表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/43

揺れたり揺られたり

別ルートとしてはこっちだろうけど、思った以上に状況がハードモードすぎる

まずはアリスで言うところの白兎な紗姫ちゃんを捕まえなければ

 次の日。図書館に行こうとも思ったのだけれど、先に紗姫を探そうと思う。図書館は逃げないし。いや、紗姫も別に逃げはしてないと思うんだけれど。


 ……ちなみに家に帰って聞いてみたところ、お母さんは昨日おばーちゃんの家に来てないそうだ。もう何が本当だかわからない。ただ、私に「逃げるな」と言った母はいなかったらしい。それにはちょっとほっとする。



 まずは紗姫捜索の手始めとして、自分の病室の棚を開けてみる。しかし、カチャリという音とともに開かれたそこには、やはり血まみれのタオルの山しかなかった。紗姫はとりあえずここには、いない。いたらこんなところに一晩中いたことになっちゃうので、それはそれでやばいけども。電話をかけてみるも、不通。よって、ここから近い順に心当たりを回ってみることとする。



 まずは紗姫と一緒に先日訪れた踏切に行ってみた。カンカンカン、と甲高い音をたてる踏切の前で私は何度も周りを見渡す。あたりに人通りはなく、ただ肌寒い風が時折音をたてて街路樹を揺らしているだけだ。ここにも、紗姫は、いない。



 街中を学校の方に歩いていると、ファーストフードの前を通り過ぎる。そういえば、ここで紗姫と優佳里と一緒によく放課後駄弁ってたっけ。この前私が恩人だと言う人に詰め寄られてる時も紗姫いたもんね。……しかし今はいないか。授業中だしね。私や紗姫はサボり常習犯なのでここにいてもおかしくはないけど、さすがに午前中からファーストフードに1人はねえ。




「あれ、天尾さん? いやいやこんなところで何してるのさ!?」


 私がガラス越しに店の中をじーっと眺めていると、ふと呼び止められた。振り向いてみると、そこにはなぜか森河くんが。私は彼を視認した後、手元の腕時計を確認する。……10時25分。やはり、明らかに授業中。


「サボりはいけないと思うよ」


「ち、違うって! じいちゃんの病院に要るもの持って行かないといけないから!」


「サボる人はみんなそう言うもん」


「いや言わないでしょ! ……それより入院中なのに何ふらふらしてんの!? 馬鹿なの!? 吐血してるんでしょ!?」


「人に向かっていきなり馬鹿はいくら何でも失礼だよ」


「サボりと決めつける人に言われたくないんだよなぁ……いや病院に戻ろうよ! そんなにポテト食べたいの!? 食い入るように見てたけど! 退院したら山ほど買ったげるから!」


 なんかクラスメイトが誘拐犯みたいなこと言ってくる。私が見ていたのは店の中だ、と答えようとして、ちょうど見ていたガラスにポスターが貼られているのに気がついた。「新発売! 大人気! バケツポテト 450円」と書いてある。3か月くらい前から売り出されているような気もしたけど、たまに街で見かける1年中やっている閉店セールみたいなものだろう。……しかし私たちを苦しめたあの商品は大人気だったらしい。確かに3人で食べても全然減らなかったのに450円は安いな。




 私がまじまじとそのポスターを眺めていると、森河くんは興味があると勘違いしたのか食いついてきた。


「あ、それ? バケツって言っても案外大したことないよね。たまに僕も1人で食べるよ」


「……森河くんってフードファイターか何かやっておられる?」


「なに急に!? やってないよ!?」


 意外に大食いらしい。しかし、確かにポスターだとそれほど多くないようにも見える。3人で食べられないようにはとても……。そういえば、ほとんど優佳里と私が処理してた気がする。紗姫って食べてたっけ? そもそも紗姫ってお昼の時も、何か食べてるのを見た記憶がない気がする。あ、でもそれは「昼食は抜くタイプなんだ」って言ってたっけ……? 確かそう……



「――あちら側のモノは食べてはいけない」



 ふと、耳元で部長の声が聞こえた気がして、ざわりと背筋を冷たいものが走り抜けた。……あちら側のモノ。つまり、私たちはオカルト的な場所で出てくるものを食べたらいけない。それは、こうも言い換えられないだろうか。そう、例えば……オカルト的な存在は、こちらの物を食べてはいけない、とか。


 いやいやまさか。それにほら、あの神社の女の子、あんパン普通に食べてたじゃない。しかし私は同時に、その神社の子に対する紗姫の評価を思い出す。「……よっぽどバケモンなんだろーね、その子」。……バケモン。あれは、どういう意味だっただろう。






 そのまま騒ぐ森河くんを隙を見て飛ぶことで撒き、私は予定通り学校に向かった。意外に紗姫は登校していて、普通に「よー」みたいな感じで迎えてくれるのでは。ちょうど昼休みだったようで、教室にはまばらに人がいるのみ。どこかに行っているのか、優佳里はいない。私服の私を不思議そうな目で見る級友たちを尻目に、私は紗姫の机を探す。


「……あれ?」


 でも紗姫の机って、そういえば……どこだっけ……? だっていつも私の机に来てくれてたから……いやそれにしてもわからないわけないでしょ。優佳里の席はそこだし、森河くんの席はあそこ。……え? なんで、仲良かった友人の席も私は分からないんだろう。


 ……まさか、やっぱり実はオカルトな何かだったの? それとも……本当は存在しなかった、とか? ぐるぐるといろんな考えが頭の中を駆け巡るけど、うまくまとめられない。ちりちりと胸の奥が痛み、鉄の味が口の中に広がる。……まずい。でもさすがにここで街角バージョンに変身するわけにはいかない。



 ……もし、友人がそういう存在だったとしたら。びっくりはもちろんある。あるんだけれど。それは優佳里も同じようなものだし(同じにしたら怒られるかもしれないけど)、それ以前にどういう存在でも、紗姫は間違いなく私の友人だった。それこそ夜中に電話に付き合って悩みを聞いたり、してくれるくらいには。そういう存在ならなぜ電話できたんだろう、という疑問を一瞬抱くけれど。でもそういえば、廃トンネルで私は知ったのだった。この世ならぬ者にだって、電話はできる。


 ……でもだからっていきなり何も言わずに消えられても、それは……その、困る。だって私たちはいつも3人一緒にいたんだし、これでもう二度と現れない、とかになっちゃったら……その、寂しいというか……突然すぎるというか。うん、たぶん突然すぎる。だって昨日まではいたんだよ? それに約束もしたのに……。



「莉瑚ちゃん!? なんでここにいるの!?」



 教室の入り口で立ち尽くしていると、そんな声が聞こえたので振り向いた。すると血相を変えた優佳里がシュババババ、と私の方へちょうど走り寄ってくるところだった。


 ……そうだ。優佳里に聞けばいいんだ。しかし、このままだとその前に怒られてしまいそう。ここは私がここにいる理由をでっちあげなければ。でも、理由……? 入院中の人間が昼休みに教室に現れる理由ってあるかな? 当たり前だよ、みたいな顔してたらスルーしてくれないだろうか。私は何食わぬ顔で、目の前にやってきた優佳里の顔を見つめた。


「あ、優佳里? 元気? ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」


「いやだからなんでいるの!?」


「まあ落ち着いて。それも含めて説明させてって。その前に教えて」


 よし。これで怒られて教えてもらえないという最悪のパターンはなくなった。問題は正当な理由がないことがバレたらもっと怒られそうな所だろうか。しかし病人をそこまで怒ったりはしないはず……いやいけない。そういうのにつけこむのはいかんな。しかしお願いだからあまり怒らないでほしい。……それはともかく。


「優佳里。紗姫の机って、どこだっけ?」


「……えっ……?」


 優佳里はそれを聞いて、一瞬目を大きくし、動きを止めた。その後、教室の中を見渡すでもなく私を見つめる彼女を見て、私は理解した。……優佳里は何かを、知っている。……そうだ。そもそも、私の前に紗姫を連れてきたのは……。



「で、どういうこと?」


「そ、そのぉ……ね?」


「ね? じゃないでしょ。何も分からないんだけど。紗姫が棚の中から忽然と消えちゃったのはどういうことなの」


 私が簡単に事情を説明すると、優佳里は目を泳がせる。どうやら優佳里にとってはそれは不思議なことではないらしかった。


「そのうち出てくるんじゃないかなぁ」


「あ、そうなんだ。よかった」


 紗姫は消えたわけじゃないし、元から存在していなかったわけでもないみたい。それにまずはほっとする。紗姫にはまだ貸しも借りもいっぱいある。……いや、貸しってあったかな……? まあ1個くらいあるでしょ。


「で、どういうこと?」


「その……紗姫ちゃんは自分で言いたいんじゃないかな」


「むむ」


 だから言えないらしい。大事な話だからと。わからなくもない。ない、けど……ならいつになるか分からないじゃない。ずっとこのもやもやを抱えろと? そんなご無体な。というか私の交友関係はどうなってるんだ。ほとんど人外じゃない。今の私もそうなので、あまり強くは言えないけども。


「たぶん出てきたら言ってくれると思うから安心して!」


「とりあえず、言わなかったら上下に思いっきり揺さぶろうと思う」


「どっちを!?」


「そんなの優佳里と紗姫の両方に決まってるでしょ」


「き、決まってるかなぁ……」


 さて、じゃあどうしよう。おのれなに隠しとんねん、と問い詰めるために探しに行く? でももう心当たりは探しちゃったし……。探し物が見つかるアイテムでもあればいいのに。ただないものねだりをしていても仕方がない。あやつを一刻も早く見つけて揺さぶってやらねば。さて、じゃあまずは街でもぶらついてみるか。


 私は颯爽とその場を後にしようとしたところ、突然足がガクンと折れ、片膝が床についた。……おおう。なんだか力が入らない。そういえば今日って輸血してないから貧血かもしれない。そしてさりげなく去ろうとしていたのに、それは優佳里にあることを思い出させるのに十分だったらしい。


「……病院!!!!」




 その後優佳里に背負われ、私は大いに揺さぶられながら病院に搬送された。なんだか先にやり返されてしまった気がする。





「今度脱走したら怒るからね!!!」


「もう怒ってるじゃない……ここにいて、全部解決するならそりゃ私も大人しくしてるよ? でも、けほっ」


「言い訳しない!! ほら、口拭くよ」


 優佳里が口元を拭ってくれた布には、べったりと鮮血が染みついていた。うわぁ……さっき輸血したばっかりなのに、あれ既に全部出たんじゃないだろうか。……それは言い過ぎか。にしても、そろそろ解決しないとまずそう。私の寿命的に。さすがに出た分輸血すればいいってものでもないだろう。……あ、そうだ。



 私はベッドに横たわったまま、街角モードに変身してみる。ひらりひらりと自分の顔の前にひらめく紙を見て、私はちょっぴり安心する。なにせこっちなら私の胸の痛みは進行しない。そう、人外疑惑濃厚になってきた紗姫のお墨付きなのだから。


「莉瑚ちゃん!?」


「あ、優佳里。言ってなかったけど、こっちの方が楽だから。これなら探しに行けるかも」


「ちょっといいかな!? その前に説明してくれる!?」


 そういえば唐突すぎたか。さわさわと私の顔の紙を触ってくる優佳里に、これまでのことを一通り説明した。おばーちゃんのことについても。迷ったけど。ただ、ここでおさげの儀同さんが来てしまうと逃げてもらわないといけないので、やっぱり説明は必要だろう。




「……」


 そしてすべてを聞いて、優佳里はなんだか深刻そうな顔で押し黙ってしまった。顔も真っ青。なんだろう。何か、気にかかることがあったのか。それとも第三者目線で何か気づくことがあったのだろうか。そんなレベルじゃないくらいショックっぽいけど。いったいどうしたの。


 私の疑問が顔に出ていたのだろう、優佳里はぽつりと口を開いた。


「紗姫ちゃんは私と最初に会ったところに、たぶんいると思う」


「……どこ?」


「東の原っぱ。小さな川のあるあそこ」


 ……私の頭にも該当する場所が浮かんだ。住宅街の向こうに広がる、小さな草原とその中を流れる小川。確かあそこはザリガニがよく釣れた気がする。今もそうなんだろうか。10年前くらいに、兄と一緒に遊びに行ったっきりだけど。


「じゃあそこに行こうか。試しに、一緒に飛ぶ? できるかどうか知らないけど」


「ううん、あんまり使わない方がいいと思う。その力も、予知も」


「……予知?」


 予知というと、儀同さんがやってくる前に胸が痛むあれ? あれって予知だったの? DVDも意外に役に立つということだろうか。吐血するというデメリットで全てが台無しだけど。それに、使わない方がいいってどうして? 飛ぶ方は使っても、血を吐いたりはしないのに。


「だって。……今の莉瑚ちゃん、真っ黒だよ? それに……」


 そっと、私の顔の前の紙に、優佳里は手で触れる。













「よく見て? これは、紙じゃない。……布だよ? 死んだ人がね、被せられるあれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] 今さらだけどこれ恐怖かコメディか分からなくなってます。
[良い点] あちらの世界にも 味方はいた? そして、あーもう、ほんと、怖いわー。 [気になる点] 前書きのアリスで言うところの白兎、ここのところの展開のせいで“不思議の国のアリス”ではなくて、それを…
[気になる点] >紗姫に先を探そうと思う 主人公は混乱している!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ