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超能力者の魔法世界  作者: 松葉 独
始まりの王都編
8/94

ルナ

やだルナの心情がごちゃごちゃだ

 その少女が最初に目覚めたのは暗く、狭い空間だった。自分が一体誰でここが何処か何てことはわからなかった。


 ただそこにあったのは恐怖。この暗い場所は何処なのか、自分は誰なのか、そもそもどうしてこんなとこにいるのか。思いつくもの全てが恐怖で、仕方がなかった。


 少女は震える体を抑えながら、自分の足で立ち辺りを探索する事にした。


 身長からして十二歳程しか無い身体はガクつくのを抑える様に両腕を抑え、ゆっくりと近くの壁に寄りかかった。空間は極めて狭く、数人乗りのエレベーター程の空間しかなかった。


 やはりこの身体での行動はまだ早いか。と寄りかかった壁に背中を預け全身の力を抜いて腰をつく。その時だった。


 突然、寄りかかっていた壁が消え、違う空間へ少女は背中から地面へ倒れる。


違う。


 壁が消えたのではない。ましてや壁が押し扉になっていて、たまたま少女が押したから開いたわけでもない。その壁は確かに存在した。現に少女が首を上げると、その壁は視認できている状態だ。


 では何故か、答えはその壁にあった。壁は少女の下半身と上半身を分けて立っていた。正確には、少女の身体が透けて壁を通り抜けたのだ。


「……え?………あ、え…は?」


 悲鳴にもならないその声は少女にとって精一杯の声だったのだろう。少女は下半身が埋まった壁を見つめたまま固まってしまった。


 自分の身体がどうなってしまったのか、少女の思考はそこまで追いついていただろうか。


 少女の恐怖はやがて不快感へと変わる。その場に吐いてしまいそうな不快感、自分に何が起こったのかそれを理解できないことがこんなにも不快感を及ぼすとは少女も思っていなかっただろう。


……何時間経っただろうか、ズルズルと引きずる様に少女は地面を這っていた。壁をすり抜ける事をようやく理解できたのは壁にはまってから数時間後だった。その後少女は這う様にして辺りの探索をしていた。


 起きたところとは違い、一面を本棚で埋め尽くしているところから、書斎か何かかと最初は思ったが、本棚を支える壁を見てここがいかに歪な場所かを理解できた。


 そして本棚の中にある本も歪を極めていた。表紙の紙質もバラバラ、それどころか大きさや色、本と本の隙間を埋める気がないかの様にそのままになっていた。


 少女は一つの本棚の一番下の段、その本を取る。その時だけ壁をすり抜ける事なく本をさわれた事に少女は疑問を浮かべる。が少女はその疑問を頭の他所へ置き、手に持った本を開く。


 その本は魔法の本、いわゆる魔導書だった。そこから数日、少女はその本棚から動くことはなかった。



 数日後、少女は自分の身体の容態に気づく。


「あれ、お腹空かない?」


 そして、一冊の本を手に取る。だが、本を開くことはなく、表紙を見つめるだけ。少女はこの数日で自分の容態のこと、そしてその原因をあらかた把握していた。


 本の表紙にはこう書かれていた。リィドウズの言葉で『魂魄』。その内容の一部に死者の魂をこの世界に繫ぎ止める魔法、儀式の方法が記述されていた。


 当然、繋ぎ止めた魂の容態のことも載っていた。そして少女の容態は魂体の記述全てに該当していた。



 それから数ヶ月後、少女はこの本棚の空間を抜ける道を見つけた。魔導書があるだけあって、この空間から楽に出れる箇所はないらしい。少女は魂体の特徴能力の一つである、重力を受けない浮遊を使う。


 天井のある位置に到着すると、魂体、もう一つの特殊能力である透化を使う。透化は少女が最初に無意識で使った壁をすり抜ける力である。魂体であるため身体の体積がなく空間を通り抜けられる。


 天井を通り抜け上階?の床に顔を出す。そこは木材建築の内装の様だった。三階建てで天井にはガラス窓が張ってある。外は暗く、夜であることがうかがえる。


 そして木製の壁には一面に本棚がある。が下階の様に本棚の中身は規則性がある。一見歴史を感じさせ、何処か暖かく感じる。が今の少女には寂しさを感じさせていた。


 地下の魔導書は一般には公開されていない様で受付人も知らないらしい。


 一日経って気づいたが、ここは図書館らしい。朝になると、外から来た中年の老人が一階に設置された受付所に座り受付人をしている様だ。


 そして当然の様に少女が目の前に立っても気づく様子はなかった。少女は魂体の魔導書を読みこの結果は目に見えていたはずなのに……寂しいな。



 数日間少女はこの図書館で本を読んで過ごしていたが、誰もこの図書館を訪れる気配がない事に気づく。少女は透化を使い、外に出ようとする。


 図書館の出口と思われる扉の前に立つ。本来開ける必要も扉から出て行く必要もないが、そこは少女の気持ちの問題だ。少女はゆっくりと透化で扉を抜けーーーーーーー


 ガツンッ!大きな音が反響し少女の耳だけに聞こえる。それは少女が壁にぶつかった音だった。透化をしている少女が壁にぶつかった。それはある意味で異常事態。少女は驚いて後ろへおののく。


 そこから一日、少女は透化したまま壁という壁に当たり、そして確信する。


 この図書館は魂だけを隔離する為だけに透明な壁が張ってあることを。


 少女を襲ったのはどうしようもない絶望感。ではなく、寂寥感だった。誰にも視認されることはなく、歳をとることも、死者だから死ぬこともできない。


 それから半年、図書館には二人の来場者が来たが、誰も少女を見ることはなかった。いつしか少女の目は光を無くし、本を読むのにも手を使わなくなった。微力だが館内の魔素を操作できる様になったのだ。



 何年経ったか、受付人は最初の人から何人か変わった。少女は自分の名前すら無いその少女は今日も指を動かし魔素操作で本に触れず本をめくる。


―――寂しい


 たまに冒険者や旅の人たちが足を運ぶ。少女の楽しみになっていた。がある年を境に来ることがなくなった。あの、窓から見えた炎は一体……


―――寂しい


 ある日から少女は地下の魔導書を探ってより高度な魔法技術を手に入れようとしていた。それは外に出る為、一人で、暗い空間に、数ヶ月は出てこなかった。


ーーー寂しい


 諦めた。そこからは一日中目を瞑って寝ることを意識していた。


ーーー寂しい。寂しい。寂しい。寂しい。寂しい。寂しい。寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しいよう


………ある日何年ぶりに受付人以外の人が来た。一人は金髪の可愛いお姉さま。もう一人は全身黒のお兄さま。


 存在している時間を比べれば、その来訪者は少女の足元にも及ばない。が少女が来訪者を年上に見るのは、生前の癖、なのか。それとも少女のポリシーの様な者なのか。


………お姉さまはすぐに帰ってしまった。けど黒い服のお兄さまは天窓がオレンジ色になっても帰らない。


………お兄さまは不思議な力を使うみたい。私みたいに本が宙を浮いて……あれ……こっち見てる?


 少女は自分の存在にきづいたのかと思って一瞬目元が熱くなる。だが、少女はそんな希望を次の一瞬で払いのけた。希望を抱いた先に待つのは絶望だ。それを知っているから。


「……フッ、本当この世界は興味深いね。やあ、君は幽霊か何かかな?この世界なら科学では解析できない存在がいてもおかしくないからね。」

「………?」


………………

……………

………?


 視界が白く染まる。何処からどう見ていたのだろう。その第三者の視点は真っ白に染まった。最後の最後まで少女(ルナ)にもソラ(自分)にも感知されることはなかった。


 視界が白く染まった後、次に何にかに引っ張られる様に意識が切り替わる。まるで夢から現実へ起床する様な、そんな感覚だった。


 起床とともに五感が復活し、少し埃の様な匂いが鼻をつく。ゆっくりと目を開ける。そこには寝ているソラを覗き込む様にルナがいた。ルナは眉を八の字にさせて困り顔でソラを見ている。


 そう言えばとソラは思い出した様に起きたばかりの頭を動かす。先の記憶か、それとも夢のせいで頭がいっぱいだったが、ソラはそれより前の記憶を思い出す。ルナに魔法のことを聞いていたことは覚えているが……


「……寝るときの記憶がない?眠気や疲労は『異常除去(クリア)』によって除去されているはずだ……」

「……それは仕方ない。お兄さまは魔力切れで気絶したの」


 ソラの独り言に応じたのはルナだ。ルナが言った魔力切れとは、体内の魔力を殆どを使い尽くした時に起こる、いわゆるスタミナ切れとい言うやつだ。脱水症状などに近い。魔力は魔法を使うことで消費する。つまりはソラが魔法を使った結果だった。


 おもむろに、ソラは自分の手を見る。心臓の鼓動、血管の流れ、それと同じ様に感じる、魔力の流れ。ソラは自分の手に魔力を集中させる。手に力を少し入れる様にソラは力を加える。するとソラの手が淡く光りだす。これが魔力の具現化、その初心だ。魔力の具現化は魔法、魔力を集中させてイメージを具現化する力。ソラは昨夜この()()()()()で見た、魔導書の内容を振り返る。


 魔力は一人一人が一定づつ持っているものではない。人によってその中にある、魔力は量、質、型全てが違う。量が多ければより多くの魔法を、質が高ければより高度な魔法を、型が優れているならより良質なイメージを作り出すことができる。逆に量が少なければ直ぐに魔力切れになり、質が悪ければ通常の魔法にも多くの魔力を使う。そして〝型〟、イメージは魔法を使うのに最も重要な要素である。魔法を使うのに〝詠唱〟と言うものがある。〝詠唱〟は魔力を具現化に伴う型を補うことが出来る。


 例えば、《火よ有れ》と言う初級魔法詠唱がある。型は火を取り、魔力はその型に自動的に流し込まれる。だが、イメージを固め自己的に型を作ることができれば、魔力は型を取り、詠唱が必要なく魔法を使うことが出来る。これを無詠唱魔法と言う。だが、無詠唱は難度が高く、王国にも上級者の魔法師しか使われていない。


 そしてソラは型を自発的に精製し、能力とは全く別の魔法と言う概念を無詠唱で発動した……はずだった。


「チッ、僕としたことが魔法やそれに関連するものが能力とは全く別の法則であることを忘れていた。記憶がないのはそれが原因か、記憶保持能力は物理的、能力的に僕の記憶を消すことは出来なくなっている。だが、未知の法則、未知のベクトルから受ける物は無理だ。僕がちゃんとそれを理解して新たに保護効果を付けなければならない。クソッ、魔法を使うにあたってそこを考慮すべきだった」


 ソラは頭を抱えて、昨夜のことを後悔した。ルナはそんなソラを見て再び眉を八の字にさせて困った様な顔をした。ソラはルナの様子に気づいたのか、後悔を後にして困っている原因を考察した。


 先ずは辺りを見回してみる。ソラの周りはまるでクレーターの様に何もなく、本はある距離まで吹っ飛んでいた。次に魔力感知により、辺りの魔素濃度と魔力反応を感知、すると、ソラを中心に魔力が濃いことがわかった。そう、外界とは異常なほど濃い魔力が辺りを漂っていた。


「……ねえ、ルナ?」

「……」

「昨日、僕はどうして魔力を使い切ったんだ?」

「……それは、お兄さまが……魔力測定の魔導書の力で異常な程の魔力を魔導書が吸い込んじゃったから」


 魔力測定?とソラは首をかしげる。確かに魔力測定の魔導書はソラも読んでいた。だが、測定した記憶はなかった。ただソラは魔法を発動させたのであって、魔力を魔導書に通した記憶はない。


 なら何故本棚にしまってあるような魔導書がソラの魔法とともに発動したのか。それを答えたのはまじかで見ていたルナだ。


「お兄さまは自分が無詠唱の風の初級魔法を発動させたの」

「……風魔法?」


 何故自分が風魔法を発動させたかという疑問ではない。慣れない無詠唱の、しかも初級魔法言う余りにもこの結果を見て思えるものではなかった。風の初級魔法『ウインド』は精々が風で小物を吹き飛ばす程度もない魔法だった。が、この惨状を見るとそうは思えない。周囲の本が吹き飛ばされているだけと思っていたが、この全体の空間を見ると、本棚は倒れ、千切れた紙が宙を舞っている。ソラの周囲だけが、異常だった魔力も周囲に比べればの話だ。


「お兄さまは無詠唱の際、型を大きく作りすぎたの。それで放った魔法はこの部屋全体を駆け巡って魔力測定に反応した」

「そうか……」


 魔法の無詠唱の危険性を担っているのはその為かと、ソラは理解する。無詠唱で作る型は詠唱よりも繊細だ。無詠唱で型を作る際、詠唱有りで作る型とは同じ魔法でも同じ型にすることは難しい。今回のソラは詠唱有りの魔法の型より大きく見積もってしまい、爆風を放ってしまったのだ。


 そこでふと、ソラは思う。


「……そういえば、僕の魔力はどの位だったんだい?」


 魔力測定の魔導書にソラの魔力が吸われているのなら、当然その結果は出ているはずなのだ。魔導書がどう反応するのかは昨夜ソラは解読している。魔力が吸われた魔導書をソラは探すように辺りを見回してみる。


「えッ?……あ……うーん……」

「……?」


 そんなソラの独り言にルナが分かりやすく動揺する。と言うよりソラが会ってから一番動揺していたかもしれない。ソラはそれに気づく。ルナは何かを隠そうとしている。当然それは魔力測定の魔導書……だけでは無いが、ソラはルナに問い詰める。


「ルナ、魔導書はどこだい?魔力を吸収したらあの本は発光するはずだ。その色で魔力測定を行うけっこう原始的な魔法がかかっているけど、確かにおおよその自分の魔力は把握しておかないとね」

「……」

「教えてくれないかな。ルナ?」


 問い詰めるソラに少し戸惑った様子のルナだったが、その目を見て諦めたようにため息を吐いた。


「はあ。お兄さまには嘘はつけない……わかった話す」


 そしてソラははソラが昨日意識を失った時の話を聞いた。ソラは昨夜、この地下図書館の本をとある魔導書以外を数時間で読破した。そこからは、先程ルナの言った通り、初級風魔法『ウインド』を型の見積もりを誤り、中級風魔法『ストーム』を発動させ、その魔力に触れた魔導書がソラの魔力を殆ど吸収してしまったこと。そしてその結果、魔導書に起きた異常事態。それは……


 スルッとソラの前に指の第一関節程の破片を手のひらを開けて見せた。


「……ん?」


 それはふわふわとした色を発光していた。青から赤へ、赤から黄へ。それは虹の色と言っていいのか。その変色を見ていると何か不思議な気持ちになる。だが、その色よりも先にソラの脳にはある疑問がよぎった。


 そう、〝破片〟なのだ。その破片は千切れた紙だ。元を辿ればそれは魔力測定の魔導書だったものだ。ソラの魔力が吸われて魔力の計測を終え、本来、魔導書が放つ発光をその破片だけがしていた。


 当然、ソラは目をパチクリさせてそれを手に取る。ルナはソラが気絶した後に見ている為か呆れたようにため息を吐く。ソラは手に取ったそれから魔力を感じ、これが魔力測定の魔導書ということ自身の魔力がこもっていることから、本当にルナの言った通りになっているのだなと心底呆れる。


  その色は色彩、残ったものは破片だけ。それが意味する答えとは、すなわち魔力。


 ふと、「……そういえば」と、ソラは嫌な物を思い出した様な顔をした。ソラは魔力測定の魔導書を何冊か読んだ中に一冊だけ異質な魔導書があった。


 その本は表紙をめくり一ページ目に注意書きの様に文章が書かれていた。その文章には『色測定とか古臭いとか思ってんだろ!オレ様の魔導書はハイエルフの魔力ですら測れるほどの力がある!』と。その他にも書の中に何箇所か私情が滲み出していたが……


 だが、結果から見るにこの作者の言うことは合っていたらしい。測定の魔導書は魔力吸収が備わっているが、許容以上の魔力を吸収すると測定不可能になる。この場合は魔導書が粉砕されてしまっているが、この魔導書は粉砕されてはいるが魔力を測定し終えて結果を出している。


 色測定の魔力測定は質が青を示し、量を赤が示し、型を黄が示している。通常、色測定は一色で表せるがこの魔導書の紙切れは色が変化し続けている。そもそもこの魔導書の作者が間違っていなければソラの魔力はハイエルフと同等かそれ以上の魔力となる。流石のソラもその結果は信じてはいなかった。何せ、その時点で自分は人間ではないと同義なのだから。


 ソラはその魔力が吸われた紙切れをズボンのポケットにしまうと、埃を払い準備体操の様に軽く体を動かす。


 行動を切り替える。ここには自分の魔力を測る為にきたわけでは無いし、魔法の試し打ちにきたわけでも無い。魔導書と呼ばれる魔法の書、その知識を求めに来たのだ。と言っても、ある本以外は全て読み尽くしてしまったわけだ。そう、()()()()()()だ。


「………」


 視線は一点、ミルク色の髪の幽霊少女、その左手に抱かれた一冊の魔導書に。ルナは気づいている、ソラの視線に。何かに怯える様に、何かを恐れる様にソラに視線を向ける。それを分かっているが、ソラには()()()()()()


 空間魔法に分類される『アポート』、小物を瞬間移動させる為の魔法を無詠唱で発動させる。「あっ」と言う言葉と共にルナの魔導書が消える。ソラに手を伸ばし、待ったを掛けようとするが間に合うはずはなく、ソラの手元には一冊の魔導書が。


 魔導書の表紙は『魂魄』。夢に出てきたルナの魔導書だ。ソラはその魔導書を立ったままペラペラと流れる様にめくり出す。止められる確率は少なからずあった。だが、ルナはそれを止めることは出来ない。


「……ねえ、お兄さま」


 おもむろに、ルナは口を開く。ソラは見向きもせず、ただ本をめくる。聞いているのかも怪しいソラに、それでもなお言い続ける。


「……その魔導書を読み終わったら、ここから出て行くんでしょ?」


 それは「ここにいて」なのか、「一緒に連れて行って」なのかソラには関係のないことだ。それにそれが叶わないことを一番理解しているのはルナのはずなのに。


「……私、どうしたらいいの?」


 ソラに聞いたのか、ただの自問自答だったのか。その答えさえ、虚空の中。


 下を向いて落ち込むルナの耳にパタンと、本が閉じた音。ああ、終わる。また一人になる。寂しさには慣れた……そう、思っていたのに。頰を伝う触感。一筋の雫が流れて落ちる。魂体であるためか、その涙は床に落ちる前に霧散してしまう。


 いっそこのまま一言も喋らずに終わってくれとルナは願う。だが、その願いさえ叶わなず、ソラの右手がルナの頭に触れる。何年、何十年、ここまで人の温もりを愛おしいと思ったことはない。思わずソラの顔を見る。その目には静かで、だが確かに怒っていた。ルナに対してでは無い。いつかの先人に向けて憎む。他人なんてどうでもいいと、人の死ですら安易に許容できる人格者はここにはいなかった。無自覚かはたまた心変わりでもしたか、本人にも分からない。


 頭から手を離し次にルナの手を左手で取る。そしてソラは右手の人差し指がいつのまにか薄く切れていた。その切れた指をルナの手の甲に当て、何かを描いていく。


「……魔法陣?」


 血の魔法陣を書き終えたソラは少し足を退がらせると、その場にしゃがみ両手を床に着く。


「……ルナ。僕は他人がどうなろうが関係ない。ここから先は君が決めろ」


 ガコンッと重々しい音が部屋内に響く。歯車が組み合わさる様に重々しい音は床からだった。何事かとルナは視線を落とすと、床には輝くよな赤光が埋め尽くしていた。最初、その正体を理解できなかったが、それがこの階全体に貼り巡るように発光している。


「……これ、は!?」


 ルナが驚いた様子でソラを見る。が構っている暇は無かった。これは魔法陣に魔力を通して起動するのとは真逆、この魔法陣をソラは解除しようとしているのだ。


「《魂の理を乱すものよ、その縛りを解き放ち、彼の地へと誘え》『術式解体』ッ!」


 適当な詠唱と共に、赤光が一層眩しさを増す。目を瞑り視界を遮る。すると妙な浮遊感がルナの身体におきた。意図せずして自分は浮いているのだ。だが、何故?答えを述べたのは今まで床に手をついたソラだった。


「ルナ、君をこの世界に留めている魔法を解体した。何もしなければ、君はこのまま死者の世界に行く」


 ルナは目を見開く。この世界から消え行くと知ったからではない。ルナの目の前、黒髪黒服の少年ソラが自分にその白い手を伸ばしていたから。


「もし、もし君がこの世界にいたいと願うなら。外の世界に行きたい、とまだ惨めったらしくこの世界にしがみつくなら。この手を取れ」


 迷う必要は無かった。ルナはすぐ様ソラの手を取る。すると『術式解体』を発動する前、ソラが書いた血の魔法陣が青に発光する。


 数秒後、床の赤光は消え、この部屋に二人だけが残った。ルナの手の甲の魔法陣も消えている。先程までの浮遊感はなく、二つの足で立っていた。ルナは驚きを隠せずに、何かソワソワしている。一方でソラは正常運転、いつもの様子で気にした様子はない。だが、ルナはソワソワしながら視線を移した先、ソラの顔がほんの少し和らいでいるように思えた。























この次回もくらいのペースで投稿できたらと思います。

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