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プロローグ

「夜会の場を使ってこんな事をなさるとは…お戯れも大概になさいませんと」


 あくまで静かに…いつものような無表情のまま彼女は言った。



 表情筋が死んでいる…そう揶揄される彼女の名は、キャロライン・ブーゼンベルグ。20歳。

 ブーゼンベルグ伯爵家の長女であり、第三王子、ハロルドの婚約者である。


 なぜか第三王子が珍しく夜会に誘ってきたと思ったら、突如彼から婚約破棄を言い渡された。

 彼の後ろに立つはかなげな少女…彼女は某とかいう男爵令嬢。


 この夜会で彼が婚約破棄を言い渡した理由は、彼女を陰湿に虐めたことに対する断罪であった。


 しかし『鋼鉄の乙女』『氷の魔女』等の異名を持つキャロルは冷静だった。


 いつ、どの時間、どのように彼女を虐めたのかと事細かに、矢継ぎ早に質問をした上で、侍女に自分の手帳を持ってこさせた。

 その時間は自分はどこで何をしており、誰それがいた為、その実行は不可能である…と明言した上で、それを立証することのできる人間や事象を複数、つらつらとあげたのだった。


 彼女は関係が初めから今まで一向に良くならないこの王子とのことを諦めていたので、あくまで自分の無罪の主張と、彼の行き過ぎた行為への警告を行ったに過ぎないのだが、冒頭の言葉にハロルドは顔を真っ青にし、後ずさりながら声を震わせた。


「キャ…キャロライン…申し訳なかった。…しかし」


 彼は彼女の報復が恐ろしかったのだ。(キャロルにはそんな気はないのだが)


「俺はお前のそういう所が嫌いなんだァァァ!!」


 次の瞬間、彼は傍らの少女の手を取り、脱兎の如く駆け出した。


「あっ王子?!」


 周囲の人間が声をあげる中、王子は首尾よく裏口に待機させていた馬で逃げ出した。


「……」


 断罪には失敗したが、駆け落ちをされてしまった。



 取り残される形となったキャロルに、親友であり第二王子の婚約者、ノアが駆け寄ってきた。


「キャロル!!…大丈夫?」


「大丈夫……とは言えないわね」


 周囲を見回しキャロルはそう答えた。自分のメンタルはともかく、場内は騒然としている。


 王、王妃不在のタイミングで行われたこの夜会は、どうやらこれが目的だったようで、ハロルド主催の上、他王族はさして出席していない。

 出席している第四王子はただオロオロしているだけだし、ノアの婚約者であり友人でもあるレヴィウス第二王子は、2人を追いかける指示を近衛に出したあと、おそらく報告に行ったのだろう…慌てながらどこぞへ行ってしまった。


 キャロルを心配したノアが別室へ誘おうとするのを一旦断り、キャロルは事態の収拾を図る。

 階段の一番上…今しがたハロルドがいたところまで自ら登ると、パンパン、と手を叩いた。


「皆様…とんだ余興となりましたがお楽しみいただけましたかしら。ハロルド様の婚約者、最後の仕事として申し上げます。どうぞこのまま夜会をお楽しみになって?」


 堂々とそう言ってのけると楽団の方に睨みをきかす。慌てて指揮者はタクトを動かし、楽団員もそれに倣った。

 場内はまだ騒然としていたが、不思議なもので音楽が鳴り出すと多少はそれらしくなる。


 フッとキャロルは鼻で溜息を吐き、この場から去ろうとした。

 その矢先に一人の男が階段を登ってきてキャロルに声をかけた為、彼女は足止めを食らってしまう。


「お待ちください!キャロライン様!!」


 今しがた夜会に到着したばかりだというその美青年は、王立騎士団の新星と名高い…エミール・ローガスタ、その人だった。


閲覧ありがとうございます!

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