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行き詰まったら人に聞け

「キャロル……1つ聞いてもいい?」


 私は今ベッドの中にいる。そして心配そうな顔で声をかけてきたのは…親友ノア。彼女が何を言わんとしているかは想像が出来る。


「私が具合を悪くして、貴女を呼ぶのではなかったかしら……私ったら、聞き間違えちゃった?」


 ノアは心配そうな顔で、嫌味とも取れる発言をする。

 しかしコレは嫌味ではない。彼女は単に己の疑問を口にしているに過ぎないのだが、往々にして、こういうことがある。

 なので私は心の中で彼女を『ド天然系天女風・鬼』と呼んでいる。




 ノアは田舎から学校に通うために王都に来た。

 群を抜いたその美しさから、彼女は即行で一部の攻撃的女子の反感を買い、絡まれたものの、ド天然な彼女はそれを理解していないようだった。


 下町育ちのはすっぱな男爵令嬢に『アバズレ』と言われればキョトンとした顔をし、バカ丁寧に謝ってその意味を聞き返し…高慢ちきな候爵令嬢に『調子に乗るな』と言われれば、己の思慮が足らない事へのアドバイスだと思い、笑顔で、やはりバカ丁寧に礼を述べた。

 パーフェクト美女のノアの容姿について悪口など言ったら流石にイタいので、そんな事をいう者はいなかったが、一度、彼女のストレートハーフアップの髪型を『地味であざとい』と発言したオサレ系伯爵令嬢は、翌日彼女に自らと同じ髪型をされてしまい、その美しさに並ばれ、物凄く居心地悪そうにしていた。


 ノアは私がいじめから救った、と思っているようだが、実のところ大半は自分でどうにかしていた。私がどうこうしたのは彼女の所持品や、彼女自身に危害を加えようとした人間のみで、それも彼女のためというより、ただ単にそういうのが目障りだから排除したに過ぎない。


 それ以外はむしろ、彼女の返しが面白いので傍観していた輩である。


 コレは友人になってからのエピソードになるが、婚約者候補に選ばれた時、レヴィウスの幼馴染、チェルシー嬢に絡まれたときのノアの返しは傑作だった。


「貴女がノア・フォルクロアね。私はレヴィウス…いえ、レヴィウス第二王子の幼馴染チェルシー・マクラーレンよ」


 レヴィウスに気があったチェルシー嬢は、これみよがしにレヴィウスの名を呼び捨てにし、仲良いアピールを行いながら登場した。

 これに対しノアはパァっと花を咲かせたような満面の笑顔で答えた。


「まぁ……わざわざそれを仰りに?!」


 当然ながらその場は凍りついた。私とノアを除いて。


 彼女には全く悪気はないが、物凄い嫌味か牽制にしかとれない。

 ……しかもアンタ、そんな笑顔で。


 あまりの出来事に表情筋がおかしくなりそうになった私がトイレへと駆け込むと、心配したノアはチェルシーに感謝の意を述べてからすかさず追いかけてきたためその場はそれで収まった、とあとでクラスメイトから聞いた。

 その時のチェルシー嬢の表情を拝めなかったことが残念でならない。


 なぜあんな風に返したのかとノアに聞いたところ、彼の幼馴染であるチェルシーが『婚約者に選ばれたら、幼馴染である私とも仲良くしてね☆』という気持ちでわざわざ来てくれたのだと思ったらしい。


 だとしてもあの言い方はない。絶妙だ。


 彼女のそんなところが、私に『ド天然系天女風・鬼』と心の中で呼ばれる所以ではあるが、これは彼女が真に清らかであるが為に起こりうる奇跡なのだ。

 なので私はリスペクトを以て彼女をそう称している。


 まぁ……本人には絶対に言えないが。




 私は当初の予定通り……とはいかなかったものの、ノアに相談する時間を得ることに成功した。

 話はベッドにいる今から少し前にさかのぼる。



 彼にもたれかかることとなった私は、既に全身に力が入らなくなっていた。


「キャ……キャロル?」


 頭上から聞こえる彼の声は震えており、私を戸惑いながら支えているのであろう、手も震えていた。

 私は全身に自らの心音が響くのを感じ、それと共に体温が急激に上昇していくのを感じた。


 血圧が低く…朝は軒並み青白いくらいの私の顔も、おそらく血色が良くなっているだろうと予測ができ、私は彼にもたれかかったまま顔すら上げることができないでいた。

 声も発することができない。

 うわずったりしてしまったら、とりあえず死にたくなる。


 ……とりあえずで死ねるか。


 うわずるのは諦めるとして、せめてどうしてこうなったかという、説得力のありそうな適当なことを述べて誤魔化したい……私は必死で考えたが、頭がついていかなかった。こんなことは初めてだ。


 今は死ねない…。『鋼鉄の乙女』と言われるこの私が、こんなデレ死にしてたまるものか……。


 実は密かに、私は自分の二つ名が気に入っている。


「キャロル…貴女は…私をからかっているのですか……?」


 震える声のまま切なげにそう言ったあと、エミールはあろうことか『それでもいい』と呟いて…支えているだけだった手を、まるで壊れ物でも扱うかのように優しく、私の腰と肩にそっと回した。


 確かに壊れ物と言えなくもない今の私だが、そういう扱いはやめていただきたい……!!


 そう心の中で叫びながら、私は意識を失った。




「……知恵熱を出すとは流石に思わなかった」


 ノアの疑問には答えず、憮然として私は言った。…そう、知恵熱を出して意識を失った私に気づいたエミールが慌てて人を呼び、現在に至る。


 私は思いもよらなかった、自分の数々の残念恋愛スキルに愕然としている。

『照れると謎の暴力行為に及ぶ』

『デレると身体の力が抜け、最終的に意識を失う』

 ……こんな特性いらない。


「そういうわけだけど、どうしたらいいと思う?」


 ことのあらましを説明し、相談するとノアは困った顔をして答えた。

 私の予想外の答えを。


「それは……どうにかする必要ってあるの?」


 いや、あるだろ。


「だって、それって貴女……既にエミール様のことが好きだからそうなるのではないの?」


『クソ美形力』に当てられた……としか考えられていなかった私は彼女の言葉に息を呑んだ。


「好き……だと?」


 真面目な顔をしてノアは『ええ』と首を縦に振って肯定したものの、『好きだとそうなるもの?』という私の問いに関しては『いえ、ならないけど』とはっきり否定し、首を横に振った。


 ……いや、まぁわかってはいました。


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