プロローグ
「おねしゃーーーーーーす!!!」
炎天下のグラウンド、100人近い部員が一斉に頭を下げた。
部員達はすぐに、頭を上げると様々な方向に走りだし、グランドに残ったのは3分の1程まで減った。
南総高校は千葉県の南に位置する高校であり、スポーツに力をいれている高校だ。
その中でもサッカー部は全国の強豪チームと対等に戦える力がある。
100名近い部員はA、B、Cチームに分かれており実力がある選手は上のチームに上がれるようになっている。
Aチームは人口芝のグラウンド、Bチームはグラウンド半分程の通称ミニグラで練習を行う。
Cチームは?
車がポツリポツリと止まる駐車場にボールを持っている青年達。
サッカー部員だろうか。
「俺らのグラウンドに車停まってんだけど。」
ボールを腕と脇に挟みながら歩く青年3人組の一人がぼやいた。
「いや、逆だわ。駐車場で俺らが練習してんだよ。」
俺はわざとらしく驚いた表情を見せ武藤 啓哉の顔を見た。
俺は自分で言うのも何だがサッカーが上手い。
中学時代は俺の右にでるものはおらずチヤホヤされてきた。
そこで千葉県の強豪南総高校に入学。
しかし、上には上がいるという言葉は良くできたものだ。
入学した初日の練習で俺は現実を知る。
上級生だけならまだしも、同じ1年生ですら俺よりも上手い奴ばかりだった。
俺の実力ではBどこらかCチームのようだ。
Cチームの練習場は見間違えてもグラウンドとは呼べない駐車場だ。
メインの駐車場ではないため、車はあまり停まっていないが、下はアスファルト。
まともな練習なんかできるわけがない。
高校という青春の3年間をここで潰すのだろうか。
下ネタの話題で意気投合したムッツリで高身長な武藤と変態眼鏡の早坂龍弘という悪友が俺を潰す可能性もある。
「つか、雨谷その絡み何回目だよ。」
身長の高い武藤は呆れたという顔をしながら言う。
案外、悪友だと思われているのは俺なのかかもしれない。
早坂は無言で歩いているが、こいつの口が開いた時こそめんどくさいことはない。
一応サッカー部員として、ボールを持ってきてはいるが入学してから一度も使った覚えがない。
アスファルトの上で行う練習はサッカーボールを使わない。
個々で決めて練習を行う。
それは筋トレであったり、走り込みであったり、イメトレであったり。
練習をしない部員も多数いるが、ほとんどが上級生だ。
自分がトップチームに上がれないとわかる上級生は練習をしなくなる人が多い。
Cチームは自由だがかなりの努力をしないと上のチーム上がれない様になっている。
「今日はなにする?」
口を開いたのは早坂だった。
「昨日は筋トレしたし、今日は走りこみだろ。」
武藤は迷いなく走りこみを選択したようだ。
迷うことをせずに走りこみを選択できる武藤は意識が3人の中でも一番高い。
俺と早坂は、えーっとゆう言葉を口ではなく目で表現して武藤に顔を向けた。
「お前らあんなんになっちまうぞ?」と武藤は指を指した。
武藤の指は駐車場で胡坐をかいて話をしている3年生達を指している。
「俺らは陸上部かよ。」
早坂は走り込みを行う前にいつもこの言葉を言っている。
俺らの中で一番上のチームに上がる可能性があるのはこのグチグチ言っている早坂だろう。
足がとにかく速い。
意識の高い武藤は空中戦での強さがある。
俺も何か武器になるもの作らなくては本当に上級生のようになってしまう。
一番焦っているのは自分なのかもしれない。
この駐車場で何か武器が身につくのだろうか。
まぁ、なんせ俺らの高校生活は始まったばかりだ。
俺らがAチームに上がれる可能性は無限大だ。