ノッポとの出会い
「雨谷、雨谷!雨谷 遥!!!!」
ん?
誰か俺を読んでいるのか?
その声は甲高く、良く聞く声だ。
3階建てでできている学校の廊下をトイレに行くために歩いている俺に声をかけたのは担任の小林薫だった。
先生の顔は完全に怒っている。
何か俺はやらかしたのだろうか。
俺の最近の行動を思い返してみる。
女子の体操着から透ける下着を眺めていたり、階段を上る女子のスカートの中を覗いていたり、思い返してみても健全な高校生だ。
もし、そのこと怒っているのであればそれは的外れである。
「なんすか、先生~?」
俺は先生がすごい剣幕でこっちに来るのを待った。
先生は俺の目の前に着いたのと同時に口を開いた。
「お前またやったな。」
「やってません。」
なんのことを言っているのかわからなかったが即答できた。
最近の行動は先ほど思い返してみても健全な高校生だ。
確かに30歳になって結婚できない先生いじりを最近覚えたが、最後にお叱りをうけてからやった覚えがない。
「お前じゃなかったたら誰だっていうんだ?」
先生は俺の言葉を疑いながら、綺麗に折られるノートの紙切れを渡してきた。
先生から紙を受け取ると雑にその紙を開いた。
内容はこんな感じだ。
「先生のことが好きです。
先生と付きあいたいわけではないが気持ちだけ伝えました。
名無しより」
詳しい内容は省力するが、こんな感じ。
俺のわけがない。
これでも理性はしっかりしている。
先生はいじりがいがあり好きではあるが異性として好きになることはないだろう。
俺は紙から先生に目を移した。
顔は、お世辞でも綺麗とは言えない。バスケ部の顧問をしている先生は、よくいる女性教師のショートカットに地味なファッション。
それに、スペック以前に30歳の担任の教師だ。
漫画でよく先生と教師との恋愛ものがあるが男性教師と女子高生の設定ものがほとんどだ。
いや、待てよ、、、
「エロ漫画の設定みたいですね。」
先生は「はぁー」と呆れた顔をして俺の話をスルーした。
「まぁいいや。あんたじゃないのね?」
「えぇ。」
先生は俺の返事を聞くと「そうか。」と言いどこかに去っていった。
先生に手紙を送ったやつは案外、簡単に分かった。
あんなにわかりやすい奴はそうそうにいない。
先生も先生だ。
あんな視線を送っている生徒は他にはいない。
目からビームでも出ているんじゃないか。
そいつは身長が180を優に超え、髪の毛はパーマでクルクルだ。
この学校はスポーツ高ということもあり、校則が厳しい。
それを考えるとあれは天然物だ。
あんなに特徴の塊がビームを出していてなぜ気づけない。
サバサバした女性は鈍感なのか?
そいつは同じクラスの武藤啓哉。
武藤はサッカー部の同じCチームだ。
何度か会話をしたがどうも真面目ちゃんのようだ。
いつも一人で走りこんでいる。
武藤は同じCチームで同じクラス。
これから長い付き合いになる武藤とは表だけでも仲良くしておきたい。
しかし、武藤の暴走による被害は一番最初に俺が疑われる。
先生にそのうち勘違いされそうだ。
小中学生の時に好きな人をいじめちゃう的な?ノリだと勘違いでもされたらたまったもんじゃない。
糞めんどくせー事に巻き込まれたな。
教室では帰りのホームルームが始まり、武藤は相変わらず教壇に立つ小林先生にビームを出している。
俺の青春の初回イベントは美少女登場ではないようだ。
ビーム野郎のビーム撤去。
ホームルームが終わり先生が教室から出て武藤は部室へ向かう。
俺は武藤の少し後ろから追うように教室を出た。
武藤はクルクルパーマをフサフサ揺らしながら廊下を歩いている。
ビーム撤去作戦はこうだ。
単刀直入に聞く。
こういうのは遠回しにやっていては時間がかかる。
あいつの暴走は今日中にも止めなくてはならない。
これはあいつのためでもある。
あいつのビームの対象を女子の体操着から透ける下着にしてあげるだけだ。
「おねぇしゃーーーーーーす。」
Aチームの使うグラウンドに挨拶をする。
どこで話を切り出すかタイミングをうかがっているうちに部活は始まった。
早いとこ済ませないと武藤は走り込みを始めてしまう。
走り込みを始めたら話すタイミングを失う。
しかし、武藤は無駄な動きをしない。
ロボットのように行動パターンが同じだ。
挨拶を終えると前景姿勢で走りだしCチームの練習場の駐車場に向う。
俺が駐車場に着くころには走り込みに出かけたようだ。
「意識たけー。」
思わず声が出た。
ああいうやつがAチームに上がるのだろうか。
関心している場合ではない。
ああいう真面目ちゃんが教師という存在を好きになってしまうことに少し納得できる。
俺は準備運動始めた。
武藤の走るコースは大体理解している。
色々な運動部の練習場がある学校は一周するだけでもかなりの距離がある。
サッカー部の走り込みは行方が分からなくならないようにこの学校の周りだけと決まりがあった。
中学の時、マラソンで俺の右に出るものはいなかった。
だが、このすぐに追いつくだろうという考えは覆る。
「はぁはぁ。」
あいつ全然見えてこねーじゃん。
違うコースでも走っているのか?
嫌、真面目ちゃんのあいつに限ってそれはないか。
また、上には上がいるってか?
ふざけんなよ。
これじゃ、3年通しても公式戦で一試合も使ってもらえそうにない。
中学時代のチヤホヤされた時代が恋しい。
あの、みんなからうらやましそうな目が恋しい。
中学時代の友人達の言葉がよみがえる。
「あの、南総に行くなんてスゲー。
雨谷なら、南総でもすぐにレギュラーでしょ!!
南総で全国制覇してね!!」
何一つ実行できそうにない。
この高校ではサッカーすらできそうにないじゃねーか。
あいつらと同じ地元の高校に行けば普通に試合出れて楽しく練習できてチヤホヤされて、それなりに可愛い彼女ができて、、、。
気づくと俺の頬を涙が伝う。
俺は頬の涙をガッと拭うと走りのペースを上げた。
駐車場にいてはいつまでたってもうまくはなれない。
絶対に試合に出て、中学の時以上のチヤホヤを俺は手に入れるんだ。
限界のペースを出しながら走り、地獄の坂と呼ばれる斜面が急な坂辺りで武藤らしき高身長パーマが見える。
「はぁはぁ、、どんなもんじゃい武藤。」
本来のビーム撤去作戦を忘れ武藤との勝負に夢中になっている。
胸が痛い。
心臓が口から出てくる勢いで呼吸をしている。
しかし、不思議と足を止めたいとは思えない。
見つけてからさらに足の回転は速くなる。
地獄の坂を上り終えたところで武藤の横に並ぶ。
「おぉ、雨谷か。」
武藤は汗だぐの俺の姿を見て俺と理解するのに少し手間取ったようだ。
何か声を出したいが早い呼吸のリズムに声をのせることができない。
そんなことより武藤よりも早く正門に着いてやるという勝負心による走り夢中だった。
武藤は何も言わず走る俺の姿を見てなるほどと理解したのか俺のペースについてくる。
無言で走る二人は道を歩く人に恐怖感与えたのか自然にどいてくれる。
武藤は身長が高いためリーチが長く、一歩がティラノサウルスの様に長い。
お互いに抜いたり抜かれたりが続き正門までの直線に来た。
ラストスパートをかけたいが足の回転がこれ以上早まらない。
ラストスパートをかけられるほど体力を残していなかった。
武藤はここからと言わんばかりに長い足を前に出す。
そこからは武藤がぐんぐんと前に進み俺が武藤の前に行くことはなかった。
地元でチヤホヤされた俺の実力はこの程度ようだ。
俺から勝負を仕掛けて負けるこの感情は中学の時では考えられない悔しさだ。
先にゴールした武藤はゴールして倒れこむ俺に給水ボトルを渡す。
「Aチームいこーぜ。」
照れくさい言葉を武藤が言うとに頼りがいがある言葉になる。
南総に来たのは間違いじゃない。
こいつと練習すればうまくなれる。
こいつと試合に出たい。
こいつと全国制覇をしたい。
俺は武藤の言葉を実感しつつ単刀直入に聞いた。
「お前、小林先生に告っただろ、。」
武藤は頼りがいがある顔からわかりやすくテレ顔になり、顔が真っ赤になった。