夢の中でまた
そうだ。あの子はいつも歌ってたんだ。
あの透き通るような歌声で。
しあわせそうに―
「えーと、転入生がいるので紹介する。高杉楓と天音爽子だ。」
そう先生が言ったとたん楓は驚いた顔をした。そしてすぐに静川風音の隣に座った。突然の楓の行動にクラス中が一瞬ざわめいた。
「オレ席ここでいいっすよね。」
「別にいいが・・・」
ゴホン。みんなが黒板のほうを向いた。
「えっと、天音爽子です。前の学校では吹奏楽部でフルートをやってました。まだまだ皆さんにご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします。」
爽子の透き通るような声に風音は懐かしさを感じた。なぜだろうか。
「じゃあ爽子は北川の隣な。」
「はい」
その日は楓の話で持ちきりだった。風音は何で自分の隣に座ったのかと思ったがやめた。風音は教室の隅の自分の席で本を読もうとしたとき、
「ねぇねぇ風音さん、学校の事が知りたいんだけど案内してもらっていい。」
「うん。いいけどなんで私に。」
・・・やっぱりと悲しそうな顔でつぶやいたがすぐ笑顔に戻った。
「一番友達になりたいと思ったから。じゃあ放課後にお願いね。」
そういって爽子は廊下に走っていった。なんで私なんだろう。風音はクラスであまり目立つタイプでもない。楓君といい爽子ちゃんといい、なんなんだろう。
放課後案内をしていると吹奏楽部の音が聞こえてきた。
「あたし吹奏楽部見てみたいんだけど。」
「うん。音楽室はこの上だから。」
ここ花園学院の吹奏楽部は全国の常連といっていいくらい優柔だ。しかし風音はビックリした。
「ちょっと吹いてみていいかしら。」
そういうと爽子はバックから自分のフルートを出し吹いた。吹いた瞬間音楽室にいるみんなが吹くのをやめて爽子を見た。爽子の声と似ていて透き通るような綺麗な音だった。爽子が吹き終ると皆がいっせいに話しかけた。
「どうしてそんなにうまいの。どこの高校からきたの。そのフルートどこの。」
皆に囲まれて戸惑いながらも爽子はいった。
「あの・・・入部希望なんですけど。」
入部してからの爽子はすごかった。皆に歓迎されて入った爽子は1年生ながらも文化祭のフルートソロを任された。それから風音と爽子は仲良しになった。しかし楓とは、
「俺睡魔に襲われちゃったわ・・・」
「ちょっと楓。怒られてもしらないよ。」
「・・・。」
こんなかんじでまぁ、仲はいいのかな。
初日の楓はあんなんだったがほんとうは面白くて優しくてすごく野球好きな少年だった。休み時間はいつも周りには沢山の友達がいる。まだなんでこの席に座ったかはきいていない。爽子と楓の仲も良く三人で遊びに行くことが多かった。皆の事も少しは分かった気がする。
久しぶりに理子にあった。理子は風音の数少ない友達の一人、風音の大の親友である。
「なんか風音ってこの頃いいね。」
「えっ。何でいきなりそんな事。」
「なんかこの頃笑う顔が増えたし、輝いて見えるよ。」
「そんなことないよ。」
照れながら答えた。でもちょっと嬉しい。
「でもみんなの人気者になっちゃったからちょっと寂しいかも。」
そういいながらも理子は満面の笑顔だった。
学校ではもうみんな文化祭モードに入っていた。吹奏楽部にも力が入り練習時間も増えた。
「絶対最高の演奏を風音に聞かしてあげるからね。」
「楽しみに待ってるね。」
ということで爽子がいないため、このごろは楓と二人で遊ぶことが多かった。何をしているかというと『キャッチボール』
である。
「こんなにも楽しい遊びってあるんだね、楓。」
風音は目を輝かせていった。小さい頃からお絵かきやお人形遊びしかやったことのなぃ風音には新鮮だったのだろう。
「まあな、野球が一番だよ。」
そういって二人でキャッチボールをした。毎日日が暮れるまで。
「きっと爽子は今頃がんばってるんだよね。」
「だな。あぁ腹減った。」
「今日のご飯はハンバーグだよ。やったね。」
「いいなぁ・・・」
そういいながら楓の自転車の後ろに乗っていえにかえった。
その夜風音は夢を見た。小さい頃からずっと見ている夢だ。知らない女の子と男の子と一緒に遊ぶ夢。女の子と男の子の顔は今まで見たことがない。何度呼んでも振り向いてくれないのだ。それでも遊んでいるなんて不思議だが、夢なのだからしょうがない。でもこの日の夢は違った。
「わっ。」
一瞬にして風音は目がさめた。なんと男の子が振り返ったのだ。その子は、楓だった・・・
その次の日いつものようにキャッチボールをしたあとの帰り道で思い切って聞いた。
「あのね、ちょっと変なこと聞いていい。」
「いいよ。今日の晩飯はカレーだからな。」
「あの、楓って小さい頃から同じ夢を見てない。」
「見てるかもね。」
「なんか三人で遊んでない。」
「そう、二人は絶対に振り向いてくれない。」
風音と楓は同じ夢を見ていることに疑問は持たなかった。
「あのね、昨日一人の男の子が振り向いたの。」
「そっかぁ。」
「その男の子が楓だったの。」
「うん、多分オレだよ。オレは女の子の一人が振り向いたんだけど・・・」
「それが私だったんだね。」
「うん。だからあの時迷わず風音の隣にいったんだ。」
「そうだったんだ・・・でももう一人の女の子は振り向いてくれないの。」
「オレもなんだ。あの子だけふりむいてくれない。」
『でも知っているかのように仲良く遊んでた』
二人は同時に言った。そうすると家についてしまった。
「じゃあまた明日ね。ばいばい。」
「うん。じゃあね。」
そういって二人は別れた。それにしてもあと一人の女の子は誰なのだろうか。その子が見ている私達は振り向いていないの。疑問が増える中わたしは眠くなって寝てしまった。
それから何日かたってとうとう文化祭当日。
「さっ爽子、きっ緊張しないようにね。」
「ふふっ、風音ほど緊張してないよ。じゃあそろそろ行くね。」
「うん、がんばってね。」
そういって爽子は笑顔で去っていった。風音と楓は一番前の席に座って爽子が出るのを今か今かと待っていた。
「何か緊張してきたよぉ、どうしよう。」
「だっ大丈夫だろ、爽子なんだから。」
そうすると吹奏楽部の演奏が始まった。爽子は緊張の文字のかけらもないようは演奏だった。最初は今年のコンクールの課題曲と自由曲から始まり、ポップス系を沢山演奏した。あっという間に最後の曲になった。最後の曲はしっとりとしたバラードで爽子のソロがある。爽子のソロは曲にあった、透き通っているけど甘い音でとっても素敵なソロだった。文化祭が終わり風音と楓と爽子は三人で帰っていたら爽子はご機嫌らしく少し前を鼻歌を歌いながら歩いていた。ごく普通な歌・・・
『あっ』
楓と風音は同時に言った。
「ねぇこの歌ってさぁ、あっあの・・・」
「俺はこの歌にいつも・・・」
そうだ、わすれていた。女の子はいつも歌を歌っていたことを。そう、いま爽子が歌っている歌を。
「やっと気付いた。」
そういって爽子は振り向いた。
「気付くの遅いよ二人とも。」
そういったとたん風音と楓に睡魔が襲った。
二人は夢を見た。そう、あのいつも見る夢。でも今日の夢は少し違った。もうみんな顔が見えている。
「ねぇいまは夢の中なんだよね。」
「たぶんな・・・」
そういうと二人は周りを見回した。爽子がいない。
「あのね、」
いきなり声がした。すぐに爽子の声だと分かったがあたりを見ても誰もいない。
「この夢はあたしが見せてたの。」
二人は意味が分からず呆然としていた。
「あたしね、人の夢に入れるの。なんていったってこの世界の人間じゃないから。もしかしたら人間でもないのかも。」
その言葉に二人は驚かなかった。何故か素直に受け入れられた。
「夢に入って一緒に遊びたかったの。そう・・・夢でよかったのに。でも現実で会ってみたくなった。だから楓をこの学校に転入させて風音と会わせた。楓は風音よりさきに顔を見てたから。そしてあたしも一緒にこの世界に入って、この学校に来たの。それからは本当に楽しかったよ。」
そういって爽子は風音と楓の前に現れた。爽子は何故か透き通っている。
「でも異世界から来たからこの世界には長く入れないの。もう限界みたい・・・」
そういうと泣きそうな笑顔で爽子は夢から消えた。
気付くとそこは公園だった。
「爽子はどこにいったのかな。」
泣きそうな声で風音はいった。
「きっとまた夢の中で会えるよ・・・」
その日風音と楓は夢を見た。
小さい頃からずっと見ている夢。
三人で遊んで楽しそうに遊んでいる。
その中で女の子は歌っている。
いつもの透き通るような歌声で。
とても幸せそうに。