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chapter1「モンティホール問題」

「この3つの封筒から好きな封筒を1つ選んでほしい」


置かれたのはなんの変哲もない茶封筒


陽が差していないわけではないのに、雰囲気の暗い部屋

怪し気な雰囲気を放つ、白衣を着た若い男


日給の高さが怪しいだけに、全体的な雰囲気も怪しい


「どの封筒を開けてもやってもらう仕事は同じだよ。でも開ける封筒によって日給が違うんだ。2つの封筒は日給20,000円、1つの封筒は日給25,000円」


「だから募集用紙に書いてあった日給が20,000円「以上」だったわけですか」


面接時ではなく、作業開始前の面談時に交渉でも出来るのかと思っていたけど、違うらしい

右利きの私が指しやすい一番右の封筒を指す


「じゃあまずはその隣の封筒を開けよう」


丁寧に封筒のシールを剥がすと「日給20,000円」とだけ書かれた紙を見せられる


「この封筒を開けていたら日給20,000円だったね。選び直しても良いよ」


意味が分からない

選んでいない封筒の中身を知って、どうして変更をする必要がある


「変更しません」


「理由は?」


「日給25,000円の封筒を当てられる可能性は変わらず1/3のままです。それに、選択しなかった封筒を開けた場合の日給を知っても自分の選択に影響を及ぼすことはありません」


小さく肩をすくめて笑うと私が選んでいない方の封筒を開ける

日給は25,000円


「残念だったね」


「そうですね」


「これは思考実験のひとつ、「モンティホール問題」というんだ」


既に始まっていたのか


「仮に日給25,000円の封筒が当たり、日給20,000円の封筒がハズレだとしよう。最初の選択をした際当たりを選べる確率は1/3であることは分かっているね」


「はい」


「次に僕はハズレの封筒を開け、選び直しても良いと言う。このとき当たりを選べる確率はキミが言った通り1/3のままだ。でもハズレを選んでしまう確率はどうかな」


「…………」


そこまで深く考えていなかった


「2/3から1/3に減っています」


「そう。だから確率論的には「変更する」が正解だったんだよ。キミは数学的な考え方をしたのではなく、感覚で選んだわけだ」


「私の考えが浅はかだと言いたいんですか」


これは八つ当たりだ

だって、同じ優しいのに妙に平坦な口調のまま、微笑んで言われたら…

元々の怪し気な雰囲気を助長している


「怒らないで。馬鹿にしたように聞こえたのなら謝罪するよ」


小さく頭を下げられる

そう言われてはこちらはなにも言い返せまい


「これは直感で正しいと思う回答と理論的に正しいとされる回答が異なる問題のジレンマなんだよ。だからキミの回答だって正しいんだ」


ひらりと日給20,000円と書かれている紙を持ち上げると不敵に微笑む


「でも今回は僕の勝ちだけどね」


ムカつく…!

でも怒っちゃ駄目

勝負に負けたのは間違いなく私なのだから

それがただひとつの事実なのだから


「それで、今私にモンキー…問題?をしたことでなにかを得られたんですか?」


「モンティホール問題だよ」


「…得られたんですか?さっきの解説では「どちらも間違いでない」という結論でした。でもそれだけです。この場合で言えば、日給25,000円の封筒を当てられる方法は分からないままですよね」


或いは分かっていても解説されなかった

そこに意味があるのか?


「どういった人物がどういった理論や感情で選択をするのか見届けたいだけだよ」


それだけのためにこんなことを?

大体、何故こんな日中にも関わらず薄暗い駅の車掌室で行っているのか


「そして、キミの解説を聞いた直後のこの質問は面白い。大体の人は日給についての感想しか述べないからね」


「金のことしか頭にない者と金のことが頭にない者はいずれ金に頭を悩ませる。…あくまで持論です」


「そう。だから次こういう機会があったときのために勝利方法を聞こうというわけだね」


そうなる

今の場合は日給という直接的な金だけど、例えば高級ブランドの時計だって金に換えられる

その際チャンスを逃すようなことがないよう、「正しい解」を聞いておかなくてはいけない


「残念だけど必ず当てられる方法はないよ。変更した方が確率が高い、というだけで最初に当たりを選んでいる可能性だってあるんだから」


「そうですか」


この言い方的に「正しい解」を探しているわけでもなさそう

本当にサンプルを集めるためだけに…?


「そうなんだ」


いつの間にか俯いていた視線を上げる

ここに来たときから崩していない微笑みで私を見ている


…この時間に、こんなところに影が出来るはずがない

第一窓からは遠い

それに窓に向いているのは私だ

どうして向かい合っている相手の顔に影があるのか


やっぱりどこか変だ

少しの労力とガソリン代がパアになっても良い

早くここから立ち去るべきだ


「あの、わた…」


タイミング良くノックされたドアに、背筋が凍った

この「思考実験-日給20,000円のバイト-」は自分がこのサイトにアップしている「青春代行課-七瀬七都木の青春救出」の#61に出て来るお話しです。8/21現在では#46までしか更新されていませんが、#61は9/10に更新予定です。良ければ覗いてみて下さい。

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