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『クロッシュの町』


 

 翌日、出来上がった新しい仮面……厄呪魔具をゴリッドに手渡されて早速着けてみる。

 今回はリッチの骨を加工して、なだらかな白ベース。

 右下と左上に小さな丸い飾り……『厄石』がはめ込まれている。

 それぞれの黒、紺、青と色がついているのでシンプルだがとても上品だ。


「パーティーの時はこの飾りをはめればいい。だいぶ違うだろう」

「ありがとうございます……この宝石は……?」

「ああ、坑道の毒が抜けて使えるようになったからな。最近また色々採れるようになったんだ。ついでにこれもやるよ」

「!」


 おら、と手渡されたのは布製に見える服。

 だが手触りなどから、エアメタル製の防具だと分かる。


「え! これはさすがに!」

「町からの礼だ。前はなんにもしてやれなかったからな」

「いえ、でもこれは……」

「Bランク冒険者になったんだろう? それの祝いも兼ねてだ。ついでに、またなんかあったら指名で依頼するから、そん時はよろしく頼むぜ」

「……、……分かりました……こちらこそ」

「銘は【蒼銀の衣】! 必要になった時に使えばいい。エアメタル製の防具は狙われたりするからな……人間に」

「ですね……」


 さすが、分かってらっしゃる。


(でも、銘入り防具……! お祖父様にもたくさんもらっているけど、これはゴリッドさんが作ってくれた俺専用の防具……嬉しい……!)


 顔がにやける。

 だが、ゴリッドの方はあまり表情が明るくはない。


「本当なら坊主の戦闘スタイルに合わせて作りたかったんだが……確かサポート系つってたよな?」

「そうですね。実は俺ソロというよりパーティーサポートの方が向いてると思います。持ってる強化魔法スキルや治癒魔法、超広範囲味方指定とかもあるので」

「大軍指揮系じゃねーか。今時持ってる奴初めて見たぞ! 冒険者より騎士になった方がいいんじゃねえか?」

「騎士団は自由に動けないから嫌です」

「能力と性格、目的の不一致か……もったいねぇなぁ」


 仮面を顔にとりつけて、高さを調節。

 顔の輪郭にしっくりと馴染む。

 視界も良好。

 さすがの出来栄えについ口元が緩む。

【蒼銀の衣】は必要になった時に使おうと、収納魔法にしまう。


「その収納魔法も珍しいしなぁ」

「アイテムボックス使いまくってると覚えられますけどね。アイテムボックスの進化系魔法なので」

「いやいや、普通そこまで至らねーよ」

「なんででしょうね? 冒険者ならアイテムボックスを一般人よりもたくさん使うはずなのに」

「本当どんな生活してきたんだ、坊主……」

「まあ、なんにしても感謝します。あ、そういえば仮面の報酬なんですけど、これでいかがでしょうか?」

「あん? ……って、こりゃあ! …………なんだ?」

「お菓子です」


 ドワーフは酒飲みだ。

 そして、肴として好まれるものには主に三種類ある。

 甘いものと、辛いもの、しょっぱいもの。

 そしてゴリッドは『甘党』。


「貴族の菓子か? まあ、確かに珍しいっちゃ、珍しいな?」

「ふふふ、ただのお菓子ではないんですよ」

「ほ、ほう? 食っていいのか?」

「はい! もちろんです! 報酬ですから!」

「お、おおう…………、……うっ!」


 もちろん前世のオリバーは菓子作りなど出来なかった。

 料理やお菓子作りは『オリバー』になってから覚えたのだ。

 だが、前世オタクだった彼にはラノベや漫画から得たレシピの知識がある。


(まあ! 知識があるのと実際作るのではまったく違ったから、完璧に作れるようになるまで何年もかかったけどね!)


 変なところでも発揮された【努力家】の称号のおかげで【料理好き】まで得て、それにより会得した前世のお菓子。


「どうですか? マカロンというんです」

「美味い! サクッとした食感、ねっとりとして、それでいてふんわりとした中身……溢れ出てくるジャム……これはベリーか!」

「はい。こちらの茶色いのはチョコレートです。こちらはレモン、こちらの明るい茶色はオレンジ、この粒々は茶葉入りです」

「な、なんだと! 全部味が違うのか!?」

「はい。しかも最近俺が完成させたレシピなのでまだどこにも出回っていません。実はエルフィーやウェルゲムにも食べさせていません。今のところ完成品を口にしたのはゴリッドさんだけです。あとこちらもどうぞ」

「おう? こっちはまた別な菓子か?」

「はい。蒸しパンケーキとまんじゅうです」

「蒸しパンケーキとまんじゅう……?」


 新たに箱を取り出し、テーブルに差し出す。

 その下に置かれた紙をゴリッドは持ち上げて首を傾げる。


「なんだこりゃ? 分量……?」

「蒸しパンケーキとまんじゅうのレシピです。せっかく温泉があるので、名物があった方がいいと思って考えてみました」

「なんだと? これくれんのか?」

「レシピがあればいつでも食べられると思うので、ぜひ」

「ほう?」


 これもかなり苦労した。

 特にまんじゅう。

 しかし、緑の多い『マグゲル領』には前世にあった植物もあったのだ。

 なので交易として、マグゲル領と取引すればどちらも損をしないと思った。

 それは主にあんこの材料となる小豆。


(旦那様に頼んで小豆は安定してきているから、時期的にちょうどいいと思うんだよね)


 丁寧にレシピを説明して、町長とイラード侯爵家……いや、元侯爵に話せばあとは彼等がやってくれるだろう。

 そう言えば納得してくれる。


「ふっふふ……おれというより町に役立つ報酬だな」

「あ、そうですね。でも、ゴリッドさんはそっちの方が嬉しいと思って」

「まあな。……この町には、恩があるからな」

「……」


 いい顔で、笑う。


「また来ます」

「おう」


 一仕事終えたゴリッドが、棚から酒を取り出してくる。

 蒸しパンケーキとまんじゅうは町の名物にして欲しいので、味見として「町長たちにも食べさせるために、全部食べきらないでくださいね」と釘を刺して店を出た。


(結局温泉は入れなかったなー)


 それは少し、心残り。

 しかし目的は仮面の新調と、初の長旅で疲れ果てているであろうウェルゲムとエルフィーの休憩だ。

 このあとは延々山登り。

 馬車での山越えは徒歩の倍。

 しっかり休んでおくべきだろう。


「お待たせしました」

「おー! 師匠の新しい仮面かっこいいな!」

「どうも。エルフィーはよく休めましたか?」

「は、はい」

「…………。本当に、覚悟してくださいね……」

「「え……」」

「馬車の山越え、つらいですから」

「「…………」」


 ちなみに『エンジーナの町』でロイドとサリーザに挨拶に行ったが残念ながら依頼で長期留守だった。



 ***



「「…………」」

「大丈夫ですか? そろそろ着きますから、頑張ってくださいね」

「う、うぇっぷ……」

「は、はい」


 さらに数日後、ようやく『クロッシュ地方』──『クロッシュの町』にたどり着いた。


「なあ、師匠……師匠の故郷は『トーズの町』なんだろう? 寄らなくて良かったのか?」

「大丈夫だよ。お祖父様の誕生日だから父さんも母さんも妹も来るし」


 そっちで会えるので、あえて故郷には戻っていない。

 まずは誕生日パーティーに間に合う事が重要だ。

 なにしろ、祖父は『クロッシュ地方領主』としてオリバーを呼んだのだから。


「改めて言うけどうちの妹はダメだからね?」

「だ、大丈夫だってばっ」

「……?」

「それならいいけど、じゃあ歩きながら予定を確認しておこう」

「「は、はい」」


 乗ってきた馬を馬車に繋ぎ、オリバーも馬車の中に入る。

 屋敷まで移動する間に、これから二人がこなさなければならない予定を確認するのだ。

 本来従者がいれば従者に頼むのだが、ウェルゲムの従者は今のところオリバーであり、エルフィーの侍女は誰もなりたがらないし、侍女を務められるだけの信頼ある人間がいないので仕方ない。


「滞在予定は一週間。その間はクロッシュ家が用意した客間で寝泊りしてもらう。まず祖父の誕生日が五日後。その前に晩餐会、その前に帝都でお茶会が開かれる。だから順番としては、明後日にウェルゲムとフェルト、保護者で俺が帝都にお茶会へ行く。エルフィーも保護者としてついて来てくれると、助かるんだけど……どうだろう?」

「え! わ、私もですか?」


 聞いていたのは晩餐会のみ。

 帝都の貴族のお茶会は、エルフィーには寝耳に水。

 しかし……。


「個人的に保護者なら無理に他の貴族と会話する必要ないし、いいと思うんだけど。保護者は立食だし。メインは子どもたちだから、みんな意外とそっちに集中しているんだ。子どもとはいえみんな貴族教育を受けてきた子たちだから、エルフィーは見ているだけでも勉強になると思うよ」


 あと、オリバーがエルフィーと一緒にいられる。

 と、いう下心はもちろん心の下の方にしまっておくけれど。


「あと、俺とウェルゲムが出かけたら侯爵家に一人で留守番になるし」

「いいぃっ一緒に行きますっっ!」


 ですよね。


「で、その翌々日が晩餐会。エルフィーは晩餐会で俺の家族に紹介する予定だけど、多分明日か今日には到着してるから顔だけ合わせようか」

「……オ、オリバーさんの、ご両親……ですね……」

「うん。でも……冒険者ギルドのギルドマスターと受付嬢だからエルフィーが思ってるとのとは絶対違うから大丈夫」

「……は、はあ……」


 むしろ祖父、伯母たちと従姉妹たちの方が問題な気がする。

 もちろん目を背けてそれは飲み込む。


「その次の日が誕生日パーティー。出たいなら出てくれた方がいいけれど……」

「「……っっっっ」」

「……まあ、これは俺だけ出るよ。招待されてるの俺だから。で、一応お茶会の翌日と誕生日パーティーの翌日は休みだと思って。……お茶会とパーティーは、死ぬから」

「「…………し……」」

「死ぬから」


 大事な事なので二回言った。


「お祖父様の誕生日パーティー、俺も多分、死ぬし……心が」

「「こ、心が……」」

「エルフィーが紹介出来ないので、婚約の申し込みで多分心が死ぬ」

「あ……」

「まあいいけど。エルフィーがまだ出られない、というのは旦那様判断だから無理させたくない。気にせず休んでいて」

「……す、すみません」

「出たいなら歓迎するけど。俺も本当は見せびらかしたいし!」

「すみません!」


 正々堂々と謝られたので素直に諦める事にした。


「さて、予定の方は理解出来た? そろそろ着くよ」

「!」

「……あ……」


 二人がオリバーの目線を追う。

 馬車がゆっくりと左に曲がると、巨大な壁とお屋敷が見えてきた。

『クロッシュ地方』、首都『クロッシュの町』──その領主邸。


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