エピローグ
「寂しくなるわ……キャロル。まだあと1ヶ月は一緒に過ごせると思っていたのに」
キャロルは晴れてハロルドとの婚約破棄が成立し、王宮を去ることとなった。
「いや……実家に戻るっていっても戻るのタウンハウスだし。王都にはいるのよ?私」
キャロルの実家は王宮から馬で30分とかからない。
ノアが「会おうよ」と言えば、別にいつでも会える距離である。
エミールとの『白い同棲』を白紙撤回する旨を王太子に告げたその日のうちに、ハロルドの立場は戻された。これは一応自分に協力してくれた彼への感謝の気持ちから、王太子にキャロルが進言したためだ。
ただし冒頭でも述べたとおり、当然ながら婚約は破棄であるしキャロルは彼の気持ちなど知らないままだった。
ハロルド自身、今後も自分の気持ちなど言うつもりはないが、キャロルが王宮を去る前日にどうしても一度会いたくなり、彼女の前に現れた。
「……これからどうするんだ?」
バツの悪そうな様子で彼は尋ねた。
「ま、気ままに過ごしますよ。暫くはね。」
飄々と彼女は答える。彼とは婚約者なんぞにならなければ、もっといい関係が築けたのかもしれない……チラリとそんな事を思った。
何か言いたそうな顔をしているハロルドにキャロルは少しだけ口角を上げ、挨拶がわりにこう言った。
「ハロルド様、次お会いするときはマイナス9万とんで20点からですね?……そうそう『フランボワーズ』、新作ケーキを出したみたいですよ」
キャロルが実家に帰ると、皆微妙な顔で彼女を出迎えた。
キャロルは色々お説教とかされるのだろうか、ぐらいにしか思っていなかったがそうではないらしい。
「……取り敢えず部屋へ戻りなさい」
苦虫を噛み潰したような顔でブーゼンベルグ伯爵は娘にそう言った。しかし、そもそも苦虫を噛み潰したような顔をしている彼の表情をキャロルは読めないでいた。
自室の扉を開けたキャロルは、皆の表情の理由に気付く。
キャロルの部屋は大量の花で飾り立てられていた。
「……エミール……」
「今日は特別にお休みを頂いてね」
扉を開けたまま立ち尽くすキャロルは、後ろから声を掛けられて振り返った。
「……一輪でいい、と言ったでしょう」
呆れた顔でキャロルがそう言うと、エミールはパチンと指を鳴らす。
飾り立てられていた大量の花は一瞬にして消え、部屋には一輪の花だけが残った。
その花は……チューリップ。
「チューリップの花言葉……知ってる?」
楽しそうに彼はキャロルに尋ねた。勿論彼女がそんなこと知るわけなどない。だが、なんとなく意味するところはわかった気がした。
溜息をひとつ吐いて、この間と同じセリフをキャロルは言う。
「貴方って……本当に大馬鹿のストーカーだわ」
ただしひとつ違うのは、彼女の表情。いつもの無表情ではなく、呆れた笑顔を浮かべている。
「エミール、私は貴方の経済観念が心配よ」
エミールはその言葉を聞くと、嬉しさを全身で表現するようにキャロルを抱きしめた。
「チューリップの花言葉は『不滅の愛』だよ、キャロル」
そう囁く彼にキャロルは、ソレは恐ろしいわね……と返すと彼の背中に腕を回して囁き返した。
私と結婚する気なら、次から余計な花はせめて何掛けかで払い戻して頂戴、と。
閲覧ありがとうございました!
とりあえず完結しましたが、レイナについて本編に差し込めなかったので、また書くかもしれないです。
あとエミール視点を入れられなかったのでそれは必ず書きます。
なんか当初の予定より大分はみ出ました。(予想はしてたけど)
色々反省や後悔はありますが、今はなんとか終われて良かったです……
皆様のおかげです。ありがとうございました。




