エピローグ
街は年末の――大晦日直前の独特な雰囲気に包まれていた。
祭りの終わったもの悲しさに包まれ、それでいて訳もなく心を急き立て続ける……あの一種独特な空気だ。
嗚呼、今年も終わる。
ある意味、これこそ日本人的年末観なのかもしれない。
中世ヨーロッパをモチーフとしつつ、どことなくアミューズメントパークのようだった街並も……まるで現実の日本の街角のようだ。
……何を考えたのか松飾や注連縄、鏡餅などが売られているからだろう。
その風景を前に、少女はクルクルと舞い踊る。
黒を基調とした袖なしのコートと二の腕までの長手袋、それと対照的なまでに白く眩しい肌が見る者の心を奪う。
なによりも少女が持つ朗らかさが印象的だ。
誰が見ても感じる明るさ。そして悪意のなさが無邪気さが伝わってくる。
……既視感を覚えた?
おそらく読者の前世がアトランティスの戦士だった証拠! 決してコピペではござらん!
……とにかく!
「ねえ、ねえ! タケル! さっきから不思議だったんだけど……どうして着付けのサービスが流行ってるの? いま着てもしょうがなくない?」
とカエデは連れの青年――タケルに訊ねていた。
……二人の距離が近いのは雑踏の中だからか? それとも教訓を生かした結果か?
それは親密さをも連想させる。
……嗚呼、爆ぜればいいのに!
しかし、なぜかタケルの顔は昏い。
いや微笑んではいる。はしゃぐ少女を、目に入れても痛くないかのような慈しむ顔をしてはいた。
それでいて昏く……哀しみを帯びている。
だが、その瞳に哀しみを宿らせた理由は、誰にも窺い知れなかった。
……また既視感を? 絶対に読んだ記憶がある?
それは読者が繰り返している証! これは二巡目? それとも三巡目を?
つまり、コピペではありもうさん! 読者弄りの強要など、ご勘弁に!
……とにかく!
「当日の着物を、今のうちに着てしまうんだ。それから『装備状態』をメニューへ記憶させておけば、あとは誰でも一瞬で着付けられる。それこそ自分だけでもな。それに……あー……『結い髪』っていうのか? ヘアースタイルも併せて記憶させるんだろ。美容師さんところ忙しいっていってたし」
「あー……なるほど。やっぱりVRだと色々と違うんだね。でも、振袖とか大変だし……こっちの方が便利かも? 時間にもよるけど、出掛ける数時間前から準備しなくちゃなんだよ!」
嗚呼、カエデの煌びやかな振り袖姿が幻視える!
死ねば! 死ねばいいのに!
元旦から晴れ着で「きゃっきゃっうふふ」なんてリア充は、爆ぜればいいんだ!
二人の話を聞くともなしに耳を傾けていた男達から、声なき怨嗟が上がる!
だが、その慟哭はタケル自身からも、全身を包む禍々しいオーラの如く噴き出ていた!
いったい、どうして? なぜ?
「まあ二年参りで晴れ着は、VR特有の習慣かもな。準備まで考えたら、現実的じゃないし」
「だけど和服とか憧れちゃうなー……ボクも準備だけはしとこうかなぁ……」
「でも……大晦日は……ログインできないんだろ?」
その言葉は聖戦の英雄『ツリーの星を堕とした男』と思えぬほど弱々しい。
「うん! パp――お父さんが『大晦日は家族揃って国営放送から除夜の鐘を聴く』って。だからログインは無理かなぁ。除夜の鐘はゲームでも突くんだよね? どっちを聴いても同じだと思うんだけどなぁ……」
「まあ家族の習慣じゃ……な。仕方ないさ」
もらい泣きを隠し切れなくなった漢達は、そっと取り出しかけた黒い巾を懐へ戻す。
その布の出番ではなかった。なぜなら彼は同胞で間違いなかったし……まだ雄々しく戦ってもいる。
「お正月は『噴水広場』に超大きな鏡餅が飾られるんだっけ?」
「もう飾られてるぜ。なんでも普通は二十八日より前に飾るんだと。それが駄目だったら三十日が決まりらしい。鏡餅の橙なんて、カエデの顔より大きかったぞ?」
「ンもーっ! またからかって! どうせボクの顔は真ん丸だよ! ――あっ! タケル! 橙は、持ってきちゃったら駄目だよ!」
……なぜかカエデの最後の言葉は、街中へ良く響いた。
同時に様々な者達が、仲間へと連絡を始める。「次のイベント開催決定。トロフィーは『橙』の模様」と!
嗚呼、この瞬間を以て戦いは再開された!
「ちょっと! タケル! 聞いてるの? 大変だったんだからね、あの『お星さま』! 一番偉いGMさんがわざわざ来て、返して下さいって!」
「おーっ! それは良かったな! GMとトレードなんて滅多にできるもんじゃないぜ?」
「そんなこと出来るわけないでしょ! 一応、タケルの分も謝っておいたから! ……反省してるの?」
じっとりした目でカエデから睨まれるも――
「悪かったって! まあ、GMたちもカエデなら交渉しやすくて助かったんじゃないか? 結果オーライだろ? それに今度は……運営も対処しているだろうし」
「ちがーう! ボクは『反省しろ』っていってるの!」
怒ったカエデはポカポカと可愛らしくタケルを叩き始める。
「ははは……俺が悪かった。――次は上手くやって見せるさ」
だが、答えるタケルの瞳には、闘志の炎が煌めいていた!
クリスマスが終われば大晦日! そして正月! 翌月にはバレンタイン! さらには雛祭!
おお、神よ! 戦士に安息を与えたまえ!
しかし、戦いの角笛はゲームに鳴り響き、英雄達は戦場へと舞い戻る!
イベントの度に! 次のイベントの度に! 次の次のイベントの度に!
嗚呼、浜の真砂は尽きるとも、世にイベントの種は尽きまじ!
ならばせめて永遠なれ『RSS騎士団』!
【いい感じに騙せたところで…… おわり!】




