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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
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第92話

 飽きてしまったカーチスたちは、村の方まで、足を伸ばしていた。

 バドの動向も、気にかけながら、逃げてきていたのだった。

 村にいる女の子に、かたっぱしから、声をかけていく。

 けれど、顔馴染みのカーチスたちに、耳を傾ける女の子も少ない。


 承知の上で、村の女の子や、観光で訪れている女の子たちのグループに、話しかけていたのである。

 収穫がなくても、めげないカーチスたち。

 強靭なバイタリティーに、トリスとクラインが、呆れていた。


「鉄の精神だな」

「だね」

 女の子たちに、声をかけているカーチスたちと、トリスたちの間には、かなりの距離があった。

 さすがに、近くにいる勇気がない。


 無碍に扱われても、新たな女の子に、声をかけていく。

 声をかけていたのを、見られているにも、かかわらずにだ。

 ひたすら、視界に入り込む女の子たちに、手当たり次第、声をかけていった。


「あれを、勉強に回せば、すぐに、上に行くんじゃないのか」

「そうかもしれない」

 同意しているクラインだった。


 トリス自身、カーチスたちの法力の方が、上だと見込んでいた。

 カーチスたちよりも、成績が上につけていたのは、筆記試験や傍らにリュートがいて、その上、トリス自身が、飲み込む速度が、速かったこともあったのだ。

 遊ばず、真面目に勉強さえしていれば、カーチスたちは、トリスよりも、上の成績を狙えたはずだった。


 突如、辺り一面に、いい音が響く。

「……叩かれたな」

「痛そう」

 互いに、痛そうに頬に触れている。


 トリス以外の者たちは、完全無視を決め込んでいた。

 村の人たちにとって、見慣れている光景だった。


 自分が、叩かれたように、二人は、顔を歪めている。

 話し込んでいる間に、鬱陶しく、声をかけるカーチスたち。

 嫌気を指した女の子の一人が、思いっきり、ブラークの頬を、平手打ちしたのだった。

 注目しているのは、観光で、訪れている人だけだ。


「他人の振りだね」

「その方が、懸命だ。同じ仲間と、思われたくない」

 やれやれと、頭を振っているトリス。

「確かに」

「もう少し、周りを見て、声をかけろよ」

「学ばないのが、ブラークたちだよ」


 苦笑しているクライン。

 リュートやトリスに比べ、こうしたことに、つき合わされていたのだ。

 そのたびに、こうした光景を、目にしてきた。




 トリスたちと同じように、少し、離れた場所で、声をかけているカーチスたちの様子を、窺っている人間がいたのである。

 彼ら三人は、送り込まれた諜報員たちだ。

 ややバカにしたように、不敵に笑っている。


 彼らの目に、カーチスたちが、落ちこぼれの生徒のように、映っていたのだった。

 学院の落ちこぼれの生徒たちも、この辺一体を、うろちょろしているのを、諜報員たちは確認済みだ。


「こんな時間に、遊んでいるとは」

「相当な落ちこぼれ、なんだろうな」

 蔑むような視線を、巡らせている。

 その間も、目に入る女の子たちに、声をかけていた。


「それに、マヌケだな。俺たちの鴨に、なりそうだからな」

 笑いが止まらない諜報員たちだ。

 このところ、教師や警備員たちにしてやられ、情報を得られず、苦慮していた。

 緘口令が敷かれているようで、生徒たちが村などに、出没することが、少なくなっていたのだった。


 困った状態に、陥っていたのである。

 そうしたところに、生徒自ら、姿を見せてきた。

 それも、バカ面してだ。

 諜報員も、甘くはない。

 絶好のチャンスを、逃がす訳がなかった。

 そして、仕事の目つきに、変わっていく。


「あの背格好からしても、リュート・クレスターと、同学年に近いだろう。それに、あの筋肉のつき方にしても、剣術科ではなく、魔法科だ」

 声をかけまくっているカーチスたち。

 喋りながらも、何一つ見逃さないように、注視していたのである。

 入念に窺い、見て取れる情報だけで、確認し合っていた。


 諜報員たちも、全然、情報が集まらず、かなり焦り始めていたのである。

 仕事に失敗すれば、自分たちの評価が落ち、旨みのある仕事が減り、下手したら、クビになる可能性もあるからだ。


「そうだ。間違いない」

「どうする?」

「決まっている。あれらを捕まえ、情報を引き出す」

 ニンマリと、口角を上げていた。

 もう一人の人間が、周囲を窺う。

「……教師や警備の者たちも、いそうもないな」


 周囲を行き交うのは、村の人や、観光で訪れた人間ばかりだった。

 他の諜報員の姿もない。

 誰も、邪魔する者が、いなかったのだ。

 自分たちで独占できると、悦が止まらない。


「だが、ここでやるのは、目立つ」

「どうする?」

 黙ったまま、口の端を上げているだけだ。

 チラリと、煙たがっている女の子たちに、視線を巡らせる。


「……なるほど」

「すぐに、手合いをしてくれ」

「わかった」

 諜報員たちの双眸に、この好機を、逃がすまいとする焔が灯っていた。




 叩かれ、煙たがられても、心が折れることもない。

 周りにいる女の子たちに、声をかけていった。

 カーチスの顔に、複数の叩かれた跡が、赤く残っている。

 嫌悪な眼差しを注がれても、諦めない。

 声をかけられた女の子は、三人の前を、足早に通り過ぎていった。


 軽装な服を、身に纏って、観光をしている二人組の女を、ブラークのマリーゴールドの瞳が捉える。

 ブラークの頬が、緩んだ。

 そして、視線で、二人にも促した。

 二人も、楽しそうに、露店を見ている二人組の女を、窺っていたのだ。


「新顔だね」

 相手を窺いながら、ぼそりとキムが呟いた。

 この辺を、よく歩き回っているので、ある程度、顔を見知っていたのである。

 わかっていて、会うたびに、同じ子に声をかけてもいたのだ。


 こちらに来て、休みなく、声をかけていたので、キムの顔に、疲労が滲んでいる。

 ブラークとカーチスは、まだまだ、元気なままだった。


「最近、観光で、訪れたのか」

 露骨な双眸で、カーチスが、女たちを見据えていた。

 そんな視線を、気にすることもない女たち。

 和気藹々と、露店にある商品で、盛り上がっているのだ。


「だろうな」

「でもさ……」

「気にせず、声をかけるぞ」

 渋るキムの言葉を、ブラークが遮った。

 キムの眉間に、しわが寄る。


「そうだ」

 その間、カーチスが、トリスたちに微笑んでいた。

 遠くで、離れていたトリスたち。

 ただ、首を竦めていたのだ。


「もう、疲れたよ。少し、休憩をしようよ」

 諦めたくなかった。

「「ダメだ」」

 口を尖らせ、不服そうな顔を、キムが覗かせていた。


「いくぞ」

「意地悪」

 ブラークが行ってしまい、それに続いて、カーチスも、あっさり行ってしまった。

 後に残されたキム。

 渋々、二人の後を追っていったのである。


 二人の女の背後から、ブラークが近づいていった。

「観光で、ここに、来たの?」

 僅かに、女たちが、怪訝そうな顔をみせている。

 カーチスたちよりも、年上の女たちだ。

 二十代、半ばと言ったところだった。


「……そうよ」

「そうなんだ。つい最近、ここに来たの?」

 警戒した女たちに、軽やかにブラークが畳み掛けていった。

 窺う彼女たちの視線も、気にせずに。


「えぇ」

「結構、広くって、大変でしょ?」

「えぇ」

「迷子にも、なったりしない?」

「少しだけね」


「だったら、この辺のこと、詳しく、教えてあげましょうか」

「「……」」

 女たちで、顔を見合わせている。

「俺たち、学院の生徒で、暇しているんで、案内しますよ。それに、ここに、何年もいるんで、詳しいですよ。掘り出し物とか、いろいろと」

 にっこりと、ブラークが邪気のない笑顔を、振りまいている。


 店主は、邪魔だと言いたげだ。

 それを、カーチスがウィンクした。

 すると、開きかけた口が、閉ざされる。

 静観する立場を、店主が取り始めたのだ。


 店の前を、行き来する人たちも、見慣れた光景に、何も言わない。

 ただ、通り過ぎていったのだった。

 有り触れた日常が、起こっていたのである。


「生徒たちが、こんなところにいて、いいの?」

 怪しげな眼差しを、注いでいる女たち。

 それでも、ブラークたちは、笑顔を窺わせていた。

「僕たち、優秀なんで」

 カーチスが、愛嬌のある笑顔を覗かせている。


「優秀なの?」

「はい」

 女たちの視線が、カーチスたち全体を、双眸に映していた。

 どこを、どう見ても、優秀さが見えてこない。

 それでも、女たちは、カーチスたちから、距離を置こうとはしなかった。


「観光案内とか、してくれるの?」

「勿論です」

「いい掘り出し物とかも、教えてくれて、値段も、手ごろなところ、なんでしょうね」

「勿論です。任せてください」

 自信満々なカーチス。


「とりあえず、お茶でも、飲みませんか?」

「あなたたちが、知っている場所で?」

 胡乱げな視線を、投げかけていた。

 そうした顔にも、カーチスたちの表情が、変わらない。


「お姉さんたちが、知っている場所でも、構いませんよ」

「そうなの?」

「「はい」」

 カーチスとブラークが、いい返事を返していた。

 コクリと、キムが頷いているだけだった。


「じゃ、いいわよ」

「どこの、お店にします?」

「ゆっくりと、お茶をしたいから、村の外れにあるお店でも、いいかしら?」

「構いませんよ」

「よかった」


「では、行きましょうか」

「えぇ」

 初めて、女たちが、妖艶な笑みを零していた。

 カーチスとブラークが、女たちとの会話を楽しみながら、歩いている後から、キムも重そうな足取りで、ついていったのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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