良かった、ご両親に連絡して迎えに来てもらおう」
と話すと、少し時間を置いて
「親、仕事でいない…」
「そっか、じゃあ俺が家まで送ってあげる」
と言った瞬間彼女が俺の顔を見て
本当に?って顔をした。
「家は、この近くなの?」
「うん」
「よし!じゃあ行こっか!」
と、笑顔で言うと
「ありがとう」
笑顔で彼女はそう言った。
綺麗な黒髪パッツンで、綺麗な目に吸い込まれた、透き通る様な透明な肌や色々な情報が入ってきたが世界が真っ白に見えた。その綺麗な笑顔にぼーっとしてしまった。
「あの…大丈夫?」
俺の顔を覗き込んで心配そうに見てくる綺麗な顔にまた見惚れてしまった。
「あ、う、うん、大丈夫」
いかんいかん、平常心平常心。
俺は自転車を押しながら、彼女の歩幅に合わせて歩いた。無言で歩くのも気不味いので他愛無い会話を試みた。
「君、名前は?」
「北川 春奈だよ。」
うん、可愛い名前。君にぴったりだ。
「いい名前だね、なんかこういい響きだ」
なんというか、うまく言葉に出来なかった。
「なにそれ」
と、彼女は照れたような可愛い笑顔でそう言った。
「君は…いつき…くんだよね?」
「え?なんで知ってんの?実は俺有名人?」
「だって、自転車に書いてあるから…」
ちょー恥ずかしいそれ中学の時のやつ。
今度剥がしておくか…
「そっか、よく見てるね」
クールぶってるけど、めっちゃ恥ずかしい。
学校はどこかとか何年生なのかなどと、当たり障りのない会話をしてると彼女の家に着いた。
「ここが私の家…さっきは本当にありがとう…そのよかったら今度お礼させて?」
と、連絡先を交換してくれと言わんばかりにスマホを取り出して来た。
「お礼なんてたいそうな…それならこれからも仲良くして」とだけ言い俺もスマホを取り出した。
一覧に彼女の名前が増えた事に、ムズムズするような嬉しさがあった。
「何かあったらまた連絡してくれ」
さっきの変態とか色々心配なのでってつもりで言ったのだが、彼女はぷぃっとした顔で
「何か無くちゃ連絡しちゃダメなの?」
と、不機嫌そうに聞いてきた。
「あ、いや、そのあれだ、いつでも連絡してくれ」
その言葉に、喜ぶ様に
「うん、すぐするね!」
と、とても可愛い顔して笑顔で…動きも可愛い…
何もかも可愛いんだけど、なんだこれ。
「うん、それじゃ」
「またね!」
俺は自転車を漕いで家に向かった。
まだ心臓が高鳴っている。
今までなかった高揚感、この嬉しさ。
僕は彼女に、恋をしてしまった。