自尊心と乙女心
更にキチンと調べを進めた私は、レイナ・スノーグとエミール・ローガスタが遠縁関係にあたり、幼い頃から2人は兄妹のように仲が良いという事実を知る。
もしかしたら……私の中にエミールへの疑いの気持ちが募る。
再度ハロルドの元へ訪ねた私は彼に件の計画について話を聞くことにした。
はじめ彼はレイナ嬢をかばっているのか「俺が計画に巻き込んだ」の一点張りだった。私は本気で聞いていることの証拠に彼の周囲を幻術の炎で取り囲み
「マイナス9千点ですね、ハロルド様……1万点に到達した暁にはいい夢が見られるかもわかりません」
……と嘯いてやった。彼はおののきながらもレイナ嬢に危害を加えるつもりがないかを確認してきたので「ない」と答えるとあっさり吐いた。
コイツ本当に王族には向いていない。ちょっとは耐えろ。
大きく溜息を吐いて、ハロルドは語りだした。
「……この計画はレイナが言い出したんだ。俺がお前と婚約破棄をしたいが自分の力ではできる気がしないと彼女に愚痴った後……」
「そこです、私が聞きたいのは。『愚痴った後』というのは具体的にいつのことなんです?『愚痴った日』と『計画が発案された日』……それがいつなのか、そこが知りたいのです」
私の質問に彼は困惑した顔をしながらも記憶を手繰り寄せる。
ハロルドが彼女に愚痴った日から5日後、彼女はハロルドに計画を発案していた。ノワールの報告をもとに彼女やその近辺の動向を記した手帳を開くと、その間の日にエミールはスノーグ家の食事に招かれている。私は確信した。
そもそもこの計画自体、エミールの指示だったに違いない、と。
訝しげに私を見つめるハロルドに、彼の希望していた『フランボワーズ』のショートケーキをご褒美に渡そうと思ったのだが、残念ながら私は怒りのあまり無意識にそれを燃やしてしまっていた。
「申し訳ありませんハロルド様。この通り手土産は食べられたもんじゃありません。でもその代わり……思ったより早く出られるかもしれませんよ」
ご機嫌よう、と挨拶をして私は地下牢を後にした。
ハロルドを再び訪ねるのには思いの外勇気がいった。
何故なら疑いを確信に変えれば、私は自分が確実に腹を立てることがわかっていたからだ。
『白い同棲』は計画外だっただろうが、エミールの計画通り手玉に取られた事実を私がすんなりと受け入れられるハズがない。
ただ私は彼のことが既に好きだと自分の中で認めてしまっていた。
私はハロルドに会うまでひたすら自分の気持ちと向き合った。
昨日は具合の悪さを理由に、エミールと会わないようにした。寝室の前に侍女を立たせ、顔を合わせるのも拒んだ。
今朝も「寝すぎて顔がむくんでいるから」と、扉越しの会話しかしていない。心配し、ごねるエミールに今日の夜にはキチンと出迎えると約束し、なんとか納得をさせた。
長々と一人で考えたにも関わらず、自分の気持ちは定まらなかった。
仕方ないのでハロルドの元を訪ね、今に至る。
想像した通り、私は物凄く頭にきた。
しかしその一方で、そこまでして私を手に入れようとした私に対する彼の想いを突きつけられたようで、どうしようもなく胸が高鳴った。
調べたレイナ嬢の性格を鑑みても、彼女がそう易易と計画に加担するとは思えない。すぐ流されるお人好しのバカ、ハロルドはともかくとして。
万が一のことになった場合、エミール自身が全てを失う覚悟を以て彼女を庇う……というか、なんなら計画の全てを暴露し断罪される位のことは当然約束していると推測できた。
その辺の確認をレイナ嬢に行ってもいいのだが、それがわかったからといって、腹の虫は収まらないだろう。
私はエミールの計画に乗せられていたことに対する怒りと、乙女ゴコロとの間でわけがわからなくっていた。
『で?君はどうしたいんだ、キャロル』
不意に脳内で想像上のルルノイエが私に尋ねた。
お前は出てこんでいい……!
しかしきっと誰に相談してもそう返されるに違いなかった。
時間だけが刻々と過ぎていく。
恋愛って面倒臭ぇなぁ……全く以て合理的ではない。
結局のところ私が彼に惚れた時点で、合理的な恋愛計画などとっくに破綻していたのだ。
そしておそらく非合理的なのが恋愛というものなのだろう。
最終的に『素直になって相手と向き合え』というノアの言葉に尽きるのだろうが、そもそも私はもう自分がどうしたいのか自分でもよくわからない。
そんなところも含め、エミールにぶちまけることにした。




