第86話
食事を終え、今後のスケジュールを、打ち合わせしようと、セナたち一班が集まっていたのである。
セナたちのように、集まって、話し合いをしている班もあれば、休息している班、すでに動き始めている班もあったのだった。
狩りなどの課題の他に、班ごとで決められた、指定された宝を、見つけ出す課題も、組み込まれていたのである。
どうするのかと、班の面々の顔を、セナが窺っていた。
全員で行うのか、分かれて、捜すのか、決めることが多くあったのだ。
だが、セナに焦りの気持ちがない。
落ち着き、いつものようにすれば、やれると、自負していたのだった。
そして、今やることは、みんなの意見に、耳を傾けることだと巡らせていた。
「食糧調達も、満足にできていないし、全員で、探しに行くのは、得策ではないと思うけど?」
肉ばかりの食糧に、視線を注ぐローゼル。
何としても、果実や、木の実、魚なども、集めたかったのだった。
食糧事情を改善することを、願っていたのである。
「いや。全員で動き、それぞれに、動くべきだ。捜す範囲が、割りと、広域なんだ。探す人員に裂くべきだ」
揺るがない意思を、ダンが覗かせる。
探す範囲が広く、手間取ると、巡らせていたのだ。
ダンとしても、好成績を残したいと抱いていた。
そうした意見に、一理あると抱くが、ローゼルの意見も、捨てがたい。
黙っているパウロや、リュートに、双眸を傾ける。
どっちだと言うダンとローゼルの、視線の圧に、気圧されているパウロだった。
至って、のほほんとしているリュートである。
「……僕としては、まだレポートが、仕上がっていないから、……レポートを……」
最後の方は、か細い声で、聞き取ることができない。
(しょうがない二人ね)
未だに、圧をやめない二人。
首を竦めているセナだ。
セナ自身、レポートは仕上がっていたが、納得できるものまで、いっていなかった。
もう少し、加筆したいと抱いていたのだ。
チラリと、野宿体験学習に入る前に、配られた地図に視線を落とす。
この辺一体の地図で、班ごとで一枚を所持していた。
(ダンの言う通り。効率よく、探さないと、見つからない可能性も、あるわね。……これだけ広域だと。だからと言って、レポートも、満足にできていないメンバーもいるし、食糧も不安があるし……。夜の捜索は、禁止され、日中しか動けない。それに、時間も限られているし……)
問題が、山積みだった。
この授業は、限られた時間内で、どれだけの課題をこなし、効率よくことが進めるのかが、大きな課題となっていたのである。
名案が浮かばず、黙っているリュートに、顔を注ぐ。
「リュートの意見は?」
「俺は、どちらでも、いいぞ」
「「どちらかに、決めろ」」
苛立ちげなダンと、ローゼルだ。
気圧されても、全然、気にする様子もない。
飄々としたままだった。
「俺一人で、探せるぞ」
何気ない顔で、言ったつもりのリュート。
だが、誰の顔も、渋面を滲ませていた。
こいつなら、やれそうだと。
甘い誘惑に、どの顔も、溺れそうになる。
振り払うように、頭を振るセナだ。
「……ダメよ」
「何で、その方が、効率いいだろう?」
「確かに、そうだけど。班で、行動しないと」
「ねぇ、他の班の多くが、迅速に動いていない? もしかすると、リュートのことを踏まえて、動いてるのかもしれない」
ふと、思い浮かんだことを、ローゼルが口に出した。
なるほどと頷くダンだ。
班で残っている者たちが、一斑をそれとなく窺っていたのである。
ここに来て、争っていたことを、忘れている二人。
(このままにして置こうっと。それにしても……、そういうことを、考えているのね)
「……確かに。あり得るわね」
訝しげな顔を、セナが覗かせていた。
(リュートがいれば、誰もが、私たちの班が、利があると、抱くわね。でも、よく考えて、ほしいわね、天才だけど、非常識さも持っているのよ。薬にも、毒にも、なる存在なのよ。天然ボケのリュートは)
内心で、憤慨しているセナだった。
何がだと、小さく首を傾げている姿を、捉えている。
理解していない様子に、のん気で、いい気なものねと抱いていた。
一癖も、二癖もあるクラスメートの顔を、掠めていく。
(……私たちに、一位を、取らせないつもりね)
口角を上げ、不敵に笑う。
その眼光は、鋭さが宿っていた。
「……。先ずは、レポートを全員で、終わらせる。勿論、完璧なものよ。リュートは、できていないパウロを、見てあげて」
「いいのか?」
自分は、探しに行くものだと、思い込んでいたのである。
それが、パウロを見ろと言う指示に、目をパチパチさせていた。
セナとしては、レポートの点数も、高いと見込んでいたのだ。
だから、こういったところでも疎かにせず、点数を稼ごうと、目論んでいたのだった。
「お願い」
「ま、いいけど」
納得いっていないダンとローゼルに、顔を巡らす。
「まだ、仕上がっていないはずよ」
真剣で、確信した顔を、セナが滲ませていた。
「できている」
「後、ほんの少しよ」
僅かに声が震え、平気と言う二人の視線が、泳いでいる。
双眸をそらさず、二人を捉えていた。
徐々に、二人がセナから、視線を剥がそうとしていたのだ。
「完璧に、仕上げて」
有無を言わせない態度だった。
誰も、能力があるセナに、逆らえない。
「「……わかった」」
「それから、三つに分けて、捜索よ」
「「「「承知」」」」
「お兄ちゃんたちは、動き回らないの?」
突如、お菓子を携えてきたミントが姿をみせる。
軽い眩暈がしているセナだ。
ローゼルたちは、首を竦めている程度だった。
他の班も、ミントの姿を見かけても、素通りしていた。
逆に、時間が稼げると、巡らせる班もいたのだ。
それに、監視している教師たちも、ミントの登場に、頭を痛めていたが、刺激しないで、放置しておく方が賢明だろうと、見逃していたのだった。
カイルが判断するだろうと。
籐のかごには、たくさんのお菓子が詰められている。
顔を綻ばせ、かごの中身を、確認していくリュート。
「グリンシュか?」
「そう。そろそろ、ほしくなる頃だろうからって」
ニッコリと、ミントが微笑んでいた。
お菓子を恋しがる頃だろうと、グリンシュがお使いを頼んだのである。
かごのお菓子は、セナたちの分も、含まれていたのだった。
大きい籐のかごに、お菓子が大量に詰められていた。
「さすが、グリンシュ」
「こんなところに、いていいの? 他の人たちは、奥までいっているよ」
来る途中に、何人かの生徒と、すれ違っていた。
行き違いになるかと抱きつつ、テントを張っている場所に来たのだ。
そして、まだ、いたことに、違和感を生じさせていたのである。
「私たちは、レポートを完全に仕上げることを、優先しているの」
「そうなの」
若干、目を丸くしているミント。
兄が、完璧なレポートを、仕上がっていないと、思い込んでいたのだった。
「リュート! 食べたら、失格だからな!」
背後から、青筋を露わにしながら、物凄い剣幕でカイルが近づいてきたのだ。
怒気を孕む声に、相当怒っていることを、察するセナたち。
誰もが、ヤバいと顔を歪めている。
ただ一人だけ、違っていた。
「何で……」
悲壮感溢れる顔を、リュートが前面に出している。
恨めしそうな顔を滲ませている前で、顔を引きつらせているカイルが立ち止まった。
「当たり前だろう。自分たちで、食料や水を調達し、野宿するのが、趣旨なんだぞ」
「わかっている」
不満いっぱいに、口を尖らせている。
「わかっていない」
半眼しているカイルだ。
強張っているセナに、顔を巡らせていく。
「セナはわかるな。それに……」
セナ以外の面々にも、視線を傾けていった。
誰もが、小さく、はいと、返事を返していたのだ。
「そういうことだ。これは、没収する」
愕然としているリュートから、お菓子が入ったかごを、奪い取った。
「そんな……」
脱力感が否めないリュートだ。
可哀想と呟いているミントに、怖い面を向けている。
「グリンシュに、伝言だ。バカなことは、しないでくれとな」
「わかった。ちゃんと伝える」
怒り心頭のカイルに、笑顔を返していた。
「頼むぞ」
素直に、カイルの言葉に従ったミントだった。
カイルが持っている、お菓子が入ったかごを、未練ある双眸で見つめている。
顔には、食べたいと描かれていた。
お菓子しか、眼中にない姿に、バカと突っ込むセナ。
そんな突っ込みに、反応しない。
「……リュート。失格になっても、いいの?」
「……いやだ」
「だったら、諦めなさい」
諦めきれないリュートを、セナが窘めた。
食べて、失格になる訳には行かなかったのだ。
「……わかった。調達の際、果実を、大量に見つけ出してやる」
渋々諦め、調達した、甘い果実を食べる野望に、燃えているリュートの姿があった。
甘いものに拘る姿に、ダンを始めとする面々が、呆れている。
ミントだけが、頑張れと、応援していたのだった。
そんな光景を、こいつ、ホントの天才なのかと、疑うような眼差しで、残っていた他の班の面々が、傍観していたのである。
「それなら、いいわよ。楽しみにしている」
視線を剥がすことができない。
チラチラと、哀しげにリュートが、お菓子に視線を巡らせていたのだ。
怒りよりも、呆れているカイル。
「お菓子をくれると言っても、勝手に、知らない人に、ついていくなよ」
心配げな眼差しを、カイルが注いでいた。
お菓子に、固執している姿にだ。
「……トリスたちに、注意されているから、大丈夫だ」
思わず、頬が引きつっているカイルだ。
(魔法科の時、お菓子で、何度も、引っかかっているのか……。注意されていると言うことは、あるのかもしれない。後で、ラジュールに、確認しとかなくては)
「……もしかして、ついていったことがあるのか?」
「……」
何も、喋らないリュート。
生暖かい視線を、巡らせるダンたちだった。
(幼い子供か!)
まだ、お菓子から、視線をそらすことができない姿に、カイルは不安しかない。
(不安だ。諜報員たちが、お菓子で釣れば、簡単に釣れてしまうな。トリスたちも、注意を施してあるみたいだが……、絶対に、お菓子の誘惑に、負けそうな気がする……)
ダメな子を、見るような双眸になってしまう。
「お兄ちゃん。昔から、お菓子好きだもんね」
「人のこと、言えないだろう。ミントだって」
「私は、大丈夫よ」
威張っているミントだ。
「嘘付け。お菓子につられ、何度か、外に出て行っただろうが」
徐々に、リュートから、視線をそらしていく。
二人の論争に、ますます、イタイ子を、見る顔になってしまう面々だった。
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