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chapter2「シュレーディンガーの猫」②

車掌室の前に立ち、ノックをしようとして気付く

考えてほしいと言われたことについて、なにも考えていない


生きているか死んでいるか

つまり毒入りの珈琲を飲んだか飲まなかったか


そんなもの、簡単だ

確認しなければ分からないに決まっている


ドアを開けると、待っていた人物は微笑んで手を振った

猫の柄のカップの方が前に置かれている

毒入り珈琲は兎の柄のカップの方だったらしい

そして、それを飲まなかった


私はそれを残念に思っているのだろうか

自力で逃げられないと分かった以上、この人物から帰る方法を聞き出すしかない

死んでいない方が良いはずなのに


「プラモデル、ありがとう。それで、毒入り珈琲の件はどう考えたのかな」


「確認しなければ分からない。それが結論です」


「その理由は説明出来るかな」


ゆっくりと微笑む

まるで私がこう答えることを予期していたみたい


「例えば、貴方は猫が好きで、私はそれを知っていたとします。私が珈琲を淹れるなら猫のカップの方に入れて誘導することは可能です。でも、兎のカップを選ぶ可能性だって十分あります」


一気に言って、一息つく


「更に言えば、私はどちらに毒が入っているのか知りません。珈琲を淹れたのは助手の方なので、どちらに毒が入っているか知っていたんじゃないですか」


「確かに僕はどちらにも毒が入っていないと知っていたよ。でも驚いた。この実験の参加者はみんなまず、わたしが生きていたことに安心するからね。泣いてくれる子までいたくらいだよ」


さっきの実験でもそうだけど、人間性についてなにか言われているわけではなさそう

それなら少し意地悪を言わせてもらおうかな


「性格が悪いと言われませんか。だって、どちらにも毒は入っていないんですよね。それを知っていたのに嘘を吐いた」


「そう怒られる参加者も。どちらでもない参加者はあまりいないね。ましてや僕に嫌味を言う参加者なんて」


これまでと変わらない笑顔のはずなのに背筋がぞわりとした

影が妙に濃くなっているせいなのか

勝手に帰ろうとした後ろめたさからなのか


「この実験は「シュレーディンガーの猫」というもの」


どちらが被験者なのか、いまいち分からない


「まず、一定の確率で1時間毎に毒ガスが出る装置と猫を箱の中に入れて蓋をする。1時間が経過したとき、箱の中の猫は生きているだろうか、死んでいるだろうか」


私が観測者だったのか


「キミが出した答えは正しいんだ。観測しなければどちらの可能性も1/2の確率で存在していることになるからね」


そんな数学的なことは考えていないけれど、黙っておこう


「これは「巨視的な観測をする場合には、明確に区分して認識される巨視的な系の諸状態は、観測がされていなくても区別される」という”状態見分けの原理”と矛盾する」


それって、肉眼で確認出来るものは一度見れば何度も確認しなくてもその状態が分かるってこと…だよね?

そんなわけないでしょうよ


「つまり、このことをもって量子力学記述は未完成であると主張したんだ」


その量子力学記述っていうものを知らないから、なんともコメントし辛い

だけど2つ気になることがある


「今回カップに毒は混入されておらず、それを知っていても知らずとも、選ぶカップは自由意志なわけですが、それはその実験と同じだと言えるんですか」


「本当は席を外させるつもりはなかったんだよ。でも興味が湧いたから。似たようなことをして、説明して、解釈を求める。僕がしていることはそれだけだよ」


席を外させるつもりはなかった…?

それが本当なら改札であるはずの場所が部屋になっていたのは大掛かりなマジックではないということになる

目的地がプラモ戦車がある部屋

意味が分からない


「他に質問はないかな」


「もうひとつあります」


視線で発言を促される


「その後はその実験の粗探しをして量子力学記述は完成していると主張したんですか。それとも認めて新たに研究を始めたんですか」


「両方だね。出た杭は打たれるしか道がないのなら、誰だって出たくないだろう?」


「例え新たな説を立てることが出来なくても、自らの理論を証明出来なくても、味方がいてくれればそれで十分幸せなことだと思います」


誰も味方がいなくて周囲には敵だらけだった

そんなあの頃に比べれば、敵がいないだけの今の状況の方がはるかにマシだ

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