どうせメンバー集めなので
「メンバーを募集する」
交換したチャットアプリのアカウントに簡潔にまとめられたそんな文章が送られてきたのは、あの雨の日から三日後のことだった。
あれから三日間も音沙汰が無かったので、そんな話もあったな、と思ってしまうくらいに何気ないメッセージではあったが、同時に彼の言葉を思い出す。
確かに何も無い時間は、たった三日間であれだけの熱量を空虚に変えてしまっていたのだ、なんだかあの小津 常幸という男の思い通りのようで腹が立つ。
それにしてもメンバー募集ときたか。
てっきり私は個人アイドルになるものかと思っていたのだが、と思った事をそのまま返信すると「それならプロデューサーなんていらんだろ」と返された。
言われてみれば確かにそうだ。 アイドルなんてものを自分でプロデュースした私が、わざわざグループを作ってやっていたというのだから、その気になれば自分一人でも出来ない話ではなかったのだろう。
それでも私がもう一度アイドルになるにあたって「誰か」に手を伸ばしたのは、私の目指すアイドル像が根本的にグループアイドルだからだという事に他ならない。
丁度その日はバイトも講義も無かったので、そのまま事務所代わりとなった彼のマンションに再び足を伸ばす。
「よう 来たのか」と出迎えた彼に私は何の仕事してたらこの時間に家にいるのよと問いただしたが、詳しい事は教えてくれなかった。
ただ「夕方くらいの時間から深夜までの時間を割と自由に使える仕事」とだけ私に伝えた彼は、そこが定位置なのか、あの日と同じようにパソコンの前に座る。
「メンバー募集するって」
「そうそう、四人くらいオーディションで加入させようかなって」
またこの人はさらりと、このくらい知ってて当たり前だろみたいなテンションで私の知らない常識を語ってくれるものだ。
地下ドルに、オーディション?。 そんな大層なものが、と考えてしまうのは別に地下ドルというものを軽んじて認識しているわけではなくて、いや、そうなのかもしれない。
しかしやはり変な感覚がある。 まことに勝手ながら私は「オーディションはプロのアイドルを扱う事務所が行うもの」という先入観が私の中でグルグルと消えない靄となっているようで。
「地下ドルだってアイドルに違いはないさ、アイドルの卵みたいなもんだ。アイドルに卵があるのなら、オーディションにだって卵があるものなんだよ」
そういうものなのだろうか?。
大体、私達のような全く無名のアイドル製作チームに応募してくる人なんているものなのだろうか。
それも四人も、ともなると無理の二文字が付いて離れない気がしてくる。
「そりゃやり方次第だな」とデスクチェアを鳴らした彼はパソコンの画面を私に見るように促す。
そこには恐ろしい完成度のWEBページが映っていたのだが、どうやらアイドルのメンバー募集のページのようで、そこら中がGIFアニメで動くわ、可愛い女の子のイラストが吹き出しで「君の事を待っているよ♪」と言っていたりの、とにかく趣向を凝らした煌びやかなページで一体どんな大手事務所の募集かと思った。
プロデュース内容もかなりしっかりと書かれていて、アイドル経験者とプロデューサーによる完全なサポートが付くのでまったくの未経験者も安心とか、こんな女の子を求めています!という欄もかなり細かく書かれている。
「うっわ、なにこれすごいね」
「あぁ、これが俺たちのアイドルの募集ページだ」
「え・・・はぁ!? これあんたが作ったの!?」
「あぁ、流石に三日も掛かったがな」
どうだ、と言わんばかりにニヤリと笑って見せた小津は鼻高々とご高説を始めた。
「俺のような無名のプロデューサーが新規のアイドルの卵を獲得する為の方法、それがネット募集だ。 オーディションへの応募人数は募集ページの完成度に比例する。 広告がしっかりしているというのはイコール本気で真面目なアイドル作りをしていると錯覚させることができるってわけだ。 出来る事ならネット広告やテレビCMなんかを買うのも選択肢の一つではある。 活動資金が50万から300万位あるなら考えてみてもいいだろう、広告業もやっている新聞販売店に相談するのもいいかもな、まぁその位しっかりとした募集というのはアイドルのスタートには重要な事なんだ。 まぁ今回はだいたい2~30万位で作るつもりだからこれは出来なかったがな。」
きぃ、と椅子を横にずらし私の為のスペースを開けてwebページを指さしながら、彼は要所を目視で確認させる。
「あとは募集要項をちゃんと記載する事も重要だ。 募集要項をあまり細かく書きすぎると誰も来てくれないのではないか? という不安は最もだが、「誰でもいい」よりも「自分が求められている」と思われた方が好都合なのだ。 元よりこちらとしても軽い気持ちで来られても困るわけだし、この時点で振るいにかけておけばオーディションの手間も省けるからな。 作りたいアイドルの方向性が決まってるなら、そこら辺をしっかり記載しておいたほうがいい。」
言っている事は正しいと思ったし、何よりもその言葉には説得力があった。
どこか後ろ向きにも思える解説だったが、少し見直してもいいと思える部分も確かに存在する。 この人なら本当に・・・って?。
「2~30万!?」
「んあ? そこなのか引っかかるところ」
「え? いや、それだけ?」
「割と十分な数字だと思うが、まぁ予定ではな 足りなければ随時柔軟に対応するさ」
前言撤回。 やはり不安はぬぐい切れそうにない。
「この募集でどの位の応募が来ると思う?」
「うーん・・・良くて2~30人位だろうな」
「そんなに!?」
「いや、アイドルの募集にしては正直少なすぎるくらいだと思うが」
やはりこの男と私には、決定的な価値観の違いがある。
こればっかりは結果が出てみない事には真偽のほどはわからない。
一抹の不安と期待、そして大幅な半信半疑を抱えたまま、私達は募集の期日を迎えた。
結果、実際に応募してきたアイドルの卵の人数は、「38人」だった。
「嘘・・・すっご」
「予想は上回ったが、やっぱりこんなもんかー」
「っていうかこんな人数ここに入るわけ?」
「何言ってんだお前」
「え?」
「こっちから一人一人直接会いに行くに決まってんだろ、出かけるぞ」
「は? だって、オーディションって・・・」
「結果的に全員と直接会って選別するんだから、これだって立派なオーディションだよ」
そういうと彼はスーツの上からコートを羽織り、私に早くしろーと促した。
これから応募者38人との面談が始まるようだ、骨が折れる。
喫茶店で、ファミレスで、家で、なかには親御さんも含めて三者面談のような雰囲気の所まであり、すべて回るのに数日掛かった。
「さっきの子よかったんじゃない?」
「うん、でも不採用だがな」
「えー、なんで? その意気や良しっ!って感じだったのに」
「本気でアイドル目指してるやつなんかいらん」
これは多々あった不採用理由の一つなのだが、彼の心情のようなもので「七割以上の女の子は一度くらいアイドルに憧れた事があるし、その全てが本気だったに決まってる」と語っていた。
ほとんどの女の子が同じ感情を抱いたというのに、それを売りにされたところで彼には「大多数の女の子と何ら変わらない普通の人間です!」としか聞こえていないというのだから筋金入りだと思う。
「お前みたいにアイドルしてないと死ぬ位の雰囲気出してない限りはそれで採用する事は無いな」
「えぇ・・・私そんな雰囲気出してる?」
「無意識なのかよ」
他に気になった不採用理由は、他のオーディションも受けているというもので、これは私にもわかった。
明らかに口ぶりから見えてくる、私達を「すべり止め」として利用している雰囲気が。
私としてはすべり止め扱いでもいいのではないかと思ったのだが、どうにも彼の採用基準は「少しでも辞める可能性が低い子」が最優先のようだった。
一体、彼のお眼鏡にかかる女の子はどんな子なのだろうか?、それはものすごく純粋で単純な興味だったと思う。
さて、それでは彼が採用した3人の女の子のオーディション内容を振り返ってみよう。
「にゃっほー、よろしくー」
「よう、安丸 恵理はお前か?」
「そだよん」
「んじゃオーディションするけど、何食いたい?」
「なに? 奢ってくれんの?」
「あぁ、なんでもいいぞ」
「まじ? やったー! いこいこっ」
一人目の採用者 安丸 恵理 17才。
制服というには短すぎるスカートに金色の髪、わかりやす過ぎるほどのギャル。
第一印象としては、うん、いや、この子は無いだろう、と思った。
今回の募集にも正直、なんとなくノリで応募したのではないだろうか? と、思案するのは容易なことだったが、人を見た目で判断するのは良くない。
彼女にも何か、アイドルに対して熱い感情があるのだろう。
「えー? だってなんか、楽しそうじゃん」
例えば、なぞなぞを出された際に「この答えだと思うけどきっと裏があるのだろう」なんていう思考を巡らせた人間は決して少なくないはずだ。
私のこの時の感情はその、思考パズルの第一候補が普通に正解だった時の肩透かし感によく似ていたと記憶している。
あきれた顔を隠すことができなかった私とは裏腹に、彼は驚いたような顔を浮かべて、そして少しだけ微笑んだ。
「お前はアイドルになって何をしたい」
「えー? わっかんないよー ただ普通にみんなで集まってなんかしたいなみたいな?、それに私ダンスとかやってたし、アイドルもいけっかなーって」
「ははは、そっか」
彼女の採用理由は、正直よくわからなかった。
彼曰く「これから始まるアイドル作りの第一段階に、安丸 恵理の存在は絶対に必要になる」という事らしい。
納得できない私に彼はさらに続けて「それにあいつはダンス経験者だぞ、場合によってはレッスン費が節約できるかもしれん」と、的の外れたフォローを入れた。
「でもあの子、なんの目標もなかったし、アイドルにもそんなに真剣じゃなさそうだったけど」
「むしろその方がいいだろ、趣味感覚で来てくれた方がいい」
「不真面目な子がいいの?」
「そういうわけじゃねぇけど・・・パチプロみたいなもんだよ。 こういうのは意識的に仕事として取り掛かると楽しさが薄れちまうもんなのさ。 責任感は後から手にすればいい、始めの内くらい楽しんでくれるやつの方がいいだろ。 お前の愛した地下ドルの魅力は自由である事も一つじゃないのか?」
それを言われてしまっては返す言葉もない。
どうあるべきかなんて偉そうに語れるほど、私もアイドルではないので。
そして二人目の採用者もまた、同じような理由で採用になったのだ。
「今日はよろしくお願いします」
「そんなかしこまらなくていいぞ」
「あ、そ、そう?」
「うん、あー、酒飲める?」
「え? うん、大好き」
二人目の採用者 桜庭 京子 24才。
彼女の面接は夜中になっていたのでプロデューサーの一存で飲み屋で行われた。
彼女を語るならば、年齢は外せないファクターだろう。
決まりなどは無いと思うが、やはり少し・・・えぇと、どう言葉を濁したものか。
年齢の話になった際に彼女は「誕生日まだだから24!誕生日まだだから24だっつーの!」と騒いでいた。
普段は普通の会社員をしているようで、尚更謎が深まっていくばかりだったが、御酒も進むばかりで、彼女の話を聞けたのは二人ともある程度回ってからの事。
ちなみにこれは余談だが、私は未成年なのでオレンジジュースを飲んでいた。
「いやー、大人になるとさぁ、ほんと、何にもないじゃん?」
「わかる」
「仕事以外に会う人もいないし、んで別に週末だって寝てるだけだし? なんつーか、趣味でも探そっかなー、ってさー」
「なるほど、それでアイドルか」
「いやー、ははは。 たしかにちょっとぶっ飛んでるけどさ」
「いやいや、そんな事ないだろ」
「そんな事あるって、この年で初挑戦は大分キツいだろー、でもさー・・・」
呑みニュケーションというやつだろうか。
いつの間にか二人はある程度の意気投合をしていて、どこか少しだけ疎外感を感じた。 でも、ここに来てよかったと思っている。
桜庭 京子の「思い返してみれば憧れたものなんてアイドルくらいしかなかったんだよ」と笑った顔を、私はアイドルを続けていく限り忘れる事は無いだろう。
「アイドルは基本的に学生が多いが、社会人は貴重な人材だ」と彼は私に語った。
仕事と趣味の分別ができる社会人は、一つの事だけをやらない事ができるというのが強みなのだという。
自分はこれをやる人間なのだ、と思考を停止して他の何も目を向けなくなる子より断然辞めないという理論はなんとなくわかるような気がした。
一つ思った事はただ、彼は「いつかそれが重荷になって辞めてしまうかもしれない可能性」すら怖がっているのか、と。
「...よろしく...お願いします」
「あぁ、どこかでゆっくり話したいんだが、腹減ってるか?」
「...。」
「・・・喫茶店でいいか?」
三人目の採用者 篠崎 蒼 16才。
彼女はプロデューサーの誘いに小さく頷くと私達の後に付いてくる形で喫茶店に入った。
身長が小さく、声も小さい。常に俯いていて、自信無さげ。
それだけだったなら私も、というかプロデューサーもこの子は不採用にしていたと思う。
一つ彼女に輝くものがあるとすれば、とにかく顔がいい。 そう、とんでもなく美少女なのだ。
私達は顔を見合わせた、なんというか久しぶりにプロデューサーとアイドルオタク感覚で繋がった気がする。
小さい頃からアイドルに憧れていて、本気でアイドルになりたいと思っている。 彼女はたどたどしく、彼にとってのNGワードを語った。
「それで?」
「ぇ...あの...」
「それでお前は何をしたい?」
キラキラして、ステージで歌ったり、踊ったり。
とても時間が掛かったし、消え入りそうな声だったけどプロデューサーは一言も聞き逃すまいといった様子で、とても茶化せるような雰囲気ではなかった。
有り体に言うならば、空気が重い。
「うん、そりゃそうだろ」
「...ぇ」
「アイドルになれば歌えるし、踊れる。ステージにだって立てる。そんなのは当たり前だ。 篠崎 蒼、俺がお前に聞きたいのはそういう事じゃない」
「...なん...ですか?」
「お前はアイドルになって、何を得たい」
三十分、その質問から沈黙を破るまでの時間。
何度も空気を変えようと発言しそうになったが、プロデューサーのこれまでにないほどの真剣な表情と明確な「邪魔をするな」という目配せに、私も何も言う事ができなかった。
これは、必要な事なのだろうか。 見かたによってはイジメているようにすら思えるその質問の答えは、なんとも意外なもので。
「...友達が、欲しいです」
鳥肌が立った。
泣き出してしまいそうな表情で、震える唇で、ギュッと握りしめた拳で、篠崎 蒼はそう言った。 対する男はまるで、宝物を見つけたような表情で。
私はというと、一体今の言葉の何が、こんなにも心を震わせているのかわからなかった。
「大歓迎だ篠崎 蒼。 安心しろ、お前はこれからアイドルになって、そして沢山の友達ができる。 安心しろ篠崎 蒼、お前の望みは俺たちが叶えてやる」
「...ぇ...あっ」
「まず第一歩、俺と友達になってくれ。 俺は友達の為なら、一生懸命になれるんだ」
小津 常幸。
彼は大げさな身振り手振りで彼女の手を取った。
彼女は気付いていただろうか?、その瞳から一筋の涙が流れていた事に。
「よろしくお願いします」と、彼女はほんの少しだけ笑って見せた。
なんだかそれが私まで嬉しくなって、彼がこの子に執着した意味が少しだけわかった気がした。
顔が可愛いから、確かにそれも重要な事だろう。ただこの子はそれだけではない。
彼女に与えられたこの心の高揚は、彼女は、確かにアイドルだった。
「アイドルはドラマだ。 だが決して、ドラマがアイドルになる事は無い。 アイドルになる前の物語が劇的である必要はない、アイドルになってからドラマは築かれていくものなのだから。 そして篠崎 蒼、彼女はドラマの種を持っている。 これから彼女はアイドルを続けるだけでドラマを次々と生み出していく。 これ以上の適任者がいるものかよ」
どこか誇らしげに、彼はそう語った。
彼女の成長が楽しみで仕方ないのは私も彼も一緒のようで、これこそが彼女の強さなのだろう、とわかったような事を考えてしまったが、彼曰く、「わかったように語るのがアイドル作り」らしい。 私も少し毒されてきたのかもしれない。
こうして私達のオーディションは終わった。
採用者三人、目標を下回っていたがとにかくメンバーが揃ったのだ、喜ぶべきだろう。 なのだが、プロデューサーは浮かない顔を浮かべるのだった。
「何を浮かない顔してるのよ、メンバー集まってよかったじゃない」
「・・・足りない」
「四人でもいいんじゃないの?」
そう言うと彼は小さくため息をついた。馬鹿にされているのかもしれない。
「最も美しいアイドルグループの人数は五人なんだ」と、彼は続ける。
人数なんてそんなに重要な事なのだろうか? 確かに奇数の方がステージに立った時、センターを中心にして見栄えがいいということくらいはわかるのだが。
五人もいれば好きな子の一人くらい見つかるだろうし、アイドル同士の関係性も露出して楽しい、とファン根性丸出しで五人のメリットを考えてはみたが、彼の見解はまったく別のものだった。
「アイドルグループはほぼ必ず、一回は辞める事を考えるやつが一人はいるものだ。 でも、一人では中々辞めない。 他のメンバーがいる手前辞め辛いのさ、なんだか負けた気分になるから。 だがここに同調するメンバーが現れると事態は一変する。 赤信号、みんなで渡ればなんとやら。 三人だと二人辞めた場合、一人になる。これは経験済みだろう? 四人だと二人辞めた後、二人になる。二人はモチベーション管理が最も難しい人数だ。 どちらかに比重が乗れば簡単に片方が辞めてしまう、二人組というのは精神力がとても重要になるのだ。 流石に俺たちにそれの管理は荷が重い」
指折り数えながら自身の理論を語る彼は、大仰に両手を広げて不敵な笑みを浮かべる。
「その点において五人というのは完璧な数字だ。 二人辞めても三人になり、奇数で見栄えがいいのはもちろんの事、残されたメンバーにも結束力が生まれる。 辞めていった彼女達のようになりたくない、とな」
また、彼はそんな風に「どうせ」と考えていた。
最悪の事態を想定するのは大事な事だと思うが、彼はどうにも、最悪の事態しか考えていないようにも思える。
「気にしすぎだって、みんなアンタのお眼鏡に掛かった子なんでしょ?」
「まぁ・・・そうだが・・・」
「心配性のアンタが38人から選び抜いた三人なんだから、きっと辞めないわよ」
「なんでそう楽観的なんだお前は...」
「アンタが気にしすぎなのよ、女の子はきっとそんなに弱くないよ」
「・・・お前はアイドルしてんなー」
「うるさい」
「まぁ、仕方ない」といった様子だったが、彼は一度加入メンバーに顔合わせをさせる段取りを始めた。
新しい仲間たちとの出会い、不安が無いわけではないが確かな一歩を踏み出したこの感覚は、何度味わったって手放し難い。
一度死んだ私が、もう一度息を吹き返したこのマンションの一室に、共に戦う仲間達がそれぞれの我欲の為に、今、一堂に会した。
「なになにー! ここおづっちの部屋ー? いいとこ住んでんねー! あ、ウチは安丸 恵理だよー! よろしくねーみんなー!」
「桜庭 京子、普段は会社員をしてる、よろしくな」
「篠崎...蒼です...よろしくお願いします」
「あらあら~、えっと~、西園寺 縁です~。よろしくお願いします~。」
「鈴原 茜です。 アイドルへの情熱なら誰にも負けません! よろしくお願いします!」
「プロデューサーの小津 常幸だ よろしく頼む」
やっと始まる、ここから。私の新しい、アイドルの始まり。
どこまでいけるのか、私達はこれからどんな風に走っていくのか。
期待せずにはいられない、今はまだぎこちない私達の未来・・・を・・・?
あれ?
「えっと・・・」
「あらあら~?」
誰だこの人は?