漢たちのキャロル
「隊長! 左翼が! 左翼が突破されそうです!」
「なっ――リンクス! リーンクス! 左翼へ弾幕! なんとかしてくれ! ――予備戦力再編は?」
「――いける! ――あとは動きながら準備して! 皆、でるよ! ――持ち堪えてみせるよ、タケル君! 左かい?」
「すいません、右へお願いします! 右の方がヤバくて! ――左用に隊を作るぞ! ――カイ達から連絡は?」
「まだです! 呼び出しますか?」
「……いや、連絡を待とう。カイなら任せても大丈夫だろ。シドウさん達も一緒だし」
そう答えた『RSS』の指揮官――タケルの顔は、いまにも泣き出さんばかりに追い詰められている。
なぜか予想の数倍は激しい戦いを強いられ、なおも敵性リア充の戦意は旺盛だ。
……意味が解らない。どうしてこうなった?
襲撃と共にリア充どもは、蜘蛛の子を散らしたかのように退散するはずだった。
あとは散発的に立ち向かってくる御節介な奴を対処しながら、のんびりと『噴水広場』の占拠に取り掛かればいい。
そんな予定だったし、事前の協議でもすんなりと了承された。
しかし、現実には大苦戦だ。
作戦の第二段階を開始どころか、第一段階である『噴水広場』の占拠すら危うい。
クリスマスだからと浮かれ騒ぐリア充の番どもに、目に物を見せてやりたかっただけ。
なのに、なぜ?
テレパスやアリサと他数名の女子でなくとも、容易に彼の落胆は読み取れただろう。
嗚呼、彼は幸せそうにクリスマスを送るリア充どもが、妬ましくて妬ましくて堪らないだけなのに!
しかし、苦戦は必然とすらいえる。
童貞は理解していなかった。いや、理解不能だったのだ。
イルミネーションに彩られたクリスマスツリーを襲撃するという本質を!
実のところクリスマスツリー襲撃は、彼らが思うほど容易な話ではない。
なぜならリア充のメスは――とくに番の片割れは、クリスマスツリーを愛しているから。
それは偏執的といっても過言ではない!
番のオスに抱っこでもされ、キラキラでピカピカなイルミネーションに彩られたツリーならば……飽きもせず何時間でも眺めているほどだ!
この時の表情も『頭がフットーしそうだよおっっ』であり、間違いなく事実である!
そんな聖域を侵されしリア充のメスは怒り心頭!
採算度外視で反抗してくるし、必然的にリア充のオスも八つ当たりで参戦してくる!
……これが目の前で繰り広げられる乱戦の原因だ。
「奴ら……死狂いしてやがる! こんなことならリルフィー達の呼び戻しは慎重に……安全策を取って……大回りさせて……くそっ!」
身震いするような悔しさのあまり、思わずタケルは心中を口にしていた。
……仕方のない側面もある。間違いなく絶体絶命だ。
今回ばかりは援軍を――『アキバ堂』連合の参陣を期待できない。
彼らは有明で決戦の予定だ。ログインしているメンバーも数えるられるほどだろう。
絶望! そして撤収しかないのか?
敗北? 栄誉ある『RSS騎士団』が……リア充相手に?
そんな思いなタケルに素っ頓狂な報告が届く。
「隊長! お、お客さん?だ! えっと……とにかくッ! お客!」
「はぁ? 客? なんなんだよ、いったい! いまは戦争中だぞ! お客なんて――」
と怒鳴り返しながらタケルが振り返ると――
世紀末が! 圧倒的近未来的盗賊ルックの人物が手を振っていた!
それはギルド『モホーク』が頭、モヒカン!
先日、『RSS』と大戦争を演じた迷惑ギルドのリーダーその人に他ならなかった!
意外な人物にタケルが呆気に取られていると、さらに驚くべきことを宣う。
「よう、タケル! 派手にやってるな! 俺達も混ぜてくれよ!」
「ど、どうしてお前らを仲間にしなきゃいけないんだよ! それに! そっちの奴! そっちの奴もモヒカンのところのメンバーか?」
ついでとばかりに、隣の男へタケルは喚くも――
「い、いや! おれた――我々はッ! 我々は義挙を前にぃ! 同志『RSS騎士団』とぉ! 志を同じくぅ! していると――」
……さらに事態は混迷を迎えた。
「だぁーっ! 演説は止めろ! 忙しいんだよ、俺は! 簡潔に! 簡潔に答えろ!」
「えっとー……俺達は『黒巾党』といいましてぇ……あー……仲間に入れて下さい!」
よく見れば男は黒い布を頭に被り、さらには腕へも巻いていた。
おそらくは中国の『黄巾』に習ったのだろう。色が黒なのは『RSS』のギルドカラーを配慮した結果か?
「ギルド加入希望なら後にしてくれ! それからッ! モヒカンッ! 笑うんじゃねぇッ! だいたい、どうして俺らが『モホーク』と共闘なんだよ! 敵同士だぞ、俺たちゃぁ!」
「えーっ! ケツの穴ちいさいこと言うなよー。こんなお祭り、参加するしかないだろー? 混ぜてくれよぅー! それに……こういう時は『心に棚を作れ!』だぜ? 名言にもあっただろ?」
「そのクネクネするのを止めろ! 馴れ馴れしくするな! そもそもお前らが先に――」
しかし、タケルは最後まで言い終えることができなかった。
突然にモヒカンが凄みを見せたからだ。
「――いいんだぜ、俺達は? いまから『RSS』と決着をつけることにしても? どんな形でも……勝ちは勝ちだしな?」
そして確かに拙い。モヒカンの言う通りだ。
ただですら苦境の現在、さらに『モホーク』まで敵へ回れば敗北が確定する。
嗚呼、選ぶべきは屈辱の勝利! それとも誇り高き敗北か!
さしものダース・タケルも苦渋に顔を歪める!
だが、絶体絶命な最後の寸前、救いの手は意外な人物から伸ばされた。
……なんとモヒカン自身からだ。
「ならこうしようぜ? 俺達は勝手に『RSS』の左翼で暴れる。あくまでも自発的にな。あー……そっちの黒いバンダナの兄ちゃん達は右翼だ。なぜか俺達がお互いに戦わないのは……まあ……『不思議なことが起こった』とでもしろよ」
あなや! なんたる邪悪な囁き声!
不自由な二択をみせて、第三の手を提示する。これぞ詐欺の常套手段!
けれどもタケルは決めねばならない! なぜなら勝者は、すべからく選ぶ!
「か、勝手にしろ! 壊滅しそうになっても助けやらんからな!」
タケルの罵りに、モヒカンと黒巾の男は笑顔を見せる。
「ゆ、ゆるされた! 我ら黒巾党! 参陣を許されたぞー!」
その奇妙な叫びは……戦いが新たな局面へ突入することを意味していた。
………………むせる。




