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chapter4「???」

「そ…そんなこと言われて、はいそうですか、なんて納得出来るはずありません」


「でもそれがどうしよもない現実だよ」


心底悲しそうな声色

これも偽物だと言うのか


「あ、安心して。給料は家族に振り込むから。今日辞めるならそれでも良いけど、自分の死に対して20,000円しか支払われないことになるね。どうせ死にながら生きるのなら、もっと稼いでからにしたらどうかな」


一転して明るい声色と笑顔

どんな神経をしていたらこんなことを笑顔で言えるのか


「キミがこの怪し気な募集に応募してきたのはお金に困っているからだよね」


…それは正しい

家には父親が遺した借金がある

病弱な母の稼ぎでは一生かかっても返せない額だ

そんなことは知らなくても予想くらいは出来るだろう

だが、私がこの募集を見つけたのは単なる偶然

それが仕組まれていたのだとしたら…


この人物が言ったことが本当のことなら、私は辞めると言った瞬間に死ぬだろう

これが現実ではなく実験の一環であるのなら、なんと言うのが正解か

そもそも、どちらかを見極める材料がどこにあるのか

仮想世界が完璧に再現されないとしても、ここに来たのは初めて

なにかを指摘することは難しい

だからこんな誰も来たことがないような―――


…来た?


そうだ、私にはここに来るときの記憶がある

なんなら応募して合格の通知をもらうところから、時系列通りに記憶されている


「ここに来る前から記憶は時系列通りです。そして、無理になにかをしようとするなら乱暴された記憶や、睡眠剤なんかを飲まされた記憶があるはずです」


私が自らの意志で危険なことをするはずがない

それに、そう選択したならしたで、説明された記憶があるはず


「でも私にはそれがない。つまり、この映像は偽物です」


少なくとも私のものではない

ただ…


「なら帰るかい?」


「…ただ、記憶とは非常に曖昧なもので、覚えていたくないことはまるでなかったかのように忘れてしまいます。忘れていることに気付けないほど、見事に綺麗サッパリと」


「信じるのか信じないのか、はっきりしないね。結局どうするのかな」


「この思考実験について解説を願いたいです」


思考実験について知ればなにかの糸口が見つかるかもしれない

今はそれに縋るしかない


「実在する世界は、実はこのような水槽の脳が見ているものではないか?という仮説で、正しい知識とはなにか、意識とは一体なんなのか、といった問題だよ」


「胡蝶の夢…ですか」


蝶になって空を飛ぶ夢を見た

果たして自分は蝶になった夢を見ていたのか

それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか


「胡蝶の夢は物語だけど、似たような問いだね。でも胡蝶の夢は物語の中で結論を出している」


「自分と蝶は形の上で区別されている。しかし、どちらも己であることに変わりはなく、本質的にはどちらも変わりのないもの。…ですね」


「そう。でもね、忘れてはいけないことがあるんだ」


不敵な笑み

一体なにをするつもりだ


「世界5分前仮説だよ」


「…はい?」


なにをするのかと身構えていたのに、世界5分前仮説を忘れてはいけない?

一体それはなんだ


「世界は5分前に出来たという仮説なんだ」


また突拍子もない仮説だ

そういった一見無駄に思える思考や行動が世界を変えることになる

それは分かっている

だが、あまりにも無駄で突拍子もない


「5分以上前の記憶は、言い方は悪いけど捏造されたものということだね。偽の記憶を植え付けられた状態で世界が5分前に始まったのかもしれない。それを誰も否定することは出来ないんだ」


「そうですね。私が言った通り記憶というものは不確かで曖昧なものですから」


誰にも否定は出来ないし、肯定も出来ない

自分という確かなものの不確かさに苦しめられる


「どうするのか改めて聞いても?」


「続けます。借金を返せる額になるか、貴方が必要ないと見限るまで。…精神が持てば良いですが」


仮想の世界だろうと、そうでなかろうと、与えられた自由は自由ではない

今後一切の自由がなくなると考えて良いだろう


私としては真剣に言ったつもりだ

それなのに大きく笑う

涙が出そうなほど、大きく笑う


「何度やってもキミの回答は変わらない」


また…「何度やっても」と言った

一体どういう意味だ

本当にそのままの意味なのか?


脳のことは置いておいて、仮にここが仮想世界だとしよう

そうなると、対面している人物は創造物ということになる

私は改札で会ったときから待ち合わせていた人物が今の姿の人物だと認識している


「あなたは…誰ですか」


この問いにも大笑い


「この実験は100回同じ回答をしたら種明かしすると決めているんだ」


「100回?」


「良いことを教えてあげよう」


口の端が吊り上がる


「今映された脳は人間の脳よりも小さいが紛れもなくキミの脳だ」


「え?どういう…」


「キミはいつから自分を人間だと思っていたんだい?」

「青春代行課-七瀬七都木の青春救出」の#61で語られるエンディングです。#61が更新されるのは9/10になります。良ければ覗いてみて下さい。

次回もうひとつのエンディングを描いて、物語は終焉となります。

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