第95話
村の中で、一番、賑わいをしている酒場に、カーチスたち一行が、知り合いの伝手を使い、久しぶりに合コンを開いていたのである。
伝手とは、非合法に、村の中で、観光客として訪れている女たちや、男たちと、学院の生徒や、村の男や女たちなどを、引き合わせる仕事を、行っている知り合いだった。
多くの人たちは、優秀な伴侶を求めていたのだ。
村の中では、正規の仕事をしつつ、裏で、そうした生業を行っていたのである。学院としては、認めていないものの、あえて見ない振りをしていたのであった。
そうした仕事をしていた者たちも、学院の生徒たちが、敷地内から出られないこともあり、いったん仕事をやめていたのだが、カーチスたちの知り合いは、カーチスたちに頼まれ、熱望されて、否応なく、女たちを集めたのだった。
時間は、さほど掛からなかった。
開催されないと言うことを聞き、相手側も、落胆していたからだった。
連絡をとれば、すぐさま、人が集まってきた。
ブラークたちも、最終手段を取ったのである。
声をかけることに、醍醐味を感じていたが、いっこうに、合コンまで行き着かなかったのだった。
そして、開催する運びとなったのである。
今回は、人数も、必要だったため、他の人も巻き込む。
勿論、トリス、クライン、リュートだ。
その表情は、様々だ。
概ね、カーチスたちと、約束をしていたからと言う渋々感が、醸し出されていた。
酒場には、溢れるばかりの客たちが、好き勝手に騒いでいる。
そうした喧騒を耳にしながら、リュートが、周囲に視線を巡らせていた。
村人や観光客たちが、楽しげに酒を飲み、謳歌していたのである。
(相変わらずだな)
自然と、口元が、緩むリュート。
昔見た、風景と変わらない。
なぜか、ホッとできたのだった。
さらに、視野を広げていく。
カーチスたちのように、働く女や、観光で訪れていた女たちに、声をかけていく男も、ちらほら存在していた。
その多くが、振られている。
別な方向に、グルリと視線を移した。
さすが、学院の生徒たちがいない。
以前だったら、時期的に、見かけていることも、多々あったが、現在、村に行くことを、禁じられていたからである。
禁じられているのに、リュートたちは、普通に出かけていたのだ。
怒られることも、罰を受けることも、平気だったのだった。
そうした行為が、当たり前の日常になっていた。
頭に掠めているのは、誘った剣術科の仲間たちだ。
(罰ぐらい、気にしなくても、いいものを)
素行の悪い生徒たちも、学院側から、強く禁じられ、見回りが、強化されているところに、わざわざ足を運ぶ者も、いなかったのである。
これ以上、問題を起こし、退学にはなりたくなかったのだった。
数人、なかなかの腕前の人間が、いることを察している。
(暇人だな……)
不意に、目の前に、双眸を傾けた。
繰り広げられていたのは……。
友達たちが、今日、知り合ったばかりの女たちと、和気藹々と喋っていたのだ。
そんな光景に、冷めた眼差しになっている。
(裏切り者……)
目を細めていくリュート。
自分同様に、あまり乗り気ではなかった、トリスやクラインが、場を和ませていたのだった。
いつも、トリストクラインは、嫌々ながら参加をしつつも、率先して、女の子たちに話しかけていたのだ。
ある意味、こうした光景も、見慣れた光景の一つだった。
だが、納得はできない。
思わず、ブスッとした表情を、滲ませてしまう。
目の前に、視線を戻した。
自分たち男は、六人しかいない。
それに対し、前にいる、楽しげに笑っている女たちが、十人もいたのだ。
(多いな)
いつもは、同じぐらいの人数だった。
そうしたこともあり、自分たちに向けている視線があった。
酒場にいる客たちからの羨望の双眸も、多くあったのである。
黙り込み、やや場の空気を悪くしているリュートだ。
やれやれと、カーチスが呆れながらも、相槌を求めてくる。
「な、リライト」
話を、全然、聞いていなかったが、一応、ムスッとした顔で、リュートが頷いた。
こうした場合は、頷くように、言われていたからだ。
そして、決して、自分たちの名前を使わない。
それぞれに、つけている偽名で、名乗り合っていたのである。
瞬く間に、カーチスが、女たちに顔を傾けていく。
最初、女たちは、リュートに話しかけていた。
けれど、そっけないリュートの態度に、ほっとくようになっていたのだ。
多くの女たちの目当ては、話題が豊富なトリスや、クラインだった。
女たちの意識を、自分たちに持ってこようと、ブラークたちも必死だ。
いつものパターンである。
(こうなると、わかっていて、なぜ、俺たちを呼ぶ)
一緒にやりたがる、ブラークたちの思考が理解できず、頭を振る。
「そうだ。飲み物や料理を、頼んでくるね」
言いながら、一人の女が立ち上がった。
追随するように、他の女二人も、立ち上がる。
テーブルの前に、料理が、ほぼなくなっていた。
それと、グラスに入っている飲み物も、少なくなっていたのだった。
注文を、聞きに来る女たちがいたが、他の客たちに捕まって、来る気配もない。
普段よりも、酒場は混雑していたのである。
注文したければ、カウンターまで、行くしかない状況だったのだ。
「僕が、行くよ」
笑顔を覗かせながら、キムが立ち上がった。
少しでも、心象をよくしたい行動だ。
ただ、単に、ポイントを、稼ぎたかったのである。
「私たちが、いってくるから、大丈夫よ」
柔らかく断られ、すんなりと、キムが諦めた。
無理に、押し通さない。
ありがとうと礼を言い、別な女に、話しかけている。
切り替えも、早くてはならない。
三人の女たちが、リュートたちの視界から外れ、カウンターから、奥に行く通路に、潜んでしまった。
リュートたちの席からは、決して見えない位置だ。
それでもなお、リュートたちが窺っていないか、入念に確かめる。
別段、こちらを見ている様子もない。
ようやく、安堵の表情を滲ませていた。
「ガキね」
夢中で、女たちを口説きまくっている、カーチスたちを嘲っていた。
他の二人も、やれやれと言った顔を覗かせている。
男たちを、誑し込む仕事も、多くしてきたが、まさか、子供を相手にするとは思ってもみない。
見た目はかなり若いが、それなりに歳を重ねていた。
彼女たちは、熟練の女諜報員だった。
生徒たちが、合コンすると聞きつけ、潜り込んでいたのである。
実際、彼女たち以外の七人は、カーチスたちの伝手が、集めた七人だった。
「随分と、あっさりいけそうね」
「ホント。こんな時に、やるなんて」
彼女たちの耳にも、生徒たちが村に出ないように、禁じられている話は、舞い込んでいたのである。
そのため、どういう方法で、学院側に忍び込もうかと、話し合っている際に、生徒たちが、合コンする話が彼らの耳に入ってきたのだった。
利用できると、彼女たちは、ほくそ笑んでいたのだ。
自分たち同様に、入り込んでいた仲間たちに連絡を取り、どうするかと、詳細に話し合った。
そして、彼女たちが、選ばれたのだった。
大きな集団で動くのは、目立つと言うこともあり、少ない人数で、別々なルートを使い、学院に入り込んでいたのである。
極力、連絡はしていない。
芋づる式に、自分たちの存在を、知られないようにだ。
「軽い頭には、女の子としか、ないんでしょうね」
「そうね」
カーチスたちの笑い声が、微かに聞こえる。
騒がしい音に、埋もれているカーチスたちの声。
場から離れても、できるだけ、聞き漏らさないようにしていた。
「男って、ダメよね」
口の端を、上げている女たち。
嘲笑している顔が、隠せないほどだ。
「どうやって、連れ出す?」
「全員は、難しいわよ」
ちらりと、合コンが行われているところに、視線を巡らした。
それなりに、リュートたちができると、女たちは目測していたのである。
生徒とは言え、油断できないと。
そして、人数が少ない、こちら側が、不利だと抱いていた。
「一人か、二人は、連れて行きたいわね」
「誰にする?」
顔をつき合わせ、思案している女たちだ。
少しでも、成功率を上げたかった。
「ブスッとして、やる気のない子は、まず、無理ね。誘っても、こないでしょうね」
「「そうね」」
「そうすると、他の五人だけど……」
「トレントと、クエンは、ダメね。いろいろと、喋っているけど、全然、興味なさそうだし」
冷静に、リュートたちを分析していた。
会話をしつつ、いろいろと、探っていたのである。
「三人に、絞られるわね」
「あの、キトレって子は?」
三人の視線が、柔和に笑っているキムを捉えている。
三人の中で、一番弱いと位置づけていたのだ。
「……そうね。一人は、その子にして、他は、釣れそうなら、どちらかにしましょうか」
「「えぇ」」
軽い打ち合わせを終え、料理や飲み物を携え、カーチスたちのところへ、女たちが妖艶な笑みと共に戻っていった。
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