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超能力者の魔法世界  作者: 松葉 独
始まりの王都編
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別れと出会いは唐突に

うーむ

  剣聖と名乗った、ドラトン・バルトスがドラゴンゾンビと対峙する。


 最初に動いたのはドラゴンゾンビの方だった。後ろ足で思いっきり地面を蹴り、距離を詰める。対するドラトンは天に掲げた剣を下ろし、構える。


「私が奴と戦っているうちに早く壁内へ移動するんだ。君たちの中には早く治療をしないといけない者も居るだろう」

「……あ、ああ、わかった」


 応じたのはソラ、ソラはリーサや救助者目配せをして入り口へ入っていく。ソラは救助者達をほっといて、ドラゴンゾンビと対決するドラトンを見る。


(あの褐色の女の子とは話をしたいが、このドラトンとか言う奴、本当に大丈夫なのか?)


 救助者と共に壁内へ行ったリーサのことを思いつつ、ドラトンを見守るソラ。だがソラはドラトンが勝てるか勝てないかでこのもごとを見てはいなかった。


 ドラトンが接近してきたドラゴンゾンビに対して、剣を切り上げる。刀身がドラゴンゾンビの顎に直撃し、下顎の穴から下前歯の辺りまで、深い切り込みが入る。そのままドラゴンゾンビの巨体が宙に舞い、ひっくり返って、頭から地面に直撃する。ひっくり返ると同時、あの毒液がドラトンを目掛け無数に飛び散る。


 ソラは何も言わない。リーサと救助者を助けたのはただの気まぐれ。他人に興味がないから、助ける義理も理由もないから、ソラはあの毒液のことを一言もドラトンに向けて言わなかった。だが、次の瞬間、ソラの心を揺るがす光景がそこにはあった。


 ビチャァと水がかかるような音。ドラゴンゾンビから出た毒液がかかった音だ。だが、ドラトンには一滴もその毒液はかかってはいなかった。正確にはドラトンを中心に半径一メートル円様にして、毒液が弾かれていた。


「フンッ、そんな液は効かん!私には女神の加護が宿っているのだからなァ」


 勇壮な表情で、ドラゴンゾンビに向かう。ドラゴンゾンビが立ち上がる隙もなく、ドラトンの次の攻撃が炸裂する。と思いきや、バサッと言う音ともにドラゴンゾンビが宙を舞う今度は自分から翼を使って飛んだらしい。


 ドラトンは翼から放たれる。暴風を片手を目の前に持ってきてガードの姿勢に入る。それでも、暴風が強いせいか、ズリズリと地面を削るように、後ろに下がりになる。


「クッ」


 ドラトンが一歩前に出る。また一歩、また一歩と暴風を突き進んでいく。ソラは愚策だと心の中でつぶやく。もしもその足でドラゴンゾンビにたどり着いたとしても、待っているのは空中で暴風と毒液をばら撒く怪物。空中への攻撃手段がない限り、ドラゴンゾンビへの攻撃は不可能、そしてドラトンが今あるのは、近接戦闘特化の剣、どうやっても空中にいるドラゴンゾンビには攻撃不可。


 その筈だった。


「貫け、《氷棘》」


 ドラトンが暴風を防ぐ左手の逆、剣を持った右手の掌をドラゴンゾンビに向けて、唱えるように言う。すると、ドラトンの掌から氷柱の様なものが射出される。それも肘から掌程のサイズの氷柱が三本、ドラトンの掌から射出された。氷柱はドラゴンゾンビの片翼の付け根に見事に命中した。縦一列に氷柱が突き刺さる。すると、ドラゴンゾンビの片翼がメキメキと音を立てて、片翼だけが地面に落ちる。つずけ様に、ドラゴンゾンビが空中でバランスを崩し、落ちた片翼とは逆方向の位置へ墜落する。


「グギャ、ガァァァァァァァァァァァァァ」


 全身が腐敗して痛みなどないはずのドラゴンゾンビが墜落した直後、咆哮する。そして墜落したドラゴンゾンビへ近づく影が一人、ドラトンだ。ドラトンは再び剣を構えて、ドラゴンゾンビに向けて走り出す。だがそこでドラトンにも予想外の出来事が起こった。


 ドラトンの周りを何かが漂っている。それも一つや二つではなく、無数に飛び交っているのだ。紫色の毒々しい色をした小さい球の様なものがあちこちを飛び交っている。サッとドラトンは身を後ろに後退する。その紫色の物意味を知ったからだ。


 後退したドラトンは再び掌をかざし、今度はドラゴンゾンビにではなく、紫色の小さい球が飛び交う空間へ向けて、唱える様に放つ。


「焼け、《炎空》!」


 すると、紫色の小さい球のある空間全体が連鎖的に燃える。空気を乾燥させてカチカチと燃え広がる。そして燃えた紫色の小さい球は地面へと落ちて灰となり空気にさらわれる。最後に残ったのはドラトンから数メートルの距離にいる片翼がないドラゴンゾンビだけになってしまった。


「悪しきドラゴンよ。悪に染まってしまったこと、そして悪に身を委ねてしまった罪、それは万死に値する。王国民を傷つけ、そして多くの罪なき人の命を奪った罪、これも万死に値する。よって貴様を私はこれから撃つ。一瞬で、そして相応の痛みを持って貴様を撃つ!」

「グャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」


 ドラトンの死刑宣告に応用する様にドラゴンゾンビが咆哮する。いつのまにかドラゴンゾンビは体制を立て直していた。片翼がないせいかドラゴンゾンビはその体を斜めにしている。


 ドラトンが再び走り出す。ドラゴンゾンビもその場で何かを始めていた。裂けた顎を限界まで開け、何かを溜め始める。ドラトンとドラゴンゾンビの戦いを見ていたソラはそれの意味を嫌でも理解した。


(まさか、あのドラゴン、またあの火球を放つつもりか!あの女の子が言うには着弾したら、ここら一帯は無くなる程度の爆発威力はあるって言ってたぞ!)


 火球のエネルギーがドラゴンゾンビの口に集まる。してそれを放つ……ことはなかった。


 ドラトンだ。ドラゴンゾンビに向かっていた。ドラトンが一足早く、ドラゴンゾンビの下まで来ていた。ゼロ距離。ドラトンは構えた剣をそのまま切り上げる。鉄が擦レル様な音がドラゴンゾンビの体を駆ける。そして、ドラゴンゾンビの体が真っ二つに裂かれた。


「遅い」


 吐き捨てて、剣をふりを振り下ろし、剣についた血を払う。そしてそのまま剣を鞘にしまい込み、動かなくなり、二つに切り裂かれたドラゴンゾンビを見下ろす。その表情はソラからは見えなかったが、ソラは能力『感情解読』で見ていた限り、彼はドラゴンゾンビに対して、憐れみの表情を向けていたのだった。


 ソラは黒服のポケットに手を突っ込んでそれを見ていたが、壁の入口の縁に預けていた腰を浮かし、そして静かに暗い入口に入っていく。ドラトンからきずかれていないらしく、壁外へ来てから一度もソラの方を向かなかった。ただソラの様に他人に興味がないだけかもしれないが……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ソラは薄暗く狭いトンネルの中を歩く。国を囲む様に出来ているこの壁、実は三十メートルほどの長さがあり、結構太いのである。所々に本来灯りの役目のオレンジ色に薄く光る鉱石の様なものが埋まっておりされておりそれが唯一の灯りだ。


 ソラの表情は変わらず、無表情だった。が、頭の中は驚愕の一言に尽きた。


(なんだったんだ。あのドラゴンもそうだったが、ドラトン、あいつが使っていた。《炎空》と《氷棘》あれは能力じゃない。少なくとも僕が使う自然系の能力とは似て火なるものだ。そういえば、あの女の子が魔法とか言っていたな。それと何か関係が?そもそもあれが魔法の一種なのかもしれない)


 タッタッタッタッと慌ただしい足音が複数、前方から響いてきた。甲冑を身にまとい、全身装備の人間だ。出口の方から走ってきたところを見ると、ドラトンと同じ様な役の者か、国を守る兵士の様な存在だろう。


 兵士達はソラを素通りして、狭い道を一列に、隊列を乱さず、ソラが通ってきた道へ行く。実際、壁の一部が倒壊している。そこにソラが、少し焦燥しながら開けたので広さなどは考えず、狭くなっってしまい、横を二人三人歩くので精一杯になってしまったのである。だが、この狭い道をすれ違いざまに誰もソラに目をやらずに通り過ぎて行った。ソラはその事に不信感を持った様子は少しも無かった。


 そう、ソラはあの兵士達が来るとわかる前、ドラトンとドラゴンゾンビの戦闘を見ている最中から、ソラは能力を発動していたのだ。能力『カゲ』、自身、又は任意の人、物の存在感の設定。だが完全に存在を抹消することはできない。今のソラは常人には居るか居ないか分からないくらい、存在感が薄い。だが、とソラは心の中で疑問を吐く。


(ドラトン、あのくらいの強さがあれば、僕の存在にもきずけたのではないか?僕のこの能力は精神系に関連する能力、能力系の中で被害が強かった物だ。だからあまりドラゴンゾンビにもこれは期待できないと思っていたのだが、そいつを倒したドラトンに効くのはおかしい気がする。それとも、ドラトンが単にドラゴン相手に集中していただけなのか?)


 まあいい、と思考を放棄する。ソラには思考系の能力『超演算』があるが、弱体化でかなり体力を使う。それに、わからない事に手を出して、それについて考えても永遠に思考を繰り返すだけだ。とソラは諦めたのだ。


 カタンカタンとゆっくりと薄暗いトンネルを歩いて行く。すると、ようやく外の光がソラを照らす。出口だ。ソラはふうと小さく息を吐く。トンネルの中は埃っぽく息苦しかったので、外の空気が新鮮なのだ。


 それにしても、とソラは口を開き、あたりを見回す。


「この世界、時代は中世のヨーロッパの時の様なものが主な建築物か。それに中心部に建つあの城、どう見てもこの国の主要人物の住処か、あれは教会?それにしても、新鮮だな。あの世界とは違う新天地。未開拓の地が存在する世界か……」


 この国は中心に向かって少し斜めっており、壁の端からでも国の造りがわかる様になっている。ソラの辺りにはレンガ造りの建物が並ぶ、近くには鼠色建物があり、聖職者の様な服装をした人物が出入りしている。国は中心に行くにつれ、建物の装飾は豪華になり、それなりの身分のものが住んでいるのだと予想出来る。


 そして今ソラがいる場所は壁と家々の間にある、二十メートル位の空間だ。おそらくは、外敵が壁を越えて壁内へ侵入した時、この空間で対処する為の空間だろう。その空間の壁の入り口から少し離れた所、丁度教会と思しき建造物の手前に先程ソラが助けた救助者の手当てが行われていた。


 聖職者の衣装を身にまとった男女が慌てた様子で教会へ戻り、そして薬物用の入れ物瓶を何個か持って、また救助者の所へ戻って行く。そして、その瓶の栓を取り包帯を浸し、救助者へ巻いていた。


 その中には東門から来たものもいた。擦り傷や切り傷などの軽症者から、手や足と言った部位損傷の重傷者まで、数々の負傷者がいた。その中にはあの女の子が守っていた親子の姿もあった。


 そしてソラはきずく


「あれ、あの女の子がいないな、まあ怪我はしていなかったっぽいし、大丈夫ならいいんだけど。はあ、この世界のこと聞く当てを無くしてしまったのは少し痛いかな……おっと」


 壁の出口からさっきすれ違った兵士の数名が担架に白い布で包まれている何かを背負って聖職者のところまで運んで来た。以前、ソラの能力により、ソラの姿は視認できてはいない様だ。兵士は担架を置きそしてまたソラの横を通って、壁外へ戻っていった。


 そうか、とソラは思い出した様に担架の白布の中身のことを思う。


(あのドラゴンに命を奪われた人もいたんだったね)


 そう、あのドラゴンゾンビから逃げる際、ソラは何人もの人を助けた。だが、それは生きている。と言う事に前提条件を置いていた。ソラの中でそれが死んでいる人間だった者は助けてはやれない。


 そもそも、ソラはリーサによって少し心を揺さぶられた。それだけなのだ。ソラにとって他人とはどうなろうと関係ないし、自分が守れないものは守ってはやれない。それがソラの変わらないソラの流儀なのだ。


 運ばれた担架に見つけた様に駆け足で寄ってくるものがいた。簡素な装備を付けているが、この国の兵士とは違うもの、冒険者だ。冒険者の女性はその場に跪くと、静かに泣き出していた。ソラはそれを見て、何も思わなかったのだ。


「………フッ、相変わらずの人間性だな僕は」


 ソラ嘲笑気味に笑うと、再びあたりを見渡す。


 そして見つける。家々の隙間。暗い路地の入り口に立っている人影を、どうやらその人影はとある親子を眺めている様で……


「お、いた。あの親子のことがそんなに心配なのかな、別に母親の方は命には危険は無かったと思うけど」


 そう、その人影はリーサだった。ソラからは被っている布で表情を伺えなかったが、リーサはその表情を曇らせたまま、あの親子を見ていた。


 リーサが応急処置を施した女性は、以前目を覚まさずにいた。その娘は「ママぁ〜」と寄り添って泣いていた。聖職者たちが使っていた包帯が女性に巻かれていることから、既に治療という治療は終わっているのだろう。


 ソラもリーサから親子の様子に視線を向ける。


(うん。呼吸は正常、鼓動も正常、あとは目覚めてみないとなんとも言えないが、取り敢えず彼女が気にすることはないと思うが……ふーん……劣等感か)


 ソラがリーサを初めて見つけた時に感じた。リーサの劣等感。ソラはそれが個人個人の問題だと思っていた。リーサが他よりも劣っているから、そう思っているから、今も寝ている女性よりも自分が劣っているとリーサは思っている。とソラは思っていたのだが……


(あの劣等感。根幹はもっと深い部分か、もしかしたら種族とかそういうのがあるのかもしれないな)


 すると寝ていた女性が「う……ん……」と呻く様に声を出した。どうやら意識が覚醒してきた様だ。娘が「ママ!」と呼びかける。時期に完全に目が覚めて、親子の再会を成すだろう。


 ソラがそれを確認すると、再びリーサへ視線を戻す。視線を戻すとリーサはまだ親子を見ていた。だが、女性が覚醒途中であると知ると安心した様に、目を細め胸をなでおろす。すると、静かに回れ右をして暗い路地へ歩いていった。


 ソラがそれを薄々見逃すはずはなかった。早足にリーサを追いかけていく。黒服、黒髪、黒靴のソラはこの国ではあまりに異色すぎた。だが誰もそれをきにすることはなかった。ソラの能力『カゲ』の影響だ。


 そのソラを視認する者が人だけいたことをソラはきずくことはなかった。


 ソラがリーサに続いて暗い路地へ入っていく。幸いリーサの足は遅かったらしい。ソラはすぐに追いつき、二人は直線状に並ぶ。その距離、十メートル。


「おい、君……」

「…ッ!?もう気づかれたの!?」

「……? 少なくとも君が思っている様な追ってみたいな奴じゃないよ僕はね」

「……あ!貴方はドラゴンゾンビの時の!」

「そ、僕はそのドラゴンゾンビとか言うのに火球を放たれた君を助けた……って言うのは烏滸がましいかな。なんか体が勝手に動いたと言うか、君を助けたかったと言うか……」

「え、なんなんですか。もういいですか、いいですよね、私用事があるんです」


 新手のナンパの様なセリフを吐くソラ。リーサはそれを振り返って、様子を伺う様に見ている。ソラの心は内心収集が付いていなかった。ソラにしては珍しいことだったが、リーサが立ち去りそうなのを見ると、かける言葉に迷っている場合じゃないと、思い言葉を振り絞った。


「……僕は君と……」

「……私に、関わらない方がいいですよ?貴方のためにも……」


 そうリーサは言い放つと、再び後ろを向いて歩き出そうとする。ソラはその背中を眺め、ただ考える。リーサを止めるために、ではなく。リーサが何故こんなにも劣等感に苛まれているのか。と言うことに。


 スタスタとリーサはさっきとは違って、早歩きしてこの場を去ろうとする。ソラは声をかけることが出来なかったわけではない。ただこの場にいたリーサはソラとの会話を嫌がっていた。だから諦めた。


 他人のことをどうでも良いと思うソラにとって、それは珍しい判決だ。だが、ソラはリーサのことを尊敬していた。他人という枠ではなくリーサと言う個人として認めていた。ソラの中でリーサは他人以外の枠に入ってしまった。それはソラにとって、〝どうでも良い人〟ではなくなったのだ。


「僕にはどうすることもできない。か……」


 はぁ〜と深い溜息を吐くソラ。ソラにとってこの異世界の事を聞こうとしていた人が「関わらない方がいい」なんて言って去っていったのだ。ソラにとっては死活問題だ。


 別にリーサである必要はないのかもしれないが、ソラが赤の他人に「僕は別の世界から来ましたこの世界のことを教えたください」なんて、場違いな事を言えば、大衆の目の中で注目は避けられないだろう。注目されれば、警戒もされる。そんな事は避けたい。だからソラは自分が安心して話せると踏んだ、リーサに声をかけたのだ。


(まあ、相手に信用されてなければ、それもできないんだけどね)


 ソラはこれからの事を能力『超演算』で算出していく。顎に手を当て考える。


 考えていたから、接近に気づかなかった。


 ソラの能力には『空間把握』を使って周囲環境の把握を可能とする。そしてソラには能力を並行使用する術がある。


 本来ならば。そう、ソラはこの世界に来た時、ソラの能力は全てが弱体化していた。その中には本当に使えなくなったものまであった。弱体化に伴いソラは能力の並行使用にも制限が発生していたのだ。


 よって、ソラは『超演算』に注がなくてはいけなくなった。だからその気配を感知する事が出来なかったし、脳の多くを『超演算』使っていた為、ソラが目視で視認できる距離まで近ずいても、それに気がつかなかった。


「あの〜すいませ〜ん。お話いいですか?」


 その声はソラが『超演算』を解除した瞬間にあった。高い声から女性の声と言うのがわかる。暗い路地の入り口あたり、誰かを追ってきたかの様に発せられた言葉。それは紛れもなく、ソラへかけられた言葉だった。


………沈黙。いや、ソラはそれを完全に無視したのだった。


 女性は戸惑い、だがソラを諦める事はない。再び声をかける。


「あの!さっきのドラゴンの時は馬車から!助けていただき!ありがとうございました!……それで……その……って私の話聞いてます?」

「………」

「あ、聞いてませんね。聞こえてて、聞こえないふりをしているんですね!分かりました。ですが私は貴方を諦めませんよう!」

「………」

「………ねえ、話くらいしてくれてもいいんではないでしょうか?確かに、助けてもらった身としては烏滸がましいと思いますけど、ねえ。」

「………」

「ねえ、お願いしますよう。……本当に次にあんなドラゴンにでも出くわしたら死んじゃう。本当お話くらいは!」

「………はあ、出来れば僕はお話ししたくないんだけどね……」


 駄々こねの様に言う女性に、根負けしたソラはとうとう口を開いた。ソラは目を開け、目の前の女性を見る。


 女性はソラは常時稼働してる能力の一つ『完全記憶』でその姿ははっきりと覚えていた。彼女はソラが救助した一人、粉々になった馬車に片足を取られ、ドラゴンゾンビに襲われそうになった女性。その右足には聖職者たちが負傷者たちに巻いていた包帯が巻かれている。


 女性はパアァと目を輝かせた。


「やっと話を聞いてくれそうですね!私はシエルしがない旅商人をしているものです!」

「僕はソラ。今は何もしていないね。特にする事もない。する事がなくて危機感を感じるくらい何もない。」

「そ、そうですか……いえ、それは逆にチャンス!ソラさん何もやる事がないなら、私の……」

「うん、断ろうかな」

「私まだ全部言ってない!」


 即答するソラにシエルはツッコミを入れる。


「大体君が言いたい事は予想できるさ。旅商人、何だろ。そして女一人、君が言いたいのは用心棒にでもなってくれと言うんだろう?」

「正解です!そうです!私、本当今回が初めての商売だったんです!それなのにあのドラゴンが……だから貴方を見て思ったんです!貴方の様な用心棒がいれば安心だなって。だから用心棒に……」

「いや、だから断るって」

「何でですか!そしたら私これからどうやって生き延びて行かなければならないの……ッ!意地でもなってもらいますなって下さいお願いします!何でもしますから!」

「……いや、だから断……何でもって言ったね君今」

「はい!私にできる事なら!」


 ソラはにまぁと口を歪める。シエルは「あれ?私何かやばい事言っちゃった?」と言う表情になる。そう、言ってしまたのだ。ソラはまさかの進展に悪人の笑みを浮かべるのであった。


次回も一週間以内には

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