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どいつもこいつも遅すぎる

 私はキャロライン・ブーゼンベルグ。第三王子の婚約者で20歳。

 そう…20歳。

 16歳の時に第二王子の婚約者候補として選出されるも、先にレヴィウス王子とは友人関係を構築してしまった。別にそれだけなら恋愛にスライドしていったかもしれない。なにしろ彼とは気が合った。

 しかし、同じく婚約者候補として名が挙がっていた親友のノアが彼に恋心を抱いたことに気付いた私は、二人をくっつけた。

 これに対してまったく後悔はない。問題はその後だ。

 何故か王に気に入られた私は引き続き今度は第三王子、ハロルド様の婚約者にされてしまったのだ。

 しかしこれはハロルド様にとって、大変に不服なことだった。元々兄に劣等感を持っていた彼にとって、この仕打ちは確かに酷い。しかも性格的に私と彼は物凄く合わなかった。…そんな訳で今に至る。


(あー最悪…貴重な適齢期を尽く無駄にしてしまった上、『お手つきの捨てられた女』というオマケまでついてしまった)


 のっけから合わなかった私とハロルド様との間にそういった関係は皆無だが、世間的にそういった目で見られることは間違いなかった。

 早く見限っておけばよかった……誰にも見られないよう、私は小さく舌打ちをした。

 …しかし、私も悪かったのかもしれない。

 なんせ今回のことは、もう関係は良くならないと踏み、彼との関係のために努力をすることを諦めた私が、彼に『仮面夫婦というのはどうだろうか』という打診をした矢先のことだったのだ。


『お前のそういう所が嫌いなんだァァァ!!』


 彼の言葉が脳内でリフレインし、私は反省した。

 しかしその一方で、何故もっと早く言ってくれない…と思う。

 大体にして駆け落ちとか…馬鹿なんだろうか?どうせすぐ捕まる。

 彼女が好きなのか私が嫌いなだけか分からないが、一言相談してくれればもっといい方法があっただろうに……



 勿論傷ついていないわけではないのだが、私はまず事態の収拾を図ることにした。

 もう既に十分なさらし者だ。このまま逃げたところで影でグチャグチャ言われるのは目に見えている。


 とりあえず夜会を無理矢理再開させることに成功した私は、気が済んだのであとは放置することに決めた。

 その時だった。


「お待ちください!キャロライン様!!」


 なんか知らんがえらい男前が階段を登ってきた。ぶっちゃけ滅茶苦茶好みのタイプだ。私の死んでいた乙女心は久しぶりにときめいた。

 しかし同時に湧き上がるこの感情…おい、何故呼び止めた?すんなり帰らせろ。


「貴方は……?」


 息を切らしながら彼は答える。


「エミール…エミール・ローガスタと申します。…騎士団に所属しております…」


 彼は多くの騎士団長を輩出してきた武芸の名家の出身で、早くから騎士団に所属し、23という若さながら部隊長だかなんだかの職に就いているとか。

 その手腕もそうだが、魔術も使用する彼は騎士の割に細身で、端正な顔立ちをしているため女子人気がすごい。

 彼を夜会で見かけたことは何度かあったものの、いつも自分とは離れた位置にいた為、近視気味の私が彼の顔をちゃんと見たのは初めてだ。


「よろしければ…私と踊っていただけませんか?」


「……は?」


 なんの嫌がらせだ。…私はそう思った。


 しかし彼の登場でまたも周囲の目線がこちらに集中してしまった。仕方ないので付き合うことにする。…好みのタイプじゃなかったら許さなかったところだ。せいぜい両親に感謝するがいい。

 心の中でそう毒づきながら私は気づいた。

 周囲の視線が同情や好奇のそれから、一気に羨望に変わったことに。


 そんな中、彼に憧れる女子たちの声が聞こえてきた。


「エミール様はいつもご親族といらっしゃる上、ダンスなんて一度も踊らない方でしたのに……!!」


(……もしかして気遣ってくれたのだろうか)


 私の視線に気づいた彼は照れたような笑顔を向けた。


 しかし、ここから話はややこしくなる。


「いつか…ダンスを申し込もうと思っており…貴女の出席する夜会にはなるべく行くようにしていたのですが勇気が出ず…」


「はぁ……」


 ぼんやりと彼の言葉を聞く。

 え?何?コイツ私のこと好きなの?


「今夜の夜会も演習後だったので遅くはなってしまいましたが…まさかあの様な事が起こるとは……。こんな事を言うのは失礼とは思うのですが…私にとっては幸運としか言い様がない」


 踊りながらも彼のトークは止まらない。

 え?今、私、口説かれてないか?


 正直なところ、好みのタイプだろうとなんだろうと、今恋愛ざたのゴタゴタに巻き込まれるのは真っ平御免だ。

 ダンスが終わったら礼を言って早々に立ち去ろう…

 そう思っていたにも関わらず、ダンスが終わっても彼は私の手を離そうとはせず、それどころか私を見つめたまま中央で手を強く握った。


「キャロライン様…かねてからお慕い申しておりました!ぜひ次のダンスもその次のダンスも私と踊ってください!!」


 連続して同じ相手と踊ることは、公然の『俺の女だ』宣言にほかならない。

 つまりこれは公開プロポーズだ。


 あまりの劇的な展開に周囲からは拍手喝采…女子のキャーという声が湧き上がった。


 おい…今しがた一応は立て直した夜会をどうしてくれる…


 事態についていけず、的外れなツッコミを心の中で入れていると、遅れ馳せながら駆けつけた王太子と第二王子が現れた。


 つーか遅いわ。最初のはもう終わっている…


 お前らが来る前に新たな異常事態が発生してしまった。どうしてくれる。


 二人は何が起こっているのかわからないようだったが、ノアが事の経緯を説明したようで、私とエミール様はとりあえず別室へと連れて行かれた。


 ……なんて日だ。


閲覧ありがとうございます

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