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エピローグ

こちらエピローグという名の後日談となります。

5分ほど前に、1つ前の最終話を投稿しました。たぶんそちらを見てからでないと意味が分からないので、そちらから読んでいただくことをお勧めします。














「……今日は部活、いいの?」


「今、休止中なんだ。部長が失踪しちゃったしね。このポテト券も早く使っちゃいたいし」


 失踪というか私は行き先を知ってはいるけれど。それを言うと私もいない存在扱いされてしまいそうなので止めておく。


 私は「困ったものだ」という表情で、隣を歩く優佳里へ顔をしかめてみせた。


『ま、それが賢明だね』




 紗姫と優佳里は多少、うん、多少形を変えたとはいえ、私とともにいてくれる。それは少し前までと同じ。だけどそれぞれに事情があること、そのうえで今一緒にいられることを、今の私は知っている。きっとそれは、今まで見えていなかったことが少し見えるようになった、ということなのだと思う。



 ……結局、紗姫は今もこの腕輪、おばーちゃんが言うところの依り代の中にいる。おばーちゃんが抜けた分、そこには魂が入る余地のようなものがあったのだろう。そして私の噂を器として出てきたおばーちゃんが、あの時私たちの前に姿を現したのは、きっと。私たちが困っていたから、なんだと思う。宙から現れる少女は、死を招くかもしれないけれど、困った人のところに現れ、たまに手伝いもしてくれる、そんな存在だから。


 私が人助けをしていなかったらそういう原理にもなってなかったんじゃないかな、そうしたらそもそもおばーちゃんに会えなかったかもしれないなと思うと、私が街角に立っていたあの日々にも少しは意味があると思えるのだった。





「ねえ、お姉ちゃん!」


 街中で私が考え事をしながら歩いていると、急にかけられたその声に、びくりと身を震わせる。幼い声。ただ、どこか聞き覚えのある声だった。……ま、まさか。いやいや、あの子は神社にしかいないはず。たぶんそう、だよね……?


 おそるおそる振り返ってみると、知らない子だった。幼稚園生くらい、だけどどこかで見たことのあるような。


「なに?」


「迷ったのを助けてもらってありがとうございました!」


 ぺこりとお礼をするその子と、後ろでちょっとあたふたしてる、お母さんらしき女性。


「あー……えーっと?」


「あの、以前うちの子を助けていただいた方、ですよね……? 髪型も体型も一緒だし」


 なんと。まあよく考えてみたらあの布って私の顔は覆ってくれるけど、それ以外丸見えだもんね。なぜ以前の私は理由もなくあんなに自信満々だったのか。わーい、と言って抱き着いてくるその子をよしよしと抱え上げ、それでもお母さんに向かって私は首を振った。


「いえ、人違いです」


「違わないよ!」


 即座にその子に否定される。……いや、なんでそんなに自信満々なの。いい? 自信はね、理由がないと持っちゃいけないんだぞ。


「だって、抱えてもらった感じが一緒だもん」


 ああ、そういえば抱きかかえたっけ……? もうあやふやだけれども。言われてみれば、確かこの子を抱えて屋根の上を走った気がしてきた。よくそんな相手に飛びつけるな。普通怖いでしょ。そりゃ親御さんもあたふたしてるわけだ。


 ところが、そんな危険人物に我が子が接触しているというのに、そのお母さんは良かったね、となぜか笑顔で満足そうだった。どうしたの。ここは無理やりに奪い取って必死で逃走するべき場面でしょ。まさか何か家庭に複雑なご事情でもあったりするのだろうか……。


 ところが、お母さんは私の不思議そうな顔に気づいたのか、きちんと注釈を加えてくれた。


「怖がってる人もいましたけど、探してる人も多かったんですよ。ほんとにお世話になったって」


 人、が複数形っぽいのが恐ろしい。私はこれからこの街で心安らかに生きていけるのかな……。私がちょっぴり自分の未来を不安に思っていると、不安も何も知らないような無邪気な顔で、腕の中で女の子が私の顔を見上げた。


「なんでお姉ちゃんはあたしを助けてくれたの? 正義の味方だから?」


「いや、断じてそんなに大層なものじゃない」


「じゃあなんで?」


「うーん……」


 私は考え、そっとその子の耳元で囁いた。街角で立っていたあの時、夢見が悪いからと走り回っていたあの時の私が、胸に抱いていた言葉。おばーちゃんに教えてもらった、小さい頃の私が大事にしていた言葉を。


 あの行動がなければ、私は帰ってこれなかったかもしれないし、紗姫も戻ってこなかったかもしれない。この子を助けたその結果も、あの誰もいない街での出来事に繋がっていたとしたら。あれは決して、間違ってはいなかったのかもしれない。


「いつか自分に返ってくるから、かな」


 少しだけ実感を持って、そう答えた。










 次の日。私は副部長に、退院祝いと称してコンビニ横でコーヒーを奢ってもらっていた。1対1でお茶でも、と言われたら私が素直にうなずけるかは怪しいところだったので、ありがたい。ただ、そのへんのボーダーラインを見極めたうえで誘ってくれてるかもしれない。ただの級友を船上のディナーに誘ってきた森河くんにそのへん教育していただけないでしょうか。


「部長は結局、行方不明、か」


「行方不明っていうか……いるべき場所に戻ったんですよ」


「ここはいるべき場所じゃなかったって? ならなんでそもそもいたんだ?」


「待ってたんでしょうね。それに、場所はどこでも良かったんですよ、きっと」


 本人の受け売りだったけれど、言ってた通り。部長はたぶん、おばーちゃんがいたら良かったんだろう。だからあの都市伝説を追いかけていたんじゃないかな。蘇ったらこっちで一緒にいられるから。


 ……おばーちゃんはどうだったんだろう。「勝手に死ぬな」という部長の言と、「死にたくない」というおばーちゃんの言葉は、ひょっとしたら同じ意味だったのかも。部長の首根っこを掴んでいた時の満足そうな雰囲気を私は思い出した。いつか、聞きに行ってもいいかもしれない。部長理論によると、1度あの壁を越えた私には、また向こう側に行ける資格がきっとある。叩き返されるかもしれないけれど。





「なんかさー。俺、蚊帳の外じゃないか? 一人で納得されるとなんか置いて行かれた感が半端ない」


「同じセリフを森河くんの前で言うとぶん殴られますよ」


 何も言わず、苦い顔でコーヒーをあおる副部長。さすがに彼よりはましだという自覚はあるらしい。



 でもまあ確かに、戻ってきた際、優佳里にも大泣きされてしまったことだし。私は周りにいろいろ不義理だったかもしれない。副部長にも、ある程度事情は話しておいた方がいいか。お世話にはなった気がするし。……なったっけ……? まあ、いちおうはね。


『その考えは紗姫ちゃん危険だと思うなー。だってさ、始まっちゃうじゃん。私が背中を押してました、って言うようなもんでしょ。それOKってことじゃん。そう取られるよ。ぜったいめんどくさいことになるって』


 ……ふむ。長くて何言ってるかよくわからないけど、紗姫も同意してくれてる気がする。私の勘も別に問題はないと言っているし。しかし、これ聞こえないときもあるのが不便だな。腕輪の声を聴く方法、とか調べてみてもいいかもしれない。普通に考えたらそんなのあるわけないけど、私自身がもう普通じゃないしね。……あ、いけないいけない。今は副部長だった。











 私はんー、と悩みつつ、口を開いた。


「わかりました。じゃあ、ちゃんと話します。ただ、非常に驚かせてしまうと思います。あまりびっくりしないでくださいね。当たり前に見える世界にも、思いもよらない事実がいつも隠れているものなんですから」


「ああ。……ちょっと緊張してきた」


 さて……どう言ったものだろう。私はこういう説明あんまり得意じゃないからなあ。まあでも……うん。よし。私はちょっと身構えてるらしき副部長の顔を横目で見ながら、思ったままを口に出す。……そう。きっと誰しも、まだ知らない、見えていない世界がある。ただそれだけなのだ。さて、じゃあ話すとしたらどこからだろう。……やっぱり、一番大きなあの話からかな。








「ちょっと前、「宙から突然現れる女の子に呼び止められて返事をすると、直後に悲惨な死を遂げる」という都市伝説が流行ってたじゃないですか。覚えてます?」


「ああ。……それが?」



 私は真剣な顔をして、副部長に隠された世界の真実を教えてあげることにする。ごくり、と副部長が唾をのんだ。



「あれたぶん……私です」


「知ってた」








ということで、完結です!

長いことお付き合いいただきありがとうございました!

個人的な趣味に走り過ぎてジャンルが分からなくなったと自分でも思いましたが、書いててとっても楽しかったですm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] ストーリーが面白くて一気読みしちゃいました!他の作品も読んでみます!
[一言] 完結乙です! 次回作があれば楽しみにしています
[良い点] 完結おめでとうございます! [一言] 副部長に分かられてて出鼻を挫かれた莉瑚さんなのであった( ˘ω˘ )b
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