第91話
意図も簡単に、リュートが呪文を放つ。
目映い輝きが、手のひらに、集まっていく。
食い入るように、眺めているカレンだった。
何の躊躇いもなく、湖に向け、投げ放つ。
唐突に、爆風を上げ、水しぶきが辺り一面に、散らばっていった。
その衝撃により、ようやく魔法科の生徒たちが、リュートの存在に、気づくのだ。
周辺は、リュートの存在に、ざわつき始める。
けれど、リュートも、カレンも、意に返さない。
平然としているリュートは、いつも通りの行動だったが、カレンは、見事な精霊呪文に、釘付けになっていたのである。
ざわつきよりも、今は精霊呪文の会得だったのだった。
「簡単だろう」
何の説明もない。
徐々に、カレンは、顔を引きつらせていく。
「やってみろ」
「説明もなしで、できる訳ないでしょ!」
咎めるような声音に、何でだ?と、理解に苦しむ。
リュート自身、息をするように、魔法を自在に放つことができたのだ。
だから、できない気持ちが、理解できない。
「見て憶えろ」
「無理。懇切丁寧に、説明をしなさい」
「クラインからは、ある程度、教えて貰っているんだろう?」
「えぇ。説明して、すぐに、消えてしまったけどね」
逃げてしまったクラインに、憤っていたのである。
胡乱げな顔を、リュートが覗かせていた。
「だったら、余計なことは考えないで、呪文を唱えて、発動させるだけだ」
「その経緯を、しっかりと説明しろって、言っているのよ」
「面倒だな」
「面倒でも、やるの」
有無を言わせない顔だ。
「……わかったよ」
懇切丁寧に、イメージから説明し、呪文のプロセスを語っていく。
カレン以外にも、遠くいる生徒たちも耳を済ませ、リュートの説明に、聞き入っていた。
誰一人として、聞き漏らそうとしないように。
「……以上だ」
どうだと、胸を張っている。
そんな姿が、無性に苛立つカレンだった。
「何か、質問は」
「ないわ。とにかく、やってみる」
ムカつくほど、理解しやすい解説をしてくれたのだ。
できない気持ちを、理解することができないが、とても無駄のない、シンプルな説明をしてあげたのだった。
(ホント、変わらない天才ぶりね)
「何よりも、大切なのは、精霊の声に、耳を済ませることだ」
「わかった」
気持ちを整え、息を吐き、心の中を真っ白にしていく。
言われたイメージを、頭の中で、思い描いていた。
そして、静かな声音で、呪文を詠唱していった。
すると、カレンの手のひらに、温かい光が、小さく密集している。
先ほどとは違い、光が密集していったことに、歓喜していると、集まっていた光が霧散し、なくなってしまったのだった。
「……できた。ねぇ、リュート。できていたわね」
信じられないと思いと、やっと、できたと言う思いが、入り混じった表情を滲ませていた。
あんなに苦戦していた精霊呪文が、できたのである。
リュートの教えを受けて。
先ほどまであった、ムカついていた気分は、すでに、どこかへ飛んでいた。
「ああ。集中力を解いたから、途中で、失敗したがな」
そっけない顔で、起きたことを、言葉に出していた。
「ありがとう」
今まで、できなかった発動が見られたことに、失敗したと言うことは、聞き流してあげていた。
それほどまでに、発動できたことを、喜んでいたのだった。
カレンが、発動できたことにより、誰もが、リュートの教えてを復唱し、呪文を唱えていった。カレン同様に、途中で霧散し、消滅している生徒もいれば、最後までできる生徒までいたのである。
「さすが、リュートね」
ホクホク顔が、止まらない。
ニンマリしているカレン。
怪訝そうに眺めていた。
「別に」
「あんまり剣術科で、無茶しちゃ、ダメよ」
「無茶なんかしない」
「そう思っても、他の子にとって見れば、無茶している時が、あるのよ」
「それを言うのなら、カーチスたちもだろう」
「確かにね」
「ここを抜け出して、合コンするなんて」
「そうね……。って、どういうこと?」
笑顔を滲ませつつも、目が笑っていない。
だが、疑問に思わないリュート。
「わかるように、説明してくれる?」
「ここを抜け出して、みんなで、合コンすることに、なったんだ」
何でもないと言う顔をし、みんなで、合コンすることになった旨を、喋っていた。
隠す必要性がないからだ。
周りにいる生徒たちは、苛烈な焔を燃やすカレンに、気遣わしげな視線を巡らせていく。
「へぇー。そうなんだ。楽しそうね」
棒読みのカレンだった。
微妙に変化しているカレン。
だが、リュートは、のほほんとしたままだ。
「俺は、楽しくないが、カーチスは、楽しみにしていたぞ」
さらに、地雷を落とした。
そうしたリュートの言動に、魔法科の生徒たちが、バカと、心の中で突っ込んでいたが、気づく気配がない。
「カーチスが、楽しそうにしていたの?」
「ああ。一番、楽しそうにしていたぞ」
(((((それ以上は、やめろ。カーチスが、死ぬぞ)))))
カレンがいる手前、言葉を発することが、できない生徒たち。
近くにいたとしても、手出ししなかっただろう。
それほどまでに、カレンの形相が、能面になっていた。
「一番?」
「ああ。一番だ」
「へぇー。一番、楽しそうにしていたんだ」
胸を張っているリュートを見ていない。
「よかったわね」
「ああ」
呪文の会得どころではなく、多くの生徒たちが、頭を抱え込んでいた。
「ありがとう。いいことを、聞かせて貰ったわ」
「そうか」
リュートが、笑顔を滲ませていたのだった。
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