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閑話──とある少女の独白

 

 この世界……『クレメリア・フロンティア』はごくごく普通の、なんの変哲もない世界だった。

 神がいて、人がいて、人以外の生き物がいる。

 食物連鎖で成り立ち、神だけは人々の信仰で穏やかに命を育み奪い取る……ただそれだけの世界。

 その仕組みを壊したのは異界からの転生者。

 (ことわり)を破壊し、世界を混沌へと導いた。

 神は原型を保てなくなり、清らかな精神を持つ死者の魂に、欠けらを託して消えてしまう。

 清らかな精神を持つ、神の欠けらを受け取った魂は『聖霊』となったが、受け取れなかった死者たちの体は『悪しきもの』となり果てた。

 人を狭間に、二つの新生命体は転生者の力を肯定するか、共生するか、否定するかでさらに拗れた。

 そうしてついに、世界は空間すらバラバラに剥がれ、滅びに瀕する。

 そんな時、歌い手が現れ歌で世界を縫い合わせた。

 一部の聖霊を除き、歌い手と聖霊により悪しきもの、そして転生者は新天地へと──封じられる事となる。

 こうして『クレメリア・フロンティア』は平和を取り戻す。


 めでたし めでたし




「…………」


 古代ラスティゴ文字。

 カルディアナ王国、ペンドラゴ帝国が台頭する前にあった統一国ラスティゴ。

 今の時代、これを読めるものが果たして世に何人いるだろう?

 長寿であるエルフならばあるいは読める者も残っているかもしれないが、エルフにはエルフ文字がある。

 わざわざ『劣等種』と罵る人族の古代語など、覚えている者もいないかもしれない。

 モカ色の長い髪をポニーテールにした少女は壁画を見上げながら、その無機質な眼差しを更に上へと向ける。

 そこには別な絵が描かれていた。

 ドラゴンと、短剣を掲げる乙女、剣を持った男、六人の聖霊。


「…………わたしはもう、関係ない。世界なんて勝手に滅んでしまえばいい。……わたしは、もう、関係ない。世界なんて……勝手に滅んでしまえばいい」


 言い聞かせるように繰り返し、その部屋に響く少女の声。

 当然だ。

 世界が少女を拒絶したのだ。

 少女が世界を救ってやる義理はない。


「人間なんて大嫌い。勝手に滅んでしまえばいいんです」


 間もなく『クレメリア・フロンティア』は三度目の転換期を迎える。

 先住民が勝つか、異界からの転生者が勝つか、それとも共生の道を選ぶのか。

 その鍵はこの少女。

 だが世界は少女を拒んだ。

 ならば後は勝手にすればいい。

 どんなに手を伸ばされても、拒まれ続けた彼女はもう、手を伸ばすつもりはない。

 祖父母を、両親を、自由を、時間を、振り絞った勇気と慈悲を──あらゆるものを否定された彼女には義務を放棄するだけの権利がある。

 義務──……義務だ。


(終わり。もう考えない。わたしはここで生きていく。ここで生きて、死ぬ。死んだあとは二人のように聖霊になって、記憶がなくなってもいいからまた二人と生きていきたい。二人の娘として。それ以上望まないから、どうかこのまま……)


 少女は祈る。

 とてもささやかな願いが叶いますようにと。






 彼女はそれが叶わないと知っている

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