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chapter2「シュレーディンガーの猫」①

「紹介しよう。僕の助手だよ」


「こんにちは。今回は先生の実験にご尽力いただけるそうで、ありがとうございます。珈琲をお持ちしました」


「ありがとうございます」


珈琲飲めないんだよなぁ…

あ、でもカップは可愛い

動物が自然の中で遊んでいるイラスト

ひとつは猫がメインで、ひとつは兎がメイン


「彼女の日給は20,000円だよ。また僕の勝ちなんだ」


「そうですか、良かったですね。では、失礼いたします」


言うが早いか部屋から立ち去ってしまう


「相変わらず不愛想なんだから。それより、このカップ可愛いよね?僕のお気に入りなんだ」


「そうですね、可愛いです」


完全に席を立つタイミングを逃してしまった


「ただね、どちらかには毒が入っているんだ」


「…はい?」


「どっちかのカップには毒が入っているんだよ」


「聞こえなかったわけではありません」


「そう。それじゃあ」


まさか飲めって言うんじゃ…


「どちらかを飲むから別室にある道具を取って来てほしい。そして、この部屋に入る前に僕が生きているか死んでいるか考えてほしいんだ」


私が飲むのではないことに安心はした

でも1/2の確率でどちらかが死んでしまうことに変わりはない

素直に部屋を出て行っても良いものだろうか


…いや、このまま帰るという方法もある

部屋から出れば監視の目がなくなる

待ち合わせ場所である改札から車掌室までの順路は覚えている

改札まで行くことが出来れば、改札をくぐり来た車で帰れば良いだけの話しだ

悪いけど、トンズラさせてもらう


「分かりました。なにを取って来れば良いですか」


「戦車のプラモデル」


…は?


「部屋の場所は行けば分かるよ」


「ここに来たのは初めてなんですが」


「じゃあヒント。キミの目的地がその部屋だよ」


意味が分からない

結局どの部屋に目的の物があるんだろう

というかこの駅に他の部屋なんてあるのだろうか

いいや、そんなことはどうでも良い

部屋の場所が分からなくても、改札の場所さえ分かれば問題はない

目的は達成される


「じゃあ適当な部屋でここが私の目的地だって言えば戦車のプラモデルがあるんですね?」


「そうだよ。意味が分からないかもしれないけれど、そうなんだ」


「…分かりました。なければ戻って来るだけですから、一先ず行ってきます」


「頼んだよ」


車掌室のドアを閉める

私は記憶を頼りにジグザグと歩いて来た薄暗い構内を歩いた

来たときと反対に歩いた


「…どういうこと」


改札であるはずの場所には車掌室と変わらないドアがあった

恐る恐る開けると、入ったすぐの机に戦車のプラモデルが置かれている


「どういうこと。改札はどこ」


改札を目指して歩いて……そうか

私の目的地は改札だった

目的地の部屋に戦車のプラモデルはあると言った

つまり、改札は部屋になってしまった


いやいや、どこのファンタジー世界の話し?

でもそれくらいしか今の私に考えられることなんて…


駅から出るためには改札を通る必要がある

それ以外は線路を歩く方法があるけど、電車が来る時間が分からないから危険だ

廃線間近だから滅多に来ないだろうけど、そうやって油断していると来るものだ

駅があるのだから、必ず電車は来る


こんなことなら電車に乗ってここまで来るんだった

車掌室はホームから遠いのか、どこがホームなのか分からない

小さな駅なのに厄介だ


人に聞こうにも、誰も見当たらない

裏を返せば電車はしばらく来ないということになる?

人口が少ないから乗車率が低いだけだろう

それに、平日の真昼間なら都会の駅だって少しは空いている


今逃亡を図るのは危険だ

もう少し構内含め、周囲の状況を把握したい

地下鉄というわけではないのに周囲はコンクリートで覆われている

車で来なければ周囲の様子は分かっていないだろう


怪し気な募集だったから周囲をそれなりに観察して来たつもりだった

だが、何故だか不鮮明で思い出せない

写真のように切り取られた風景がいくつか思い出せるだけ


観念した私は戦車のプラモデルを手に取り、来た道を引き帰した


車掌室の前に立ち、ノックをしようとして気付く

考えてほしいと言われたことについて、なにも考えていない


生きているか死んでいるか

つまり毒入りの珈琲を飲んだか飲まなかったか


そんなもの、簡単だ

確認しなければ分からないに決まっている


ドアを開けると、待っていた人物は微笑んで手を振った

猫の柄のカップの方が前に置かれている

毒入り珈琲は兎の柄のカップの方だったらしい

そして、それを飲まなかった


私はそれを残念に思っているのだろうか

自力で逃げられないと分かった以上、この人物から帰る方法を聞き出すしかない

死んでいない方が良いはずなのに


「プラモデル、ありがとう」


私の考えなんて見透かしているかのように、再度優しく微笑んだ

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